松尾潔 Marvin Gaye『Sexual Healing』2017年リバイバルを語る

松尾潔 Marvin Gaye『Sexual Healing』2017年リバイバルを語る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でマーヴィン・ゲイの名曲『Sexual Healing』が2017年、何度目かのリバイバルヒットをしていることについて話していました。

(松尾潔)さて、ミュージック・ソウルチャイルドに続きましては、聞こえてまいりました。ジェレマイ feat. クリス・ブラウン&ビッグ・ショーン『I Think Of You』。

今年リリースされたコラボレーションソングの中でも屈指の出来栄えですね。気の早い話……でもないのか? 今年も後半ですから、2017年のベストソングは何になるのかな? と。来年の1月にこの番組の中で発表する予定ですけども、メロウなベストソングトップ20ぐらいをね、なんとなく僕も数え始めているんですが。これはまず、トップ10には入りますね。で、アワードじゃないんでそんな部門があるわけじゃないですけど、いまのところ今年のベストコラボレーションソングですね。

まあ、たとえばDJキャレドの『Wild Thoughts』であるとか。

あるいは、カルヴィン・ハリスの一連のコラボソングとか、今年もいろんなコラボレーションが僕らの耳を楽しませてくれていますが、このジェレマイとクリス・ブラウンという2人のシンガーにちょっと重しのような形でビッグ・ショーンが収まっているという。この3人の組み合わせ、男3人でこんなにワクワクさせてくれるんだなと。改めてこういう音楽っていいなって気づかせてくれた『I Think Of You』なんですが。

そこで大活躍しておりましたクリス・ブラウンとジェレマイがそれぞれまた新しい曲を届けてくれました。2曲続けてご紹介したいと思います。まず、クリス・ブラウンなんですけどもね、クリス・ブラウンは来月、この人も8枚目になるのかな。ニューアルバムをリリースするというニュースが入ってまいりました。いま、仮タイトルで『Heartbreak on a Full Moon』っていう風に発表されています。訳すと、なんですかね? 「満月のハートブレイク」ということなんでしょうか? 

なにしろね、「今月のクリス・ブラウン」。一時は「今週のクリス・ブラウン」って言っていたような人なんで、たくさん曲が貯まっておりまして。まだ噂の域ですが、このアルバムは収録曲数が40曲ぐらいになるんじゃないかと言われております(笑)。それ、ニューアルバムって言うんでしょうか?(笑)。ねえ。もちろん、CDですとダブルアルバムになるんでしょうけども……もうちょっと厳選してもいいんじゃないかな?っていう気もしますが。全て傑作という自負もあるのでしょう。そんなクリス・ブラウン、ニューアルバムに先駆けてまたシングルをリリースしてくれました。『Questions』という曲ですね。

そしてもう1曲、ジェレマイ。これはジェレマイの名義曲ではございませんで、ジャスティン・スカイという22才になったばかりの女性シンガーのフィーチャリングされております。『Back For More』というデュエットです。今年の夏にリリースされたばかりの1曲です。それでは、2曲続けてお楽しみください。クリス・ブラウンで『Questions』。ジャスティン・スカイ feat. ジェレマイで『Back For More』。

Chris Brown『Questions』

Justine Skye『Back For More ft. Jeremih』

2曲続けて、ウキウキするようなナンバーですね。クリス・ブラウン『Questions』。そしてジャスティン・スカイ feat. ジェレマイで『Back For More』でした。ジャスティン・スカイはこの番組できちんとご紹介したこと、ありましたっけ? この方はまだ22才。この8月に22才になったばかりという大変に若い女性シンガーなんですが、ずいぶん前から……10代の半ばごろから昨今の例に漏れず、いわゆるSNSの人気者でございました。で、もう2012年からレコーディングアーティストとして契約を結んで。最初に正式に作品がリリースされたのは2013年ですか。それでもまあ4年たちますね。で、もうアルバムも出しているのですが。

それからいろいろと、マネジメントとかレーベルの移籍もありまして、いまジェイ・Zのお気に入りとして、ジェイ・Zのロックネイションというところと契約しているんですけども。まあジェイ・Zは歌姫の扱いに長けていると。なにしろ、奥様がビヨンセということも説得力になりましょうが、それ以前からリアーナの仕掛け人としても知られていますし。これはね、業界の中ではずいぶん大きな後ろ盾になっているんじゃないかという気がしますし。まあ、聞いたところによりますとこのジャスティン・スカイという、本当に見た目も大変に麗しい女性なんですけども。相当なセレブだという風に聞いておりますね。

まあ、ジャスティン・スカイ。スター性も十分なんですが、まあジェレマイがね、いま
乗りに乗っていますから。この組み合わせ自体、僕は大変惹かれましたし、曲もいいですね。で、細かいところの音色で、さっきもちょっと話しましたけどカルヴィン・ハリスの作品、『Slide』でも聞かれたような音を使ってみたり。

なんかいろんな細かい目配りがされている、大変に細かい仕事がなされたという曲という気がしました。で、曲の下敷きとなっている元ネタというのがいくつかあるんですが、その中のひとつにマーヴィン・ゲイの『Sexual Healing』がありましたね。

テンポは早いんだけども、全体のメロウネスというのは『Sexual Healing』の上モノを上手く流用していたなという感じなんですが、実はこのマーヴィン・ゲイの代表曲の中でも代表作と言って差し支えない『Sexual Healing』。1982年の世界的ヒットですが、この『Sexual Healing』がリリースされていま35年たって、何度目かのブームを迎えようとしていますね。

まあ、1982年といいますとあの『Thriller』がリリースされた年です。で、『Thriller』もいまや流行り廃りを超えてマイケル・ジャクソン的世界を象徴するものとして古典扱いを受けておりますが、この『Sexual Healing』もアルバムとしてはね、マイケルの『Thriller』ほどのバリューをもって語られることはないかもしれませんが、『Sexual Healing』っていう曲1曲でマイケル・ジャクソンの『Thriller』というアルバムに向き合うのは、どだい無理な話かもしれませんが、ことR&Bですとかヒップホップの世界においては影響力という点では、それぐらいの重みがあるような気がしますね。

で、数年前にミゲルの『Adorn』という曲が出た時もこのマーヴィン・ゲイの『Sexual Healing』からの影響が強いと、よく語られたものですが。

ご存知のように、マーヴィン・ゲイはその後、遺族たちによっていろんな訴訟が起こっております。マーヴィン・ゲイの曲について。有名なところで言いますとロビン・シックの『Blurred Lines』ですね。あの曲は『Got To Give It Up』というマーヴィン・ゲイの代表曲の雰囲気を流用したものであると言って。これは結構、音楽業界を超えて大きな事件になったことをご記憶の方も多いかと思いますが。

松尾潔と菊地成孔 ロビン・シック『Blurred Lines』裁判を語る
松尾潔さんがTBSラジオ『菊地成孔の粋な夜電波』に出演。ロビン・シックやファレル・ウィリアムスが『Blurred Lines』でマーヴィン・ゲイの遺族から訴えられ、敗訴した事件についてじっくり語っていました。 (菊地成孔)まあまあ、今日いち

だからというわけではないんでしょうけども、いま『Sexual Healing』がまたブームだと言いましたけど、きっちりとクリアランスを取ってますね。クレジットをきっちりと取っていて(笑)。そういう意味では、法律的なところをクリアした上で、それでもマーヴィン・ゲイのグルーヴにあやかりたいという、そんな意向を強く感じます。では、その『Sexual Healing』を踏まえて作られた新曲をあと2曲、ご紹介したいと思います。そうですね。さっきのジャスティン・スカイから含めまして合計3曲ご紹介することになるのですが、これはもう立派なブームと言えるんじゃないでしょうか。聞いてください。ケニー・ラティモアの『Push』。そして、イライジャ・ブレイク『Black And Blue』。2曲続けてどうぞ。

Kenny Lattimore『Push』

Elijah Blake『Black And Blue』

1982年のマーヴィン・ゲイ・クラシック『Sexual Healing』。この曲の子供、もしくは孫と言ってもいい、そんな35年後の新曲を3曲続けてご紹介したことになりますね。ジャスティン・スカイ feat. ジェレマイの『Back For More』に続きましては、ケニー・ラティモアの『Push』。そしてイライジャ・ブレイクの『Black And Blue』でした。はい。これ、イライジャ・ブレイク。この人はもともとソングライターとして大変有能な人でありまして。まあ、アッシャーの『Climax』とか、代表曲がいくつかあります。

ただ、その時に使かっていた名前っていうのはだいたいショーン・フェントン(Sean Fenton)という風に書かれておりますね。で、シンガーとしての活動を視野に収めはじめて体と思いますけども、ショーン・”イライジャ・ブレイク”・フェントンという風に変わってきまして、そのニックネーム的につけていたイライジャ・ブレイクという名前でいま、歌手活動をやっていますね。

さっき、ジャスティン・スカイの時にジェイ・Zが率いるロックネイションというところと契約しているんだという話をしましたけども、イライジャ・ブレイクももともとジェイ・Zに見初められてロックネイションと契約していたんですね。いまは違いますけども。で、この人はフロリダ育ちなんですが、生まれはドミニカだそうです。ドミニカ出身のラッパーなんかも多いですけど、この人はストレートなR&Bを歌いますし、あと、踊りの方も達者ですね。

で、トロイ・テイラーっていうプロデューサーがいます。有名なところですと、トレイ・ソングスの後見人というか仕掛け人なんですが。トロイ・テイラーに見初められてソングライターとして活動を始めたということで。トロイ・テイラーの秘蔵っ子でありますトレイ・ソングスのアルバムにもイライジャ・ブレイクの曲っていうのは入っていますね。結構泣ける曲なんかを書いたりするのが達者で。僕はトレイ・ソングスの2012年にリリースされました『Chapter V』という、文字通り5枚目のアルバムに収められております『Without a Woman』っていう曲。以前にね、この番組で新譜としてご紹介したんですよ。『Without a Woman』。それを書いていたのがこのイライジャ・ブレイクですね。

で、その時にね、僕もイライジャ・ブレイクをそこまで注目してませんでしたし、もっと言うと『Without a Woman』が女性のコーラスをフィーチャーしていたんですが、その時にコーラスをしていたのがセヴン・ストリーターですね。最近、『Before I Do』という曲をこの番組でもプッシュしていますけども。

ですから、この5年ぐらいかけてイライジャ・ブレイクとかセヴン・ストリーターという人たちがどんどんどんどんシーンの最前線に浮上してきたと言えるんじゃないかと思います。じゃあ、イライジャ・ブレイクがソングライターとして関わった曲で新譜をご紹介したいと思います。キーシャ・コールです。キーシャ・コールもね、この番組で何度もご紹介しています。新譜が出るたびにご紹介している人の1人なんですが。この夏にリリースされたばかりの新曲『Incapable』という、まあキーシャ節っていう感じなんですが。これまでにも何度かキーシャの曲を書いてまいりましたイライジャ・ブレイクが今回もペンを取っております。聞いてください。キーシャ・コールで『Incapable』。

Keyshia Cole『Incapable』

Jamila Woods『LSD ft. Chance The Rapper』

女性シンガーの新曲を2枚続けてご紹介いたしました。まずはキーシャ・コールで『Incapable』。これはね、その前にご紹介しましたイライジャ・ブレイクという男性シンガーソングライターがソングライティングに関わっております。キーシャ・コールで『Incapable』。相変わらず熱い歌声ですね。

そして、ジャミラ・ウッズというこの番組ではじめてご紹介する女性の歌声、お楽しみいただきました。大人気のラッパー、チャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーしております。曲は『LSD』。この「LSD」とはなんぞや? と。どこかで聞いたことあるな、LSD。ヤバいんじゃないの?って思われるかもしれないですけども。これはジャミラ・ウッズ、そしてチャンス・ザ・ラッパーのホームタウンでございますアメリカのシカゴ。シカゴに行かれた方はご存知だと思いますけども、シカゴっていうと本当に湖の街でして。ミシガン湖がドーンとあるわけですけども。そのミシガン湖の周りのフリーウェイの名前が「Lake Shore Drive」っていうんですね。これを略して「LSD」と。そんな意味なんだっていうことなんですけども。まあ、シカゴ賛歌と言ってもいいんじゃないでしょうか。

このジャミラ・ウッズの『LSD』という曲は実は1年ほど前からネットで無料でダウンロードできるようになっていたんですけどね。最近になって商品として。まあ、ジャケットも改められて発売されました。で、このチャンス・ザ・ラッパーとジャミラはシカゴ同士っていう話をしましたけども。ジャケットもこのミシガン湖と思しき水面に彼女が半身を沈めているという、より幻想的なジャケットなんですが。で、この曲『LSD』に関して言いますと、これはシカゴ愛が徹底していまして。バックトラックで使われている曲がドネル・ジョーンズの『Where I Wanna Be』ですね。

ドネル・ジョーンズっていうと、『U Know What’s Up』っていう曲で大変に有名ですが。同じアルバム、そのタイトルトラックでありました『Where I Wanna Be』。この曲が全編に敷かれております。ドネル・ジョーンズもシカゴが生み出したスターですからね。この番組で時々お話しますけどね、郷土愛に根ざした曲っていうのは大変に僕の好むところでして。愛国心と違って郷土愛っていうのは罪がないな、なんてよく思うんですね。まあ、これ以上深い話をするつもりもないのですが。シカゴっていうのは特にそういった郷土愛が向けられる度合いが強いような気がします。こと、R&Bの世界では。

まあR.ケリーなんかもそうですし、シカゴというのはブルースの聖地でもありますし。音楽にとっては豊かな土壌がある街なんで。まあ、誇らしいんでしょうね。そんなシカゴがまた1人、スターを生み出したという。先輩チャカ・カーンみたいになれますでしょうか。ジャミラ・ウッズ『LSD』でした。

<書き起こしおわり>

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