町山智浩『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を語る

宇多丸『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を絶賛する こねくと

町山智浩さんが2023年6月13日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』について話していました。

(石山蓮華)今日、番組の中でリスナーの方にアンケートを取ったんですが。町山さんは映画を見る時に字幕と吹き替え、どちらがお好きですか?

(町山智浩)難しいですね。

(石山蓮華)難しいですか?

(町山智浩)すごい難しいですね。字幕だと、俳優の本当の声が聞こえるんですけど。吹き替えだと、画面に集中できるんですよね。

(石山蓮華)そうなんですよね!

(町山智浩)難しいなー。ただ、作品名セリフは実は吹き替えの方が元の英語に忠実ですね。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。

(石山蓮華)なんか字幕だと字数制限があるって聞いたことがあります。

(町山智浩)そうなんですよ。ただ、やっぱり元の英語でなんて言ってるのかっていうのは聞こえないのでね。

(でか美ちゃん)そうか。字幕も翻訳する方の解釈っていうのが入りますもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。ろくでもない字幕翻訳者もいますんでね。

(石山蓮華)フフフ(笑)。ちょっと深掘りしないで次に行きましょうか(笑)。そして町山さん、今日は?

(町山智浩)はい。今日はね、『スパイダーマン』の話をします。はい、音楽、どうぞ! (曲に合わせて)『スパイダーマン』!

(でか美ちゃん)あ、町山さん、ノリノリだ(笑)。

(町山智浩)やすらぎ捨てて、すべてを捨てて♪

(でか美ちゃん)アハハハハハハハハッ! 町山さんの歌声って超レアじゃないですか? 今、めっちゃ嬉しかった(笑)。

(町山智浩)これはね、本当に泣ける歌なんですけどね。この『スパイダーマン』の歌はご存知んですか?

(でか美ちゃん)なんかで聞いたことあるかも、ぐらいの。思い出がそこにあるとかでは正直、ないですね。

(石山蓮華)石山はこの曲、初めて聞きました。

(町山智浩)ですよね。これ、1978年の、日本のテレビ版の『スパイダーマン』の主題歌なんですよ。

(でか美ちゃん)もう、めちゃめちゃ初歩の初歩みたいな感想を言いますけど。日本版の『スパイダーマン』があったんだとすら、思いました。

(町山智浩)あったんです。元々、最初の日本版『スパイダーマン』は僕が小学校の頃に、1970年ですけれども。少年マガジンに連載されていた池上遼一さん版『スパイダーマン』が最初の日本版『スパイダーマン』ですね。池上遼一さんは『男組』などの作品で知られている劇画家なんですけど。マーベルコミックスっていうのが最初に『スパイダーマン』を1962年に……僕と同い年なんですが。連載を始めて。それの日本版がその8年後。だから僕が8歳だったね。その時に少年マガジンで連載が始まって。『タイガーマスク』とか『バロム・1』とかと一緒に連載されていたんですよ。

(でか美ちゃん)そうなんですね。全然知らなかった。

(町山智浩)だから僕の世代、60歳ぐらいの人たちは少年マガジンで『スパイダーマン』を読んでた世代なんですね。

(石山蓮華)へー! 漫画でなんですか?

池上遼一版『スパイダーマン』世代の町山智浩

(町山智浩)日本の漫画雑誌でね。で、主人公は、原作はね、ピーター・パーカーというニューヨークに住む貧乏な高校生が蜘蛛に噛まれてスパイダーマンになるんですけれども。日本版では東京に住んでいる小森ユウくんという高校生がスパイダーマンになるんですよ。で、78年のTV版では主人公は大人でですね。山城拓也という人が主人公で。スパイダーマンって実はいろいろいるんですよ。

(でか美ちゃん)ねえ。なんか私はやっぱりアメリカの、マーベルとこかで作られてるイメージがすごく強くて。いろいろあったんですね。高校生が主人公とかね、サラリーマンとか。

(町山智浩)元々、高校生が主人公なんですけどね。一番最初のオリジナルはね、ピーター・パーカーという。で、今日ご紹介する『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』というシリーズは、そのピーター・パーカーのオリジナルとはまた違うシリーズなんですよ。

(石山蓮華)えっ、また違うんですか?

(町山智浩)違うんですよ。ピーター・パーカーっていうのは、おそらくユダヤ系の少年なんですけど。白人なんですね。で、こっちの『スパイダーバース』シリーズでは主人公は、これはお母さんがプエルトリコ系で、お父さんがアフリカ系……黒人ですね。の、高校生のマイルズくんというのが主人公なんですよ。これは後から始まったシリーズなんですね。これね、後から始まった理由もいろいろあって。ピーター・パーカーがどんどん、本当に歳を取っていって、結婚して、スパイダーマンになっていろいろ苦労するっていう話になって、行きづまっちゃったんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そんなにちゃんと物語の中で歳をしっかり重ねていったんですね?

(町山智浩)そうなんですよ。で、スパイダーマンだから結婚しているんのに、要するに夜な夜な部屋を抜け出して悪者退治をしているもんだから、夫婦生活がうまくいかなくなるとか、そういう展開になって。

(でか美ちゃん)そうか。そういう問題が出てくるんだ。

(石山蓮華)家庭に影響、ありそうですもんね。

(町山智浩)そう。で、ピーター・パーカーがおっさんになっちゃったから、その若者版として、しかも今現在、ニューヨークで人口が多いのはプエルトリコ系の人とか、アフリカ系の人が多いですから。その人たちの話にして、マイルズくん版を新しく始めたんですね。『スパイダーマン』は。で、『スパイダーマン』シリーズって映画、見たことあります?

(石山蓮華)あります。で、実写でどれだったかっていうのが……なんか正直、たくさんあって。でも、なんかラブストーリーでよかったな、みたいな。

(町山智浩)全部ラブストーリーなんですよね。なんか、ヒントないですか?

(石山蓮華)20年ぐらい前だったと思うんですよ。20年? 10年前?

(町山智浩)20年ぐらいだと、それは最初のトビー・マグワイアくんが主人公のピーター・パーカー物だと思うんですよ。3回、実写版があって。主人公を変えて作り直されてるんですよ。だから、すごくたくさんあって。

(でか美ちゃん)そうですよね。こんなにあるんだっていうこと自体がびっくりだし。

(町山智浩)でしょう? すごくいっぱいあるわけです。たとえばインドにもインド版『スパイダーマン』ってあるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、もういろんな、世界中で愛されてるんですね?

(町山智浩)そうなんです。インドで出版されてました。『スパイダーマン・インディア』っていうのがね。で、主人公の名前がね、パヴィトル・プラパカールっていう、すごい名前でね。

(でか美ちゃん)なんかね、ニューヨークが舞台だからスパイダーマンとして……。

(石山蓮華)高い建物をビュンビュン飛んでいくみたいなね。

(でか美ちゃん)インドでは、どうなるんだろう?

(町山智浩)いや、インドはね、ムンバイとかね、すごい大都会があって。高層ビルがいっぱいあるんで。インドはスパイダーマン、活躍できるんですよ。

(でか美ちゃん)そうか。いろんな国の見てみたいけど、今回はアニメーションということですね?

(町山智浩)そうなんですが、この『スパイダーバース』シリーズっていうこのアニメーションのシリーズは、『スパイダーバース』というのはいわゆる、そのマルチバースと言われている多元宇宙というものなんですね。で、今言ったいろんなスパイダーマンがいるわけじゃないですか。そのいろんなスパイダーマンが全部、出てくるんです。この『スパイダーバース』シリーズは。

(でか美ちゃん)超楽しいじゃないですか! そんなの。

(町山智浩)楽しいんですけど、ものすごいややこしくて。で、これが2作目なんですよ。『スパイダーバース』シリーズの。1作目『スパイダーマン:スパイダーバース(Spider-Man: Into the Spider-Verse)』っていう、「スパイダーバースに入る」というタイトルで。今回のが2作目で、実は3部作で。今回公開されるのが真ん中の作品です。もうすぐ、6月16日に公開ですね。

(でか美ちゃん)じゃあ、次作もあるという前提で見に行くというか。

(町山智浩)そうです。3部作ですから、その2作目なんですけど。で、1作目ではそのマイルスくんの住んでいる世界に他の世界のスパイダーマンが入ってきちゃうっていう話だったんですよ。で、たとえば豚のスパイダーマンがいたりするんですよ。豚が蜘蛛に噛まれてスパイダーマンになっちゃったっていう、スパイダー豚が出てきたりするんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、蹄から糸を出すってことですか?

(町山智浩)いや、どこから出すんだろう? ちょっとそこは集中してなかったんで、わからないですけども(笑)。

(でか美ちゃん)でもスパイダーマンファンにはたまらないですよね?

(町山智浩)で、それはその豚くんはアメリカのバックス・バニーとかね、要するにミッキーマウスみたいな漫画があるんですけども。あのタッチで書かれたスパイダー豚なんですよ。絵柄が違うんです。

(でか美ちゃん)へー! でもなんかそれって、違和感がありそうな気がしませんか?

違う絵柄のスパイダーマンがひとつの世界に集まる

(町山智浩)違和感、ものすごくあります。絵柄が違う人たちがひとつの世界に集まっちゃうんですよ。だからさっき言った……その『スパイダーバース』シリーズのマイルズくんの世界っていうのは、最近のアメリカのアメコミの絵の塗り方で書かれた世界なんですよ。どういうものか?っていうと、昔のアメコミってのはなんとなく印象であると思うんですけど。すごい太い主線というもので輪郭線を書かれていて。その輪郭線と輪郭線の間を色が塗られているっていうのが昔のアメコミの絵なんですけども。90年代終わりぐらいから、アメコミからは輪郭線がなくなっていったんですよ。

だから要するに油絵みたいなタッチになっていったんですけど。そっちの絵なんですね。この『スパイダーバース』シリーズのマイルズくんの絵は。で、そこにバックスバニーみたいな、いわゆる昔風なアメリカのアニメのキャラクターが入ってきちゃうんですよ。で、それだけじゃなくて日本のアニメ、あるじゃないですか。美少女アニメ系のやつ。それも入ってきちゃうんですよ。日本アニメ系のスパイダーマンの女の子も出てくるんですよ。

(石山蓮華)ええっ! 美少女スパイダーマンっていうことですか?

(町山智浩)そうなんですよ。「絵柄、違うじゃん!」っていう。絵柄が違う人たちが一斉に同じ場所に集まって話をしてるというね。

(でか美ちゃん)でもマルチバースだから、そういうことなのか。

(町山智浩)そうなんですよ。そして、描いた人が違うじゃんっていう感じなんですよ。

(でか美ちゃん)実際に違うんですか?

(町山智浩)実際に違う人たち……ものすごいたくさんのアニメーターの人たちに一斉に発注して作ってるんですね。この『スパイダーバース』シリーズは。で、1作目が当たって、アカデミー賞も取りましたんで。それで今回の『アクロス・ザ・スパイダーバース』、2作目ではもっとひどくしようということで、240人、スパイダーマンが出ます! ものすごくちっちゃく映っている人もいるんですけど。

(でか美ちゃん)じゃあ、これはファンからしたら、マニアからしたら何回も見に行って、見つけたいですね。240人を。

(町山智浩)そうそう。一瞬でね、通り過ぎるからわかんないんですよ。だから何回も見なきゃなんなくて。そこにちょっと一部、絵が送られてると思うんですけども。いろんなスパイダーマンがいるでしょう?

(でか美ちゃん)ねえ。資料をいただきましたけども。猫のスパイダーマンもいますね。かわいいんだ。

(町山智浩)猫だけじゃなくてね、馬とか、いろんなのがいますよ。馬スパイダーマンっていう、すごいのが出てきて。それで絵柄がね、たとえばこれ、全然絵柄が違うじゃないですか。それぞれのスパイダーマンのキャラクターが。描いている人が違うから(笑)。

(石山蓮華)なんか、余白を残している絵もあれば、すごく3Dでリアルな猫ちゃんっていう感じのもあるし。

(町山智浩)インド系のスパイダーマンの彼が出てくるのは、ムンバイとマンハッタンが合体したムーンバッタンっていう、インドかアメリカがわからないようなところでインド系のスパイダーマンが戦うんですけど。その時の背景は、きっちりと背景の絵の線を書いていない。手書きでラフに殴り書きしたみたいな背景なんですよ。これ、見るとわかるんですけど。だから全部背景も違うの。

(でか美ちゃん)これが作画の分だけあるってことですよね?

(町山智浩)そうなんです。で、左の下の方にねあるね、スパイダーパンクというキャラクターが出てくるんですけど。

(でか美ちゃん)スプレーアートのような?

(町山智浩)そうそう。

(石山蓮華)ギターを、エレキギターを抱えてますね?

(町山智浩)そうなんです。

(石山蓮華)しかも靴がブーツですね?

(町山智浩)ブーツなんです。安全靴ですね。これ、だから1970年代のロンドンパンクのスパイダーマンなんですよ。

(でか美ちゃん)これだけいっぱい出てくるんですね。画風も違って。

(町山智浩)で、このスパイダーパンクの絵ね、これはパンクファンだったらわかるというか。その頃のパンクのそのレコードとか同人誌っていうのは、コピー紙だったんですよ。昔、コピーマシンってあったでしょう? 光るやつ。ゼロックスとか。あれで作っていたんで。切り抜きとかして、コラージュして。スパイダーパンクはその絵柄になっていて。

(石山蓮華)ZINEっぽいってことですね?

(町山智浩)そうそう! よくわかりましたね! ZINEです。同人誌のことですね。アメリカとかイギリスでね。そのデザインになっているんで、他のスパイダーマンが3Dなのにスパイダーパンクだけは完全な切り抜きとコラージュなんですよ。で、印刷の網目とかも出ちゃってるんですよ。コピーの荒れとか。

(でか美ちゃん)絵柄が本当にいろいろあるから、それこそ最初に聞いた質問じゃないですけど。吹き替えの方が見やすいかもですね? もしかしたら。

(町山智浩)そうそうそう。字幕を読んでる暇はないですね。情報量がすごくて。

(でか美ちゃん)あと、超しょうもない質問していいですか? 私、蜘蛛が結構苦手なんですけど、見れると思います?

(町山智浩)アハハハハハハハハッ!

(石山蓮華)でか美ちゃん、蜘蛛が苦手なんですよね。

(町山智浩)すごいよね。ヒーローなのに蜘蛛っていうのがね、また斬新だったんですけど。そういう気持ち悪いところはないから、大丈夫ですよ。

(でか美ちゃん)よかった! これで見に行けます(笑)。

(町山智浩)でね、また敵がすごくて。敵はスポットっていう敵なんですけど。この彼は次元に穴を開けることができるんですよ。で、このスパイダーバースがいくつもあるところをもう自由自在に通り抜けていく敵なんですけども。このスポットのキャラクターの描き方がすごくて、未完成なんですよ。アニメーションなんだけど。未完成っていうのはね、コンピューターで絵を書いたことがある人だったらわかると思うんですけども、下絵を青い鉛筆で線を書くんですよ。コンピューターでアニメを書く時に。その鉛筆線とかが、残っているんです。

(石山蓮華)ええーっ!

(町山智浩)で、完全に色も塗ってなかったりして。適当な、未完成のまま、敵が襲ってくるんですよ。絵柄が。

(でか美ちゃん)たしかになんか、制作途中の3Dみたいなデザインですもんね。

未完成の絵のまま襲ってくる敵

(町山智浩)そうそう。下書きみたいなやつが襲ってくるっていう。すごいなと思って。だからこれ、ものすごく斬新で。ありとあらゆることをやっていて。あとね、グウェン・ステイシーというキャラクターがいまして。その人はピーター・パーカーの世界だと、ピーター・パーカーの恋人なんですけれども、死んじゃうんですよ。ところが、グウェン・ステイシーの世界というのがあって。そこでは逆にピーター・パーカーが死んで、グウェン・ステイシーが女性スパイダーマンになる世界なんですね。

(石山蓮華)うわっ、見たい!

(町山智浩)それがね、すごいきれいなの。その子の世界が。

(でか美ちゃん)たしかに。ビジュアルのね、いただいた資料を見る限り、糸の出し方とかが圧倒的に美しいですもんね。飛ぶように、翼のように。

(町山智浩)そう。特にこのグウェン・ステイシーの世界はアメコミじゃなくて、水彩画というか、印象派の絵みたいな絵で書かれてるんですよ。全部。やわらかい絵で。で、全てがにじんで溶けているような、流れるような絵で。しかも、このグウェン・ステイシーが寂しくなると、寂しい色になるんですよ。で、怒ると真っ赤になるんですよ。すごいことをやっていて。これだけやるには一体、どのくらいのアニメーターがいたのか?ってことになりますよね。

(石山蓮華)スパイダーマンたちが全部で240人、出るんですよね?

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