宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』秋の推薦図書特集の延長戦、放課後ポッドキャストので貧しい収入のほとんどをハイブランドの洋服に費やすコンゴのサプールたちの写真集、『SAPEURS THE GENTLEMEN OF BACONGO』を紹介していました。
(宇多丸)はい。ちゅうわけでじゃあ、特集の番外編ということなので。僕もこの第一部で紹介させていただいてよろしいでしょうか?さっきね、『ドリュー・ストルーザン ポスターアート集』。やっぱね、最近、画が中心の本がね、いいかなと思って。あんまり字がない本っていうね。もう1冊はね、写真集でございます。結構、ちょっと前に。今年の6月ぐらいに出たのかな?で、あとなおかつ、テレビで、NHKかなんかで特集したんで。
(しまおまほ)ああ、そうなんですか。
(宇多丸)ご覧になった方も。知っているかな?とも思うんですけど。サプールというね。『SAPEURS THE GENTLEMEN OF BACONGO』っていうね。サプールっていうのは何か?と言うとですね、コンゴ共和国。アフリカのコンゴ共和国。非常に貧しいし、ぜんぜん飢餓で死んでいる人とかもいっぱいいるようなところですよ。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)コンゴ共和国の首都郊外バコンゴ地区にですね、これ、裏の帯をそのまま読みますけど。『平日は普通に働き、貧しい収入のほとんどを洋服に費やし、週末になるとハイブランドのスーツを着こなし、街を闊歩し、人々の羨望と尊敬を集めセレブへと変身する、世界でも例を見ないサプールと呼ばれる集団がいる。19世紀のフランス統治の時代から1980年代にフランスから戻ったコンゴ移民がもたらしたフランス的エレガンスへの憧れが原動力となっている』。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)なので、要はもうむちゃむちゃおしゃれなコンゴの人たち。もう、むちゃむちゃおしゃれなんですよ。めちゃめちゃかっこいい、おしゃれな服を着ている。ただ、この人たち別に金持ちとかじゃないんですよ。普通に普段は本当に貧しい、水を汲んで暮らしているような、貧しい暮らしをしているんだけど、何ヶ月分の給料を費やして、こういう本当にエレガントな装いをして街を闊歩すると。
(伊藤総)へー!
数ヶ月分の給料を服に費やすコンゴのサプールたち
(宇多丸)っていう。まあでも、それだけ聞いたらなんかすごくチグハグなっていうか・・・たしかにチグハグなんですよ。ものすごい貧しい、本当に瓦礫ばっかりあるような、そういう街並みの中で、もう、ものすごいかっこいい服を着た。超おしゃれなんですよ。本当に。むっちゃビビッドな色使いとか、独自の美学を持ったそのサプールたちが闊歩している。で、もう街のヒーローなわけですね。
(しまおまほ)うんうん。
(宇多丸)で、街の名士だったりして。まあ、これは写真集なんで、実際その写真集を見て、我々の目から見るとその習俗というかですね。それを楽しんでいただくのが一番なんだけど。僕はやっぱりこのタイミングで、これいいかなと思ったのは彼らがね、着飾るというだけじゃなくて、その、服に相応しい紳士的な内面とか紳士的なマナーであるとか。それこそ、『キングスマン』じゃないですけど、『Manner Makes A Man』と言うかですね。
(伊藤総)はい(笑)。
(宇多丸)要するに、洋服を着て、エレガントに、そして紳士として振る舞う。で、やっぱりコンゴ共和国ってむちゃくちゃ国、荒れて。いろんなことがあって荒れている国ですから、武器を持たず、服で着飾ってエレガントに・・・そういう、ものすごい行動美学っていうか行動倫理がものすごく厳しくある集団で。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)で、そうなんですよ。だから、なんていうのかな?スタイルから行動倫理を作っていくじゃないけど。『美しく生きよう』じゃないですけどね。あの、そういう気高さみたいなものがベースになって。だから街の人からも尊敬されて。とにかく、平和主義者で博愛主義者で。というその思想運動でもあるというね、サプール。そこが面白いなという風に思いました。まあ、NHKで番組やって。ダイノジの大地さんがレポート難化してる。
(しまおまほ)ふーん。
(宇多丸)あったりするらしいんですけど。この写真集自体がむちゃくちゃかっこよくて。イタリア人のカメラマンの人が撮っていて。ポール・スミスがそのサプールに影響を受けたコレクションを発表したりとかしてるぐらいで。ポール・スミスが序文とかを寄せているんですけど。あの、いびつっちゃあいびつな文化なんだけど。それが産み落とした、なんかものすごい気高い独自文化みたいなものを感じてですね。とっても見ていると何か、生きるというか、良き人生のヒントというかですね。良く生くるとはどういうことなのかな?みたいなことを考えさせられる。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)僕、先ほどね、伊藤総さんと『恋人たち』の話をしていて。最後ね、主人公たちの部屋が片付いているのを見て、部屋を片付けるのは大事って。これ、本当そうで。部屋を片付けるのは大事。あと、キレイな服。ちゃんとキレイな身だしなみ。特にキレイな身だしなみにするは結構大事だと思っていて。メシは抜いても、キレイな身だしなみをしてないと。要するに汚え格好していると、人間腐ってくるというか。
(しまおまほ)うんうん。
(宇多丸)だから人間の尊厳を保つには、身奇麗にしておくとかマジ大事よっていうのを本当、前から思っていたんだけど。それをこんな極端な形で体現している連中がいるか!っていう。もちろんね、その給料の5ヶ月分つぎ込む生き方っていうのを推奨しているわけじゃないですよ。それはいびつな感覚かもしれないけど。そうやって、希望の・・・周りがすごく荒れて、要は力が全てだ!ってなりかねない世界で、『そうじゃねーんだよ』っていう・・・新しい、それこそ力が全てだってギャングがヒーローになりかねない世界で、『いや、サプール超かっけー』ってなっている感じみたいなのがですね、いいなと。
(しまおまほ)ねえ。これこそ、1人の力が。ねえ。
(伊藤総)本当に、そうですね。その写真を見てるんですけど、やっぱり背景がもう本当に、瓦礫というか・・・
(古川耕)ゲトーですよね。
(宇多丸)だし、家のね、ものすごいかっこいい服を着てるやつが身支度をするっていうと、家がもう、もう!バラックみたいなところで。
(伊藤総)ですし、本当にこの、後ろの背景とのギャップですよね。でも、服はすごいおしゃれっていう。
(宇多丸)そう。だから要するにこういうところに住んでいるからって別に彼らはかわいそうな人たちじゃないっていうかね。もちろん国をさ、本質的に立てなおすとかは別の問題だろうけど。なんとかしてその気高さをさ、保っている。『なんとかして』なんていうんじゃないよね。優雅に保ってやっているっていうのが、もちろん実態としてサプール。コンゴ共和国に行って実際に見たらいろいろまたさ、あるのかもしれないけど。キレイ事だけじゃないのが。
(伊藤総)うん。
(宇多丸)あの、その上でこの、このなんていうか見事な。で、単純にもうファッション写真集として、超素敵で。はい。夜にですね、ちょっと思い出したようにこれを開いて。ペラペラ見てたりするのが。
(しまおまほ)いいですね。うちにもありますよ。
(宇多丸)あ、あるんだ。持ってるんだ。ああ、さすがですね。という、まあ別にこれだけなんですけど。ぜひ手にとって見ていただくとですね。今回、僕が紹介しているのはだいたい手にとっていただくとたぶんほしくなる本だと思います。ということで、『SAPEURS THE GENTLEMEN OF BACONGO』。青幻舎より定価 本体2300円(税別)で出ておりますので。非常に目立つ表紙でございますので、こちらもタマフルブックフェアなどでまず、お手にとってね、見ていただくと。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)なんか勇気が出てくるんですよね。すごい。元気が出てくる1冊なんじゃないでしょうかね。
<書き起こしおわり>