松尾潔のメロウな夜 ゲットー・ソウル特集

松尾潔のメロウな夜 ゲットーソウル特集 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でゲットー・ソウルの楽曲を特集。アフリカン・アメリカンによるアフリカン・アメリカンのためのソウル・ミュージックを4曲選曲し、紹介していました。

(松尾潔)『メロウな夜』、5月4回目の放送。レギュラープログラム、メロウな風まかせをお届けいたしましょう。早いものでプリンス(Prince)が亡くなって一月がたちました。まだまだ、プリンスのことを考える時間が多いですし、プリンスのいなくなったミュージック・シーンということをよく考えます。いなくなって、「ああ、僕の中でプリンスって結構大きかったんだな」ってことを気づかせてくれましたね。こういう存在感のあり方っていうのは、いかにもプリンスらしかったんだなと思います。

さて、まあプリンス。いろんな影響を残していますから。今日、ご紹介する曲は直接プリンスに関係がなくても、歌っている人たちはね、みんな心の中の大きな部分にプリンスというのを抱えながら歌っている人ばかりじゃないかなという風に思っております。ちょっとそういう見方で聞いていただければなという風に僕は思っているんですよ。では、曲のご紹介にまいりましょう。ファンテイジア(Fantasia)の新曲を久しぶりにここでご紹介することができます。『So Blue』という曲。まあファンテイジア節ですよね。

ニューアルバム『The Definition Of…』に収められております。聞いてください。ファンテイジアで『So Blue』。

Fantasia『So Blue』

お届けしたのは女性シンガー、ファンテイジアで『So Blue』でした。ファンテイジアは本当にR&Bというよりもソウルという言葉が似合う人ですよね。それも、オーディエンスの中に非黒人が一切含まれていないのでは? と思わせるようなブラックネス。これがいつもど真ん中にありますね。ファンテイジアで『So Blue』。彼女の歌のジャンル、あえて定義するならば「ゲットー・ソウル」という言い方が可能です。あちらの発音に習って言うと、「ゲロー・ソウル」ですね。よく久保田利伸さんがステージのMCなんかでも「ゲロゲロなソウル」っていう風に久保田語でお話をされていますけども(笑)。その時の「ゲロ」っていうのはまさにこの「Ghetto(ゲットー)」っていうのが語源ですよね。

まあ、より丁寧にご説明するならば、アフリカン・アメリカンによるアフリカン・アメリカンのためのソウル・ミュージックと言っていいんじゃないでしょうか。まあ結果としてそれがクロスオーバーして非黒人。それはもちろん我々のようなアジアでアメリカのR&Bを聞いている人たちも含むわけなんですけど。そういうクロスオーバーヒットをすることもあるのですが、まあ作っている時に制作者の目線にアフリカン以外は含まれていないんじゃないかな?っていう。そう感じさせるものをゲットー・ソウルという風に僕なんかは言っております。

そのゲットー・ソウルという言葉。特に「ゲットー」という言葉にこだわって、いままでアルバムタイトルにいつも「ゲロゲロ」っていう言葉をつけてきたのがジャヒーム(Jaheim)という男性シンガーです。で、ジャヒーム。デビュー15周年を迎えまして、このたび自分でレーベルを作っちゃって。メジャーから離れて自主運営で。で、ディストリビューションだけをメジャーでっていうね。まあ最近ですと、エリック・ベネイ(Eric Benet)ですとか、タイリース(Tyrese)ですとか、そういった人たちがやっているような、本当に自分のやりたい音楽がはっきりして。で、その音楽性も確固としたものが世の中に認められている人だけができる……まあ、もちろん大前提として、一定以上の人気がある人にだけ許されるというね。

本当、「俺はこれから好きなものしか作らないぞ」宣言とも言えるんですが。アルバムをリリースいたしました。『Struggle Love』。これ、いいアルバムなんです。タイリースがね、やっぱりそのように、やりたいことしかやりません宣言の後に出したアルバムっていうのが昨年、大きな実りを見せましたけども。ジャヒームはそれに続く感じですね。3月にリリースされて、もう2ヶ月ぐらいたっているんですけど。最近になって、「本当にいいアルバムだな」って思っていますね。で、この番組では以前にこのアルバムの中から『Something Tells Me』という曲を先月でしたかね? ご紹介しましたけれども。

もう1曲、こちらいかがでしょうか。これはね、曲の中にジャヒームが敬愛する、リスペクトする先輩シンガーたちの名前がズラリと登場するという。まあ、この世界ではよくある手法なんですけども。やっぱりジャヒーム、こういうオーセンティックなやり方、似合いますね。どれぐらい、そのシンガーの名前が聞き取れるか。じゃあちょっと、ご自身のソウル・ミュージック、R&Bの知識を試す意味でも耳を傾けてみてください。聞いてください。ジャヒームで『Songs To Have Sex To』。

Jaheim『Songs To Have Sex To』

Gladys Knight & the Pips『Glitter』

しっとりとしたゲロー・ソウルを2曲続けてお聞きいただきました。新旧ゲロー・ソウルですね。ジャヒーム『Songs To Have Sex To』。これは先ほどもお話しました、かなりの上出来と言ってもいいんじゃないでしょうか。『Struggle Love』というアルバムの中に収められておりました『Songs To Have Sex To』、ジャヒーム。これ、ねえ、さっき曲をご紹介する前に言いましたけども、曲の中でたくさん、ジャヒームの敬愛するセクシーな歌唄いたちの名前が出てきましたね。どれぐらい、お分かりになりました?

まず「Teddy P」って言ってましたね。テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)のことです。で、その後に「Luther V♪」。ルーサー・ヴァンドロス(Luther Vandross)ですね。で、「Gladys Knight, Barry White♪」って。このあたりをフルネームで言っているのが面白いんですけど(笑)。これ、2番になるとメアリー・J.ブライジ(Mary J.Blidge)なんかも出てきて、グッと時代はR&Bエラに近づいたわけなんですが。

まあね、70年代後半に生まれたジャヒームらしいラインナップと言うこともできますし、『メロ夜』で先週ご紹介しました『いまでも聞きたいナンバーワン』の75年のナンバーワンヒットに名を連ねていた人たちもここで。それこそ、バリー・ホワイトをはじめとしてね、当時、ブルーノーツ(Harold Melvin & the Blue Notes)にいたテディ・ペンダーグラスとかも出てきましたしね。

松尾潔 1975年アメリカ R&Bチャートを振り返る
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1975年のソウルチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。 (松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日

やっぱりこの音楽と生まれ年の関係、音楽観と生まれ年の関係っていうのを感じずにはいられませんね。ジャヒーム。公称78年生まれ。吉岡正晴さん説だと76年生まれのジャヒームでございました。で、そのジャヒームが曲の中に織り込んでいたグラディス・ナイトの曲を1曲、ご紹介してみました。『Life』という85年のアルバム。お兄さんたちと組んでいたグラディス・ナイト&ザ・ピップス(Gladys Knight & the Pips)のアルバムの中に収められていた『Glitter』というバラードです。

これは、僕が大変に贔屓にしているサム・ディーズ(Sam Dees)という名ソングライターが書いた曲です。で、この『Life』というアルバムが出た時には、さほど話題になったわけじゃないんですけど。それから2年後の87年にレジーナ・ベル(Regina Belle)のデビューアルバム『All By Myself』の中でこの曲をカバーして広く知られることになりました。ですが、そのことにあんまり言及される機会がないんですよね。ちょっとそれには理由がありまして。カバーする時に、タイトルを変えたんです。『After The Love Has Lost It’s Shine』。この番組でも1度かけた記憶があるんですけども。

タイトルを変えたんですよね。で、グラディスのカバーだという先入観がなく聞いた人たちも多いんじゃないかなと思うんですが。まあ、いずれ劣らぬ名匠ですから。これを機会にグラディス・ナイトとレジーナ・ベルを聞き比べるというの一興じゃないでしょうか。まあ、ジャヒームもきっと空で歌える、そんな1曲です。

では、調子に乗ってゲットー・ソウルの最新の秀作アルバムの中からもう1曲、ご紹介したいと思います。K・ミッシェル(K. Michelle)です。もうK・ミッシェルはね、女ジャヒームと言ってもいいんじゃないかな? ジャヒームが男K・ミッシェルとは思わないけれども(笑)。なぜなら、そのゲットー・ソウルという言葉はいまではジャヒームの専売特許。代名詞みたいになりつつあるので。まずはジャヒームに僕も敬意を示しますけども。

彼がやったことを女性でやっているのはK・ミッシェルじゃないかなという風に思いますね。K・ミッシェルのアルバム『More Issues Than Vogue』。これもね、『メロ夜』ではすでに紹介済みなんですけども。ジャヒームとほぼ同じ時期にリリースされたこのアルバムを僕、いまもよく聞いてるんですね。で、今日は『メロウな夜』に相応しい、こちらをご用意いたしました。K・ミッシェルで『Nightstand』。

K. Michelle『Nightstand』

最新アルバム『More Issues Than Vogue』から『Not A Little Bit』、『Time』に続きまして実に3曲目の『メロ夜』でのご紹介となります。K・ミッシェルで『Nightstand』でした。

<書き起こしおわり>

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