渡辺志保 Travis Scott『K-POP』に感じるモヤモヤを語る

渡辺志保 Travis Scott『K-POP』に感じるモヤモヤを語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2023年7月24日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でトラヴィス・スコットが発表した楽曲『K-POP』に対して感じるモヤモヤを話していました。

(渡辺志保)私もですね、ちょっと先週の金曜日いろいろ新譜をチェックしてて。で、結構なんかザワッとするニュース……全然ヒップホップとは関係ないけど。たとえばザワッとするニュースとしては、そのTwitterがXという名前になるっていう。「えっ、X JAPANになっちゃうの?」って。いよいよちょっとTwitterとの付き合い方を本当に考えなきゃいけないなとか、最近は本当にザワザワするニュースが多くて。なかなかね……。

(DJ YANATAKE)ねえ。Threadsも思ったより盛り上がってないしな。どうなっていくんですかね?

(渡辺志保)ヤバいっすね。

(中略)

(渡辺志保)それで今日もオープニングチューンをどの曲にしよう?って思っていて。で、トラヴィス・スコットが『K-POP』っていう曲を出したからトラヴィスの新曲にするかとも思ったんだけど。よく聞いて、アートワークも見て「うん? 待て待て……」と思って。『K-POP』っていうタイトルで、かつザ・ウィークエンドとバッドバニーが参加していて。当たり前だけど、すごいメンツじゃないですか。もうたぶん3人合わせたらさ、ストリーミングの再生回数とかも何百億回とか何兆回ぐらいのボリュームになるんだろうし。グラミーのトロフィーもいくつになるのかしら?っていう感じだから、ヒット間違いなしっていう感じではあるんですけれども。まず、その『K-POP』っていうタイトルも曲を聞いてリリックを読んでいただければすぐわかるとは思うんですけれども。

これは別に韓国のポップス、いわゆる普段我々が使ってる意味でのK-POPではなくてですね、「ケタミン入りのロリポップ」っていう。「最悪じゃん。最悪な形でK-POPをレプリゼントしてるやん!」みたいな感じの用法なんですよね。この今回はね。かつ、アートワークがそのケタミン入りのキャンディ、ロリポップを模したアートワークになっていて。で、ケタミンというものは各自、調べていただければと思うんですけれども。まあまあ……っていうような代物ですよね。

そのケタミン入りのロリポップを模したアートワークなんだけど、背景が白で、キャンディが赤で。だから私はこれを見て日本の国旗を想像したのね。で、タイトルが『K-POP』でちょっと日本の国旗みたいなケタミン入りのロリポップがジャケ写になってるなと思って。それって、私はなんですが。本当に私個人の意見なんですけど。私はあまりいい気持ちがしなかったのね。ということよ。

「ケタミン入りロリポップ」+日の丸のようなジャケ写

K-POP [Explicit]
Cactus Jack/Epic

(渡辺志保)それで「えっ、偶然じゃない?」っていう方もいらっしゃると思うし。「そんな意図はしてないと思うよ」っていう方もいらっしゃるかもしれないけれども。まあK-POP……っていうか、韓国と日本は隣の位置関係にはあるけれども、違う国でありますし。

そこをわざわざ『K-POP』というタイトルの楽曲で日本の国旗にも見えるアートワークを使うのはどうなの?って思ったし。しかも『K-POP』っていうのをちょっと皮肉というか、揶揄するというか。あまりポジティブな意味で使っていない曲にはなりますので。なんかちょっとモヤモヤッとしていて。端的に言うと、私はこれはいわゆるカルチュラル・アプロプリエーション、文化の盗用的な問題なのではと思ったんだけど。

まだそんな、めっちゃ「キャンセルしろ!」みたいなことにはなってはないと思うし。私も細かくそのSNSのリアクションを調べているわけではないんですけれども。ざっと調べたら、ロサンゼルスタイムズだったかな? LAタイムズのニュース記事の中に「これは特にコリアンのリスナーからは『カルチュラル・アプロプリエーションなのでは?』という声が上がってる」みたいな1文を記事の中に盛り込んでいらっしゃって。

あとはちょっと問題かなと思うのはトラヴィスのラップのパートに「Tsunami(津波)」っていうリリックのワードが入っている。まあ、津波というのも本当に難しいなと思うんだけど。ガンナとかもそうですけど、結構アメリカのヒップホップのスラングって「Drip」とかもそうですけど。「水が滴る」とか「大洪水」みたいなのがすごいクールな意味で使われるんですよね。「俺の手首から水が滴り落ちていて、腕時計がギラギラと輝いてるぜ」とか、そういう描写がすごく多くて。それに乗じてというか、それにヒントを得て、同じような表現をしている日本人のラッパーの方もたくさんいると思うんだけど。

でもそこで「津波」っていうワードが輸入してきた日本語みたいな感じで、津波は津波のままで、スラング的に使われることがラップの歌詞でも多い。で、それが今回もトラヴィスのこの『K-POP』の中でも使われている。で、私もだから「津波っていう言葉、ラッパーも好きだよね」とか思いながら、前までも聞いていたし。かつ、韓国と日本を混同してるというか、アジア一緒くた問題みたいなのも私の中であって。「アメリカの人からしてみれば全部一緒に見えちゃうよね」っていう気持ちもありましたが……でも、それが結構もう積み重なって。私個人の中ではね。「もうそろそろ、ちょっと学んでくれ」みたいな。

で、もっと言うとたとえば攻撃的な、いい意味でアグレッシブな意味として、たとえば「長崎・広島」みたいな言葉が使われることも多いし。そういうの全部ひっくるめて、ちょっともううんざりだなって個人的には思っていたんですよね。そこに来て、このトラヴィス・スコットの『K-POP』が出てきたから結構……これは本当に繰り返すけど、私個人の感情なんですけど。「まだそういう感じなのか?」みたいな。

で、もうちょっとアジアを……トラヴィスさん、きっと日本のファッションブランドとかもよく着用されていると思うんですけども。ファッションが好きなのは非常に嬉しいけれども、もうちょっとその裏側というか、その背景というか。日本がどんな国なのか。韓国がどういう国なのかっていうことに注意が向けられてもいいんじゃないかなと思いましたし。

アートワークとか、本人がどこまで関与してるか知らないけれども。まあ、もちろんインターナショナルに活動している、活躍しているトラヴィスとそのチームですから。誰も何もNGを……「これ、ちょっとやばくない?」とか言う人はいなかったのかなとか思って。なんか、この『K-POP』とそのアートワークを巡って、私も何人かの方と週末から今日にかけてやり取りしたんですけども。なんか、なかなか難しいなと思いましたね。なんか、私もアメリカのヒップホップのカルチャーとか歴史を非常にリスペクトしているからこそ、ちょっと寂しいなという気持ちになりました。はい。

(DJ YANATAKE)なかなかね、たとえば前日に「出ますよ」っていうのが発表されて。俺もトラヴィスのメルマガを取ってるんで、すぐにわかったんです。まあジャケとかも見て。で、「えっ、タイトル、『K-POP』?」とも、たしかに思ったけど。とにかくそれよりもバッドバニーとウィークエンドとやるんだ、みたいな。もうとにかくアルバム『Utopia』が今週の金曜日、28日に出るんで。それに向けて最初のシングルっていうのでワーッと盛り上がって。

もうリリース前から、「どんな曲なんだろう?」みたいな感じで。ちょうどWREPっていうラジオの方で俺が生放送をやってたのよ。で、生放送中にリリースされたの。それで、じゃあもう注目曲ってことで、これをかけて。絶対に盛り上がるからこれから押していこうみたいな感じで最初、やっていたんだけど。週末に「トラヴィス、出たね!」って盛り上がってる組と、志保みたいな意見の人たちが俺のタイムラインの中でもあって。

俺もいっぱい調べたんですよね。で、志保が言うのもすごくわかるし。でも、ひょっとしたらその偶然が重なっちゃっただけで、別にそういう深い意味はないのかもしれないし。わからないぐらいの状態ではあるが……ただ、そういう風に捉えちゃう人もいるっていうのは事実なわけで。彼が作ったものがね。なので、一旦ちょっとセンシティブな話にも発展しかねないので。WREPの方でもう1回、めっちゃ押し曲にするのはやめたんですよね。

(渡辺志保)ああ、そうなんですね。

WREPの押し曲にするのは一旦見送る

(DJ YANATAKE)そうそう。ちょっとまだ、動向とかも見ていかなきゃいけないし……っていう段階ではあるんだけど。まあね、たしかに言うようにアジアンヘイトの問題もありますし。なんか、ねえ。今、日本にいる我々にそういう風に捉えられてしまいかねないような曲を無理くりプッシュする必要もないかなっていう結論に俺の中では一旦、達して。今、そういう風にしてるんですけど。でも、なんていうの? またアルバム全体を聞いてね、なんかいろいろ意見も変わるかもしれませんし。ちょっとまだ、もう少し見守っていきたいなという感じで。

(渡辺志保)そうですよね。なんか、私は常に結構、文脈を大事にするとか、背景をちゃんと調べるみたいなところに注力しているからこそ、今回のこの作品はちょっと残念だったなという気持ちでございますね。

<書き起こしおわり>

渡辺志保とDJ YANATAKE Travis Scott『UTOPIA』の第一印象を語る
渡辺志保さんとDJ YANATAKEさんが2023年7月31日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でトラヴィス・スコットの最新アルバム『UTOPIA』についてトーク。その第一印象を話していました。
タイトルとURLをコピーしました