大島育宙 松本人志『大日本人』を語る

大島育宙 松本人志『大日本人』を語る 文化放送

XXCLUB・大島育宙さんが2024年1月9日放送の文化放送『西川あやの おいでよ!クリエイティ部』の中で松本人志さんが初監督をした映画『大日本人』について話していました。

(大島育宙)大島育宙の「オーシマが推します」。

(西川あやの)今日は2007年6月2日公開の映画『大日本人』。

(大島育宙)はい。ほとんどご覧になってない方が多いのかなと思うんですけれども。2007年の作品ですね。で、今日はアディダスのジャージを着てお送りしたいんですけれども。

(バービー)えっ、わかんないです。

(西川あやの)『笑ってはいけない』?

(大島育宙)違います。調べてください。作家さんがすごい笑っています(笑)。今回ね、「年末年始に見たおすすめの映画」っていうタイトルにして。「僕、ワイドショーでしか情報を得ないんですよ。インターネットのニュースとか一切見ないんですよ。で、松本さんが好きで『ワイドナショー』だけ見てたんですけど、松本さんが降板してから見てないんで。年末年始、何があったか知らないんですけど……『大日本人』を年末年始に見直して」って。それで感想を言っていうテイで今日はやろうと思っていたんですけども。そしたら昨日、休養の報道が出ちゃったんで結構これは誤算だったんですけども。

(西川あやの)ああ、仕込んでいたんですね。

(大島育宙)そういうテイでやろうと思っていたんですよ。で、だから今日のピックアップニュースで松本さんの件をやると思ってなかったっていうことですね。なんですけど、どっちにしろかなり面白い……いろんな意味で、面白い作品なので。ぜひとも、見られる環境にある方は見ていただきたいなと。サブスクの配信が一切ないんですけど。で、わざわざDVDを買えとは言わないですけど。中古で出回ってたりとかね。近くにTSUTAYAさんだとかGEOさんがある方はぜひ、借りて見てみるのもいいんじゃないかなという。おすすめなんですけれども。で、2007年、松本人志さんが映画監督デビューをした第1回監督作品ということで。宣伝でも松本人志さんの名前しか出ていなくて、中身は一切わからない形で公開されるという。『君たちはどう生きるか』スタイルで公開された作品です。

で、僕は当時、中学生でしたけれども。映画館にお笑い好きな友達と2人で見た記憶があります。松本さんはこの後、3本撮られていて。長編の監督作品は合計で4本あるんですけど。世間では正直、不評で。松本さんは映画から結局、撤退をしてしまったんですけれども。僕は『大日本人』がその4本の中では一番面白いなと思っていて。その後、どんどんある意味よくない部分っていうか。あんまり映画は向いてないのかな?っていう部分がどんどん濃くなっていっちゃって。まあ、映画から撤退をするのもしょうがなかったのかなっていうか。あと、座組の部分ですね。映画のプロの人が一切サポートしてくれないっていう状態がどんどんどんどん悪化してしまって。だから最初が一番松本さんぽいっていうか。『VISUALBUM』とか、昔の松本さんがアート性っていうか、本人の芸術性を突き詰めるためにやっていた城みたいな感じの表現が一番詰まってるのが『大日本人』かなと思っていて。

ストーリーとしては日本を襲ってくる怪獣と代々戦う家に生まれたヒーローの大佐藤という人物が巨大化して、怪獣と戦いながらも自身の鬱とか、世間からのバッシングとかと向き合いながら生きていく様をドキュメンタリータッチで描いたコメディという作品になってるんですけど。これ、なんかすごい今の様子と重なるなと思うところもあったりして。

(バービー)日本がですか? 松本さんが?

今の松本人志の様子と大佐藤が重なる

(大島育宙)主人公の大佐藤ですね。なんか、そういうところも結構あるなと思っていて。まあ「日本が」というのもあるんですけど。これはいろいろ、語るところがすごくある作品なんで全部はこの数分では語れないんですけれども。松本さんの中に反米感情っていうのがすごくあるだろうなということは昔から多く言われていまして。この大佐藤という人物がね、半分自衛隊の象徴っぽいなという風に思うんですよね。日本の国民からも「あいつが戦わなくてもいいのに」みたいなことを揶揄されていたりとか。でも、ちょっと面白い戦い方をするとウケたりとかして。国民からも賛否両論なんだけど、日本を守るために戦っているみたいな。それで結局、アメリカからヒーローが来た時にはもう、やることなくなっちゃうんですよ。そんなところとかも描かれていて。なんかそういう、自衛隊とかアメリカに対するある種の思想的な目線っていうのがこのキャラクターに入ってるんですね。

でも、残り半分は完全に松本さんなんですよ。「表現者の苦しみっていうものをわからずに世間は中途半端な気持ちで叩いてくる」みたいな。そういう風に世間に扱われている人っていう感じで描かれているんですね。で、これは僕は1回も松本さんには会ったことないし。今後も関わらない可能性が高いと思ってるんですけれども。これは松本さん本人はあんまりよくないところだなと思う部分として……ベストセラーになった『遺書』という本にも書いてありますし。この映画に関しても「映画を撮ったこともないやつに批判されたくないんじゃ」みたいなことを結構ポロッと言ってしまうところがあって。でも、それって作り手としては言っちゃいけないことで。「作る」と「批評する」っていうものは全く違う仕事なんで。そういうことを結構言ってしまうぐらい、ある種の作り手としての選民意識が非常に高い人なんですよね。

で、それはカリスマのある種の素質のひとつの条件でもあると思うので。全然、それでもいいのかなとも思う部分ではあるんですけど。なんか、それがこの「巨大化するヒーロー」という像に結構表れてるなっていうのも今、改めて見るとかなり思うところがあって。あとはその「巨大化したい願望」っていうのが当時からあったのかなと思っていて。当時は松本さん、まだ筋トレをそんなに始めてないんですよね。これ、2007年の作品なんで。で、その後に……昔は松本さん、「運動とか筋トレとかするやつは面白くない」みたいなことを言ってたんですけど。松本さんはめちゃめちゃマッチョになって。今はもう、マッチョキャラですけど。「えっ、松本さん、大日本人になりたかったの?」みたいなことも今、思うとちょっと面白かったりするっていう。

マッチョになったのは大日本人になりたかったから?

(大島育宙)ただね、個々の面白い部分っていうのはいっぱい、そういうところであるはあるんですけど。僕が一番問題だなと思う部分としては、この大日本人という人物を「かわいそうな人」として描いているんですよ。それは世間から叩かれるとか、あとは巨大化した後に心に鬱症状が起こってしまって、しばらく寝込んでしまうみたいな、そんなかわいそうな人物で。収入も国から月に20万円を与えられていて。「副収入みたいなのがちょっとあるけど、合わせて月50とかぐらいかな」みたいなことを言っていて。でも、たぶんそんなにもらってないだろうなっていう感じの生活なんですよね。だからすごく金銭的にも権力的にも弱い人という風に描いているんですよ。でもそれって何の象徴なの?っていう感じで。

この作品が作られた2007年の時点で松本さんってもうたぶん、権力を持ってるんですよね。その後に、たとえば2011年に紳助さんが引退するとか。そこでちょっとパワーチェンジが起こるは起こるんですけど。でもこの時点で自分を「システムの被害者」みたいな風に思っていたんだとするならば、それはとてつもない誤解で。その自身の権力性みたいなものに無自覚なまま、ここまで来ちゃってるんですかね、みたいなことも思わなくもないっていう。だから僕は当時、映画館で「あっ、結構面白い」って思ったんですけど。今、改めて見るとそういう意味でちょっとモヤる部分もあるなっていう。

で、これは本当にただのお笑い視聴者としての考察になるんですけど。この作品以降、たとえば2009年から『IPPONグランプリ』が始まったり。2015年から『M-1グランプリ』が復活して。それの審査員長的なポジションを務めたりとか。2016年には『ドキュメンタル』が始まったりとかして。松本さんの企画者としての王様性っていうのがどんどん高まっていくんですよね。島田紳助さんと入れ替わるようにしてね。で、一方で2009年に放送作家の高須光聖さんという方とやっていた『放送室』っていうラジオが終了しまして。素でしゃべりながら「いや、自分。それは違うで?」って突っ込まれる場所というものがなくなったんですよね。

それと入れ替わるようにして『ワイドナショー』という番組でほとんど勉強しないまま、ニュースに関してちょっと鋭いことを言って。ショックを与えて帰るみたいな仕事をしなければいけない立場になりって。それで大日本人化していったんだなっていうことを僕はすごく思うんですよね。で、それは本人の望まなかった部分なのかもしれないっていう意味で言うと、大佐藤っぽいんですよね。結構ね。とも思うんだけど……それは、映画の世界で成功できなかった理由もそこには含まれているんじゃないかなとか、そういう厳しいことも結構、思ってしまうぐらいで。論としてはまだまとまってない部分もあって。本当にもう1時間とか2時間かけて、松本さんの功罪ということに関しては、今回の報道とは切り離してね。作品の部分だけでもこれだけ語れることがあるよということはすごく思うので。今後も僕はいろんな場で語っていきたいなとは思うんですけれども。

今、見る価値のある作品

(大島育宙)なんか、ただの駄作というか。「松本人志が映画に進出して失敗した。ギャハハッ!」みたいな感じでインターネット上では扱われている作品なんですよ。『大日本人』は正直。ただ、いい面も悪い面も相当にじみ出ている作品ではあるっていうことは僕は声を大にして言いたい。この後の3作品は正直、見る時間もちょっともったいないかなと思ってしまうんだけども。『大日本人』だけ見るのは今、ありなんじゃないかということを思いますので。ぜひとも皆さん、何らかの形でチラ見していただければなと思います。人から借りたりなどして。なんか、吉本もこの作品を売ろうとしてないんですよ。よくわかんないんですよ。どういう状況になってるのか。

(バービー)そうなんだ。見てみて、その大佐藤の感じを知りたいですね。

(大島育宙)ぜひ。いろんなことがわかるんじゃないかなという作品です。今、しゃべるの難しいけどね。

(西川あやの)懐かしいですよね。これ、公開された時のこととか、よく覚えてます。

(大島育宙)話題にはなってたはずなんですよね。

(西川あやの)2007年6月2日公開、映画『大日本人』でした。

<書き起こしおわり>

大島育宙 週刊文春報道後の松本人志のSNS発信から見えたものを語る
XXCLUB・大島育宙さんが2024年1月9日放送の文化放送『西川あやの おいでよ!クリエイティ部』の中で週刊文春による松本人志さんの報道についてトーク。報道が出た後、松本人志さんのSNS発信から透けて見えたきたものについて話していました。

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