松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で2003年のR&Bチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。
(松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。
第21回目となる今回は、2003年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。2003年のR&Bチャートナンバーワンを達成した曲といいますのは、合計で13曲ですね。前年、2002年からの居残りでエリカ・バドゥ(Erykah Badu)feat. コモン(Common)『Love of My Life』。この曲のナンバーワンで2003年のチャートは始まりました。そして、アリーヤ(Aaliyah)の遺作から『Miss You』が1位を奪取します。
続いて、50セント(50 Cent)の『In da Club』。これがモンスターヒットでございまして、2003年最大のヒット。9週間に渡って1位を獲得いたしました。
そして、ジェイ・Z(Jay-Z)が『Excuse Me Miss』で1位を奪取。これ、ルーサー・ヴァンドロス(Luther Vandross)の歌をサラリと織り込んだりして。まあちょっとジェイ・Zがいい男賛美的な感じで歌ってました。
で、ショーン・ポール(Sean Paul)の『Get Busy』。この頃、ショーン・ポール人気は高かったですね。
で、再び50セントがネイト・ドッグ(Nate Dogg)をフィーチャーした『21 Questions』。これが7週ヒットですね。7週ナンバーワン。
モニカ(Monica)の『So Gone』。
で、ジェイ・Zをフィーチャーしてのビヨンセ(Beyonce)。『Crazy in Love』。日本でも大層話題になりましたね。まだジェイ・Zとビヨンセが結婚する前の話です。そして、ビヨンセとジェイ・Zから1位を奪取したのが、まあジェイ・Zとも仲がよいファレル(Pharrell)が他ならぬジェイ・Zをフィーチャーしての『Frontin’』。つまり、ジェイ・Zがフィーチャリングされた曲が2曲続けてナンバーワン。都合9週間ナンバーワンを独占します。
で、そこから1位をとったのが、後にジェイ・Zの妻となるビヨンセでございますね。そして、先ほど言ったショーン・ポールをフィーチャーしていた『Baby Boy』。
こう、何曲か紹介してますけど、アーティスト名は何組か、本当に限られた人たちしか出てこないっていう、そんな1年ですね。そしてリュダクリス(Ludacris) feat.シャワンナ(Shawnna)で『Stand Up』。
R.ケリー(R.KELLY)『Step in the Name of Love』。
最後にナンバーワンになったのがアリシア・キーズ(Alicia Keys)『You Don’t Know My Name』。で、この『You Don’t Know My Name』は12月の下旬あたりから首位を独走しまして。翌年の2月まで、なんと9週間に渡ってナンバーワンでした。2004年度編でアリシア・キーズ『You Don’t Know My Name』のお話をした記憶がございます。
はい。以上13曲。まあ、50セントが大活躍した前半。そしてジェイ・Zとビヨンセのカップルがチャートを寡占してしまった後半。ざっくり言えば、こんな感じです。ですが、僕はこの流れの中で、やっぱりメロウ好きとしましては、アリーヤ、モニカ、ビヨンセ、そしてアリシア・キーズですね。この21世紀の女性ヴォーカルシーンをリードしていくことになる人たち。プラス、その人たちに大きな支配力を持ったアリーヤ。まあ、遺作ですからね。この人たちの名前がしっかりと刻み込まれていることに着目したいですね。今日はそんな選曲です。
まず、最初にお聞きいただきますのはビヨンセ feat.ジェイ・Z『Crazy in Love』です。3週連続のナンバーワン。収録アルバムはもちろん『Dangerously in Love』。
そして、エリカ・バドゥ。ここで満を持して紹介いたしましょう。初めて言いますけど、僕の電話の待ち受け画面。もうここしばらく、ずっとエリカ・バドゥですね。もうここ2年ぐらい、エリカ・バドゥじゃないかな?(笑)。コモンをフィーチャーしています。エリカ・バドゥ『Love of My Life』。それでは、2曲続けて。ビヨンセ、エリカでどうぞ。
Beyoncé『Crazy In Love ft. JAY Z』
Erykah Badu『Love Of My Life (An Ode To Hip Hop) ft. Common』
ビヨンセ feat.ジェイ・Zで『Crazy in Love』。そしてエリカ・バドゥ feat.コモンで『Love of My Life (An Ode to Hip-Hop)』。『An Ode to Hip-Hop』っていうのはサブタイトルなんですけど。『Ode』っていうのはこれはギリシャ語由来になるんですかね?あの、まあいわゆる叙事詩とかっていう意味ですね。まあ、ヒップホップに捧げる、エリカ・バドゥなりの『Ode』。叙事詩っていうことでしょうね。早春賦とか、そういう『賦』っていう言葉。あの意味ですね。『Ode』っていうのはね。まあちょっと、エリカ・バドゥらしい気取った文学的表現とも言えなくもないんですけど。
曲の方は至って明快でございまして。これ、『Brown Sugar』っていう映画のサントラに収められていたんですが。映画自体がね、アフリカン・アメリカンのカップルの恋模様を描いて。僕もあの、DVDを取り寄せて見ましたけども。まあ、『ラブジョーンズ』ですとか、そういうアフリカン・アメリカンカップルの話が好きな人には、お気に入りになってもらえるんじゃないかな?っていう映画ですね。
コモンは先ごろ、『Glory』という曲で、同名映画のね、主題歌でジョン・レジェンド(John Legend)とコラボして、オスカーを受賞したことが記憶に新しいです。『グローリー』という映画。原題『Selma』ですけどもね。主題歌の『Glory』という曲があの映画を引っ張っていったような印象さえございますね。特に日本ではね。いい映画でした。キング牧師の半生を描いた映画です。
まあ、非常にそういう意味じゃコンシャスなラッパーと言われますコモン。社会意識が高いという意味ですけども。エリカ・バドゥと共鳴しあうところがあって。一時、まあ実際この2人はロマンスが噂されていましたね。で、ジェイ・Zとビヨンセはロマンスどころか、結婚して。で、Blue Ivyっていうね、かわいらしいお子様まで。いま、ちょっとセレブですよね。もう、なんて言おうかと思ったけど、そうですね。ちびっ子セレブですよ。そういった、いまのアメリカンショービズのなんて言うのかな?まあ有名人たちがこの頃、出揃ってきたっていう感じですかね?
まあ、別の言い方をしますと、もうビヨンセとかジェイ・Zが有名になって、すごい長いんだなって僕は思いましたね。2003年と言いますと、日本風の感覚で言うと、干支一回りですよ。12年前にこうやってカップルで歌ってヒットして。で、いまもその2人でいることが飽きられていないっていうのは、これは本当に大衆が好むサムシングを持ち合わせた2人。もしくは、2人でいる時に、大衆が好む何かが生まれているのか。いやいや、これはもう徹底したマーケティングの勝利なのかわかりませんけども。
ただこのビヨンセ、ジェイ・Zというカップルがアメリカの音楽史というよりも芸能史に残る・・・もう、いまの時点でちょっと歴史的な存在といえるカップルかもしれませんけども。で、あることは間違いないわけで。僕はこの間出版した『松尾潔のメロウな季節』という中でもこのカップルの話を書きました。
で、このアフリカン・アメリカンのいまナンバーワンカップルと言われてますけども、それ以前は、ホイットニー(Whitney Houston)とボビー・ブラウン(Bobby Brown)だったわけですよね。で、ホイットニーとボビー・ブラウンが互いに輝いていた時期っていうのは実はそんなに長くなくて。特にボビー・ブラウンはもう、いわゆるティピカルな転落の図式に入っちゃったんで。それを考えてみると、実はボビーとさほど年齢の変わらないジェイ・Zの延命術っていうのかな。まあ、私生活さえプロデュースが行き届いている印象を与えるジェイ・Zとビヨンセなんですけど。まあ、実際音楽の方も魅力的ですから。これは我々はもう降参する、屈服することを楽しむ。まさにスイートサレンダーな2人っていう印象でございますね。
さて、先ほどからたびたび、スターが、ディーヴァが出揃ったみたいな言い方をしましたけども。モニカもね、ひっそりと『So Gone』という、ひっそりとじゃないですけど。この人たちに比べると、ややちょっと地味な印象もございますけどね。特に日本ではなかなか、スターオーラが届きにくいというか、翻訳しづらい存在なんですけども。まあ、90年代に天才少女シンガーとして世に出てきて。そして、まあずっといまでもそこに踏みとどまっているという意味ではね、忘れちゃいけない名前だと思いますが。
最後にお届けする人は、まあ、彼女をおいて他にいないでしょう。アリシア・キーズです。アリシア・キーズの『You Don’t Know My Name』を今日はご紹介したいと思います。彼女にとって2枚目となります『The Diary of Alicia Keys』。
その中に収められていたカニエ・ウェスト(Kanye West)のプロデュースナンバーですね。で、もちろん、ブレイク前というか、本格的にデビューを飾る前のジョン・レジェンドもここには関わっておりますし。そういう意味ではね、いまでこそ総力戦に見えますけども、当時は若い力が集ってこんなにオーセンティックな曲を作り上げたことに感動したものでした。ソウル・ヴォーカル・グループ、The Main Ingredientの古典を上手く調理しております。聞いてください。アリシア・キーズで『You Don’t Know My Name』。
Alicia Keys『You Don’t Know My Name』
アリシア・キーズの『You Don’t Know My Name』、ご紹介いたしました。これは2003年の12月20日にチャートのトップに立ちまして、それから翌年、2004年の2月14日付まで9週間連続ナンバーワン。まあ、2003年最大のヒットだったのは50セントの『In da Club』っていう風にご紹介しました。で、『In da Club』も9週間ナンバーワンで、アリシアと一緒なんですけども。アリシア、年またぎなんでね。年間を通してっていう意味では、50の方に軍配が上がっておりますけども。いま、クラシックとして歌い継がれているという意味では、こちらの方がよりヒットと言えるのかもしれません。
で、この曲を収めましたアルバム『The Diary of Alicia Keys』の中からの『If I Ain’t Got You』という曲は、翌年の5月にチャートのトップに立つんですが。まあいまでは、『If I Ain’t Got You』の方がより古典感の強い、そんな1曲かもしれません。
僕は個人的な好みで言うと、こちらの『You Don’t Know My Name』の方が好きですけどね。ここには、古典の香りと、そこに新しき意匠を加えるという、ひとつの黄金比があるように思えます。僕にとっては本当、理想的な形をした、そんな1曲ですね。当時、アリシア・キーズは可憐なイメージでしたからね。まだね。いまはゴージャスそのものですが。当時のミュージックビデオ、今日のオンエアーにあたって、もういっぺん見直しましたけども。
ラッパーのモス・デフ(Mos Def)が演じる客を待ちわびるダイナーの女性店員という役どころでアリシア・キーズの演技も達者。もう胸がキュンとする。もうこのモス・デフっていうラッパーが演じる男性客が、なかなかアリシア・キーズの恋心に気づかないんですよね。なんて鈍感なんだ、この男性客は!ってツッコミを入れたくなるぐらい(笑)。それほど、チャーミングなアリシア・キーズでございました。
<書き起こしおわり>
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