町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る

町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る こねくと

町山智浩さんが2023年7月25日放送のTBSラジオ『こねくと』で映画『バービー』を紹介。『バービー』が革命的作品であると話していました。

(町山智浩)でね、今日紹介する映画は今、アメリカっていうか、これはアイルランドで見たんですけど。アイルランドでも大大大ヒットしている『バービー』という映画をご紹介します。

(Aqua『Barbie Girl』が流れる)

(でか美ちゃん)ああ、いいですねー。

(石山蓮華)上がりますね。

(町山智浩)バービーって、持っていたり、遊んだりしてました?

(石山蓮華)私、持ってました。背の高い金髪のバービーちゃん人形と、あとそのお家。ショッキングピンクの、なんか持ち運べるお家っていうのを持っていましたね。

(町山智浩)折り畳み式のやつね。

(石山蓮華)そうです!

(でか美ちゃん)私は持ってこそいなかったですけど、やっぱり憧れはすごくありましたよ。バービー人形に対する。

(町山智浩)なんかこう、バービー人形っていうとアメリカンな感じでしょう?

(でか美ちゃん)そうですね。なんかおしゃれな……おもちゃの中でも、リカちゃんとかも好きだったけど。おしゃれな子が持っていたイメージだから。

(町山智浩)ああ、庶民的ではなくてね、ハイセンスでね。で、これはバービー人形の映画なんですね。

(石山蓮華)映画になるとは思いませんでしたね。

(町山智浩)「それ、映画にするか?」って思いますけど。アメリカはなんでも映画にするんでね。おもちゃだだろうと、遊園地のアトラクションだろうと全部、映画にしちゃうんで。今回、『バービー』をやっていて。で、アイルランドで見に行ったらね、映画館の前をですね、若者たちがピンクの服を着て取り囲んでいる状態になりましたよ。

(石山蓮華)へー!

(でか美ちゃん)じゃあ、ドレスコードがあるわけではないけど、そのノリが生まれているんですね?

(町山智浩)そうなんです。それで、男の子も結構来ていたんですよ。

(でか美ちゃん)へー、そうなんですか。素敵!

(町山智浩)20代前後の、20歳ぐらいの男の子たちが「バービー」って書いたピンクのシャツを着て、来ているんです。男同士で。

(石山蓮華)ああ、いいですね!

(でか美ちゃん)楽しそう!

(町山智浩)でね、これは女性監督による映画での史上最大の興行収入を上げていますね。すごいことになっています。で、これねバービーランドの話なんですよ。バービーたちが住む国があるんですね。で、そこはバービーがあらゆる職業をしているんですよ。これ、バービーって最初、1950年代に売り出した時はただのおしゃれをする着せ替え人形だったんですけれども。その後、アメリカで1960年代後半から男女の雇用機会均等法ができて、女性がいろんな仕事に進出していったので、それを反映してバービーにもいろんな職業があるんですけど。

たとえば……バービーは日本でいうところのリカちゃん人形みたいなものなんですけど。バービーは、たとえば人形だと普通、看護婦さんっていうの、ありますよね? 看護師さん。で、バービーはお医者さんがあるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、なるほど。

(町山智浩)そこの差ですね。で、リカちゃん人形だとスチュワーデスさん、CAさんだったりするんですけれども。バービーは飛行機のパイロットなんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、そのジェンダーのステレオタイプにとらわれず、いろいろな職業の衣装があるってことなんですね?

(町山智浩)そうなんです。宇宙飛行士もあるしね、消防士さんとか、大統領のバービーもあります。

(石山蓮華)大統領!

(でか美ちゃん)なんか小さいからそうやって触れていたら、いろんな刷り込みとかがなくなる気がする。ちゃんと。

(石山蓮華)うん。「なんにでもなれるんだな」っていうのを身近なところから教えてくれますよね。

(町山智浩)そうそう。もう幼い女の子たちに「女性にもあらゆる可能性があるんだ」っていうことを示すおもちゃにバービーはなっているんですね。だからそのバービーランドに行くと、主人公はマーゴット・ロビーさんという女優さんなんですけれども。彼女はバービーっていう主人公なんですが、他のいろんな職業やってる人もみんな、バービーなんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうか(笑)。

(町山智浩)名前が同じなの。

(でか美ちゃん)主人公のバービーと、主人公じゃないバービーがいっぱいいる状態?(笑)。

(町山智浩)そう。それでね、最後にキャスティングリストが出るんですけど、役名が全員「バービー」なの。もう何だかわからない(笑)。

(石山蓮華)面白い(笑)。

(町山智浩)「バービー、バービー、バービー……」って出てきて。演じる役者さんが全部違うっていう。「なんだ、これ?」って思いましたよ(笑)。

(石山蓮華)脚本とか、どうやって書いているんですかね?

監督・脚本 グレタ・ガーウィグ

(町山智浩)これ、監督と脚本がグレタ・ガーウィグさんっていう、女優でもある人なんですけれども。で、旦那さんがノア・バームバックさんという人で。2人で映画を作ってるんですね。で、2人で脚本を書いてるんですけど、この夫婦はとんでもない夫婦ですよ。まず最初にガーウィグさんは『フランシス・ハ』という映画の脚本と主演で出てきたんですね。

(石山蓮華)大好きです、この映画!

(町山智浩)えっ、本当?

(石山蓮華)本当に大好きです! もう、人生の一生、持っておきたい映画数本に入るくらい好きです。

(町山智浩)ああ、本当に? これ、ガーウィグさんがいきなりニューヨークの地下鉄のホームで、いわゆる立ち小便をするところから始まるんですよ(笑)。

(でか美ちゃん)ええっ? すごい衝撃的なスタート(笑)。

(町山智浩)危ないですよ。やっちゃ。電気が流れるから(笑)。で、それを監督したのが旦那さんのノア・バームバックさんで。だからこの夫婦の『バービー』なので、これは12歳以下の子供はなるべく見ない方がいいっていう、「PG13指定」だったですね。アメリカでは。どうしてかっていうと、セリフとかがとんでもなくて。バービーが「私にはヴァジャイナがないのよ」って言うんですよ。

(石山蓮華)たしかに(笑)。

(町山智浩)で、「私のボーイフレンドのケンにもペニスはないし」っていうんで。全体的にそういう内容なので、小学生はなるべく見ないでいいってことになってるんですけど。ただ映画館、子供がいっぱいいましたよ。

(石山蓮華)ああ、そうですか。まあ、たしかにね。

(町山智浩)「ママ! バービーの映画だから、連れてって!」とか言って、ちっちゃい子がたくさん来てるんですけど。まあ見ても、たぶんセリフの内容はわかんないと思いますけどね。

(でか美ちゃん)親御さんがちょっと気まずいという(笑)。

(町山智浩)そうそうそう。「うわっ、マズいな、これ」と思ったと思いますけど。あとね、そのバービーランドはね、いろんな職業をバービーがやっているだけじゃなくて、バービーにもいろんな体型の女性がいるんですよ。で、バービーって最初、いわゆる八頭身のモデル体型で、痩せて出てきたじゃないですか。スラッとした。でも、それがすごく批判されて。女性のステレオタイプ化とか、あとは拒食症に繋がるっていうことで。「バービーみたいになりたい」っていうので痩せちゃう子とかが出てくるから。だから今、アメリカではバービーはいろんな体型のがあるんですよ。

(でか美ちゃん)いいですね。そうやってちょっとずつ子供の心を思っているなって。職業にしても、体型にしても。

(石山蓮華)人種もいろいろなんですよね?

(町山智浩)人種もいろいろなんですよ。最初は白人だけのものとして出てきたんですけれども。まあ、アメリカはアフリカ系もいれば、ラテン系の人もいるし、アジア系の人もいるんで。今は全部、バービーがあるんですね。全ての人種の。

(でか美ちゃん)この前のスパイダーマン(スパイダーバース)に近いような感じがしますね。

(町山智浩)ああ、そうです。近いですね。需要があるから、そうなったんですよ。お客さんがいるからね。だってアフリカ系のお客様に売れないと困るから。バービーもアフリカ系のやつを売り出すという感じでね。だからすごい一種、女性が支配する完璧な世界がバービーランドなんですね。で、その世界で男は何をしてるのか?っていう話なんですよ。で、男は全員「ケン」っていう名前なんですよ。で、ケンというバービー人形の相手役のおもちゃがあるんですね。で、彼はイケメンっていう以外、何も持っていない人なんですね。

(でか美ちゃん)そうなんだ。でもたしかにケンって知ってるけど、ケンが何をしてる人か、知らないですもんね。

(石山蓮華)なんか見た目がいいっていう。

(町山智浩)そう。見た目がよくて、バービーのボーイフレンドっていう以外の何も持っていない男がケンなんです。これを演じるのはライアン・ゴズリングさんで。体がすごいんですよ。ムキムキでね。42歳ですよ?(笑)。

(石山蓮華)えっ、42歳? 手元に写真ありますけど、6パックでバキバキですね!

(でか美ちゃん)っていうかケンそっくり! びっくりした。

(町山智浩)ねえ。このお父さん、2人の子持ちなんですけどね。42でケンをやっているんですよ。すごい世界なんですけども。で、まあそういう女性が支配する素晴らしいバービーランドで主人公のバービー……いろんなバービーがいるので。マーゴット・ロビー扮するバービーは楽しく暮らしてるんですが、ある日突然、その生活に不安を覚え始めるんですよ。「これでいいんだろうか?」って。「私にも老いとか死が来るんじゃないか」ってことを考え出しちゃうんですよ。人形のくせに。それだけじゃなくてね、太ももの裏側にセルライトが出ちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)人形なのに。

(石山蓮華)太ももをギュッとつまむと出てくる脂肪のボコボコのことですね?

(町山智浩)ねえ。プラスチックの人形なのに。で、「これはどうしたのかしら?」って思って、それをいろいろ原因を探ると、どうも人間界の方で。現実界の方で何かが起こってるみたいだということで。その原因を探るために現実世界にバービーが飛び出していくっていう話なんですよ。

(石山蓮華)へー!

(町山智浩)ケンもね、なぜかついてくるんですけど。

(石山蓮華)一緒に来るんですね(笑)。

現実世界に飛び出すバービーとケン

(町山智浩)そう。ケンはね、バービーと一緒にいる以外、何もない人なので。だからついてくるんですよ。で、現実世界に入ると驚くことにバービーランドのようではないんですね。アメリカの大統領は女性がなったことないし。アメリカの企業は女性の進出がかなり進んではいるんですけど、重役にはなかなか女性はなれないんですね。アメリカでは。で、女性パイロットもそれほど多くはないし。「あれ? なに? 現実世界っていうのは女性が支配していないの?」ってバービーはびっくりしちゃうんですね。

(石山蓮華)なるほど。

(町山智浩)で、特にこのバービーを作っているマテル社の本社に行くんですけど。2人は。マテル社は、バービーを作ってるにも関わらずマテル社の重役は男ばっかりなんですよ。

(石山蓮華)「あれ?」って思いますね。

(でか美ちゃん)ねえ。

(町山智浩)日本の政治家とか企業とかで「女性の社会進出をサポートします!」とか言ってるやつらがおっさんばっかりっていうのと同じですよ。

(石山蓮華)本当にびっくりしますよね!

(でか美ちゃん)あの集合写真、ギャグみたいですよね! 申し訳ないけど「あれっ?」みたいな。

(石山蓮華)「あれれ? みんな、おじさんだ……」っていうね。

(町山智浩)ねえ。そういう風に政治家が言うのであれば、その政治家たちの半分は女性じゃなきゃおかしいわけですよね。自分たちの地位は全然渡さないくせに、「うちの会社(国)は女性にどんどん進出してほしいと思ってるんですよ」とか言って。だったら、半分は女性にしろっていうことですよね。

(石山蓮華)まず、そこからっていうことですよね。

(町山智浩)まず、そこからなんだけど絶対自分たちの地位は渡さないんですよ。男は。で、男が支配してるわけですけど、それを見てバービーは「えっ?」って思うんですが……ケンは「すげえな!」と思っちゃうんですよ。

(石山蓮華)あっ、そうか! じゃあ、そのバービーランドと現実の世界で男女の役割が本当に反転するんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからバービーランドは夢の世界だったってことを知って。それでケンの方は「すげえ! やっぱり俺は男だ! 今まで、自分が何者かわからなくてとても不安だったけれど、男がこの世界を支配すればいいんだ!」って思って、バービーランドに帰って反乱を起こしちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)おお、ケンがついに意思を持って。

(町山智浩)ケンが意思を持って。

(でか美ちゃん)自我がなかったのに、自我が芽生えて。

(町山智浩)そう。なかったのにね。で、バービーの方は自分がどうして老いとか死を考えるようになったのか?っていう理由を探っていくと、バービーが子供の頃から大好きで大好きでマテル社に入った女性がいて、その女性と会うんですよ。もう中年で娘もいるんですけど。で、娘さんの方は最近の子なんで「バービーなんてダセえ。バービー? あれって女性差別的だし」って。あれでもまだ、女性差別的だってアメリカでは批判されてるんですけど。「あと消費主義的だし」って。おしゃれして、いろんな服をとっかえひっかえするからですね。

で、その娘さんはティーンなんで「バービーとか、すごく反フェミニズムで良くないと思うの」とかって言って、バービーで遊ばないんですよ。それで、お母さんの方は「バービーっていうのは素晴らしいのよ。私はバービーを素晴らしくしようとして、一生懸命マテル社の中で頑張ってるのよ」っていうお母さんなんですよ。でも、彼女は重役にはなれないんです!

(でか美ちゃん)そうか。

(石山蓮華)ガラスの天井っていうやつですね。

(町山智浩)そう。ガラスの天井ですよ。これ、すごいのはマテル社が制作してる映画なんですよ?

(でか美ちゃん)「立派だな」って思っちゃうな! すごいな!

(石山蓮華)自己批判も含めてなんですね。それは見たいな!

マテル社が完全協力

(町山智浩)これ、すごいですよ。だって最初にマテル社の「マテル」っていうマークがグルグル回って出てきますからね。この内容でよく映画化を許したなっていう。すごいものになっていますよ。

(でか美ちゃん)『サンクチュアリ』は相撲協会に協力してもらえなかったのに……ってちょっと思っちゃいましたね(笑)。

(町山智浩)ねえ。相撲協会は協力しないんですけども。マテル社、太っ腹なのかなんなのかっていうね。すごいんですよ。でも、聞いてわかる通り、完全にコメディですから、みんなケラケラ笑ってるんですけど。でね、面白いのはね、ケンがね、「今まで知らなかった男の夢ってやつを、果たしてやるぜ!」って言うんですよ。で、何をやるか?っていうとギターで弾き語りをしてバービーに歌を聞かせるっていうのをやるんですよ。

(石山蓮華)かわいらしい夢ですね。

(町山智浩)かわいいんですけど。そのケンは、たくさんいるんですよ。その世界は全部、ケンなんですね。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。男性はケンだから。

(町山智浩)1万人ぐらいケンがいるんですけど。ケンの夢っていうのはギターでラブソングを歌って、それをバービーに聞かせるっていうことをやりたいっつって、みんなでやるんですけど……バービーはみんなね、「はいはい」っていう顔でそれを聞くんですよ。あのね、ギターを弾いて聞かせるっていうのは男がやりたいことであって、女性がしてもらいたいことじゃなかったっていう(笑)。

(石山蓮華)うわー、そうかー。独りよがりなプレイですね。

(町山智浩)そう。もうあるあるでね、そのシーンは死ぬほど笑いましたよ(笑)。「うわっ、恥ずかしい!」みたいなね。

(石山蓮華)すごい! 町山さん、Zoom越しに顔が赤くなってらっしゃいますね(笑)。

(でか美ちゃん)でもなんか、バービーランドは理想の、女性が中心で女性が活躍している世界だけど、現実は違くて。でも、何だろうな? ケンがギターで歌いたがったりとか。現実といろんなものがないまぜな感じが面白そうですね。

(町山智浩)結構ね、人形の話なのにあるある感があるというね。でね、これはアイルランドでものすごくお客さんが入ってるんですけど。アイルランドって、女性大統領を実現してる国なんですよね。1990年にメアリー・ロビンソンさんが女性大統領になって。それまでアイルランドでは人工中絶も避妊も禁止。離婚も禁止。特に女性からの離婚は禁止。で、未婚で妊娠すると子供をさらわれて、売られちゃうというひどい世界だったんですけども。それを全部、そのロビンソン大統領は正しくして。離婚とか避妊とかを合法にして。人工中絶も合法にして。同性愛も禁止されていたのをそれも合法にしただけじゃなくて、同性婚もヨーロッパで最初に実現してるんですよ。

(石山蓮華)先進的ですね。

(町山智浩)だから「バービーの世界は現実じゃない」ってなってるんですけど。この映画では、アメリカだから。でもアイルランドでは実際にそれを実現して。女性大統領が世の中を改革して、改善したんで。だからアイルランドの人たちは違う気持ちで、「俺たちはバービーランドに住んでるな」と思いながら見ていたんじゃないかと思いますけど。だから日本はもっともっと遅れてるわけですけどね。

(石山蓮華)そうですよね。

(でか美ちゃん)それこそケンみたいな役割の女性がいたりしますからね。

(石山蓮華)そうなんですよね……。

(町山智浩)そうなんですよ。

(石山蓮華)だからもしかしたら、国内の見た女性っていうのはケン側に何か、シンパシーを感じるところももしかしたらあるかもしれませんね。

(町山智浩)かもしれないですね。彼女としてのアイデンティティーしかないみたいなところにね、思い込まされていたりしますからね。でもこの映画はね、そういう感じで「バービー人形の映画? バカじゃねえの!」と思う人も多いかもしれないんですけども。とんでもない革命的な映画になってますんで、ぜひご覧ください。

(石山蓮華)これは絶対に見に行きましょう! 今日は8月11日に公開される映画『バービー』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

映画『バービー』予告

<書き起こしおわり>

石山蓮華・でか美ちゃん・町山智浩『バービー』を語る
石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2023年8月15日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前週、町山智浩さんが紹介した映画『バービー』を見た感想を話していました。
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