松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でアース・ウインド・アンド・ファイアーのモーリス・ホワイトさんを追悼。EWFの楽曲を特集していました。
(松尾潔)さて、この後番組の後半では、先ごろ、2月3日に亡くなりましたモーリス・ホワイト(Maurice White)を追悼する、そんなコーナーをお届けしたいと思います。いやー・・・残念でしたね。驚きましたけれども、それ以上に悲しみとか寂しさのようなものがいま、僕の胸の中にはいっぱいです。モーリス・ホワイト。74才だったんですね。享年74。まあ、短命とは言えない年齢なんですけども。もっともっと長生きして、もっともっといろんな景色を見せてほしかったなという気がしますね。
アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)は日本で最も愛された、そしていまなお愛されている。そんなブラックミュージックのグループですからね。僕らがアメリカのブラックミュージックっていうものをイメージする時、そこはまあ、いろんな情報の総体としてのブラックミュージック。R&Bですとかファンクとかソウルとかゴスペルとか、いろんなものがあるんですけども。ひとつ、ちょっとビジュアルでどんなのをイメージするか?っていう時に、いかこの2016年になっても、アースのあのステージ上の勇姿っていうのをイメージする人っていうのは結構多いんじゃないかな?っていう風に思うんですよね。
で、まあ論より証拠と言いますかね。たとえばテレビでディスコ特集みたいなのが組まれた時に、彼らの『September』という曲がかならず出てきますよね。そして、いろんな配信のサイトを見てもR&Bというカテゴリーのところでアース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲っていうのは常に入っているんですね。そういう曲を一般に我々は定番曲と言いますけども。定番曲を多数持っている数少ない黒人グループ。それがアース・ウインド・アンド・ファイアーでした。
で、このアース・ウインド・アンド・ファイアーは総帥モーリス・ホワイトを亡くしましたが、いまなお、グループとしての活動を続けておりますし。ツアーも展開していきますから、過去形になったわけじゃないんですが。それでもね、精神的な支柱を失ったショックは大きいと思います。ファンの我々でもそうですから、メンバー。フィリップ・ベイリー(Philip Bailey)をはじめとするメンバーの喪失感、大変なものだと思うんですけども。そして悲しみっていうのはこの後、じんわりとこみ上げて来るのかもしれませんが。まあ、曲は永遠ですから。まずはここでアース・ウインド・アンド・ファイアー。僕の大好きなアース・ウインド・アンド・ファイアーの曲を2曲、ご紹介したいと思います。
1983年にリリースされた『Powerlight』からご紹介したいのは『Side by Side』。これは僕、いろんなところでこの曲を偏愛していると言い続けてきました。決して彼らにとっていちばんのヒット曲ではないんですが。彼らの、そうだな。ブラジル趣味であるとか、もちろんファンクとしてのエッセンス。いろんなものが、エレガントな形でまとまった。そんな1曲だと思います。途中聞こえるスティール・パンのソロですとかね。なんて言うんだろうな?およそブラックミュージックという言葉でイメージされる、世界中のブラックミュージックを英語で歌っているっていう、そんな1曲ですね。『Side by Side』。
ちゃんと収拾がついているっていうのは、編集能力が見事なんですよね。そして、74年の『Open Our Eyes』というアルバムから、『Feelin’ Blue』。これはもう、聞いていて胸が締め付けられるような思いになる、そんな1曲です。じゃあ、聞いてください。アース・ウインド・アンド・ファイアーで『Side by Side』。そして『Feelin’ Blue』。
Earth, Wind & Fire『Side by Side』
Earth, Wind & Fire『Feelin’ Blue』
『When it’s you, Feelin’ blue』っていうフレーズは発明だな。はい。アース・ウインド・アンド・ファイアーで『Feelin’ Blue』。その前は『Side by Side』でした。それぞれ、74年、83年の曲ですね。『Side by Side』空でさえも、30年以上の時が流れております。『Feelin’ Blue』に至っては、40年以上前。信じられませんね。いま聞いても、初めて聞いた時と同じようなときめき。あと、切なさがありますね。ええ。『ひとはけの悲しみがある』という表現がありますけども。まさに、そういう曲ですね。
アース・ウインド・アンド・ファイアーは本当、ブラックビートルズと言われていた時期があるんですけども。実際、それだけの活躍はしたと思います。ただ、ビートルズと違うのは、長寿グループになってしまいましたから。伝説を伝説として、なんて言うんだろうな?神棚に置き続けられなかったというか。伝説というよりは、過去の栄光に見えてしまう。そんなシビアな時期もございましたが。再評価が進みましてね。再評価が進んだきっかけっていうのはいろいろあるんですけども。
もちろん、サンプリング世代になって、自分たちが子供の頃に熱狂していたアース・ウインド・アンド・ファイアーを取り込んだ。そんなヒップホップの人たちが増えたっていうのは大きいですよね。中でも、アース・ウインド・アンド・ファイアーのグルーヴを取り入れた例としては、アウトキャスト(OutKast)のビッグ・ボーイ(Big Boi)のね、『The Way You Move』という曲がパッと思い出されます。
これはもう、返礼するような形でアース・ウインド・アンド・ファイアーもケニー・G(Kenny G)と一緒に『The Way You Move』をカバーしたことがありましたね。
あれ、カバーしてくれてビッグ・ボーイはうれしかったと思いますよ。うん。本家に認められたような、そんな感じだったんじゃないでしょうか?ええとね、モーリス・ホワイトのファンの方っていうのは当然、このメロ夜リスナーにもたくさんいらっしゃいまして。結構な数のメールをいただきました。その中でひとつ、ご紹介したいのが、この番組の常連リスナーですね。牢名主と言ってもいいかもしれません。バックスピンさん。(メールを読む)『「Can’t Hide Love」「Feelin’ Blue」「Side by Side」。この3曲がアース・ウインド・アンド・ファイアーの曲で個人的によく聞く曲。次点は「Love’s Holiday」』。もうこれ、僕と全く趣味一緒なんですよね。ええ。
(メールを読む)『松尾さん監修の「DANCE TRACKS」の再発に期待しております。「Getaway」のインストも入れてほしい』なんて書いてありますけども。そうなんです。僕昔、アース・ウインド・アンド・ファイアーのダンスものばかりを集めた『DANCE TRACKS』という日本限定のアルバムの編集というか、監修をやったことがありますね。それを聞いてくださったんですね。
あと、そうですね。アースと言いますと、東京ドームでやったライブのレーザーディスクですね。いまとなっては懐かしいレーザーディスクのその解説なんかも私、手がけてましたね。で、今日、どんな曲をご紹介するか?っていうのは大変悩みまして。なにしろ、レパートリー多いですし。彼らの作品を取り上げたカバーでもね、優れたものがたくさんあるんです。いま、バックで流れておりますジャズギタリスト、ノーマン・ブラウン(Norman Brown)。この間ね、日本に来てましたけど、ノーマン・ブラウンの『Love’s Holiday』。これもね、数あるインストゥルメンタルカバーの中で僕、大好きですね。
コーラスがフィーチャーされてまして。ペリっていう姉妹グループが歌っています。この人たちもアース、好きなんだろうなっていう感じで歌ってくれるんですけども。まあ、なによりギタリストのノーマン・ブラウンがね、歌うように奏でる。で、その歌メロっていうのは、モーリス・ホワイト、フィリップ・ベイリーが歌ってきたメロディーでありまして。こうやって、美しいものっていうのは引き継がれていくんだなっていう、ひとつの見本のようなカバーですね。
で、まあその数あるカバーをご紹介するのは、もうちょっと時間の関係上できないので。やっぱりアースのオリジナルバージョンをここでもう1曲、ご紹介してこのコーナーの締めとさせていただきたいのですが。バックスピンさんが選んだ3曲。もちろん、僕もこの3曲。全く異論の余地なしなんですが、『Can’t Hide Love』は以前、いまなら間に合うスタンダードで取り上げたことがございますので。
せっかくですから今日、もう1曲。メロ夜、はじめてのオンエアーになります、こちらをご紹介したいと思います。まあ、アースはモーリス・ホワイトがパーキンソン病を患ったということを公表した21世紀以降のものっていうのはどうしても、注目度が低くなっているっていうのは昔からのファンにとっては本当に歯がゆい状況なんですけども。2005年にリリースしました『Illumination』っていうアルバムは、特に快作でしたね。で、彼らを慕うジャム&ルイス(Jam & Lewis)ですとか、ラファエル・サディーク(Raphael Saadiq)、そしてもちろんアウトキャストのビッグ・ボーイ。こういった人たちが集いましてね。ウィル・アイ・アム(will.i.am)もそうですけども。そういった人たちが集いまして。彼らの過去の傑作を踏まえた新曲を提供してくれました。
その『Illumination』の中から今日は1曲、ご紹介したいと思います。これはジャム&ルイスセッションの1曲なんですけどね。モーリス・ホワイト、もうすでにこの時点で声量はお気の毒なぐらい。本人がいちばん悔しかっただろうという感じなんですけども。それをも味に変えるジャム&ルイスマジック。聞いてください。アース・ウインド・アンド・ファイアーで『Pure Gold』。
Earth Wind & Fire- Pure Gold
お届けしたのはアース・ウインド・アンド・ファイアーで2005年のアルバム『Illumination』の中から『Pure Gold』でした。僕はね、このアルバムのちょっと前ぐらいかな?モーリス・ホワイトに会ったことがあるんです。もうそれが最後になってしまったんですけどね。その時点で彼はパーキンソン病がかなり進行して。立っているのも辛そうだったんですが。それでも、僕に握手をしてくれました。で、その時にね、もうこんな体調の時に、それでも外国人の若い音楽ファンである、音楽業界人である僕に手をスッとのばしてくれるんだなっていうことでね。胸が熱くなった。そんなことが思い出されます。モーリス・ホワイトの音楽、これからも聴き続けていきたいと思います。
(中略)
ということで、今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜はモーリス・ホワイトクラシックをもう1曲。マイケル・アーバニアックの『Free』を聞きながらのお別れです。これからお休みになるあなた。どうか、メロウな夢を見て下さいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週、2月22日。月曜夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。
Michal Urbaniak『Free』
<書き起こしおわり>