吉田豪さんが2023年7月17日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でアジャ・コングさんについてトーク。アジャさんが女子プロレス界に与えた大きな影響について話していました。
(熊崎風斗)ササダンゴさんは今日、アジャ・コングさんについて聞きたいということはCM前、お話されてましたけども。ササダンゴさんはアジャ・コングさんにお会いしたことはありますか?
(ササダンゴ・マシン)あの、DDTプロレスとか、そういったところにも出場なさっているので。会場で会うと、ご挨拶とかはするんですけども。ちゃんとお話をしたこととかは、ないんですよ。
(吉田豪)大ベテランですからね。
(ササダンゴ・マシン)そんな、おいそれとは近づけない方なんで。レジェンドですから。なかなかやっぱりコミュニケーション、取れないんですよ。
(熊崎風斗)ですからそこも、今日は豪さんにありとあらゆるアジャ・コングさんについての情報を根掘り葉掘り、伺っていこうっていうことですね?
(ササダンゴ・マシン)はい。その通りです!
(熊崎風斗)じゃあ、豪さんに伺っていきたいんですが……。
(吉田豪)そうですね。僕は女子プロの仕事は結構長くやってるので。ただ僕、アジャさんって実は、あのぐらいのキャリアの人だとだいたい仕事をしてるんですけど。アジャさんは数少ない、接点のない人なんですよ。
(ササダンゴ・マシン)だから豪さんのインタビューとか、その女子プロ本の中でもあんまりアジャさんのそういう伝説とかって、聞いたことないから。
(吉田豪)そうですね。そのへんも含めてたっぷり、お話をしていこうと思うんですけども。まず、基本情報としてアジャ・コングさん。1970年9月生まれ。僕と全く同じで。
(ササダンゴ・マシン)じゃあ年齢でいうと、52歳? すげえコンディションいいですね!
(吉田豪)そうなんですよ。あのベテランで、全盛期と全くシルエットが変わってない人って、いないんですよ。
(ササダンゴ・マシン)たしかに。シルエット、変わってないですね!
(吉田豪)アジャ・コングのままなんですよ。
(ササダンゴ・マシン)たしかに。見た目でいつの年代か、全然わかんないですよ。
(吉田豪)そうなんですよ。メイクがだんだん時期によって変わるとか、衣装が変えるとか、そんなにないんですよね。で、中学を卒業後、全日本女子プロレス、いわゆる全女に入門して、1986年にデビューしてるから、キャリアがとんでもないんですよ。
(ササダンゴ・マシン)そうか。もう30年どころじゃないんですね。
(吉田豪)はい。で、ちょっと全般的な話になるんですけど。「日本のプロレスを変えたのは武藤敬司さんだ」っていう風によく言われているんですね。昭和のプロレス的なものからもうちょっとアメリカナイズドされた、ショーアップされたものに作り変えたっていう。遺恨だの喧嘩だのが日常だった昭和プロレスをさわやかでスポーティーなものに変えたっていう。で、それを女子プロレスでやったのがアジャさんなんじゃないか?っていうことで。
(ササダンゴ・マシン)へー! ちょっとプロレスが現代的になったというか。本当に殴る蹴るが中心のそういうプロレスから、ちょっと……たぶん情報量が多いプロレスになりましたよね。
日本の女子プロレスを変えたアジャ・コング
(吉田豪)で、全女っていうのがかなり特殊な団体で。前にここでも軽く話したことがあるんですけど。世界で唯一の勝敗で賭けが成立するプロレス団体だったっていう。
(ササダンゴ・マシン)奥が深い言い回しですね!
(吉田豪)あえて詳細は言わないですけども(笑)。
(ササダンゴ・マシン)なるほど、上手な表現! 唯一、賭けが成立する団体(笑)。
(吉田豪)で、運営が賭け事をやっていたという異常団体で。「俺はこいつに賭けるから」みたいなことが日常的に行われていたという。そういう無茶苦茶な試合がずっと行われていたんですよね。全女っていうのは。それを平成のプロレスに変えたのがアジャさんだったと思うんです。
(ササダンゴ・マシン)熊崎さんも全然、アジャ・コングさんのイメージって、全然あるでしょう?
(熊崎風斗)もちろんです。
(吉田豪)バラエティも相当出ている人ですし。
(熊崎風斗)もちろん、シルエットとか、あの雰囲気とか、どういうキャラクターかとかも。
(吉田豪)テレビに出てきて、一斗缶で人の頭を叩くっていう。
(ササダンゴ・マシン)それが35年間、変わってないってことなんですね。
(吉田豪)元々、時期でいうと89年に全女の長与千種さんが引退して。90年にはライオネス飛鳥さんが引退して。で、クラッシュギャルズが消滅して、女子プロレス界がちょうど冬短い時代が到来するんですね。正直、もういろんなことを仕掛けても鳴かず飛ばずというか。北斗晶さんがみなみ鈴香さんと組んでマリンウルフっていうのを売り出してもぱっとせず。そんな感じでなんか、ミントシャワーズとかいろんな新たなタッグチームを売り出そうとするんですけど、全てが不発に終わっている時に、アジャさんとかがまず、光り始めるんですよね。
(ササダンゴ・マシン)堀田祐美子さんとか、神取忍さんよりはアジャさん、ちょっと上なんですか?
(吉田豪)そうですね。
(ササダンゴ・マシン)神取さんよりも上?
(吉田豪)同じ時期ですかね。なので、アジャさんがなんで脚光を浴び始めたか?っていうと、90年に発売された日本初のルチャリブレ団体ユニバーサル・プロレスリングっていうのがあって。全女が練習場所を提供したりした関係で、旗揚げ戦から全女の選手が参戦することになって。で、正直アジャさんはいわゆるスター候補的な流れから外れていて。要は貸し出しても大丈夫な枠としてそっちに貸し出されて……。
(ササダンゴ・マシン)じゃあ、スター選手は出てなかったんですか。当時、ユニバーサルは。
(吉田豪)そうなんですよ。
(ササダンゴ・マシン)で、若手が出てるというか。
(吉田豪)まあ言い方は悪いですけど、あぶれた選手がそっちに回された結果、怖い先輩の目が届かないとこで伸び伸びと試合をして。なおかつ、ルチャリブレ団体だからお客さんも盛り上げ上手な人たちとかがいて。ヤジとかを飛ばしながら一緒に盛り上げていった結果、アジャさんとかバイソン木村さんとかがそこでものすごい脚光を浴びたというか、話題になって。で、これは面白い。いい試合もするっていうことで、そういう男性ファンを全女の会場に連れてくることに成功するんですよね。
(ササダンゴ・マシン)なるほど。結構昔の全女は女性ファン。いわゆる黄色い歓声が多かったんですけど。
(吉田豪)完全に女性ファンのみでキャーキャー騒いで。そういう人たちが後に選手になっていくっていう。そういうシステムができていたのが、いわゆるプロレスファンが会場に来るきっかけを作ったのがアジャさんで。
(ササダンゴ・マシン)当時はやっぱり、今のようなヒールレスラーというくくりだったんですか?
(吉田豪)そうですね。ただ、ヒールもいわゆるダンプさんのような凶器で大暴れするスタイルから、ブル中野さんが要は試合内容で見せるヒールにしようとしていた時期だったんで。
(ササダンゴ・マシン)なるほど。技で。
(吉田豪)で、それをやろうとしながら、まだちょっと模索中だった時期に、ヒール云々とかを超えた人気を掴んだのがアジャさんで。そこで、同じヒール軍だったのが、そこに溝ができていくんですよ。若い、男性のファンとか連れてきて。「ゴーゴー、バイソン!」とか「ウー、アジャ!」とか。そういう声援でいじるような感じが「お前はなめられているんじゃないか?」っていうことで、プロレス観の激突が始まって。そして、その2人の抗争がスタート。いわゆるリアルにもめていた者同士のバトルが始まっていく。
(ササダンゴ・マシン)中野さん、先輩ですよね?
(吉田豪)先輩です。中野さんも中卒で入ってきた人で。で、この2人の対決がまた男性プロレスファンとかにも届くような激しい試合だったんで、一気にファン層が変わっていく。
(ササダンゴ・マシン)でもこうなっていくと、逆に女性ファンが減りそうな流れでもありますよね?
(吉田豪)そうなんですよ。つまり、クラッシュギャルズとかを見て「こうなりたい」って憧れるのはあったけど、とんでもない肉体をした人たちが殺し合いをするようなのを見て「私もやりたい」ってなかなかならないじゃないですか。
(ササダンゴ・マシン)ねえ。完璧な、いわゆるモンスターバトルというか。
(吉田豪)もう別世界のものになっちゃっているっていう。
(ササダンゴ・マシン)たぶん今のデスマッチ団体も真っ青のハードコアなことをやっているわけですもんね?
(吉田豪)そうなんですよ。これがまた、異常団体・全女なんで。その2人の抗争を盛り上げるために何をやるか?っていうと、そのフロントの人たちが「あいつは裏でこんな悪口を言ってたぞ」っていう風に焚き付けあって。
(ササダンゴ・マシン)悪っ!
(吉田豪)それで、本気で両者を揉めさせて、試合がどんどんエスカレートしていくように持っていくんですよ。そして、あの金網デスマッチで決着つけるぞ、みたいな展開になっていくっていう。
(ササダンゴ・マシン)金網デスマッチって、あのブル中野の代表作の。
(吉田豪)ですね。あの金網最上段からギロチンドロップを。
(ササダンゴ・マシン)5mぐらいの高さから、ギロチンドロップって足を伸ばして、お尻から落ちていくというか。
(吉田豪)このへんもだから、何年も経って裏話がどんどん聞こててくるようになってきて。それが全部怖いんですよ。そのショックで……飛んで、着地した瞬間にブルさんは失禁していたとか。
(ササダンゴ・マシン)ああ、そのショックで失禁ってあるんですか?
伝説の金網最上段かのギロチンドロップ
(吉田豪)あるんですよ。汗でみんな、気づいてなかったけども。実はあれ、失禁をしているとか。さらには、もう金網デスマッチの日程が決まっているじゃないですか。決まってしまっているから、実はアジャさん、その直前に盲腸の手術して入院していたんですよ。入院していたのに、要はフロントの人たちが病院まで来て。「お前、日程は決まってるんだ。早く退院しろ」みたいな感じで。外出許可をもらって試合をして。で、試合中に傷が開いて、お腹から大流血みたいな、ありえないことを……。
(ササダンゴ・マシン)当然、額からも血を流し、さらにお腹からも血を流し……。
(吉田豪)なかなかないですよ。
(ササダンゴ・マシン)見たことないですよ。お腹からの流血なんて! とんでもないじゃないですか。
(吉田豪)恐ろしいことをやっていたのがアジャさんなんです。
(ササダンゴ・マシン)で、その東京ドームの対抗戦とかも、やってましたもんね?
(吉田豪)ただ、その対抗戦の流れになるぐらいになると、要は男性プロファンを引きずり込んで、そういう風に流れを変えた人なんだけど。その輪には、あんまり入ってなかったんですよね。要は、そこだと北斗晶さんみたいな他団体も潰しに行くような、殺伐とした全女らしいことをする人たちが脚光を浴びて。で、アジャさんはそっち側ではなかったから、同期の人たちといい試合をするっていう。
(ササダンゴ・マシン)そのへんも武藤敬司さんっぽいところ、あるんですね。
(吉田豪)そう。ブルさんとはそういう洒落にならなない試合をしていたけども。そこのへんからモードチェンジが始まって。
(ササダンゴ・マシン)へー! 今のところ、めちゃめちゃいい話が多くて。かっこいいなって。
(熊崎風斗)ササダンゴさん、対戦するんですもんね?