(Naz Chris)でも、その絵が遅くなったのって、江口先生がより絵に対する思い入れが強くなってたというか。ギャグじゃなくて、うまい、いい絵を書くという?
(江口寿史)ギャグよりも絵の方になっていたからですね。だから、バーを上げすぎちゃったっていうか。そこまで上手くないんだよね。
(鳥嶋和彦)あのね、今回江口さんと話したり、もう1回、いろんな作品を見たり。江口さんに関するこういうインタビューとかを読んだりすると、一言で言うと「凝り性の飽き性」だから。圧倒的に「これ!」って思ったら、ものすごい集中力でそこに入っていくわけ。そうすると、その分、違うものに興味が行ったらコロッとそれを……。だから、その集中力がゆえのその、他のところに興味が行った時のこの江口寿史の能天気な振れるぶり。跡形もない、後を振り返らない感じ。これはね、作家としては致命的なのよ。
(Naz Chris)そうですか。
江口寿史は「凝り性の飽き性」(鳥嶋)
(鳥嶋和彦)漫画を作る、ものを作るっていうのはね、ある種、地道な農耕作業みたいなもんで。コツコツやんなきゃいけない。まさにちば先生がそうだから。
(江口寿史)コツコツ。
(Naz Chris)でも、それを編集者さんがコントロールしていけばいいのかなと。
(鳥嶋和彦)でも最初から編集をバカにして、寄せつけなかったから。担当編集がいないわけですよ。いるけど、原稿を入れる係で。江口さんの担当じゃないわけ。
(Naz Chris)なるほど。
(鳥嶋和彦)だから江口さんをずっと見ている人がいないわけ。たとえば僕だったら、鳥山さんがこういう状況だったら……ずっと最初から一緒だから。「ああ、こういうことなんだな」ってわかるから。「じゃあ、こうやろう」とかね、手も打てるし。方法論もあるわけ。でも江口さんは編集を寄せつけない人だったら。
(江口寿史)策士がいない。
(Naz Chris)でもその一方で、やっぱりちば先生にとっても江口先生の書く女性は格別に美しいっていう。その質感であったりとか、柔らかい感じっていうのはどういう風に……こんなに筆で表現できるのかっていうのはちば先生からも聞かれたと思うんですけど。その女性を書くって、やっぱり今、江口先生といえばかわいい女の子を書くっていう。
(鳥嶋和彦)いや、でもね、逆に言うとね、たしかに上手いんだけど。それが江口さんを苦しめたし。江口の幅を狭めた。
(Naz Chris)いや、そうとも言い切れないじゃないですか? それは「漫画家として」ってことですか?
<書き起こしおわり>