松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で2016年3月に亡くなったアーティストを追悼。ア・トライブ・コールド・クエストのファイフ・ドーグについて話していました。
さて、まあこのギャビン・クリストファー、ジェイムス・ジェマーソン・ジュニア。このあたり、もちろんいまの時代で考えますと大変、まだ若いという印象もあります。60代、50代ですから。ですが、これからご紹介する方はもう本当、よりちょっと、僕の実年齢に近いっていうのもあってね。惜しまれてなりませんね。ファイフ・ドーグ(Phife Dawg)という人が亡くなったという話をさせていただきましょう。
ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)というラップグループのメンバーでございまいた。ラッパーです。3月22日に亡くなりました。この人は1970年生まれですからね。45才での、いかにも早すぎるという悲しい知らせでございます。このファイフという人はね、ア・トライブ・コールド・クエストというこのヒップホップの歴史の中でも有数のスターグループの中ではちょっと影が薄い人でした。
やっぱりスターラッパーであり、グループの要でありますQティップ(Q-Tip)が目立っちゃうっていうのがありますし。あと、そこに関して言うと、DJのアリ・シャヒード(Ali Shaheed Muhammad)という人も、サウンドクリエイターとして大変な人気がありますし。いろんな実績もある人ですから。残るもう1人でありますこのファイフという人はどうしても影が薄かったんですけども。ただ、グループとしてのア・トライブ・コールド・クエストが好きっていう人はみんな、「ファイフがいてこそのトライブ」っていう風に言いますよね。
ここではっきり言いますけども、ア・トライブ・コールド・クエストがいなければ、日本のヒップホップというのは歴史が違ったものになっていると思います。もちろん、アメリカでもそうなんですけども。こと日本では、その印象が特に強いです。まあ実際、このア・トライブ・コールド・クエストがね、最近、彼らのドキュメンタリー映画が作られたりして再評価が高まっていた。そんな矢先に逝っちゃうわけで。うーん。ちょっとファイフ、悲しいな、寂しいなっていう気持ちは僕、禁じ得ませんけども。それでも、作品は残っております。
まあ、他のいろんなヒップホップの雑誌ですとか、またはラジオプログラム。もっと言えばヒップホップのイベントなんかでファイフを追悼するという動きはたくさんあったようですけども。この番組、ちょっと遅れてのね、ご紹介になってしまったので。その分、『メロウな夜』でしかできない、そんな選曲というのはなんだろうか? と考えて、この曲を選びました。
1997年にリリースされましたミント・コンディション(Mint Condition)。彼らの『Let Me Be The One』という曲のウマー・リミックス。その中でファイフをフィーチャーした曲を聞いていただきたいと思います。『Mint Condition Ummah Remix』。ミント・コンディション feat. ファイフ。
Mint Condition『Let me be the one (Ummah Radio Remix)』
Minnie Riperton – Baby, This Love I Have
今日は3月22日に45才の若さで惜しくも亡くなりました、ア・トライブ・コールド・クエストのファイフ。その彼の早すぎる死を惜しんで、2曲選んでみました。まずはミント・コンディションの『Let Me Be The One』。そのウマー・リミックスにフィーチャーされていたバージョンですね。ファイフのラップが印象的に使われていました。このウマー(Ummah)はね、Qティップがメンバーですから。総体として、ア・トライブ・コールド・クエストとミント・コンディションとの共演ということになるんですけども。
やっぱりファイフはファイフの持ち味があるんですよね。もう常に、セカンド・リードラッパーという位置にいた男なんですね。うーん。けどやっぱり、ナンバー2の美学っていうのはあるな、なんてことを僕も思いましたね。少なくとも、いまはそういう景色として見えますね。
もう1曲、聞いていただきました。これはミニー・リパートン(Minnie Riperton)の『Baby, This Love I Have』。1975年のミニー・リパートンの『Adventures in Paradise』っていう僕の大好きなアルバムに収められている曲なんですが。これはね、ア・トライブ・コールド・クエストの代表曲『Check The Rhime』という曲の元ネタです。
うん。というわけでミニー・リパートンをご紹介したわけなんですけどね。シャイなファイフはね、天国ではにかみながら、「はじめまして」ってミニー・リパートンに今ごろ挨拶をしてるんじゃないでしょうかね? Qティップっていう人は、もうヒップホップアーティストとしては天才の域にある人で、もうそうそう出てくる人じゃないと思います。天才と言ってもいいし、彼がやっていること、そのフォルムっていうのは端正。ともすれば完璧すぎるとも言えますね。彼が「ヒップホップ」っていう言葉の意味を作ってきた1人とも言えるんです。
で、実際に加えて色男でもありますしね。マライア(Mariah Carey)とジャネット(Janet Jackson)が取り合ったという話。僕、自分の本の中でも書いてますけども。
けど、印象として、ともすれば折り目正しすぎるんですね。で、その折り目正しさっていうのはもちろん素晴らしい特質だし、ア・トライブ・コールド・クエストの作品っていうのは2枚目のアルバムで完璧寸前。3枚目で完璧と言ってもいいかもしれません。それ故にちょっと面白味に欠けるという見方もできなくはない。ですが、そこにファイフは熱を与えていた。この役割があってこそのア・トライブ・コールド・クエストだったんだなという。失ってみて初めてわかることもございます。
それは映画を見ればよくわかるんですけどね。彼らのドキュメンタリーフィルム。機会があれば、ぜひ見てください。
(中略)
さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ。寝酒ソング。今夜はロニー・フォスター(Ronnie Foster)の『Mystic Brew』を聞きながらのお別れです。実はこの曲、去年も一度ご紹介していますね。これ、ア・トライブ・コールド・クエストの『Electric Relaxation』っていうさっきもバックに流れていましたけども。その曲のサンプリングの元ネタなんですね。
去年番組でかけた時とはちょっといま、違った気持ちでこの曲を聞いております。これからお休みになるあなた。どうか、メロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週4月18日、月曜夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。
<書き起こしおわり>