(Naz Chris)江口先生がちば先生と対談されいてる中で、雨のシーンの話が好きで。
(江口寿史)そうなんですよ。あれはね絶対に梶原さんは書かない。書いてないと思いますよ。ちばさんって、ブレークで雨のシーンをよく入れるんですよ。それで雨って、書くのがすごい面倒くさいの。
(鳥嶋和彦)面倒くさい。漫画でもアニメでも、雨のシーンはタブーだからね。
(Naz Chris)なんで面倒くさいんですか?
(江口寿史)だって単に線が多くなるし。
(鳥嶋和彦)コートも書かなきゃいけないし。
(江口寿史)ちばさんの場合は地面も濡れたように書くんですよね。光が濡れた歩道に映っていたりとか。その情感が……ストーリーにならない情感とかを初めて漫画で書いた人じゃないかなって。
(鳥嶋和彦)そうだね。雨が降った地面とか、いわゆる小路とか長屋風景って、ちばさんが書いてるんだよね。あれでみんな、思うんだよね。
(江口寿史)そうなんですよ。で、ご本人と対談した時にそれを言ったら本人は「ええっ? 気づかなかった」とか言ってたけど。「いや、雨のシーン、多いですから」って。
(鳥嶋和彦)あれでしょう? ジョーの幼なじみの女の子。のりちゃんも梶原さんの原作ではないっていうんですよね。
(江口寿史)ないんですね。
(Naz Chris)ああ、そうなんですか?
(鳥嶋和彦)あれ、ちばさんオリジナルなの。
(江口寿史)それで週刊誌ってやっぱり、引きをつけろとか。1週間の中で盛り上げて、次に期待させてとか、編集者は言うと思うんですよ。ただね、ちばさんあしたのジョーの中でただのりちゃんとジョーが公園で過ごすだけを書いたんですよ。1回分。これ、普通は許されないよね(笑)。ただ話してるだけなんですよ。そこがもう、すごく良かったんですね。
(鳥嶋和彦)結果、その回がラストシーンに繋がるんだよね。
(江口寿史)そうそう。「なんでこんなことやっているの?」とか言われてね。「真っ白な灰」って。あれもたぶん、オリジナルで入れたんじゃないかなと思うんだけど。
ジョーとのりちゃんの公園回
ジョーと紀ちゃん
「真っ白に燃え尽きた灰」の話も初めて出てきます。
「ついて行けそうにない…」と紀ちゃんには真に理解してもらえず、一人残されたジョーが振られたみたいに寂しそうなのがまた良い。#あしたのジョー pic.twitter.com/LRN2yg9qYv
— まゆー (@degu_mayu) March 9, 2020
@animematuri777 雨上がりの公園で二人きりになったジョーと紀子。紀子はジョーのことを思い、「ボクシングやめたら」と進言する が….#あしたのジョー #懐かしいアニメ #昭和アニメ #昔のアニメ #昭和のアニメ ♬ オリジナル楽曲 – アニメ王
(鳥嶋和彦)だからちば先生の漫画が全然、時代を超えて古びないのはキャラクター、人間をちゃんと書いてるから。
(江口寿史)人間を書いているからですね。
(鳥嶋和彦)ストーリーじゃないから。
(江口寿史)しかも、脇役にも全部、人生があるんですよね。ちばさんのは。
(鳥嶋和彦)全員に愛情があるんだよね。
(江口寿史)だから駒じゃないんですよ。全部、必然で動いてるっていうか。その人の思いで動いていて。それがぶつかり合って、ストーリーになってるっていうね。それがすごいですよね。
(Naz Chris)なんか最終回でも終わった感じじゃなくて、人生が続いていくみたいな感じが。
(鳥嶋和彦)その話を聞いていて思い出したのは、去年の9月のそのコミティアの対談でちば先生がおっしゃっていたのは、宇都宮の大学に教えに行っていた。そうすると、急行で帰ってくるんだけど、1駅が長いから、やることがない。で、何を始めたか?っていうとちっちゃいスケッチブックを持って、乗ってる人のスケッチを始めるっていう。
(江口寿史)ああ、すごいなー。それで、あれでしょう? 「おじいちゃん、なんか私のことを書いていたでしょう?」って……。
(鳥嶋和彦)いや、おばちゃん。おばちゃんを書いていたら、よその人が「あなたのことを書いてるわよ」って言って。鼻の穴を膨らませて、結構デフォルメして書いていたんだけど。「まずい」と思ってすぐ違うページに変えたっていう(笑)。
(江口寿史)まさかちばてつや先生とは思わないからね。
(Naz Chris)ちなみにお二人がちば先生の作品で一番お好きなものっていうのは、それぞれ何ですか?
(江口寿史)僕は『あしたのジョー』は別格に好きですけど。先生単体の作品で言うと、『のたり松太郎』が好き。
(鳥嶋和彦)僕が一番好きなのは、お世話になったのは『おれは鉄兵』だけど。でもね、作品として好きなのは一緒。『のたり松太郎』。
(Naz Chris)私もです! なんで、どうして? 松太郎のどこが?
(江口寿史)松太郎はだから、あれですよ。もう、それこそストーリーがない。あれはあの人たちの人生で。それで、カメラがスーッと引くような終わり方だったじゃないですか。その人たちはまだ、そこにいるみたいな。あれはね、しびれましたよね。あれはなかなかできないよなって。
(鳥嶋和彦)できないよね。打ち合わせも入れないし。でもね、何回読んでもね、いいんだよなー。
(江口寿史)あれはちばさんでないと書けない漫画ですね。
(鳥嶋和彦)田中くんがね。
(江口寿史)田中くんとかね。
(鳥嶋和彦)いい味、出しているんだよな。
ちばてつや先生にしか書けない作品『のたり松太郎』
これが「愛の奴隷」の表情だっていうんなら、愛の奴隷も悪かねえよ……
(『のたり松太郎』第33巻、p29) pic.twitter.com/4FfY84yatz— 増村十七 (@masumura17) April 30, 2021
(江口寿史)あと、競馬好きな親父とかね。みんな、いいんだよね。あと一番俺、ちばさんが怖いなと思ったのはのたり松太郎がすごい好きだった先生を嫁にしたんですよ。で、結婚した途端、すごい冷たいのね。松太郎が。うざがるのよ。それを見て「怖い!」とか思って。
(鳥嶋和彦)たしかにたしかに(笑)。そうだね!
(江口寿史)「ちばさん、恐ろしいな。でも結婚って、そういうのがあるよな」と思って。いや、本当に俺ね、震撼しましたよ。「ちばさん、怖い!」とか思って。
(鳥嶋和彦)嘘つけない人だからね。
(江口寿史)「よく書くな」って思って。
(鳥嶋和彦)そういうところ、たぶん本人は意識しないで書いているんだよね(笑)。
(江口寿史)すごいんですよ、本当に。
(Naz Chris)松太郎が私、マゲを結うまでが特に好きなんですよね。
(江口寿史)あと、すごい大学の相撲で将来を嘱望されて入ってきたやつをコロッと再起不能にするんだよね(笑)。
(鳥嶋和彦)あれはさ、「ライバル役でこの後に出てくるのかな?」って思うもんね。
(江口寿史)でも、出ないんだよね(笑)。
(鳥嶋和彦)あれは残酷なんだよ。
(江口寿史)あれ、すごい。ちば先生、すごい。だってこれから、ライバルとして来るであろうぐらいの作り込みしてるキャラですよ? それをあっさり再起不能って……。
(Naz Chris)あれって裏側を見ると、編集者さんとちば先生の間ってどういう……?
(鳥嶋和彦)ちばさんは頑固な人だから、絶対譲らない。わかりにくいところとか、指摘されれば整理するだろうけど。キャラクターとかエピソードは全く変えないと思う。
(Naz Chris)あれって20年ぐらい連載されてました?
(江口寿史)長かったですよね。
(鳥嶋和彦)それはね、今、御年84歳だと思うんだけども。17歳から連載を始めて、84歳までやってるっていう。やっぱりね、超人ですよ。
(江口寿史)すごいね。いまだに書いてるっていうのがね。
(鳥嶋和彦)素晴らしい。
(Naz Chris)でも江口先生が中学2年の時に書いた漫画は『明日に向かって突っ走るという』……。
(鳥嶋和彦)アハハハハハハハハッ!
(江口寿史)最低ですね(笑)。
(Naz Chris)ちょっと、どんな内容だったのか?っていうのを……。
(江口寿史)僕は単にもうね、ボクシングシーンだけ書いてたんですよ。楽しいところだけね。
(鳥嶋和彦)ボクシングシーンを書きたかったわけだ。
(江口寿史)そうそう。でも、それだけじゃ漫画ってダメだから。だから、そういうことばっかり中学校の時は、ボクシングシーンとか美味しいシーンばっかり書いて終わりみたいな。
(鳥嶋和彦)じゃあこの頃は人に見せたり、投稿したりとか、そういうことはしなかった?
(江口寿史)俺、漫画を書いてるって人に言うのが恥ずかしくて、言ってなかったですね。
(鳥嶋和彦)どこかで聞いたことがある話じゃない? 漫画を書いていて、見せてなかったっていう。
(江口寿史)恥ずかしいですよね。
(Naz Chris)恥ずかしかったですね。というか、1回見せて反応がなかったから、もう恥ずかしくなっちゃったんですね。次から。
(江口寿史)ただ、いとことかには見せていて。それで、いとこがまた誰かに見せたらしくて。俺の全く知らない子が小学校でね、俺の漫画の話をしてた時はすごい「あれ? えっ、なに?」って。
(鳥嶋和彦)初めて物を作る喜びを?(笑)。
(江口寿史)そうそう。なんか「あれ、読みたいな」みたいなことを言ってて。
(鳥嶋和彦)そこはちょっとNazさんが書いたものとはレベルが違う。レベチかもしれないね(笑)。
(Naz Chris)そうですね。
(江口寿史)それぐらいですかね。あとはうちの死んだ兄貴がすごく褒めてくれましたね。
(鳥嶋和彦)ああ、本当に?
(江口寿史)盗み見して。俺の書いてあるノートを盗み見して。
(Naz Chris)あと、お父さんが応援してくれたって聞いて。
お父さんが応援してくれた
(江口寿史)そうですね。父親は絵が好きだったから。全然、絵ばっかり書いていても怒らなかったし。
(鳥嶋和彦)そうだよね。だってテレビは早くからあるし。マガジンもほぼ創刊から読んでいる。ということは、江口さんには経済力はないから、お父さんのバックアップがなかったら無理だよね。
(江口寿史)まあまあでも、お小遣いで買ってましたけどね。ただ、母親がすごい捨てる人だったんで。僕の漫画以前の絵は、全然ないんですよ。母親って、捨てるじゃないですか。くだらないものとかを。それである時ね、親父が怒ったんですよね。「こいつの書くものは全部、取っておけ」って言って怒って。それですよね。取っておくようになったのは。
(鳥嶋和彦)だから、そのお父さんの一言で残ってるわけですね。こうやって。
(江口寿史)それで、自分でも残すようにしたんですよ。お袋が捨てちゃうので、捨てられないようにコソッとしまって。
(鳥嶋和彦)だからその世田谷の展示で見た時、ノートブックが昔のノートだもんね。
(Naz Chris)あれはエモかったですね(笑)。
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