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町山智浩『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を語る

町山智浩『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年8月23日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』について話していました。

(町山智浩)それで今日、ご紹介したい作品というのがNetflixなんですけども。ちょっとNetflixでこの夏ですね、一番のヒット作っていうのは何だったか、わかりますか?

(赤江珠緒)この夏……Netflixのいっぱいあるドラマの中で?

(町山智浩)そのドラマの中で一番ね、すごく盛り上がったのがね、韓国のドラマなんですけど。6月の終わりからずっと配信が始まっていて、先週最終回だったんですが。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』っていうドラマだったんです。

(山里亮太)たしかにずっとランキングで……つけたらいつもこのタイトルでしたもん。面白いんだ。

(町山智浩)そう。ずっとランキングでトップだったんですけど。これもね、タイトルが『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』って、よくわかんないんですけど。これは主人公の女性の新人弁護士が弁護士事務所に入ったばっかりの女の子で。その人が自閉症のスペクトラムなんですね。自閉症の中でも、スペクトラムっていう段階があって。その比較的浅い方の人で。自閉症の人に特有の現象で、何でも精密に記憶したり、精密に書いたりするということができるので。

それで彼女はソウル大学、韓国で一番の大学のトップで法学部を卒業したという天才なんですよ。でも、この日本語のタイトルだと「天才」っていうことがすごく強く出ちゃうんですけど……でもこの人は自閉症の問題を抱えているんで、いくつも問題があって。まず、人とちゃんと話せないんですね。このウ・ヨンウさんは。それと、人との言葉じゃないコミュニケーションができないんですよ。具体的に言うと、まあ一切、空気が読めないんです。

(赤江珠緒)ああーっ!

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一切、空気が読めない弁護士

(町山智浩)だから、顔の表情とかから「わかるでしょう?」みたいな。「本当は悲しい」とか。そういうのが、わからないんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ「察してよ」みたいなことは無理ってことなんですね?

(町山智浩)一切無理なんですよ。これ、弁護士としてはかなり致命的なんです。で、杓子定規な法律の判例とか、そういうのはわかるんだけれども。あとね、韓国の裁判って陪審員制なんですよね。だからまさに人の心がわからないとできない仕事なんですけど。それを彼女が苦労しながら、弁護士として活躍していくっていうシリーズなんですよ。で、見た印象でまず近いのは、『のだめカンタービレ』ですね。あれののだめちゃんって、一種の高機能自閉症的なところがあるんですよね。天才的で、ピアノを弾き出すと……これはグレン・グールドっていうピアニストと非常によく似てんですけど。ずっと鼻歌を歌いながらピアノ弾きまくるっていうね。

(赤江珠緒)そうですよね。うん。

(町山智浩)でも、そのコミュニケーションに非常に問題があるというね。あとうひとつ、ドラマでちょっと前にやった『同期のサクラ』っていうのは見てましたか?

(赤江珠緒)ごめんなさい。それは見てないです。

(町山智浩)これね、高畑充希さんが主人公なんですけども。建築会社に入るんですけれども。やっぱりコミュニケーションができないんですよ。で、非常にロボットみたいに動くヒロインの話で。その中でははっきり、そういうコミュニケーション障害みたいなことは言ってなかったんですけど。おそらくそうなんですよね。で、そういう人たちを主人公にしたドラマって一連のものが日本であったり、韓国であったりするんですけども。

その中で面白いのは、周りの人たちがちょっと差別するわけですよ。「彼女には人間の心っていうのはなかなかわからないんだろう」みたいな感じで。ところが、実はそのウ・ヨンウだからこそわかる人の心の機微があったりするんですよね。逆にね。で、特にその裁判で一番大きいのは、日本もそうですけれども。動機とか……要するに「どうしてやったのか?」っていう心が問われるんですよ。たとえば人を殴った時に、どの程度やる気だったのか?ってことが罪になるんですよね。

(赤江珠緒)そうですよね。裁判ではそこ、重要ですね。

(町山智浩)ただ殴っただけで、大怪我をしてしまったっていう場合には、それは傷害ですけども。でもその場合に殺意があったら、殺人未遂なっちゃうわけですよ。すると、罪の重さが全然違うわけですよ。そこで最初の裁判で出てくるのは、夫婦で。非常に旦那が乱暴な人だったんですね。で、ひどいことを言われて、ひどいことされたんで、奥さんが思わずアイロンで頭を殴ってしまったら、大怪我してしまうんですね。それで、救急車で担ぎ込まれるんで。警察としてはそれは非常に自動的に傷害罪、ないしは殺人未遂ということになってしまうんで。で、その時に「殺してやる!って言って殴った」という証言が取れちゃったんで、殺人未遂なっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)ところが殺人未遂で殴っちゃうと、これは遺産が相続できなくなるんですね。まあ情状酌量とか、いろんなのがあって執行猶予となったとしても、遺産相続ができなくなるんですよ。だから、この時にすごく問題なのは「夫婦で、お互いに愛し合ってるんだけども、それでも『殺してやる』って言う時があるんだ」っていうことなんですよね。つまり、白か黒かとかってはっきりしないんですよ。家族とかそういったものは。愛とか。人っていうのはみんな、白か黒かはっきりしないんですけど。その彼女は「白か黒か、どちらか」でしか考えられないわけですよ。このウ・ヨンウさんはね。

で、たとえば物が置いてある時に、斜めに置いてあるものが気に食わないから彼女は全部、まっすぐにするんですよ。部屋とか、ものすごくきれいなわけですよ。で、ピチッと畳むわけですよ。で、服は同じような服しか持ってないんですよ。で、食べるのは朝はキムパップっていうのり巻きを食べるんですけど。それしか食べないんです。同じものしか食べないってのは非常に典型的な、そういう自閉症スペクトラムとかアスペルガーとか……今は「アスペルガー」っていう言葉は使わないんですけども。自閉症スペクトラムの典型的な例なんですけども。

そういった、非常にカチッカチッとしかできない人が非常に曖昧な人というものとぶつかっていかなければならない。で、しかも彼女は人に触ることができないんですよ。ウ・ヨンウさんは。

(赤江珠緒)本当、どうやって弁護していくんだろう?

(町山智浩)そう。で、一番の問題はどうやって恋愛するか?ってことになってくるんです。というね、非常にひとつの障害を描く物語ではあるんですけど。ちゃんと、ラブストーリーでもあるわけです。

(赤江珠緒)へー! これがNetflixで今季、一番人気があったんですね?

(町山智浩)すごい人気だったんです。で、僕はさっき『同期のサクラ』っていうドラマの話をしたんですけども。それもすごくよかったんだけど、最終回で上手くまとまらなかったんですよ。最終回のギリギリまでは素晴らしかったんですけど、最終回でまとまらずに終わったんですけど。この『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』はきれいにまとまるんですよ。最終回が。これね、すごい感動的で。ただね、話数が多くてね。ずっと見ると大変なんですけど。16話かなんかあるんで。

まあ、1話1話が非常に……ラブコメ的な要素もあって。で、主人公がかわいいんで。そう。女の子の妄想みたいなものをそのまま映像にしてるんで。彼女はクジラちゃんが好きなんですけど。クジラがね彼女の頭の中で跳んだり。そういうところが非常に少女漫画チックだったりして。そういう点でもかわいくて、楽しくて。それでしかも非常にいろいろ考えさせられるっていうね。何が障害なのか? 普通だと思ってる人が、本当に普通なのか? とかね。そういったことを問いかける、非常によくできたドラマなのでぜひご覧ください。もう最終回まであるので、一気見ができますんで。

(赤江珠緒)ありがとうございます。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』予告編

<書き起こしおわり>

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