渡辺範明『魔界塔士Sa・Ga』とSa・Ga三部作のジャンクな魅力を語る

渡辺範明『魔界塔士Sa・Ga』とSa・Ga三部作のジャンクな魅力を語る アフター6ジャンクション

渡辺範明さんが2024年7月10日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でゲームボーイで発売されたRPG『魔界塔士Sa・Ga』とそこから続くSa・Ga三部作についてトーク。そのジャンクでフラットな世界観の魅力を宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

(宇多丸)ということで、主に最初はメインはドラクエ、ファイナルファンタジーを中心にやっていって。そこから女神転生とか、ポケモンとかいろいろありましたけども。今回はサガシリーズということで。これ、ついにというか。もう我々、全く……名前しかわからない。

(渡辺範明)サガシリーズって今回、「特集をやります」ってなった時に。「ついにサガ来ましたか!」ってなる人と、全くピンと来ていない人と、すごいわかれるんですよ。で、これがなんでかな?っていうのを改めて考えたんですけど今回、そのサガの歴史を僕がもう1回、自分の中で整理してみたら「ああ、これはしょうがないわ」っていう風になって。サガってある時期、すごい集中的にタイトルが出て。

その時はもう本当にドラクエ、FFに次ぐ第3のJRPGシリーズだったんですよ。その時は。でも、ある時期からパタッと新作が出なくなって。新作が出てない期間が10数年続くみたいな。リメイクとかはあったんですけど。なんで、その世代・ピークを外しちゃうと、「なんか昔のゲームだよね」みたいな風に思ってる人も結構いるっていう感じで。でも実際は今もシリーズが続いていて。

(宇多丸)最新作がね、4月に出て。

(渡辺範明)そう。4月に出てます。

(宇多丸)『エメラルド ビヨンド』が出てますね。

(渡辺範明)で、今回はサガも歴史が長いんで。初代のゲームボーイで出たサガ三部作。無印のやつですね。あと、スーパーファミコンで出たロマンシング サ・ガ三部作。この6作品の話を中心にしたいと思います。

(宇多丸)既にね、「ああ、ゲームボーイなんだ」っていう。そこがちょっとポイントかもしれないですよね。というあたりで、行ってみましょうか。サガシリーズ自体について、まずは大まかな解説をお願いいたします。サガシリーズとは?

サガシリーズの概要

(渡辺範明)サガはですね、まず一番最初に1989年にゲームボーイで出ました『魔界塔士Sa・Ga』という作品からスタートしたRPGシリーズです。今で言うスクウェア・エニックス。当時のスクウェアから発売したゲームですね。で、これが当時の攻略本なんですけど。今回、サガを取り上げる理由のひとつでもあるんですが。ドラクエとFFを今まで、この国産RPGクロニクルの中では対比して。割と正反対のアプローチだよっていう風に紹介してきましたけど。でも、もっと俯瞰してみるとドラクエとFFってどちらも「ストーリーテリング型のRPGだ」って意味ではかなり同じ括りに入るんですよ。

(宇多丸)ストーリーテリング型?

(渡辺範明)つまり、小説を読むかのように物語を読み進めていく感じのRPGっていう。

(宇多丸)元々ある物語をゲームを進めながら味わっていく。

(渡辺範明)そう。で、「あそこの展開、すごく感動したな」とか「あのキャラクター、好きだな」とかっていうことを味わっていくって意味では、ドラクエとFFは割と近い括りに入るんですね。

(宇多丸)ゲームをやった人がその話をして、お互い同じ話をしやすいっていう。

(渡辺範明)そうですね。共通の話ができるっていう。だから体験性が保証されてるっていう特徴があるんですけども。でも、RPGってそうじゃないRPGも今も全然あるじゃないですか。

(宇多丸)というか本来、TRPGとかって、プレイヤーそれぞれに全員違う体験するものですよね?

(渡辺範明)そうです、そうです。で、そういう感じのものを「ナラティブ体験型」という風に今回、一応仮に呼ぶとするとサガはそっちに入るんですよね。

(宇多丸)へー!

(渡辺範明)なんで「世界だけ用意しておきましたんで、あとはプレイヤーが自由に遊んでください。旅とかしてくださいね」っていうスタイルのゲームとしてはかなり早い時期のもので。

(宇多丸)これってだって本当はさ、スペックが……ビデオゲームでやろうとするなら、スペックがかなりいりそうな話ですよね。

(渡辺範明)そうなんですよ。だから今や『バルダーズ・ゲート』とかって完全にそういうスタイルですけど。それを何十年も前にある意味、実現していったっていうことで。今のこのオープンワールドタイプとか、あとはゼルダとかでも『ブレス オブ ザ ワイルド』以降はそういうスタイルにどんどん行っているんで。

(宇多丸)まあ、自由度が高いっていうかね、体験性が広がってますよね。

(渡辺範明)だからそういう思想の先取りをしているシリーズということで。

(宇多丸)89年に、しかもゲームボーイで?

(渡辺範明)そうなんですよ。まあ、徐々にですけどね。というなことで、それが重要ですよということを最初にご説明しておくのと。あと、さっきの「タイトルが出ない時期が結構あった」っていうことで。ざっとサガ全体の歴史を俯瞰しますと、まずですね、最初にゲームボーイで1989年にスタートした無印サガの三部作がありました。この頃はね、もうほとんど毎年のように新作が出てるんですよ。で、その後、スーパーファミコンでロマンシング サ・ガの三部作が出た。で、こういう風にハードを移す時にタイトル自体が変わるっていうのがサガのシリーズの特徴で。たとえば今まで、ドラクエは世界観が全部だいたい共通したものがあって。モンスターも同じようなものが出てくるし。雰囲気もだいたい同じですという。で、FFは毎作毎作、結構変わりますよと。で、それに対してサガはハードごとに変わるっていうのが特殊なところですね。

で、無印のサガ。それからスーパーファミコンのロマンシング サ・ガ。そしてプレイステーションではサガ フロンティアが2作品、出た。で、プレイステーション2でアンリミテッド:サガっていうのが出ます。で、これが2002年なんですけど。ここからですね、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング』という割と名作とされるもの。ロマサガ1のリメイク作品ですね。そういうのを挟むんですけども。リメイクとか移植とかがいろいろあって。それでなんと2016年のPlayStation Vitaでデータを『サガ スカーレット グレイス』っていうところまで、2002年から2016年まで14年間、新作が出ないっていう状態で。だからたぶん宇多丸さん、宇内さんがゲームをいっぱいやるようになった時期って、2000年代なんで。

(宇多丸)たしかに。一番の空白!

(渡辺範明)サガがいなかった時期なんですよ。なので、この時期にゲームを始めた人たちからすると、すごいピンとこないっていうか。「ちょっと前に売れてたゲーム」みたいな。

(宇多丸)目にしているのはサガ フロンティアとかなんですね。僕とかは。

(渡辺範明)まあ、そうですね。プレステ時代なんで。で、その『サガ スカーレット グレイス』が2016年で。そこからさらに8年間開いて2024年の今年、『サガ エメラルド ビヨンド』っていう8年ぶりの完全新作が出たって形なんで。

(宇多丸)ファンはたまらないね。

(渡辺範明)今となってはもうかなり寡作なシリーズという感じになりまして。間にPCのブラウザゲームの『インペリアル サガ』っていうのとかですね、スマホアプリで『ロマンシング サガ リ・ユニバース』というのが出てて。これは今も運営が続いてて、かなりお客さんもいて売れているタイトルなので。そういう意味ではサガは今、ちょっとまた元気出てきたねって感じがあるんですけど。ある時期、すごい空白だったっていうのも事実ですね。全体感としては、そんな感じです。あと、主要なスタッフですけれども。ディレクター・プロデューサーとしても完全にキーマンになってるのが河津秋敏さんという方で。

これはサガシリーズにおいてはファンから「河津神」と呼ばれていて。もう全てを取り仕切っている、作品的にもプロデュース的にもずっと1人のクリエイターが全体を仕切っているので。ファイナルファンタジーとかもどんどんクリエイターは変わってますけど。どちらかというと、ドラクエにおける堀井雄二さんみたいな感じでミスターサガは河津さん。で、プロデューサーに関しては市川雅統さんっていう方に移ってるんですけど。でも相変わらず河津さんと市川さんのタッグでやってるって感じですね。で、あとイラストがですね、小林智美さんという方がやられていて。この方、ゲームボーイのサガ時代には参加してなくて。スーパーファミコンのロマサガ時代から参加されてるんですけど。

(宇多丸)まあ、後から話をするでしょうけど。ここから急にビジュアルがグッとあか抜けましたもんね。

(宇内梨沙)女性の方が描いている、少女漫画風だなっていう美しさがあるから。

(渡辺範明)そうなんですよね。だからすごい、このイラストってだからドラクエで言うところの鳥山明さんとか、FFにおける天野喜孝さんのポジションなんですけど。でも、なんかね、すごく耽美なんですけど温かみもある作風で。なんならこっちの方が一般的に受け入れられやすいのではという感じすらする……。

(宇多丸)いや、すごく美麗です。

(渡辺範明)すごくいいんですよね。で、この小林さんがシリーズの顔になっていて。

(宇多丸)ちょっと和な感じもあって。

(渡辺範明)そう。独特なね、キャラクターデザインセンスもすごくいいんですよね。

(宇多丸)へー。全然違うなー。

(渡辺範明)初期のサガとは全然違うんです(笑)。で、シリーズのもうひとつ、顔をなってる方がサウンド面で、伊藤賢治さんっていうゲーム音楽のコンポーザー、作曲家の方がいて。「イトケンさん」と呼ばれてるんですけど。イトケンさんがゲームボーイのサガ2から参加していて。この方もドラクエで言うところのすぎやまこういち先生とか、FFでいうところの植松伸夫さんとかに当たる、サガシリーズを象徴する作曲家ですね。すごくメロディーの立った曲が特徴なので、すごく耳に残るんですよね。で、バトル曲がすごくかっこいいということで、バトル曲のファンが多いというのも特徴です。この辺の方が割と、主要メンバーをあまり変えずにずっと作っているので。まあサガの味っていうのは割とこのクリエイターに依存してるところが強いっていうか。ゲームの中身はかなり変わってる、変遷してるんですが、この人たちの作るものが要はサガだなっていう感じのシリーズです。

同じクリエイターが作り上げてきたサガシリーズ

(宇多丸)というのが概要としてのサガシリーズでございます。では、ゲームボーイ時代とスーファミ時代、二つに分けてお送りします。まずは前編、ゲームボーイ時代。その無印って言うんですか? ただのサガ三部作。

(渡辺範明)はい。ゲームボーイ時代のサガ三部作は、僕の個人的な捉え方としては「ジャンクでフラット」というのがこの時代のキーワードだと思うんですけど。

(宇多丸)ジャンクでフラット?

(渡辺範明)ジャンクっていうのは、つまりジャンクフードみたいな意味でのジャンクなんですけど。このサガはですね、要はドラクエとかFFがある程度、JRPGの基礎を作った後に登場したタイトルなので。

(宇多丸)89年だから結構経ってますよね。

(渡辺範明)だからもうドラクエブームとかの後なんですよ。なので、かなりひねっていて。正統派のファンタジーRPGみたいなものにはみんな、ちょっと飽きているという状態のところに、むちゃくちゃごちゃまぜでファンタジーもSFも、いろんなものが入っていてっていう感じの世界観なんですよね。これがサガ1のパッケージなんですけども。主人公がもう『マッドマックス』みたいな肩パッドをしていて。

(宇多丸)そうね。『マッドマックス』が後に『北斗の拳』とかにも流用されるような肩パッド革ジャン風のムキムキ主人公が。

(渡辺範明)で、ハチマキみたいなのをつけていて。

(宇多丸)あと、ちょっとバズーカとかを持ってるから、たぶんこれはシュワちゃん的な、ドッカンドッカン80’sな。

(渡辺範明)『コマンドー』的なやつとか。

(宇多丸)あと、片手にチェーンソーを。

(渡辺範明)ああ、これは大事ですね。

(宇多丸)これさ、ファンタジー世界にチェーンソーってつまり、『死霊のはらわた』のアッシュじゃないかなと思って。

(渡辺範明)『死霊のはらわた』ってファンタジーですか?

(宇多丸)ファンタジーっていうか、でも主人公のアッシュが最後、チェーンソーを手にくっつけて戦うっていう。で、3はさらにもっと後だけど。もうちょっとファンタジー世界的な中にこういうチェーンソーがあるみたいなのはこれ、すげえ『死霊のはらわた』だと思います。

(渡辺範明)ああ、そうなんだよ。僕、このサガ1のビジュアルに関して、僕らの中だとこのビジュアルって「サガっぽい」っていう風に……当時、僕は小学生だったんで。「サガっぽさ」っていうのでずっと記憶してたんですよ。

「サガっぽい」感覚

(渡辺範明)で、大人になって今、見ると「ああ、これってここが『マッドマックス』で……」みたいな。

(宇多丸)いろいろ入っていると思います。その後ろに龍、ドラゴンがいて……みたいな。

(渡辺範明)だからある意味、この89年のいろんなその時の文化的な流行ってるものっていうのをミックスした感じのものだなと思いますね。

(宇多丸)だから『死霊のはらわた』も入っているし。しかも、なんというかこの絵の感じも含めて、これはいい意味で言ってるんですけど。すげえパチもんっぽいっていうか。駄菓子屋のインチキキャラ、いるじゃん? ああいう感じ。

(渡辺範明)そうなんです。そういうパチもん、インチキって感じもうちょっと僕なりに言うとジャンクっていうことなんです。ジャンクフードなんで。その良さなんですよ。だから本当、駄菓子的な良さですよ。で、この駄菓子的な良さっていうのになぜ、行きついたのかというと、これも想像ですけど。でも少なくともこのサガが作られるっていうことになった時に発表がされて。僕らが当時、小学校の時に一番びっくりしたことは「えっ、ゲームボーイでRPGが出るの?」っていう、ここだったんですよ。

(宇多丸)そうでしょうね。

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