町山智浩さんが2023年3月21日放送のTBSラジオ『たまむすび』で『リハーサル ネイサンのやりすぎ予行演習』について話していました。
(町山智浩)ありましたね。電話だったからね。もう科学が進みましたね。このわずかな『たまむすび』の間で。まあ、それとは全然関係ないんですが。今回、お話する話は……配信物ばっかりになりましたね。紹介する映画もね。前は配信なんか、なかったですからね。
(山里亮太)そうですよね。
(町山智浩)DVDで見てましたよ。前はね。で、今回も配信物なんですけど。日本ではU-NEXTというところで配信がもう既に始まってるドラマというか、シリーズなんですね。ドラマじゃないな。番組ですね。それについて紹介します。『リハーサル』というタイトルなんですが。副題が『ネイサンのやりすぎ予行演習』っていうね。ネイサンって、お姉さんじゃないですよ。ネイサン・フィールダーっていうおっさんなんですけども。
この人、コメディアンでね、今まではね、視聴者の依頼を受けて……たとえば人気のない喫茶店を盛り上げるとか。そういう……昔、『たけしの元気が出るテレビ』ってあったでしょう?
(赤江珠緒)ありましたね!
(町山智浩)で、「商店街を盛り上げよう」とか、そういうのをやってた人なんですけど。このネイサンって人は。それでね、大問題になっちゃって。近所にスターバックスができたんで、客が入らなくなった喫茶店を盛り上げるために、その喫茶店をスターバックスにしちゃうっていうのをやったんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)ただ、スターバックスの全くそのまんまのロゴなんですけども。ちっちゃく「Dumb」って書いてあるんですね。「Dumb Starbucks(くたばれスターバックス)」っていう。
(赤江珠緒)うわー!(笑)。これ、写真ありますけど。本当にそっくりっていうか。ロゴがそのままで……。
(町山智浩)そしたら、すごい客が殺到しちゃって大儲けっていうね、そういうバカげたことをやってた人なんですけど。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、今回のその『リハーサル ネイサンのやりすぎ予行演習』っていうのは、「なにかこれから大事なことをやらなきゃなんないんだけども、うまくできるかどうかわからないからリハーサルをしたい」っていう人にリハーサルする……その状況をセッティングしてあげるっていう番組なんですね。
(赤江珠緒)ああ、じゃあそういう一般の方のために?
(町山智浩)一般の人なんですよ。で、ある人はね、「おじいちゃんの遺言があって。その遺産を相続することになっている。だけど、兄弟の片割れが『遺産目当ての女の子と付き合っていたら、遺産を相続させない』と言って今、揉めているんだ。だからその兄弟を説得したい。兄弟を説得する話し合いをする練習をしたい」っていうことで、自分の弟かな? 兄貴かな? それとそっくりの俳優を自分の話し相手にして。で、説得する練習をするんですけど、それだけじゃなくてその説得する場所の……たとえばファーストフード店なんですけど。そのファーストフード店をスタジオの中に実際に作っちゃうんですよ。本当に。
セットで。で、お客さんとか従業員もちゃんと俳優を雇って。そこで何度も練習させるっていう。リハーサルをする。そういう、非常に奇妙なことをやる番組なんですけど。で、すごいのは44歳のアンジェラという女性が、「そろそろ子供を持ちたいんだけれども、育てる前に練習したいんだ」っていうんで、子育てのリハーサルをやるんですよ。
(赤江珠緒)ええっ、どうやって?
(町山智浩)1週間に3年分だけ成長するように、子役を集めるんですよ。
(赤江珠緒)ああーっ! じゃあ、その年代全部を経験するってこと? 子育てを。
「子育て」のリハーサル
(町山智浩)そう。「子育てが終わるまでを経験したい」って言うんですよ。その人は。でも、ササッと終わらせないとリハーサルにならないから、1週間に3歳ずつ成長して、18歳までを経験するっていうリハーサルをするんですよ。だからだいたい3日に1歳、成長するんですね。そうすると、1歳ごとに違う子役に入れ替わるんですよ。
(赤江珠緒)まあ、そうですね。うんうん。
(町山智浩)ところがそこから問題が起きるんですね。赤ん坊の時は、児童福祉法という法律があって。4時間以上出演させちゃいけないらしいんですよ。アメリカでは。だから、赤ちゃんを4時間、演じたらその赤ちゃんを4時間おきに取り替えなきゃならないんですよ。だからお母さんが「よしよしよし」ってやっていて、スーパーに買い物に行って、車に荷物を置いてる間に、その隙をぬって、その赤ちゃんのチャイルドシートをサッと取り替えるんですよ。別の赤ちゃんに、シートごと。
あとは、夜に寝てる間にも取り替えるんですけど。あと、アメリカでは夜7時以降は子供を働かせることはできないんですよ。児童福祉法違反になるので。だから、夜7時以降は赤ちゃんはロボットになるんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)ロボットに入れ替えるんですね。そういうことをやるという、非常に奇妙な番組がこの『リハーサル』なんですよ。
(赤江珠緒)へー! 手間暇はすごいですね。これね。
(町山智浩)ものすごいお金、かかってます。びっくりしちゃった。だって、俳優だけでもすごいですからね。で、また要するに子役が何十人もいるわけですよ。すごい数で。お金がとにかくかかっていて。あと、このアンジェラってお母さんが「私はやっぱりシングルマザーで子供を育てるってのはよくないと思うから。だから、旦那がほしい」ということで。それで、旦那さんを探すんですけど。その旦那さんに「これ、実はテレビ番組で。子育ての練習をするっていう番組なんですよ。それでもあなた、出てくれますか?」って言ったらその1人が「ああ、いいよ」って言って出てくれるんですけど。それで、その家に一緒に泊まるんですが……夜泣きがすごいんですよ。ロボットの。
(赤江珠緒)ロボットだけど(笑)。
(町山智浩)これ、裏でネイサンがリモコンでスイッチを入れてるだけなんですよ。
(赤江珠緒)ああ、でも練習だからね。夜泣きもあるから。
(町山智浩)夜泣きをさせているんですけども。で、「もっとやれ! もっとやれ!」って夜泣きをさせていたら、その旦那候補が逃げちゃうんですよ(笑)。で、逃げちゃったから「どうしよう? これだと番組がうまく続かないから……」っていうことで。それでネイサンが「僕が自分で父親役をやります」って言って、そこで一緒に暮らし始めるんですよ。父親役で。その一方で、リハーサルをするためには大量に俳優が必要なんですね。だから、ハリウッドで俳優がいっぱいいるから、そこで俳優学校みたいなことをして俳優を養成するんですよ。
(赤江珠緒)えっ、そこまでするの?
(町山智浩)そこまでするんですよ。で、そこでやってる時に「ファーストフード店で働く人」っていう俳優たちを養成する時に、ファーストフード店で働いたことがない人は、そのやり方がわからないわけですよ。だから「まず君たち、ファーストフード店で働いてみて」って言って、実際に働かせんですよ。で、「ある特定の人、モデルを見てそれを真似することが重要なんだ」って言って、あるファーストフード店で働いてる人のことを俳優に真似させようとしたら、うまく真似られないんですよ。
「だって君は家に帰ると、普通の俳優の人として生きてるでしょう? それじゃダメだから、そのファーストフード店で働いてる人の人生を調べたので。そのファーストフード店の人と同じアパートで、ファーストフード店の人が一緒に住んでいるルームメイトと同じように暮らすんだ。そうしないと、君はその人にはなれないよ」っていうことで、その俳優をそういう風に暮らさせるんですよ。ネイサンが。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)そうすると、ネイサンは「逆に俳優って、どういうことを考えてるんだろう?」と思って、その別のアパートに引っ越した俳優の、そのアパートの鍵をもらって。彼はその俳優のアパートに住んで、俳優としての人生を体験してみるんですよ。
(赤江珠緒)なんか、なにもかもがすごい実験的な番組ですね。
(町山智浩)なにもかもがシミュレーションになってるから、見ているうちに訳がわからなくなってくるんですよ。どこまでが本当で、どこまでが演技なのか。どこまでがシミュレーションなのか、事実なのかが段々、見てるうちにわかんなくなってくるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そんな錯覚してくるような? へー!
(町山智浩)そうなんです。だからこれ、見ているとすごい怖いんですよ。で、そうやっているうちにネイサンは「ああ、しまった。俺、アンジェラって人と子育てをやってるんだ」って思い出して。それでそっちに帰るんですよ。それはオレゴンなんですけども。で、オレゴンに帰ると、もう子供が15歳になってるんですよ。1週間に3歳ずつ歳を取るから。すると、そこで彼は考えるんですね。「これは僕は何年も家を空けてたことになるぞ? 子供がいるのに、子供が思春期なのに何年も父親が家を空けていたら、子供はどうなるだろう?」っていうことで、その子役の人と相談するんですよ。「どうなると思う?」って。そしたら「うーん……グレるんじゃないかな?」っていう話になるんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)「じゃあ、やっぱりグレないとリアルじゃないよね?」っつって、子役がグレるんですけども。で、これがすごいのはね、グレるって言っても普通のグレ方じゃないんですね。アメリカですから。ヘロインとかコカインとかをガンガンにやるんですよ。
(山里亮太)うわー! 悪いグレ方!
(町山智浩)で、過剰摂取で死にそうになったりするんですよ。
(山里亮太)えっ、リハーサルで?
(町山智浩)すごい世界ですよ、これ。でもね、基本的にこれ、コメディアンの人なんで。バカバカしいところもすごく多くて。彼女はね、「私は自給自足の生活がしたいから、庭で野菜を育てて。それで暮らすことにしたいの」って言うんで、彼と一緒に慣れない庭仕事をして、畑を作るんですが……さっき言ったみたいに、1週間に3年かかる。だから1日に実際には100日ぐらい過ぎるんですよ。そのレベルでやっているのに、畑に植えても……野菜が畑で育つのに、半年ぐらいかかるじゃないですか。
だから野菜を、彼らが寝ている間にスタッフが畑に行って、野菜を植えるんです。植え込むんです。収穫ができるように。
(赤江珠緒)ええーっ?
(町山智浩)ただ、このスタッフは大ボケなんで。スーパーに行って買ってきた野菜を畑に植えるんだけど、畑になってる状態がわかってないので。このスタッフたち、大ボケで。だからピーマンとかナスとかを、こうやって地面に刺してんですよ。ズッキーニとか。そんな風には畑でなってはいないんだけども。で、それを収穫して「ああ、よくできた」とか言っているんですけども。アホか?っていうね。そういうね、もう異常な番組なんですよ、これ。
(赤江珠緒)これ、番組として、ねえ。どういう成立の仕方なのか……難しいですね。
(町山智浩)これがすごいのは、途中で15歳で育った子供にグレるっていうのをやってもらったら、要するにやりすぎちゃって。ヘロインの過剰摂取で死にそうになって、警察を呼んだりするんで。ネイサンは「これはやりすぎた」って言うんですよ。それで「やり直そう」ってリセットして、6歳からやり直すんですよ。子育てを(笑)。
(赤江珠緒)ええっ?
一旦リセットして6歳から子育てリハーサルをやり直す
(町山智浩)そんなの、実際にはできないよっていうね。それで6歳からやり直して。「今度はもうみっちり、子供と一緒にいよう。前はちょっと何年もほったらかしにしたから」っていうことで、もうめちゃくちゃかわいがるんですよ。6歳の子を。そしたら今度は、1歳ずつ歳を取らなきゃないから、別の子役に変えなきゃいけないんだけど。その6歳の子役の子が、セットから出ようとしないんですよ。それでネイサンのことを「パパ、パパ!」って言うんですよ。で、「君はもう役割が終わって、別の子役に入れ替わったんだから。君はお家に帰ってくれないとダメだよ」って言うんですけども。「パパ、変なこと言わないで!」って言うんですよ。
(赤江珠緒)いや、なんかちょっとね、怖いような、切ないような、不思議な世界ですね。
(町山智浩)怖いでしょう? その子役のお母さんに「どうしてこんなことになっちゃったんですか?」って聞くと「いや、うちはお父さんがいないんです。だから本当にネイサンさん、あなたにパパになってほしいんですよ」っていう、すごい展開になっていくんですよ。これは。だからこれは、ねえ……。
(赤江珠緒)テレビ番組ですもんね。
(町山智浩)これ、テレビ番組ですよ。ただ、この番組に恐ろしいのは、何もかもがヤラセだから。どこまでがヤラセなのか、わからないんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、番組側もれを一切、明かしてないんですよ。で、見た人たちはみんなアメリカで「なんなんだ、この番組は! 見ながら泣いたりしたけど、今のは本当だったのか、嘘だったのかわからない!」ってなってるという。
(赤江珠緒)本当ですね。なんか、混乱ですね。
(町山智浩)すごい、もう頭がぐるぐる回ってくる番組なんですけども。
(赤江珠緒)なんか映画で……『トゥルーマン・ショー』でしたっけ? 自分だけがセットの中で、あとはみんなちゃんとした役者さんたちが自分の人生を一緒に彩っていたっていう。なんかそんな錯覚みたいな感じが今、聞いていてしましたけど。
(町山智浩)そうそう。『トゥルーマン・ショー』。そんな感じなんですよ。それをすごくお金がやっていて。これ、すごいなっていうね番組なんですが。でも子供がどんどん歳を取っちゃうっていうのはね、リアルですね。
(赤江珠緒)そうですね。んネイサン、何をやろうとしているのか?っていう。
(町山智浩)ネイサン、お前は何を求めてるんだ?っていうね。とんでもない番組で。みんな見ながらね、いろいろ考えるといいと思います。「これはどこまでが本当なのか?」っていうので、頭抱えながら見る番組がこの『リハーサル ネイサンのやりすぎ予行演習』で、現在U-NEXTで配信中です。
(赤江珠緒)いや、テレビ番組もここまで来たんですね。日本ではタイトルが今、おっしゃったように『リハーサル ネイサンのやりすぎ予行演習』ですね。現在、U-NEXTにて配信中です。
『リハーサル-ネイサンのやりすぎ予行演習 』人生で大事な場面をリハーサルする事で本番を心置きなく迎えられるかを検証するモキュメンタリー。最初は戸惑いつつクスリと笑っていたけれど次第に奇妙な感覚が心を捉え終盤はリアルとフェイクの境目を見失いまるでホラー映画見てる気分だった。なんなの? pic.twitter.com/5Tm7gTaDOn
— ギブ子?? (@greathunger1006) March 19, 2023
<書き起こしおわり>