町山智浩 アメリカ先住民の国・ナバホ国取材を語る

町山智浩 アメリカ先住民の国・ナバホ国取材を語る こねくと

(町山智浩)で、おばあちゃんが一番偉いんですよ。それで、自己紹介する時も自分の母方の系列を言うんですよ。彼らは。だから面白いですよ、すごく。あのね、一応ね、昔は「酋長」って昔言われていたけれども。今は「首長」という人は男性なんですけれども。でも、それを選ぶのは女性なんですよ。

(石山蓮華)それは女性が多数決とか、話し合いとか、どんな風に?

(町山智浩)話し合いとかで決めるそうです。だからね、『ポカホンタス』っていうディズニーの映画があって。あれが、首長の娘で、首長がすごく威張っていて、王様みたいになっているんですけども。あれを見るとね、先住民の人たちは「いや、首長とか酋長っていうのは権力者じゃなくて、単に政治家だから。委託されてリーダーをやってるだけで、議長みたいなものだから。ああいう風に権力を持って威張ったりはしないんだよ」って言うんですよね。

(でか美ちゃん)へー! じゃあ、「『ポカホンタス』って何か違くない?」って思ってるのか。

(町山智浩)そう。「あんなにば威張るものではないんだ。会議制度だし、女性の権利はもっと大きいんだ」っていうね。だからそこはすごく、面白いですね。

(石山蓮華)じゃあ、本当にいろいろ話し合いを大切にしている方々なんですね?

(町山智浩)そうなんです。はい。だから民主主義っていうのは逆に、そのアメリカに白人が入ってきた時に……アメリカっていうのは、世界最初の民主主義国なんですよね。それまで民主主義って、ないんですよ。古代ローマとか、ギリシャとかしかなくて。ヨーロッパで初めての近代民主主義国なんですけど。それをする時に参考にしたのは先住民の社会制度なんですよ。連邦制度とかもそうなんですよ。「ああ、あの人たちはうまくやってるから、あれをちょっと真似して取り入れよう」ということで、アメリカの民主主義が始まって。そこから世界中に民主主義が広がっていくんですよね。だから、彼らの方が原点なんです。

(石山蓮華)そうだったんだ!

アメリカ民主主義の原点

(でか美ちゃん)大元も大元というか。でも、取材される時にそのエフィさんにご挨拶に行って。エフィさんが「いいよ」って言ったから取材できるということがあったわけじゃないですか。じゃあ、逆にそのエフィさんが偉くなりすぎないのかな? とか、思いません。その家母長制度として。

(町山智浩)まあね。それはね。でも本当に気のいいおばあちゃんで。この人を怒らせるようなことは、よほどのことだと思いましたけどね。この人、すごくてね。クリント・イーストウッドの映画とか、ジョン・フォードの映画に子供の頃、出てる人ですね。

(でか美ちゃん)ええっ! 探したい!

(町山智浩)西部劇を見るとナバホの人たちは「ああ、うちのおじいちゃんが出てる」とか、「うちのおばちゃんが出てる」とか言うんですよ。っていうのは、西部劇っていろんな先住民の人たちが出るんですけども。それこそ、ナバホだけじゃなくて、シャイアン族とかラコタ族とかコマンチェ族とかアパッチ族とか出てくるんですが。全部、撮影をここでやってるんで。このナバホの人たちがそれぞれの違う部族の扮装して出てるんですよ。同じ人たちが。

(でか美ちゃん)じゃあ、もうプロエキストラ的な感じのこともやってくれるんですね? 撮影に行くと。

(町山智浩)そうそう。言葉はみんな、ナバホ語をしゃべってるんで。シャイアン語とか、全部言葉って違うんですよ。コマンチェ語とか、アパッチ語とか。だから、ナバホの人が見ると「インチキだ」っていうのがわかるっていう(笑)。「だって、あそこでしゃべっているの、うちのおじさんだもん」とか。面白いですよ。あと、大変だったのはね、ナバホ国って東北全体よりも大きいんですけど、お酒が一切買えないんですよ。

(石山蓮華)えっ、どうしてなんですか?

(町山智浩)それはね、アメリカ先住民の人たちはお酒を作ってはいたんですけど。すごくアルコール度の薄いのでしか飲んだことがないところに、白人がウィスキーを持ち込んだんですよ。それで、それを売りつけたんですよ。結果、みんなアル中になっちゃった。

(石山蓮華)そういう背景があるのか……。

(町山智浩)で、アルコール依存症でかなりその先住民の人たちは社会が破壊されて。あとやっぱり、ずっと住んでいた国を乗っ取られたっていう、なんというか、挫折感みたいなものでお酒に溺れて。アルコールによって、かなり破壊されちゃったんですよね。だから「これは我々にはよくないものだ」ってことで、禁止してるんですよ。だからね、キャンプに行って夜ね、「イエーイ!」っつってもなんにもアルコールがないんで。そのナバホの人が「あら、あんたたち、アルコール持ってこなかったの?」って(笑)。

(でか美ちゃん)ああ、持っていくのはOKなんですね?

(町山智浩)そう。「持ってくるのはOKなんだから。お前ら、飲みたいんだったら持ってこいよ」って言われて「ああー」みたいな。

(石山蓮華)ああ、持ち込みはOKなんですね。

(町山智浩)持ち込みはOKなんですけども。とにかくナバホ国は巨大だから、かなり手前で買っておかないと、大変なんですよ。お酒を買えるところまで、車で何時間も離れているんでね。

(でか美ちゃん)その飲んでいる姿とかを見て、ナバホの方々は何とも思わないのかなとか、考えちゃいますけどね。

(町山智浩)すごく大問題になって、今でもやっぱりこっそり飲んでアルコール依存症になる人たちがすごく多くて。それで会ったラリーさんっていう人は、そういう若者たち……アルコールとか薬物中毒になった人たちを治す仕事をしてましたね。で、「どうやって治すんですか?」って聞いたら「そういう病気になっちゃったやつらを馬に乗せて。みんなで馬でナバホ国の中を1週間ぐらい、旅をするだ。酒とかドラッグとか、一切ないからね」って言ってましたけども。

(でか美ちゃん)それはもうどんどん、本当にシンプルに抜いていくというだけの作業なんですね。

(町山智浩)そうそう。アルコールを抜くだけなんですけど。監禁と同じですよ、それ。荒野を、なんにもないところをずっとね、1週間放浪するわけですから。「あれをやると、酒でもドラッグでも何でも抜けるぞ」とか言ってましたけど。抜けるとか、そういう問題じゃねえよと思いますけどね。

(石山蓮華)ナバホに戻ってきても、こっそり飲む方はいるかもしれないけど、基本的にお酒が買えない状況だと、やっぱりその依存症から回復するのも、もしかしたら早いのかもしれないですね。

(町山智浩)とにかくね、それは大問題になっていて。だから警察は、そのナバホ警察以外は動けないってなってますけど。管理するために州警察とかも入ってきちゃったりして。それはもう昔からの問題みたいですね。それはやっぱりね、精神的に打ちのめされたので。やっぱり自分たちの住んでるところを取られるというのはね。それがずっと、民族的なトラウマになっているんだと思うんですよ。ただね、土地を個人所有するって概念がないんですよ。先住民の人たちって、みんな。土地っていうのは、なんていうか地球のものだから。個人が何平方メートルとかを所有するってこと自体がおかしいだろうという考え方なんで。

(石山蓮華)じゃあ、地主とか、賃貸とかはまず、ないんですね。

(町山智浩)存在しないんですよ。ただ、そこに白人たちが土地所有っていうことで入ってきたら、完全に考え方が食い違っちゃったんですよね。

(でか美ちゃん)そうか。そもそもわかり合えないですよね。概念的な部分から。

(町山智浩)それがないから。あとね、ナバホの人たちは「神」っていう概念がなかったですね。

(でか美ちゃん)ああ、そんな宗教的な部分もないんですね。

(町山智浩)全然違うんです。クリスチャンであることは、あるんですけど。クリスチャンになったりはしているんですけども。それと同時に、ナバホ独自の信仰っていうのがあって。それは空と大地をなんというか、信仰するんですよ。

(でか美ちゃん)自然そのものを?

(町山智浩)そう。具体的には空を「父なる空」と呼んで、大地を「母なる大地」と呼ぶんですね。で、「その間に我々全てが存在するんだ」って考えるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、だからその個人のものじゃなくて、地球のものだよねって?

「父なる空」と「母なる大地」

(町山智浩)そうなんですよ。だからね、これ、どうしてそういう概念なのかなと思ったら、行くとわかります。みんな、そういう気持ちになる。というのは常に、24時間どこにいても空と大地の間にいるんだもん。自分が。

(でか美ちゃん)そうですよね。空気も澄み切っていて。向こうまで見えたりとかして。

(町山智浩)そうなんです。で、昼間は空が真っ青で、下は大地がどこまでも、地平線の遥か彼方まで広がってるわけですよ。右を見ても、左を見ても。で、夜になるとすごいんですよ。もう、満天の星ですから。宇宙なんですよ。

(でか美ちゃん)たしかにそれを、まあ現実に見たわけじゃないけど。じゃあ「はい。ここからここまで、僕の土地です」とかって、やっぱり野暮なことな気がしてきそう。そんなところにいたらね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから何人だろうと関係なく、そこにぼーっといるだけでも、宇宙とかの中に自分がいるんだって……まあ、みんな宇宙の中にいるんですけどね。本当はね。でも、東京にいるとわかんないじゃないですか。大地の上に、地球の上に自分がいるって、東京にいるとわかんないよね?

(石山蓮華)やっぱり建物の上とか、アスファルト上に立って歩いて。地下鉄に乗って……みたいなね。

(町山智浩)街の中に暮らしていて。それでビルに遮られた中に星が見えるだけだから。でも、このむき出しの宇宙と地球の中にいるわけですよ。ナバホの中にいると。だから、自然にそういう考えになるんですね。

(石山蓮華)でも、そのお家は借りないと住めないとか、そういうこともないんですか? ナバホで。東京だと、賃貸で借りて、住まいを……。

(町山智浩)ああ、それはナバホの人はお金を一切、払ってないです。もちろん。ナバホ国の土地は全てのナバホの人たちの土地なんですよ。

(石山蓮華)じゃあ自分で「ここにお家を作ります」みたいなことを宣言して、家を建てたりするんですか?

(町山智浩)そう。周りの人も「いいよ」っつったら、それでいいんです。お家はね、すごく立派な家でした。柱がなくて、広くてね。定住する人たちなんですよ。で、立派なお家で。夏は涼しくて、冬は温かいっていう家で。それも素晴らしかったんですけど。俺、なんでそこに行ったのか?って話をしないとならないんですけども(笑)。

(石山蓮華)ああ、そうだ(笑)。町山さん、なぜそちらに行かれたんですか?

(町山智浩)それは他局なんですけども、BS朝日っていうところでね、『町山智浩のアメリカの今を知るTV』っていう番組をずっとやっていて。そこで撮影に行ったので。まあ、夏までに放送しますので、そこでぜひ、そのすごい風景を見ていただきたいなと思います。

(石山蓮華)じゃあ夏ね、旅行とかパッと行けないなっていう人も、とりあえずこの『町山智浩のアメリカの今を知るTV』。毎週木曜夜10時半からBS朝日で。

(町山智浩)はい。ぜひご覧ください。スカッとしますよ。もう細かいことは全部忘れますよ。ここに行くと。はい。

(でか美ちゃん)町山さん、あと新しいTwitterのアイコンも素敵です。めっちゃ楽しんでたんだなと思いました(笑)。

(町山智浩)はい(笑)。大好きなんですよ。こういう広いところに行くのが。

(石山蓮華)町山さん、今週もありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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