町山智浩『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』を語る

町山智浩『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』を紹介していました。

(町山智浩)今日はアメリカの話じゃないんですけど、日本映画を2本まとめて紹介したいんですが。もう公開中の映画で『菊とギロチン』という映画。もう劇場にかかっていますけどもその話をして、もう1本関連している映画をちょっと紹介したいんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)この『菊とギロチン』という映画はすごいタイトルが変なんですけど。これ、「ギロチン社」というアナーキスト集団がいまして。アナーキストというのは無政府主義者。そんな人たちがいて、これが関東大震災があった大正時代の終わり、1923年に警察の追われていた頃の話です。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、主演は東出昌大さんです。山ちゃん、たしかお友達ですよね?

(山里亮太)そうです。僕は仲良くさせてもらっていて。赤江さんと僕は東出くんの結婚式にも行ってますから。

(赤江珠緒)そうなんです。

(町山智浩)すごいですよね。あの、なんか一緒のお風呂とか入ったことあります?

(山里亮太)いや、お風呂はまだ経験がないですよ。

(赤江珠緒)ないですねー。

(山里亮太)いや、赤江さんはそりゃないでしょ!

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)赤江さんがあったりしたら大変なことになりますけども(笑)。そうじゃなくて、この『菊とギロチン』という映画はね、東出さんのお尻が見れるんですよ!

(赤江珠緒)フフフ、そこを勧められましてもね(笑)。

(山里亮太)町山さん、1個目のおすすめポイントは絶対にそこじゃないはずですって!

(町山智浩)しかも、2回も見れますから!

(山里亮太)町山さん、その説明から始まっちゃうと『菊とギロチン』の意味もちょっと違うんじゃないか?ってなってきちゃう……。

(町山智浩)そうそう。「どの菊だろう?」とかいろいろと考えちゃうんですけど(笑)。いやいや、すごいんですよ。だってお尻を見せるところ、最初のところはエッチしているところですよ。東出さんが。

(山里亮太)あらっ!

(町山智浩)はい。この彼が演じる役はね、中濱鐵という実在のギロチン社の……なんて言うんですかね? 詩人なんですけども、まあ政府打倒を掲げている運動家の役なんですね。で、彼は「略」と言って「略奪」のことなんですけども。まあ、金持ちとか大企業を恐喝してそのお金を取って反政府活動をしているということになっているんですが、実際はお酒を飲んでエッチなことをしているだけなんですよ。この人は。東出さんは。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)そういう役なんですね。ところが過激な仲間もいて。古田大次郎という実在の……彼はテロリストになってしまって。で、銀行を襲撃して人を殺めてしまって、このギロチン社は政府に追われていくという話なんですね。で、古田さんを演じている人は寛一郎さん。この作品の監督、瀬々敬久さんの作品『64 ロクヨン』の主演だった佐藤浩市さんの息子さんですね。

(赤江珠緒)三國連太郎さんのお孫さん、佐藤浩市さんの息子さん。

(町山智浩)三國連太郎さんのお孫さんになりますね。で、この瀬々敬久監督がこの映画を監督しているですけど、この人はこのギロチン社の映画を30年間構想していてやっと完成したということで。この映画はクラウドファンディングで撮っているんですね。で、瀬々監督はいまメジャーな会社で大作を撮っているんですけど、これはもう完全に自分のライフワークとして撮った映画なんですけども。で、この「菊」というのがなにかというと、これは花菊という名前の女相撲の相撲取りさんが出てくるんですよ。途中から。

(赤江珠緒)うん。

関東大震災後の日本

(町山智浩)で、この頃は女相撲という興行がありまして。それとギロチン社が絡んでいくという話なんですね。で、この女相撲というのは昔からあったそうで。江戸時代からずっとあったんですけども。この大正の関東大震災の後から相撲興行がだんだん国技になっていくんですよ。で、神事。神聖なものなんだということで女人禁制というそれまではなかったルールが作られていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それぐらいからの決まりですか?

(町山智浩)非常に最近のものなんですね。で、それはいま、最近土俵に女の人が誰かの命を助けようとして上がったにもかかわらず「出て行け!」と言われて大変な問題に鳴っていましたけども。

(赤江珠緒)ありましたね。アナウンスされた問題が。

(町山智浩)これはもともと、相撲というのはたくさん興行があって。各地で興行があって。まあプロレスみたいなもんだったんですよ。それがたとえば、新日と全日が合体して大日本という……まあ、大日本プロレスっていう団体もありますけども(笑)。そういうプロレス団体を作って、それが「プロレスは国技なんだ!」って言って神聖化していって国の権力と結びついていくというようなことが行われたんですね。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)で、その際に「リングには女性は上がってはいけない」って言って女子プロレスを弾圧するみたいなことが起こったわけですよ。プロレスに例えるとね。で、さっき言ったみたいにギロチン社というのはもともと大正デモクラシーというのがあって。大正時代に日本ではすごく民主主義が発達して、普通選挙が始まったり、いろんな政治運動が出てきたんですよ。で、自由な政治論争とかそういったものができるようになっていって言論の自由があったんですけど、そこから出てきた反政府活動であったりそういった左翼運動が関東大震災の後にどんどん潰されていって、弾圧されていって日本は軍国主義に向かっていったんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それと並行して相撲の方でもそれまではいろいろな相撲があったのに、まあひとつの大相撲というものに集約されていってそれ以外の脇にあった女相撲とかそういったものは弾圧されていくんですよ。だからその2つの流れが並行して描かれて、その2つの弾圧されるグループが途中で出会って……という話になっていますね。で、これがすごく僕は見ていて面白かったのが、東出さんが……あの真面目なイメージの彼が本当にどうしようもない人間をこの中濱鐵の役でやっているんですよ。この人はね、口ばっかりなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「革命だ、革命だ!」って言うんですけど、何もしなくて。スケベなことばっかりしていて。で、梅毒になっちゃって「チンコ痛え!」とか言っているような人なんですよ。

(山里亮太)本当にいろんな役ができるね、東出くん。

(町山智浩)すごいですよ。で、お尻もちゃんとしっかり見えますしね。はい。それで彼にイライラしているのはその古田大次郎っていう人で。「あんたは口ばっかりだ! 口ばっかりで『やれやれ』って言って、絶対に革命なんかやりゃあしないんだ!」って言って、彼は暴走して本当にテロをやっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この中濱鐵っていう人はかわいそうで、実際は口ばっかりで何もしていないのに死刑になっちゃうんですね。

(赤江珠緒)えっ、後に? そうなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。で、彼を追いかけていくのが正力松太郎という警察官なんですけど、この人はその後、読売グループを作った人ですね。

(山里亮太)そうですね。名前、聞いたことがあります。

(町山智浩)だからすごいいろんな人が絡んできて面白いんですけども。で、面白いのはやっぱりこの瀬々敬久監督というのはもともとピンク映画を撮っていたんですね。で、ピンク映画ってわからないと思うんですけど、ピンク映画はポルノ映画とはちょっと違って、インディペンデントに近い非常に低予算のエロ映画なんですけども。その「エロがあればとりあえずどんな映画を作ってもいい」っていうのがピンク映画なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから裸が10分ぐらいおきに出てきていれば、その中のストーリーはどんなに難しい話でもいいんですよ。芸術でも。なにをしても許されたんです。その10分おきの女性の裸があれば。

(赤江珠緒)エロをまぶしてあれば。

(町山智浩)エロをまぶしてあれば。それがね、すごく女相撲とも重ねられていて。女相撲ってこの映画の最初の方でもみんな、スケベ心で見に来るんですよ。「おっぱいとか見れるかな? お尻とか見れるかな?」っていうことで行くんですよ。でも実際は隠しているんですよ。で、みんながっかりするか?って思うと、そうじゃなくて。女相撲は女性たちが本当に真剣に戦うんですよ。で、しっかりした格闘技を見せていくんで感動がそこで生まれるというのが女相撲になっているんですね。この映画の中では。

(赤江珠緒)ああ、うんうん。

(町山智浩)それって女子プロレスも最初はそうで。最初はエロな見世物だったんですけど、どんどんちゃんとした格闘技を見せていくことでエンターテイメントになっていったんですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その女相撲に入ってくる人たちはその頃、男尊女卑がひどいんで。女性って結婚をしないとほとんど食えなくて。それこそ娼婦になるか結婚をして旦那にいじめられるかっていうどちらかしかなかったわけですよ。女性が自分の力で食っていくっていうのはほとんど不可能だったんですけど、女相撲にはその夢があったのでいろいろと追われてきた女性たちが集まってきているという話になっていたんですね。

(赤江珠緒)はー! 自分で身を立てるひとつの術だったと?

(町山智浩)そう。これぐらいしかなかったんだという。あとはだって芸妓さんになるとかそういう形しかなかったわけですから。カフェで女給で働くって、昔のカフェっていうのはほとんど売春していたわけで。だから、そういうところから脱出して自分の能力だけで闘えるのはここしかない!っていうことで女相撲に入ってくるわけですよ。で、そういう点ですごく、瀬々監督が撮っていたピンク映画っていうものもそのエロ、裸でで釣るんだけど中身は全然違うものだったんですよ。

(赤江珠緒)たとえばどういう内容をされていたんですか?

女相撲とピンク映画

(町山智浩)たとえば80年代、89年に彼が作った映画で『課外授業 暴行』というタイトルのピンク映画があるんですね。で、それはなんか学園物でレイプ物かな?って思うんですけど、中身は全然違って。まあ、青春反抗映画なんですよ。爽やかで瑞々しい。で、本当のタイトルっていうのは別にあるんですよ。本当のタイトルはすごく長いタイトルで『羽田に行ってみろ そこには海賊になったガキどもが今やと出発を待っている』っていうものすごいリリカルな、青春なタイトルなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でも、それは隠すんですよ。ピンク映画っていうのは本当のタイトルと嘘のタイトルとがあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)企画段階では本当のタイトルでやっていて。たとえば『禁男の園 ザ・制服レズ』っていう映画があって。これはレズ物かな?って思うんですけども、これ原題は宮沢賢治の『春と修羅』の引用ですごく長いんですけども。(『わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です』)。これ、内容は爆弾テロの話なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)『ザ・制服レズ』で爆弾テロなんですよ。

(赤江珠緒)全然違うじゃないですか!

(町山智浩)違うんですよ。だから、このエロとテロ的なものとか犯行とかとの合体っていうのは『菊とギロチン』の中で行われているんですけど、これ自体が瀬々監督のやってきたピンク映画の理論なんですよね。エロとテロの合体なんですよ。で、ただこの瀬々監督自身がピンク映画でそういったことをするっていうのでは彼は遅れてきた感覚がある人で。実はその前にそれをやっていた人がいるんですね。

(赤江珠緒)ええ。

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