宇多丸『鳥人戦隊ジェットマン』と『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を語る

宇多丸『鳥人戦隊ジェットマン』と『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2022年8月15日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でムービーウォッチメンの課題作品『暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー』についてトーク。脚本家の井上敏樹さんの作品として未見だった『鳥人戦隊ジェットマン』を全話見て衝撃を受けたという話をしていました。

(宇多丸)ちょっと軽めの話と言いましょうか。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』というね、ニチアサの戦隊物。非常に変わったというのかな? 今回はもう今までの定石みたいなのを全部外していくというか。めちゃくちゃ挑戦的なシリーズになっていて。実際、すごい人気もあるみたいで。結構毎回、最新話があるたびにいろんなネットとかでもすごい話題になっているような作品になっていて。で、今週のムービーウォッチメンがその『ドンブラザーズ』の劇場版になったんだけども。

あの、知っていたけど、今回の劇場版『ドンブラザーズ』って『仮面ライダーリバイス』の方の劇場版との二本立ての、言っちゃえば軽い方というか。昔の本当に語義通りの意味でいうB級作品。「B級作品」っていうのは作品の質のことを言ってるんじゃなくて。メインの作品の添え物として作られた、ちょっと尺も短めな作品のことを元々、B級作品って言っているんですけども。そういう意味では、本来の意味でのB級作品なんですよ。

なんで、ただ「こんな短いんだ。30分なんだ」と思って。だから普通のテレビ尺みたいな。だから、終わってエンドロールが流れていく時に最初に俺の脳裏に浮かんだのは、ムービーウォッチメンですよ? だって先週とか、『ジュラシック・ワールド』とかやってるわけじゃん? だからこうやってエンドロールを見ながら「これ、どうしよう?」っていう(笑)。

しかも30分な上に、なんかすごい潔い作りで。テレビのメインシリーズと絡んできたりするとか、あとは新展開とか。とにかくこれを見てないと困るようなものが一切入ってないのね。見なくても大丈夫っていう。で、なおかつ、これはドンブラのいいところでもあるんだけど。コメディタッチですごい笑える作品なんだけど。とにかく楽しいし、多幸感にもあふれているんだけど。もう別になんにもないみたいな(笑)。

(熊崎風斗)いい意味でね。

(宇多丸)いい意味で。だからそれこそ、思い切りがいいのよ。だから新メカ、新キャラ、そういうのも出て来ないし。だから本当にドンブラの魅力を語るっていうか、なんでこんなに夢中になっているのか、みたいな話をまずはするべきだろうなって。戦隊物の中でも今回は非常に変わってるんで。いきなり見たら面食らうこともいっぱいあるだろうし、ということで。で、やっぱり切り口としては、井上敏樹さんという脚本家の方がいて。特撮にはいっぱい関わってきてる方なんですけど。その方が久々にメインライターとしてニチアサでドスンとやる。しかも、その戦隊物は結構久しぶりなんですね。

僕はその『仮面ライダーアギト』という作品がとにかく全ヒーロー物の中で一番、いまだに好きだし、評価してるし。もう最終話とか、何回繰り返して見たかわかんないぐらいっていう。で、『555』もすごい好きだし、みたいな。井上さんの作品がすごい好きなんですけど。戦隊物はっていうと僕、戦隊は仮面ライダーに対して……まあ仮面ライダーも今はそんなに続けてみたりはしていなくて。たとえば『リバイス』とかはあんまりちゃんと見てなかったから。だから『リバイス』評はなかなか難しい感じで。

ただ、『リバイス』の方は坂本浩一さんという、私がずっと注目し続けてきた特撮を中心に日本に……彼はアメリカでずっと活動してきた方なんで。アクションの革新をずっとここ10年、起こしてきた方なんで。番組にもお呼びしてインタビューをしたこととかもあるんですけど。坂本浩一作品としての……っていう部分はあるんですね。しかも坂本浩一 meets ケイン・コスギなんで。これはなかなか、見どころがある今回の劇場版なんですけど。

でも、戦隊は弱かったんですね。なんで、前に井上さんが戦隊物を手がけたのって、1991年の『鳥人戦隊ジェットマン』以来なんですよ。だいぶ久しぶりなんですよ。で、しかもその『ジェットマン』という作品もそこまでちょっと戦隊物が視聴率とかがその頃、マンネリ化も進んできて。90年代になって。だいぶ低迷してる時に、やっぱり当時としては革命的作品として作られた一作という。だからやっぱりちょっと潮目を変える時に井上さんっていうのはあるのかな、みたいな感じで。

でね、これは本当に恥ずかしいながらなんです。そんな「井上先生のファンだ、ファンだ」なんて言ってるのに、僕は戦隊物をちゃんと見てなかったせいで、やっぱり39話とかあるから、正直ごめんなさい。『ジェットマン』を今まで見てなかったです。でも、すごい名作だとは聞いてたんですよ。「井上作品のエッセンスが全部入ってるよ」とも言われていて。で、実はもう頑張って、まとめて見てですね。

(熊崎風斗)おお、30何話を?

(宇多丸)そうなんですよ。で、もう最終話で泣き散らかしまして。本当にこれはすごい! 90年代の時点でもちろん、その時はすごくたとえばね、複雑な恋愛模様が軸に置かれてたりして。要は、変身後というよりは変身前の青年たちの物語でもあるんだけど。あと同時に敵方にも……要するに、全員のキャラが立ってるっていうかな? 全員に正しさと、全員に欠点があるみたいな。なんかそういう井上さんらしい群像劇っていうのの原点でもあるし。

井上敏樹作品のエッセンスが全部入ってる作品

(宇多丸)あのね、まず……これ、ちょっと評が始まっちゃいそうで危ないけど。「ああ、そうか!」って思ったのは「すぐに集まらない」っていう。最初にもう5人が揃った状態じゃないっていうところももう、『ジェットマン』でやってるんだっていう。ドンブラはさらに長いけど。というか、今もちゃんとしてるとは言いがたいんだけど。やっぱりその『ジェットマン』でもブラック。黒の人と合流するのが遅いんですよ。

で、彼はちょっとその一匹狼で。もうそもそも嫌がっている。で、その主人公のレッドの天堂竜っていうのが、なんていうか、すごくまっすぐな正義漢すぎて。ちょっとそれが行き過ぎてて迷惑な感じみたいのは今回の、たとえばドンモモタロウの桃井タロウの、ものすごいできる人なんだけど。たとえば嘘がつけなさすぎて、もう迷惑な領域に入っているみたいな。というか、嘘をつくと死ぬとか。文字通り、死ぬんですよ(笑)。

とか、そういうまっすぐすぎて変なことになってる人みたいのも、たしかに井上作品にはよく出てきて。それがすごくうまくできてる人に対して、アウトローである結城凱っていうね、ブラック。彼とのそのね……今回の劇場版『ドンブラザーズ』で実は『ジェットマン』でホワイトスワンをやっていた鹿鳴館香役の岸田里佳さんがカメオ出演しているんですよ。

(熊崎風斗)ああ、そうなんですね。へー!

(宇多丸)それもあって、「もうこれは見ないと」って思って見たんですけど。そのね、香を中心とした三角関係というか、何角関係というか。そこにまた、さらに敵方のキャラクターとかも絡んできたりして。またロボットのキャラクターとかが切ないんだよね。すごく優しくしようとする感情はあるんだけど、でもロボットとして扱われるみたいな悲しみがあったりとか。でも、やっぱり戦隊物の醍醐味として、銀河テレビ小説とか大河ドラマとかと同じで。やっぱり1年間付き合っていくからこそ、役者たちもずっと演技とかもどんどんどんどん成長していくし。で、そいつの成長にずっと……だからリアルタイムで見ていたらね、ずっとさらに思い入れる。

僕なんか一気見したのに、その最終回の展開。またね、その最終回の1個前というか、最終回のちょっと手前で、メインの話は終わって。最後に日常の描写がある。これ、僕は『アギト』の一番好きなところなんですよ。もう大きい話は終わって。最後の3話はちょっとと日常寄りの話になるんですよ。っていう構図はたとえば『超光戦士シャンゼリオン』とか。これも井上さんの代表作なんだけど。そこにもある構図なんだけど。

最終話だけちょっと実は違う形になっている。で、『ジェットマン』も最終話の最後のエピローグがあって。これがね、これ、子供が見てたら……番組ディレクター、プロデューサーの簑和田くんがリアルタイム世代で。やっぱりあの終わり方、当時の子供はすごいショックを受けたんだって。

当時の子供たちにショックを与えた最終回

(宇多丸)でもね、大人の感覚で言うとね、めちゃくちゃ悲しいというか、切ない終わり方なんだけど、すごく品がいいの。ギャーギャー泣いたり騒いだりするんじゃなくてね、品がいいの。もうね、でもそのやっぱりブラックの凱っていう、一匹狼で生きてきたけど仲間たちを通じて絆を知った男。しかも、彼は切ないんだな。その……もう見ていて、「ああーっ! 凱! あっ、あれ? 来た……ああっ!」って。で、その赤の竜といろいろとあったんですよ。2人はいろいろあったんだけども。お互い、隣に座って。「ありがとうな。来てくれて」みたいな、そんな話をしていて。

で、お互い「ありがとう」って言って。「みんな、こっちで記念撮影しよう!」「カシャッ」ってね。で、こっち側でみんながワーッてやってる時に、こっちの凱は……とかね。もうね、だからすいません。91年の作品で。井上さん、すいません。「宇多丸の野郎、そんなところが半可通なんだ」って言われても、それは甘んじて受け入れますよ。ようやく91年の『ジェットマン』を見て「これは名作だ!」って。もう、とにかくしばらく泣きじゃくってましたね。

(熊崎風斗)今、見るためには何で見れるんですか?

(宇多丸)Huluかな。ちょっとね、今だいぶ話しちゃいましたけど。同じ話をする部分もありますけども。とにかく『ドンブラザーズ』は30分しかない上に、本当にバカな……これ、褒めてるんですけど。本当にバカな内容で(笑)。これ、どうしようかな?って思ったんで。ちなみに「ラストの衝撃」という意味では『シャンゼリオン』のラストも相当なもんですよね。というような、井上敏樹脚本の作品を見ていますっていうことで。『ドンブラザーズ』、これは褒めてます。本当にくだらなかったです。今年、一番笑いました(笑)。

<書き起こしおわり>

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