渡辺範明さんが2022年4月15日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション4時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ファイナルファンタジー15』について宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。
(宇多丸)という、ドロッセルマイヤーズ渡辺範明さんとともにお送りしているこちらの特集。ついにひとまず、大団円でございます。その名も「国際RPGクロニクル・ドラゴンクエストとファイナルファンタジー完結編」。日本製のロールプレイングゲーム、いわゆるJRPGの歴史や意義についてドラゴンクエスト。そしてファイナルファンタジーという皆さんご存知、国内二大巨頭を比較していく大人気シリーズです。
(宇内梨沙)渡辺範明さんは1978年生まれ。元スクウェア・エニックス所属のゲームデザイナーでゲームプロデューサーをされてきました。そして現在はボードゲームメーカー、ドロッセルマイヤーズ代表を務められています。
(宇多丸)ちなみに私、JRPG全くの弱者。年齢の割には全く通ってきてない人間ですが、そんなことは関係なく、ある種の企業史、企業大河史としても面白いし。日本現代ゲーム史の流れとしても本当に面白く拝聴いたしました。スピンオフ編も含めて本当に最高のシリーズでございます。ということで国産RPGクロニクル、第1回をお送りしたのが2020年7月でした。ファミコン時代の初代ドラゴンクエストと初代ファイナルファンタジーを比較し、それから5回にわたってお送りしてきました。ということで完結編。改めてざっくり、おさらいしておきましょうか。
(渡辺範明)はい。ドラゴンクエストとファイナルファンタジーは元々、エニックスとスクウェアという2つの会社から出てまして。この2つが後に合併してスクウェア・エニックスという同じ会社になってしまうんですけれども。この合併の前後を通じてずっと、日本のRPGの代表的ゲームシリーズ2本でありながら、ドラクエの方は非常にどっしりとした王道の作りで。
いわば、ちょっとおっさん的な、ちょっとダサみもありつつ非常に安定感があるというゲームのシリーズで。対して、ファイナルファンタジーの方は非常に挑戦的な作りで。毎回中身もガラッと変えていくし、ちょっと作りに不安定なところはあっても、その分そこのところはスリリングで面白いみたいな。言わば、イキっているというか、気合が入ってる若者みたいな、そういう感じのキャラクターのシリーズですよということを今までご説明してきました。
(宇多丸)非常にわかりやすいですね。
(渡辺範明)それで前回のPS3&ニンテンドーDS編はそのドラクエとFFがずっといろいろくっついたり離れたりしながら、いろいろライバル関係で続いてきた中で一番距離がある意味離れていて。同じハードじゃなくて別ハードに……ドラクエの方はニンテンドーDSという携帯機。非常にコンパクトで遊びやすい内容で。逆にファイナルファンタジー13の方はPS3で。まさにその大作路線で。ストーリーラインをひたすら見せていくようなスタイルの、究極の一本道RPGみたいな、そういうゲームだったよということで。そういう対比でお話をしました。
(宇多丸)それが前回の2月17日でございました。そして……ということですよね。
(宇内梨沙)今夜比較するのは2015年発売の『ファイナルファンタジー15』。そして2017年発売の『ドラゴンクエスト11』。オンラインRPGとなったドラゴンクエスト10とファイナルファンタジー14はこの特集のシリーズの性格上、割愛させていただきます。
(宇多丸)またちょっとこれは別腹ということで。
(渡辺範明)そうですね。これの話をしだすと、まためちゃくちゃ長くなっちゃうんで。オンラインゲーム編はまたいつかできたらなと思っています。
(宇多丸)両方ともね、大量の廃人を生み出したことでも知られる……。
(渡辺範明)そうですね。
(宇多丸)まあ、ちょっとそれは置いておいて……ということです。ということで『ドラゴンクエスト11』と『ファイナルファンタジー15』。どちらも今のところの最新作。この二作の比較というのをすると、どうでしょうか?
(渡辺範明)そうですね。この2つは久々に同じハードで発売しまして。そういう意味ではPS4という同じ土俵の中で、しかも両方ともたまたまかもしれないですけど。「国を失った王子が主人公」という意味で共通のモチーフを持ってるんですよね。
(宇多丸)前回はすごく離れちゃったのに対して、今回は通じるところが……。
(渡辺範明)共通のところもある。だけど同じモチーフを使っていながらも、こんなにも全然料理の仕方で違ってくるのかっていうのが今回のお話になるという感じですね。
(中略)
(宇多丸)さあ、ということでまずは2015年発売の『ファイナルファンタジー15』の方から解説をお願いしたいと思います。渡辺さん、よろしく!
(渡辺範明)はい。前回ですね、PS3編の時に『FF13』のお話をしたんですが。そこから直接繋がるところもありまして。ご存知、「ファブラ ノヴァ クリスタリス」っていう話が前回あったんですけど。
(宇多丸)もう何が何やらっていう。
(渡辺範明)全世界困惑した、「『FF13』を同時に3本開発します」という宣言ですね。これがファブラ ノヴァ クリスタリスだったんですけど。この3本というのが無印『FF13』。これは2006年の発表から2009年に発売されて。まあまあ順調に出たという感じですね。で、次に『ファイナルファンタジー アギトXIII』というのがあって。これはタイトルとかゲームハードとかを変えたんだけれども、ファイナルファンタジー零式』というタイトルでなんとか発売しました。ここまではまよかったんですけど、もう1本。『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』っていうのがありまして。これがですね、なんか黒い服の黒い髪の男の子が主役で。割と期待値も高かったんですけど、ずっと音沙汰がなくてね。
『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』って本当に出るのかな?ってみんな思ってたんですよ。そう思っていたところ、2006年の発表から7年が経った2013年のE3。海外でのゲームの見本市、E3でようやくもう1回、発表のデモムービーが流れまして。そこでですね、その主人公ノクティスがちゃんとストーリーに沿って戦ったりとか、いろいろ語りが入ったりとかするものを……「おお、結構ゲーム、完成してるんじゃないの?」っていう感じのムービーが久々に流れたんですよね。
で、「おお、『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』、本当に出るんじゃん!」ってなって。そのムービーの最後にですね、ファイナルファンタジーヴェルサス13っていうロゴが出て。ここに登場人物のナレーションがかぶさって。「ヴェルサス(Versus)」っていうことなんで「これが、対になる幻想」って言ったんですよ。「Versus=対」っていうことなんで。「対になる幻想」って言ったら、そこに主人公ノクティスの声が入ってきて。「いや、世界は常に変化する」って言って。それでこのファイナルファンタジーヴェルサス13のロゴがパリーン!って割れて。その割れたロゴの欠片がギュイーンってまた集まって『ファイナルファンタジー15』って……(笑)。
(宇内梨沙)アハハハハハハハハッ! 最高!(笑)。
(渡辺範明)という、最高の演出が流れて。で、ノクティスが「15番目だ!」って言って。
(宇内梨沙)超かっこいいじゃーん!(笑)。
(渡辺範明)これでもう世界中がズコーッ!って(笑)。
「世界は常に変化する……15番目だ」
(宇多丸)これ、でも宇内さん的には「これこれ!」っていう?
(宇内梨沙)いや、私はその演出は見てないんですけども。でも今、その話を聞いて「最高にかっこいい!」って思いました(笑)。「スライドのさせ方、最高!」って(笑)。
(宇多丸)案の定、その期待を予想の斜め上で裏切ってくれる感じっていうか。
(宇内梨沙)でも、覚えてますよ。「13じゃなくて15になるんかーい!」っていうのは覚えてる(笑)。
(渡辺範明)だから「ズコーッ!」と「うおおーっ!」っていうのが同時に来たわけです。この「ズコーッ!」と「うおおーっ!」を同時にさせるっていうのはなかなか難しいことじゃないですか(笑)。まあ、「いい加減ちょっと開発に時間がかかりすぎちゃったんで。もうこれ、15ってことにします」っていう宣言をこんなにスタイリッシュにしてくれるタイトルってやっぱりなかなかないんで。
(宇内梨沙)堂々としていてかっこいいですね。
(渡辺範明)この時から、『FF15』の歴史がもう1回、始まったわけです。
(宇多丸)じゃあある意味、13とフェードっていうか……。
(渡辺範明)そうですね。繋がってるんですね。で、15がそれで2013年に「ああ、ようやく15として出るんだ」って思って。それで実際に発売したのはさらに3年後の2016年ということで。全然、その後もまた時間がかかっちゃってるんですけど。じゃあ、実際に発売した15がどんなゲームだったかというと、その主人公のノクティスという青年がですね、王子なんですよね。なんか割と時代設定としては車もあるし、ビルとかも建ち並んでいて。ほぼ現在の我々の住んでる世界に近いような技術感の世界なんですけど。そんな世界の中、主人公たちのいるルシス王国という国にはクリスタルの力、魔法の力で守られてるという設定で。なんかビジュアル的にはね、ノクティスの住んでいる町の王宮って、新宿都庁の形してるんですよ。だからほぼ新宿かな? 日本かな? みたいな感じの町並みなんですけど。
で、そのルシス王国っていうのはそんなにデカい国じゃないんですよね。だけどクリスタルの力で守られていて、鉄壁のガードって感じなんですけど。そこに、もっと大国の帝国があって。その帝国にずっと脅かされてるんですよ。攻められて。なんというか、ロシアとウクライナみたいな、そういう感じの位置関係にあって。で、長い歴史の中で戦いがずっと続いちゃってるから、そろそろ和平をしたいということになって。まあ非常に悪い条件であるんだけども、ルシス王国は首都以外の領土は帝国に明け渡すから、国の存続と首都だけは守らせてくれという約束をして和平を結ぶことになるんですよ。で、その和平の証明としてノクティスは結婚をすることになって。その帝国の傘下のある国のお姫様とノクティスが結婚しますってことで、その結婚のための旅行に行くっていうところからゲームが始まるんですね。
で、ストーリーとしてはノクティスが旅に出たと思ったら、その本国の方では和平の調印式が行われるんですけど定刻がそこでいきなり裏切って。で、クリスタルのバリアの内側から攻めれば滅ぼせるっていうことで、調印式を口実に国の中に侵入して、国を一気に攻め滅ぼしちゃって占領しちゃうんですね。で、主人公ノクティスは結婚のために旅行に出たつもりだったんだけど、そうしていたら実家……国が滅ぼされちゃって。突然、亡国の王子になっちゃうわけですよね。で、その国を取り戻すために歴代の王様の力を各地の古墳みたいなところを巡って取り戻していって。その歴代の方の力を集めることでクリスタルの力を開放して国を取り戻すという、そういうことを目指す話なんですよね。
で、こういうストーリーのものを体験するにあたって……ちなみに僕はどういうスタンスでこのゲームの発売に臨んだかというと、当時の僕はまず、このノクティスっていう主人公のことを「感情移入できねな」と思っていたんですよ。まあビジュアルがやっぱりちょっと僕自身とかけ離れすぎていて。ちょっとホストみたいな……(笑)。
(宇多丸)でも僕の印象だと、FFって全体的にホストっぽくないですか?
(渡辺範明)そう。それの最も極まっている状態で。
(宇多丸)ホスト化極まれり(笑)。
(宇内梨沙)たぶん服装とかがこれまでのファンタジーみからますますカジュアルになっていて。
(渡辺範明)現代の服になっているっていうのもあるし。しかも、このノクティスは4人組で、仲間たちと旅してるんですけど。その仲間たちはノクティス、王子の護衛のためについている仲間たちなんですけど。彼らも非常になんていうか、ちょっと露出度の高い黒い服をみんな、揃いで着てるんで。
(宇多丸)これはもう完全に歌舞伎町に実在する……。
(渡辺範明)歌舞伎町のホストたちが4人で……しかも、新宿の町が舞台だし。それで、オープンカーで旅に出て、魔物を倒したりとかしながら、キャンプしたりとかしてキャッキャするっていう。
(宇内梨沙)男たち4人がキャッキャするんですよ。
(宇多丸)そういったのが好きな人はね……。
(宇内梨沙)もう、たまらんですよ(笑)。
ホスト風の男たち4人がキャッキャする
(渡辺範明)そういう風に見えてたんですよ。で、実際そういうゲームでもあるんですよ。なんですけど……なんかちょっとこいつ、さすがに感情移入できねえな。せめて、課金とかで髪型だけでも……1000円出すからボウズにさせてくれませんか?って。
(宇内梨沙)ワックスでしっかり固めてきました、みたいな髪型ですからね(笑)。
(渡辺範明)そういう風に友達とずっと言ってたんですよ。「ボウズにさせてくれればやるから」みたいな。だったんですけど、ところがですね、この15の発売の時に同時に映画版が公開されまして。これがキングスグレイブ 『ファイナルファンタジー15』っていうやつなんですけど。これがですね、さっきの実家が帝国に攻め落とされる時。ノクティスが旅立った後の1日、2日の戦いを描いた映画なんですよ。
(宇多丸)おお、絶望的な状況の。
(渡辺範明)で、この映画は主人公はノクティスよりも上のパパたちの世代なんですね。で、パパたちがいかにこの国を守って戦って志半ばで敗れ、そして未来をノクティスたちに託したかということがこれを見るとまず、わかるんです。そうすると、ゲームを始める時点でもうノクティスに対してこう、「これは俺じゃないな」と思いつつも、もう父親的な目線で。なんか旅立つ息子を見るみたいな。「あとは息子、頑張ってくれ!」みたいな気持ちにちゃんとなれて。
で、そうやって見るとですね、この『FF15』っていうゲーム全体は、その仲間たち4人で旅するゲームなんですけど。いわば王子ノクティスのはじめてのおつかいっていう感じのゲームに突然、テイストが変わるんですよね。ノクティスってやっぱり王子だし、すごい箱入り息子なんで。今まで王室の中で育てられてきたんですけど。初めてこれが社会に触れる、世界に触れる旅なんですよ。だから、なんていうかちょっと本人も浮き足立っていて。皆さんも経験あると思うんですけど。実家を出て、親元離れて初めて一人暮らしする時とか。あるいは友達と子供だけで初めて旅行に行く時とか。そういう時に浮き足立つじゃないですか。
あの感じのムードで始まるから、「ちょっとこいつ、大丈夫かな? 俺、好きになれるかな?」って思ってるんだけど。これがそれで旅立ったと思ったら実家が大変なことになって。それで突然重い使命を負わされて。それを仲間たちとなんとか乗り越えていくっていうのを父親的な目線で眺めていると、途端にノクティスがなんかすごく愛おしく思えるんですよ。
で、ちょっとこれ、『FF15』のそのストーリー的な……特に一番後半の方のストーリーに関わる話になるんで。ちょっとそれが気になる方はここだけ、気をつけていただければと思うんですけども。
(宇多丸)ネタバレが……。
(渡辺範明)思いっきりネタバレしますけども。このノクティスという主人公はこの『FF15』のストーリーの中で最終的には死亡するんですよ。
(宇多丸)あらま!
(渡辺範明)ただ、僕が今、この話をしてるのは、この話をすることによってゲームの体験が損なわれるというよりは、むしろこのことを知っててやった方がこの15はちゃんと味わえると思っているというところもあるからなんですけど。つまり、僕がこの『FF15』について感じているのは、このノクティスという主人公の旅路を描いたゲームなんだけれども、この旅路っていうのはいわば青春のロードムービーなんですよね。で、その青春の旅っていうのが初めて家を出て、外の世界に自分の物語を初めて歩み出すという主人公。
その主人公がしかもこの旅の終わりには死んでしまうわけだから、実質この旅こそがノクティスにとっての人生なんですよ。自分の人生。で、その人生を共に歩んでくれる信頼できる仲間たちと、その旅の中でのいろいろ大変なこととか苦しいこともあるけど、喜びもある。それを一緒に追体験していくっていうゲームなんですよね。なので『FF15』っていうのはとにかく旅のゲームです。そして青春ドラマを描いたゲームですということを先にまずはわかってほしいです。
旅を表現することに命をかけているゲーム
(渡辺範明)そして、ちょっと技術的な面というか、中身的な面で言うと、『FF15』はそんなわけで旅っというものを表現することに命をかけているゲームなんですよ。で、たぶん15の開発陣は「旅って何だろうか? 旅の本質って何だろうか?」っていろいろ考えて。たぶん三つぐらいに落とし込んでるんですけど。まずひとつは「仲間」です。仲間っていうのはさっきのホスト4人みたいな、この愉快な4人組なんですけど。でもこの仲間たちが、実はゲーム技術的な面で言うとすごい頑張ってAIを活用して人間らしく描かれているんです。
で、実は『FF15』ってその開発上全体にすごくチャレンジングにAIを活用しているゲームでして。たとえば「メタAI」っていうのが入ってて。メタAIというのはゲーム全体をディレクションするAIなんですよ。だから敵とかがインテリジェントに考えながら動いてくれるっていうAIももちろん入ってるんだけど。それだけじゃなくて、たとえば『FF15』ってオープンワールドなんですね。で、オープンワールドなので広大なフィールドにコンテンツをくまなく配置しなきゃいけないじゃないですか。それが従来の手法だと人間が手弁当で頑張ってプランナーたちが設計してくんですけど。
『FF15』はそこをかなりAIがやってるところがあって。プレイヤーがたとえば広大なフィールドを歩いてると、広大だからそこに、たとえばプレイヤーがちょっと暇してるかなって思う時があるんですね。で、「ちょっとプレイヤーが今、退屈してるんじゃないかな?」ってAIが判断したら、そこの行く先々にアイテムを置いたりとか、モンスターを配置したりとかしてくれるんですよ。そういう形で、そのゲーム全体をドラマチックにしていく。より面白くしていくっていうAIが入ってたり。
で、同じように仲間たちも「キャラクターAI」としてAIで割とちゃんと考えながら動いていて。その結果として、たとえば4人で歩き回る時に、これはちょっと細かい話なんですけど。オープンワールドのゲームって、すごく流行ってるから世界中にいっぱいあるし。お二人もたぶんいっぱい遊んでると思うんですけど。実は仲間と一緒に旅するオープンワールドのゲームってあんまりないんですよ。基本、主人公って1人か、それからちょっとゲストキャラクターが一時的についてくるみたいなことはよくあるんですけど。
(宇多丸)場面によって一瞬、あるだけですね。
(渡辺範明)だけど4人がワチャワチャ、自然に絡み合いながら走り回るっていう描写ってほぼなくって。で、これは理由があって。たとえば僕らが4人で「あそこのサイゼに行こうぜ」ってなったら、サイゼの場所はみんな知ってるから、なんとなくワチャワチャ歩きながら行けますけど。サイゼの場所を知らない人がいたら、その人は後ろからついてくるしかないじゃないですか。で、ゲームの主人公。つまりプレイヤーが今からどこに行こうとしてるかって、プレイヤー以外は知らないんですよね。コンピュータは知らないじゃないですか。だから基本的にはドラクエみたいに後ろにゾロゾロついてくることしか、本当はできないはずなんです。でも、この『FF15』のキャラたちって自然にノクティスよりも前を歩くんです。
(宇内梨沙)たしかにそうだった。
(渡辺範明)これはどういうかっていうと、ノクティス。つまりプレイヤーがどこに行こうとしてるのか、各キャラクターが予想してちゃんと歩いているんです。
(宇多丸)へー! そんなお利口さんなの?
(渡辺範明)だから突然、方向転換したりしたら「おいっ!」ってなるんだけど。それも含めてリアルなリアクションになる。それどころか、各キャラクターにドンッてぶつかったら「おいっ! ノクティス、気をつけろよ」みたいなことを言うんですけど。まあ、そこまでは別に普通のゲームにもあるんだけど。普通のゲームのキャラクターってドンッてなって「おいっ! 気をつけろよ!」って言った後って、元に戻るじゃないですか。元の動きに戻る。で、それは結構人形っぽく見えるわけなんですけど。
でも15のキャラってドンッてぶつかられた後、しばらくノクティスのことを気にかけて、目線で追うんですね。で、しばらく時間が経ったら元のアクションに戻るんですけど。そういう風に実は各キャラクターが常に何を気にしているか、何を考えてるかっていうのが場面場面でちゃんとAIでコントロールされていて。その結果として、そのゲームプレイしてる最中で、たとえば前にも出会ったことがある敵に出会ったら、「こいつはこの間も戦ったな」とか「うわっ、またこいつかよ」みたいな。強敵に出会った時にね。それで前にピンチになったってことを覚えてるわけです。そうすると「うわっ、こいつ、しんどいんだよな」とか。あとは「ここの町、初めて来るよね」とか。そういう、実際に他の人間同士でプレーしてたら言ってくれそうなリアクションを各キャラクターがちゃんとしてくれるっていう。
で、キャンプ先ではその日にあったことについてちょっと語らったりとか。朝起きたらちゃんと挨拶したりとか。でもその挨拶もワンパターンじゃなくて、いろんなパターンがあったりとか。しかも今日の天気にも軽く触れてくれたりとか。「曇り空だな」みたいなこと言ったりするとか。そういう風にして、この1個1個は本当にどうでもいいような小さいことの積み重ねなんですけど。それによってこの仲間のキャラクターたちが割と人間にちゃんと見えるようにできてる。
で、15における物語を語る部分はここだって思ってんすよ。で、同じようにさっきの旅の要素。仲間と食事とあとは写真っていう風に思っていて。で、食事っていうのはそのキャンプ先で料理を毎晩するんですけど。その料理がめちゃくちゃグラフィックが凝っていて。これ当時、よくネットでもネタにされてたんですけど。おにぎりに使っているポリゴンが、ノクティスとかキャラクターモデルに使っているポリゴンモデルの倍以上、使ってるっていう。
(宇多丸)へー。ご飯の方が。
(渡辺範明)そう。だからご飯のグラフィックが異様に凝ってるんです。それでこれがおいしそうになるようにめちゃくちゃ試行錯誤しているんですけども。で、この食事を焚き火を囲んで毎日、ちょっと違うものを食べるっていうことに命かけてたり。
ご飯のグラフィックが異様に凝っている
(渡辺範明)あと、写真っていうのはそれも写真AIっていうのが搭載されてて。仲間のうちの1人のプロンプトっていうキャラクターが写真が趣味という設定なんですけど。で、冒険していう途中途中で自動的に写真を撮ってくれるんです。
だから今日、強敵と戦ったらその戦ってる最中の写真を撮ってあったりとか。新しい町に行ったら、そこに到着した時の写真が撮てあったりとか。それこそご飯を食べている写真を撮っていたりするんですけど。それも1個1個の写真がよりドラマチックでかつ、なんというか思い出に残る写真にちゃんと見えるように、実はAIがちょっとだけ角度を変えてたり、表情を変えたりとかして。スナップ写真として自然になるようにコントロールしてくれてるんですけど。
(宇多丸)単なるスクショじゃなくて。
(渡辺範明)スクショじゃない。スクショを自分で撮る機能は大体のゲームに今、標準装備で入ってますけど。こういう、ちょっとエモみのある写真を自動的に撮ってくれることによって、やっぱり旅って後から思い返すことによって思い出として完結するっていうところがあるじゃないですか。旅としての体験が強化されるわけなんですけど。こういう仲間のAIとか食事に妙に凝るとか、写真に妙に凝るとかっていうところが当時、どれもちょっとなんかネットで若干、茶化され気味な仕様ではあったんですけど。「そこを頑張るの?」みたいな感じだったんですけど。実は、こういうことを全部トータルに合わせて、旅の実感とかリアリティーかをどうやって高めていくかってことによって、「ここが物語なんだ」っていう風にしてるんですよね。
(宇多丸)なるほど。
(渡辺範明)つまり今、国産RPGクロニクルの文脈で言うと、RPGっていうのは全部が全部、実は旅の物語なんですよ。究極、言ってしまえば。なんですけど、その旅の物語っていうので今まで物語の語り口としてあったのは、基本的にはたとえば目的地に着いて、ボスと戦闘する前になんかあれこれドラマ的なやりとりがあったりとか。ムービーシーンが流れたりとか。重要なNPCに出会った時になんかお話があったりとかして。基本的にはそういう会話のダイアログの中に物語があり、それとそれの間を繋いでいる本当の旅路の部分。ゲームの99%を占めているこの旅路の部分っていうのは、なんていうか時間を引き延ばしているだけの過程でしかないというところがあったんですけど。
『FF15』における物語の本質というのは、この日常の「今日、朝起きて。仲間とこういう会話して。○○に行って、こういう体験をした」っていう、この仲間との体験の積み重ね自体が物語だという考え方で作られてるんですよ。だからそれって、そのゲームにおける物語の語り口自体をもう1回、見直そうという試みであって。それはもちろん、まだ始めたばっかりのことなんで十二分にその効果を発揮してきているかどうかは、僕のようにノクティスにちょっと父親的な思い入れを持って。「こいつ、なんて愛おしいんだ」と思って遊んでいる人と、そうでない人との間ではちょっと乖離があるかもしれないけど。でも僕はこれは非常にゲームの1個の発展の道筋として海外のオープンワールドゲームでもあんまり試されていない、なんか1個の未来を示してるんじゃないかなと思ってるんですよね。
(宇多丸)なんかお話を伺ってたら『レッド・デッド・リデンプション 2』がやろうとしてたことがちょっと近いかもしれない。
(渡辺範明)そうなんです。そうだと思います。
(宇多丸)だいぶゲームの見た目は違うけど。
(渡辺範明)ルックは全然違うけど、思想で言うと一番近いのはロックスターのあのへん。
(宇多丸)で、さっきのAIで仲間4人のワチャワチャの動きとか、たしかにそんなの他にないなって。これ、宇内さん、プレイした実感としてもありますか?
(宇内梨沙)ああ、でもその時は全く「これ、すごい」って気づかなかったですね。今、聞いて「ああ、たしかに前を自然に他の仲間が歩いていたな」って。
(宇多丸)ちょっとそれを確認するためだけにもう1回、やってみたいぐらいですよね。
(宇内梨沙)ただ、やっぱりオープンワールドとFFらしいドラマチックさって、当時ちょっと相性が悪いなっていうのは感じていたんですけども。やっぱりとロードムービーをやればやるほど、物語ってどんどん間延びしていっちゃうじゃないですか。そのへん、渡辺さんはどのようにお考えですか?
(渡辺範明)それはおっしゃる通りで。僕はだから『FF15』の本質はその部分にあると思ってるから。なんならムービーシーンはそんなに大事じゃないと思っているんです。で、みんなで仲間同士で旅してて。その時間の積み重ねが、でも限りあるノクティスの人生とか青春とかっていうものを描いてるって思うと、そのこと自体がすごく胸にくるものがあるんですけど。ただ、たしかにおっしゃる通りFFらしい、大上段に構えた全体的な、もっといわゆるドラマチックなストーリーっていうのは、それはそれであるわけですよね。特に後半に行くに従ってそれの色合いが強くなっていって。
で、実はオープンワールドじゃない部分のゲーム進行がすごく多くなっていったりとかして。なんか、たしかにそこの組み合わせでうまくいってないところもあるんですよ。全体的にアンバランスなゲームであることは否めないんですけど。だからそこのところに注目する場合と、さっきのチャレンジングな部分に注目する場合でたぶん15の評価は結構分かれちゃう。
(宇多丸)とはいえ、みんなが期待するFFらしさではないとこを狙ってくるところこそが……。
(渡辺範明)そう! そこがFFらしいっていう(笑)。だからいわば、前回の13はみんなが思うFFらしさにより近いわけですよね。「みんながほしいFFって、これでしょう?」っていう感じだったんですけど。今回の15はそれとは全然違うことを目指していて・で、結果的にこれ、主題歌がね、『Stand by Me』なんですよね。
(宇多丸)これは……どうなのよ?(笑)。
(渡辺範明)いや、これはね、僕も最初にこれ、オープニングで『Stand by Me』が流れた時は正直、ちょっと失笑っていうか。なんかこう、すごくダサい洋楽使いをしているっていう感じに思っちゃったんですけど。でもそれもエンディングまで行って、もう1回『Stand by Me』が流れると、「ああ、本当にそういう話だったじゃん」ってなってですね。で、「『お前たちがいてくれてよかった』っていうお話だな」と思って。
納得もしちゃうし、なんならちょっと今、思い出してもちょっと「うっ……」ってなってしまうぐらい、実はね、「人生で大事なことって、これでしょう? 信頼できる仲間がいて、自分のやるべきことをちゃんとやって……」みたいなことを。だから一番大事なことが描かれているから、もうその時点でもう「ゲームはあり!」っていう風に思っちゃうようなゲームではあります。
(宇多丸)すごいね。でも『Stand by Me』を聞いて納得しちゃうって、それだけでもうどの飛距離なのかがね。
主題歌『Stand by Me』
(宇多丸)あと、やっぱりAIの技術の高度さってのは、「ああ、そうなんだ」って。
(渡辺範明)そうなんです。そっちはまだ全然、発展の余地があると思うんで。そこですごい大事なことをやってるなと思っております。
(宇多丸)ということで、ここまでが『ファイナルファンタジー15』のお話を伺ってまいりました。それに対して2017年発売、『ドラゴンクエスト11』はどうだったのでしょうか?
<書き起こしおわり>