松尾潔 1976年アメリカR&Bチャートを振り返る

松尾潔 1976年アメリカR&Bチャートを振り返る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1976年のR&Bチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。

(松尾潔)いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。

第20回目となる今回は、1976年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。1976年といいますと、まだまだ僕は西暦よりも昭和。元号を使って年号を言うことの方が馴染みますね。昭和51年の話ですね。1976年、どんなことがあったのかな?と思って、いろいろと調べてみました。その中で、僕が『ああ、そう。あれって76年だったのか。昭和51年だったのか』っていちばん強く感じたのはロッキード事件ですね。田中角栄逮捕というのがこの年の夏の話でした。

あれは暑い夏のことでね。僕は当時、小学生でありまして。小学校3年生で。夏のプール通いをしている時に・・・あれ、プール教室だったのかな?母親と一緒でしたけども。プールを出て、なんかちょっと冷たいものでも飲もうか?なんて思っているところで、号外を配ってましてね。街中でね。で、号外に『田中角栄逮捕』って書いてあったので、まあ小学生ながらに衝撃でしたよ。ええ。いま、僕の頭の中ですごく政治意識が高かった子どものような物言いをしてますけども。正直に言いますと、号外というものがショックでした。

『この新聞、タダ!?』って何回も連呼して、もう帰りの電車の中で母親から『もういい加減、やめなさい』って言われた記憶があるんですが(笑)。まあその、政治家の汚職ということと、号外ということを同時に知った、そんな昭和51年の夏(笑)。で、その時、モントリオールオリンピックが開催されていたんですよね。まあ、モントリオールオリンピックの開催中の逮捕劇だったんですよ。これ、いまこの齢になってみると、なんか、ね。そこに偶然とは思えないタイミングの一致に、いろんなことを考えてしまったりもするんですけども。

まあ、それはそれでモントリオールオリンピックということで思い出してみますと、ねえ。その後、ビートたけしさんの持ちネタという形で我々の記憶に深く定着することになる『コマネチ』っていうね。コマネチ大活躍のオリンピックがモントリオールオリンピックですからね。ええ。あれってもう40年ぐらい前のことなのか!っていう。改めて、驚きを禁じ得ない。そんな1976年。今日は音楽以外のネタ、たくさん喋ってますけども。まあ、76年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介したいと思います。

もうちょっと、枕があまり長くなっちゃったんで、まず2曲、聞いてよろしいでしょうか?(笑)。この頃、まだモータウン勢の勢いが本当、止まりませんで。ダイアナ・ロス(Diana Ross)ですとか、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)、こういった人たちがまあ、全盛期の延長線上にありました。そもそもこの番組、このコーナー、いまでも聞きたいナンバーワンのBGMになっている『After the Dance』っていうマーヴィン・ゲイの曲、ございますけども。これが76年の『I Want You』っていうアルバムに収められていた曲ですからね。

で、当然アルバムタイトル曲の『I Want You』なんてのも76年のヒットなんですが。

まあ、他にもテンプテーションズ(The Temptations)のリードシンガーだったデヴィッド・ラフィン(David Ruffin)の『Walk Away from Love』っていう曲をヒットさせたりしてましたが。

女王ダイアナ・ロスを取り上げてみたいと思います。ダイアナ・ロスの『Love Hangover』。これはもう、グッと来ますね。まあメロウ云々とかじゃなくて、グッと来る曲ですね。そしてもう1曲。この番組ならではのピックアップということでご紹介したいのが、この年の11月から12月にかけて4週連続でナンバーワンを獲得しました、アトランタを本拠地とするファンクバンド、ブリック(Brick)の『Dazz』というイカした曲。ちょっとぶっ飛んでますけどもね。じゃあこの2曲、続けて聞いてください。ダイアナ・ロスで『Love Hangover』、そしてブリックで『Dazz』。

Diana Ross『Love Hangover』

Brick『Dazz』

いまでも聞きたいナンバーワン。第20回目となります今回は、1976年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しています。ダイアナ・ロスで『Love Hangover』、そしてブリックで『Dazz』と、2曲続けてお聞きいただきました。この76年、もとい昭和51年。まあ、ブリックの『Dazz』という曲が4週間連続ナンバーワンとなったんですけども、そこでリードボーカルをとっていたジミー・ブラウン(Jimmy Brown)という人が、ずいぶんそれからね、時間がたって名前が取り沙汰されることがありました。それは、スリーピー・ブラウン(Sleepy Brown)というシンガーの父親だということで有名になったんですね。

スリーピー・ブラウンと言われてもピンと来ない方は多いかと思います。アトランタのR&Bシンガー、ソサエティ・オブ・ソウル(Society Of Soul)というグループのリードシンガーだったんですけども。まあ、自分たちの仲良しでありますアウトキャスト(OutKast)という人気ラップデュオ。そのビッグ・ボーイ(Big Boi)というメンバーがね、『The Way You Move』という曲をヒットさせたことがございましたね。10年ぐらい前ですか?『I Like The Way You Move♪』という、非常にキャッチーなサビがありましたけど。あのサビの部分を歌っていたのがスリーピー・ブラウンですよ。

で、『ああ!ブリックの息子なのか!』っていう。もう、定点観測する楽しみのひとつかもしれませんけども、ソウルバーなんかでずっと昔からの音楽を延々と飽きずに聞いてると、新曲と昔の曲がポン!とつながる瞬間があるんですけども。まさにね、90年代以降、ブラック・ミュージックの新たな聖地として注目されることになったアトランタ。そのムーブメントの中心人物の1人であるスリーピー・ブラウンっていうのがこのブリックのジミー・ブラウンの息子であるというのは、ちょっとうれしい話でしたね。当時ね。

まあ、そんな90’s、そして21世紀のR&Bの故郷とも言えるこの時代、76年のR&Bチャートナンバーワンヒットは全部で29曲ございます。この頃はちょっとね、チャートの算出方法の過渡期でございましてね。75年なんていうのは、ナンバーワンヒットは40曲以上あるんですけども。すごく、長期に渡るヒットっていうのは難しい年なんですね。で、76年。これだけ数ありますから全部言いませんけども、いちばん長くヒットしたのはジョニー・テイラー(Johnnie Taylor)の『Disco Lady』という曲です。

これはこの時期にあって6週間ナンバーワンなんですが。まあ、ジョニー・テイラーというブルージーなソウルシンガーの代表曲が『Disco Lady』っていのは、もうなんとも皮肉な話でございまして。『このディスコのムーブメントが、R&B、リズム&ブルースを殺してしまった』なんて、よく評論家は言うんですけども。生粋のソウルシンガーが歌った曲が『Disco Lady』っていうね。大ヒットした。皮肉な話でございますが。ただ、これもね、表面上、曲のタイトルだけ見るとそうなんですけども。よくよく聞いてみると、『なんだ、この曲別にディスコのビートじゃないじゃん!』っていうね。

『Disco Lady』っていうタイトルだけディスコブームに便乗してるけども、曲はいま聞いてみると、やっぱりソウルなんですよね。このあたりがね、ソウル・ミュージックのたくましさでもあるんですよね。先ごろなくなったルイス・ジョンソン(Louis Johnson)がいたブラザーズ・ジョンソン(The Brothers Johnson)の『I’ll Be Good to You』なんていうのもこの76年の6月のヒットでございますね。

あと、ファンクバンドが強かったんだよな。あの、その象徴的なのがね、8月からね、10月にかけて、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)の『Getaway』。

オハイオ・プレイヤーズ(The Ohio Players)の『Who’d She Coo?』。

そしてKC・アンド・ザ・サンシャインバンド(KC & the Sunshine Band)の『Shake Your Booty』。

そしてワイルド・チェリー(Wild Cherry)の『Play That Funky Music』。

コモドアーズ(The Commodores)の『Just to Be Close to You』っていう風にここはバンド形式の人たちがこんだけ続くわけなんですよ。ずっと1位をバンドがリレーするっていうね。ちょっと、いまの時代だとお目にかかれないようなバンドのリレーでしたね。

で、先週のスタンダードの時にご紹介しましたスキップ・スカボロウ(Skip Scarborough)っていうソングライターが手がけたL.T.D.の『Love Ballad』っていう曲もこの年、76年に出ています。

まあこのL.T.D.の『Love Ballad』、コモドアーズの『Just to Be Close to You』。それぞれファンクバンドの曲なんですが、まあバンドサウンドというよりもボーカルを味わう1曲ですね。まあ、実際、コモドアーズのリードシンガーのライオネル・リッチー(Lionel Richie)。そしてL.T.D.のリードシンガーのジェフリー・オズボーン(Jeffrey Osborne)っていうのはこの後、相次いでソロデビューしていきます。まあ、古きよき様式美でありますファンクバンドという形が、もうちょっと終わりの始まりぐらいだったのかな?というのがこの76年かもしれません。

で、同じようにファンクバンドという形式。この時代の花形だったルーファス(Rufus)。ルーファスもチャカ・カーン(Chaka Khan)というぶっ飛んだ女性シンガーをフィーチャーして人気を博しておりました。『Sweet Thing』という曲はいまでも定番曲として知られておりますが。

この『Sweet Thing』、90年代に入ってメアリー・J.ブライジがデビューアルバムで取り上げました。

同じようにアンヴォーグ(En Vogue)が76年のヒット曲を取り上げて90年代にヒットさせたことがございました。カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)が書き下ろした『Something He Can Feel』という曲ですね。『Giving Him Something He Can Feel』というのが長いタイトルなんですけれども。『Sparcle』という映画の、カーティス・メイフィールドが音楽監督を手がけたサントラでひときわ名曲と言われていた曲をアンヴォーグが90年代になって歌うわけなんですが。

オリジナルを歌っていたのは、この人でございました。さんざんもったいぶった言い方ですみません。女王アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)が6月の終わりから7月にかけて4週間連続でナンバーワンを獲得したこちら、お聞きいただきましょう。アレサ・フランクリンで『Something He Can Feel』。

Aretha Franklin『Something He Can Feel』

1976年のナンバーワンR&Bヒットを集めてご紹介してまいりました。最後にお届けしたのはアレサ・フランクリン『Something He Can Feel』。この時、アレサはまだ33才。34才になる、そんな齢だったんですね。で、この曲の作者のカーティス・メイフィールドもアレサ・フランクリンと同い年。1942年生まれですから、まだ33才。うーん。ねえ、いまでこそ女王なんて言いますけども、ずいぶん若かったんだななんてね。いろんなことを考えながら聞いておりました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32657

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