渡辺範明『魔界塔士Sa・Ga』とSa・Ga三部作のジャンクな魅力を語る

渡辺範明『魔界塔士Sa・Ga』とSa・Ga三部作のジャンクな魅力を語る アフター6ジャンクション

(渡辺範明)ゲームボーイって発売当時はやっぱり携帯ゲーム機ってもの自体が初めてというか。ゲームウォッチを除けば初めてだったんで。「外でファミコンできるの?」みたいな感覚なんですよね。で、「外でゲームするんだったらこういうのが向いてるよね」っていうのは、やっぱり通説として任天堂もテトリスとかマリオとかしか出してなかったんで。要は、パズルゲームとか軽いアクションゲームとかを作るのがゲームボーイの正道であるという風にみんな、思っていて。どこのメーカーもそういうのを出してたんで。そこにスクウェアが参入してきて。「第1弾はこれです」っつって。「えっ、本格RPGをゲームボーイでやるんですと?」みたいな。まず、これが驚きなんですよね。だけど、やっぱりゲームボーイってある意味、ファミコンよりスペックが下がってるところもかなりあるんで。白黒だし、とか。いろいろあるんで。いろんなことが普通のRPGよりも簡略化されていて。

たとえば武器とかも全部……だから武器と魔法とアイテムが統一されたフォーマットになっていて。全部、使用回数制なんですよ。だからロングソードは50回使ったら壊れるとか。回復アイテムは1回でなくなるとか。魔法は10回使えますみたいな感じで。で、MPとかもないし。そういうところもすごく簡略化されてたりとか、あとはどこでもセーブできますとか。セーブポイントみたいな概念がなくなって、とか。あと、サガ1っていうのは結構『ウィザードリィ』マナーなんですよ。『ウィザードリィ』をモチーフにしてるんですけど。塔を順番に登っていくっていうのも『ウィザードリィ』が地下へ地下へと潜っていくっていうのをたぶん反転させた発想で。だから塔を登っていく。だからこの『魔界塔士Sa・Ga』の塔、タワーなんですけども。

『ウィザードリィ』マナー

(渡辺範明)で、『ウィザードリィ』と同じように最初にパーティーを組む時、自由に4人のキャラクターを作ってパーティーを組めるんですけど。その種族とかも、『ウィザードリィ』だと種族と職業っていうのが別々にあるんですが。サガは職業というものはなくなって。種族を選ぶと、もうそれがイコール職業みたいなもんなんですよね。それが、このパッケージアートに書いてある人間とエスパーとモンスターなんですよ。これが全部、等価になっていて。モンスターが仲間になるっていっても、ポケモンとか女神転生みたいなことではなくて。別にこのモンスターが主役でもいいんですよ。単に種族みたいなもんなんで。だからモンスターが主役で仲間がエスパーみたいなのとかでもよくて。で、このエスパーっていうのは魔法使いみたいなもんなんですけど。でもビジュアルで言うとエスパーはこのSFギャルみたいな感じなんですかね。当時の。

(宇多丸)2以降はロボットも出てくるしね。

(渡辺範明)そう。2ではメカが入ってきたりとかして。この種族に関しても、全ての人間であるとか、モンスターであるとか、メカであるとか、そういうものは全部、フラットに扱われてるっていう。これもジャンク性・フラット性なんですよね。

(宇多丸)でも、それが逆に言えばなんていうか、自由度っていうか、プレーの幅ですよね。どれを選んでもいいっていう。

(渡辺範明)そうです。だけど、そういうところもそんなに細かくストーリー上もケアされるわけじゃなくって。サガ2とかだとメカとかも主人公にできるんすけど。メカを主人公にしようが、人間を主人公にしようが、モンスターを主人公にしようが、ストーリー上のお父さんとかお母さんは普通に人間のお父さんお母さんで。「今日、旅立つのか」みたいな感じになるんですよ(笑)。「えっ、メカですけど?」「モンスターですけど?」みたいなのは全く言及されないっていう。この駄菓子感覚ですよね。で、これが小学校高学年の僕にはですね、最も「心地いいわ」みたいな(笑)。楽しくって。

(宇多丸)わかるわかる。俺、これ、すごい惹かれますよ。

(渡辺範明)これね、やっぱりゲームでしか得られない何かがあるんですよ。ここには。で、これがサガ3になるともっと、その種族のあり方が最高のところになるんですけど。サガ3ってですね、始まる時は仲間が4人いるんですけど、それが全員、人間なんですよ。だけど、冒険をする中でモンスターを倒すと、そのモンスターが肉を落とすんですよね。で、その肉を食べると……人間が1回、肉を食べると獣人になるんですよ。で、獣人がさらにもう1回、モンスターの肉を食べるとモンスターになるんですよ。で、逆にメカ系の敵を倒すとパーツっていうのを落とすんですけど。

人間がパーツをつけるとサイボーグになって。もう1回、パーツをつけるとロボットになるんですよ。で、この五つの種族が全部、リニアに並んでいて。これは可逆性があるというか。要は、人間がパーツを2回つけてロボットになりました。でもそこからモンスターの肉を5回食べると、モンスターになるんですよね。だから4人の仲間がその種族の間を行ったり来たりしながら成長して戦っていくっていう。これ、すげえ変な世界観じゃないですか(笑)。

(宇多丸)いや、へんだけど、子供は楽しいかな。

(渡辺範明)本当、そうなんですよ。だから「細けえことはいいんだよ」っていう本当にコロコロとかボンボンの漫画みたいな、ちょっと雑な……。

(宇多丸)どれにもなってみたいし、みたいな。

(宇内梨沙)それ、能力も変わるっていうことは、じゃあ「このボスにはサイボーグがいいからマシンになろう」とか、調整もしていける?

(渡辺範明)ただ、そんな言うほど自由が利かないというか。獣人の中とか、サイボーグの中とか、モンスターの中にもそれぞれ、いろんな種族があるんで。要はレベルとか、その時の属性とかによって肉を食って何になるかっていうのは……もちろん、仕組みはあるんだけど。プレイヤーとしてはあんまり狙って返信できないから。すごい強いモンスターになっていたのに、なんかちょっとパーツをつけたらすごい微妙なやつになっちゃったとかみたいな。だから割とランダムにどんどん姿が変わって、能力も変わって旅していくみたいな感じで。これがね、すごい駄菓子的で最高なんですよね。というのがこのサガのジャンク性、フラット性ですね。

駄菓子的で最高な世界

(宇多丸)でも、ともあれ「ゲームボーイでRPGができるじゃん」っていうことは証明してみせたわけですね?

(渡辺範明)そうです。しかも、ちょうどいいっていうか。ゲームボーイでやるのにちょうどいいスナック感覚というか。で、世界観もドラクエとかFFとかはスタイルの違いはあれど、ちゃんとその世界観をきっちり作り込むっていう方法で頑張っていたわけなんですけど。サガは「塔で繋がっている」って言いましたが。巨大な塔があって、その塔の階層ごとに別の世界になっているんですよ。だから、塔の何階に行くとそこは海の世界になっていて。別の階に行くとそこは天空の世界とか、未来世界とかになっていて。暴走族がいたりとか。

(宇多丸)やっぱり『マッドマックス』だ。

(渡辺範明)『マッドマックス』みたいな階があったりして。これも本当にごった煮だし、ジャンクだし。今で言うところのマルチバース的な世界っていうか。だったりもするんですけど。こういう世界観のミックスが種族にも世界にもなっていて。そのジャンクな塔を登っていくと、一番上にラスボスがいるわけですが。そのラスボスが何かっていうと「かみ(神)」なんですよ。ひらがな2文字で。「かみ」っていう敵がいて。そいつがそれまで塔をのぼっていく中で時々、助言を与えてくれるシルクハットの男っていうのがいたんですけど。「実は私は神だったのだ」っていうので一番上にいて。「この塔は私が暇つぶしのために作ったのだ」って。「人類は愚かだな」っていうことで戦うことになるっていうんですけど。

で、この神なんですが、これはサガでめちゃくちゃ有名な話なんですけど。さっきの宇多丸さんが言及していたチェーンソー、あるじゃないですか。チェーンソーって実際、装備品としてゲーム中にも出てくるんですけど、これっていわゆる即死アイテムなんですよ。RPGとかでよくあるじゃないですか。で、このチェーンソーって、か神にも効くんですよ。で、神にチェーンソーを使うと「かみはバラバラになった」っていうテキストが出て一撃で倒せるっていう(笑)。

(宇多丸)それ、神なの?(笑)。

チェーンソーで即死するラスボス「かみ」

(渡辺範明)でもこれ、すごくないですか? 要は神殺しの物語なんですけども。その神の価値がすごい低いっていうか。いろんな種族も全部フラットだし、いろんな世界観もフラットに扱われていて。で、神すらも他のモンスターと等価に扱われてるっていう、このスーパーフラット性っていうか。これに……その時はそんな言葉なんて知らなかったけど。僕らは子供の時に「なんだ、これは!?」ってなって。なんか、もうパンクでジャンクな魅力があって。

(宇内梨沙)ボスって苦労して倒すって思っていたものが……。

(渡辺範明)もう小学生的にはゲラゲラ笑っていて。「最高じゃん!」みたいな。

(宇多丸)アハハハハハハハハッ! ああ、そういうことだ(笑)。ウケたんだ。

(渡辺範明)そう。だからもうラスボスが神っていう時点で、初めての中2体験みたいな感じで。僕は小5とかぐらいだったんですけど。「最後に神がいるんだ!」みたいな。

(宇多丸)あと、ずっと伏線ね。「これが伏線か!」だよね。

(宇内梨沙)シルクハットの男が。

(渡辺範明)今だったらできませんよ。ラスボスが神っていうのは。で、神だとしても、もっと凝った設定をしちゃうと思う。「◯◯神」とかっていう設定しちゃうと思うんですけど。このひらがな2文字の「かみ」と戦って。しかも、自分では気づかないですけど、後から友達から「あの神ってチェーンソーが効くらしいぜ?」みたいになった時に「マジで!?」みたい。で、試してみるみたいな。

(宇内梨沙)その時って、チェーンソーってあんまり使わない武器になってるんですか? 終盤には。

(渡辺範明)というか、即死武器だから、ボスには使わないんですよ。基本的には使わない、効かないはずなんだけど。これはなんかね、要はバグなんですよ。設定ミスで効くようになっちゃっていただけなんだけども、結果的にこのサガというゲームの世界観を決定づけたとも言える。

(宇内梨沙)だからバイオのロケットランチャーみたいなものですね。当たっちゃえば一発で終わるみたいな。

(渡辺範明)そうそう。で、バイオはクリア後のボーナスとしてそれが用意されてますけど。それがね、たまたまそうなっちゃったっていうことで。

(宇多丸)でも、その痛快さね。どうやってもなかなか倒せねえなって思っていたボスなのに「ああ、一発か。快感!」っていう、あれはあるよね。

(渡辺範明)全てが台無しになるような感じと引き換えの気持ちよさみたいな。

(宇内梨沙)そうか。私はそれをバイオで味わいましたけども。もうちょっと前だとサガだったんですね(笑)。

(宇多丸)でもいいね。子供たちがそれで爆笑している様っていうのが。

(渡辺範明)そうそう。これ、最高なんですよね。

(宇多丸)それがキッズの心をつかむわけですね。

(渡辺範明)そうなんです。で、そのサガがそんな感じで、ちょっとRPGのセルフパロディ的なところがある。なのでもう既にスクウェアがこの時、RPGメーカーとしてかなり立場が確立してたんで。だからゲームボーイでも「やっぱりスクウェアが出すならRPGでしょ?」っていうので出したんですけど。「FFとは違うことをやろう」っていうのが絶対あるから。そこでRPGをある意味、魔改造したようなRPGが出て。それが当時のキッズの心を逆に掴んだという、それがこのサガの三部作になりますね。

従来のRPGを魔改造してキッズの心を掴む

(宇多丸)だってさ、ファンタジーかと思いきや出てくる銃とかが変にリアルっていうか。

(渡辺範明)そうなんですよ。で、武器に「レオパルト2」とかっていうのが出てきて。これって戦車なわけですけど。その「戦車を装備する」っていう謎の概念が生まれたりとか。だから戦車を5個、装備するとかができるんですよ。なんかテキストでしか表現されないからこそできる、ゲームならではの隙間というかですね。これも今だったらグラフィックで見せなきゃいけないから、おかしいだろってなるんですけど。これはね、やっぱりゲームならではの文学性みたいなものが生まれた瞬間だなという風に当時は思いましたね。

(宇多丸)というわけでゲームボーイ版のサガ三部作号から始まったということですね。あ、ちなみにゲームボーイで「RPGがいける」ってなって。そこからいろいろ出たりしたんですか?

(渡辺範明)ゲームボーイはこの後、ゲームボーイのRPGとして歴史に名を残すのはもちろんポケモンなんですけど。でもポケモンが出るのはこれから結構先で。3、4年後ぐらいかな? でも「こういうじっくり遊ぶRPGみたいなゲームをゲームボーイで出すのもありだよね」ってこと自体が浸透していって。それでいろいろ出たという感じになりますね。

(宇多丸)そうか。パワードスーツとか出てくるんだね。

(宇内梨沙)たしかに。私も初めてのRPGはゲームボーイだったので。『テリーのワンダーランド』とか。あと、ポケモンそうですし。『真・女神転生デビルチルドレン』とか、その辺を……。

(宇多丸)子供にとっては、持ち歩けた方がずっとできるじゃん? うちのメインTVをさ、占拠できないっていう問題があって。

(宇内梨沙)そうなんですよ。ずっとベッドの中でピコピコピコピコ、やっていました。

(渡辺範明)だからこの間のウォークマンの話と一緒で、パーソナル用のゲーム機っていう側面がこれで生まれたってことですよね。携帯っていうことは別に。

(宇多丸)さあ、ということで後編に行ってみましょう。スーパーファミコン時代のロマンシング サ・ガ。

Amazon APIのアクセスキーもしくはシークレットキーもしくはトラッキングIDが設定されていません。「Cocoon設定」の「API」タブから入力してください。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました