町山智浩 アメリカ先住民の国・ナバホ国取材を語る

町山智浩 アメリカ先住民の国・ナバホ国取材を語る こねくと

町山智浩さんが2023年6月5日放送のTBSラジオ『こねくと』の中でアメリカ先住民・ナバホ族が暮らすアメリカ合衆国内の国、ナバホ国取材に行った際の模様を話していました。

(石山蓮華)今日はナバホのお話ということで。ナバホ、どんなところにあるのか。ちょっと改めてお伺いしてよろしいですか?

(町山智浩)はい。アメリカで西部劇ってありますよね? 特にジョン・フォードという西部劇の巨匠の監督がいるんですが。彼の映画のほとんどが撮影されたのが、そのナバホというところなんですけれども。地図には「ナバホ」というのは、日本の地図で普通に見ると載っていないです。正しくは「Navajo Nation(ナバホ国)」という国です。アメリカ国内にある国なんです。

アメリカの西部にあるアリゾナ州、ユタ州、ニューメキシコ州、コロラド州という四つの州がちょうどぶつかるところが真ん中らへんにありまして。そのぶつかった真ん中のところを四角く囲ったあたりがナバホ国という、アメリカ国内の国なんですよ。

(でか美ちゃん)アメリカ国内の国っていうのは、普通なんですか? アメリカでは。

(町山智浩)あんまり普通じゃないです。

(でか美ちゃん)ですよね? なんか不思議な感じがやっぱりするから。

(町山智浩)いくつか、ありますけれども。それは、いわゆるインディアンと呼ばれてきた、アメリカの先住民の人たちの国なんですね。ここ以外には、ニューヨークとカナダの国境あたりにあるイロコイ連邦っていうのがありまして。それは二つの国にまたがって存在しています。

(石山蓮華)へー! そうなんだ。

(町山智浩)というのは、先住民の方が元々、アメリカに先にいたんで。その後、アメリカに入ってきたイギリス人とフランス人がそこを二つに分けちゃったんですよ。川の両端に。

(でか美ちゃん)そうか。「元々、あったんだから」っていう話っていうことですよね。

(町山智浩)そうです。州境とか国境は後から白人が作ったものなんで。先住民は元々、住んでいたので。だから、州境や国境とちょっと食い違うんですよ。その先住民の住んでいる領域っていうのが。で、さっき言ったそのイロコイもそうですし、ナバホも国で。いわゆる国境と別の国なんですよ。すごくややこしいんですけど。で、ナバホというのは先住民のナバホ族なんですけど。この人たちの裁判所があって。議会があって。大統領がいて、という、三権分立を全部、ナバホで持ってるんですよ。

(でか美ちゃん)じゃあ本当に、ちゃんと国としての機能は、ナバホ国内でできているということなんですね?

(町山智浩)そうなんです。警察もいます。ナバホ警察が。だから、その上にさらに州があって、州政府があって。で、アメリカ合衆国という連邦政府があるから、三重構造になってるんですよ。

(でか美ちゃん)じゃあ、どのルールが適用されてるんですか? 一番の、優先順位というか。

合衆国、州とナバホ国

(町山智浩)これが、ものすごくややこしいんですよ。一応、ナバホ法が最優先するんですけれども。その上にさらに、州法があって。それから合衆国法があって。互いに食い違ったりしていて。すごくややこしいことになってますね。たとえば、学校制度は各州がやっていて。ナバホ国は学校制度を管理してないんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。やってる部分とやってない部分がわかれちゃってるというか。難しいですね。

(町山智浩)でね、水道はね、連邦政府が管理してるんですよ。

(石山蓮華)アメリカ連邦政府が。

(町山智浩)ただ、電気に関しては誰も管理してないんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ? どうなってるの?

(町山智浩)電気、ないんですよ。だから、それで困っていた。だからナバホ政府が今、ソーラーパネルを作って、電気をなんとか供給しようとしてるんですよね。すごくアメリカの歴史の中で、やっぱり元々、先住民がそれぞれの地域に住んでいたところにもう1個、国を乗っけちゃったもんだから。アメリカ合衆国っていう国を。だから、すごくややこしいことになってますね。

(でか美ちゃん)それはナバホの方々からしたら、ナバホのルールというものに基づいて暮らしていきたいですもんね。普通に考えたら。

(町山智浩)そうなんですよ。でも、そこにはあんまり日本の人は来たことがないところだと思いますよ。というのは、ものすごく遠いんです。一番近い空港から車で4時間、5時間かかるんです。

(でか美ちゃん)うわっ、遠いなー!

(石山蓮華)そうだ。町山さんTwitterにたしかお写真を上げていたと思うんですけど。なんかナバホのどこかでパンクをしてましたか?

(町山智浩)そうなんですよ。モニュメントバレーというところがあって。西部劇のジョン・フォードとかの作品に出てくる岩山が……テーブルみたいな不思議な台地みたいな形になった岩山がたくさんあるところなんですけど。そのてっぺんに登っていって、キャンプするというナバホ族の人たちに連れて行かれて。まあ、ワイルドに道のないところを四駆で登っていって。1日がかりで登っていって、そこで野宿するっていうのをやったんですけど。ハードすぎて四駆のね、車軸のところが壊れましてですね(笑)。

(でか美ちゃん)ええっ! でも、だって周りに何もないから……助けとかは?

(町山智浩)何もないから、別のナバホ族の人が来てくれて、直してくれましたけども。

(でか美ちゃん)でもそういう助け合いというか、あったんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから、全く圏外なんですよ。携帯とか、下の方で。何もないですから。だから「大丈夫なのか?」と思ったらね、山のてっぺんはね、携帯が通じたんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、山のてっぺんでパンクしたのは、むしろよかったのかもしれない?

(町山智浩)よかったんです。途中だったらたぶん、通じなかったんです。その遮るものがないから、てっぺんに登っちゃうと、電波がめちゃくちゃ入るんですよ。僕、そこから日本に電話して。カミさんに電話しましたよ。下は一切、通じないんですよ(笑)。

(でか美ちゃん)「今、山のてっぺんだよ?」って(笑)。

(町山智浩)そうそう。だからね、すごいところで。ここ、ナバホ国ってとにかく広くて。東北地方全体よりも広くて、北海道よりちょっと小さいぐらいの大きさです。

(石山蓮華)へー! 東北。広いんだ!

(町山智浩)6県全部を足すよりも広いんですよ。ナバホ国って。すごいんですよ。で、ずっと大平原が広がってるんですけど。見渡す限り。で、ほとんど何もない状態なんで、カメラマンの人に上から撮ってもらったんですけど、空気がきれいで何にもないから、遠くのものまでピンが合っちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、このね、お写真。パノラマ撮影みたいな画像をいただいてますけど。たしかにもうめっちゃ澄んでるし。夕日側のお空と、もう沈みきった紫がかった空がめっちゃきれい! なんかすっごい向こうまで見える。

(町山智浩)これ、すごく箱庭みたいに見えるんですけど。実は、ここから向こうの岩山の距離っていうのは、車で6時間ぐらいかかるんですよ。

(石山蓮華)ええっ、そんなに遠く?

(町山智浩)すごい巨大なんですよ。

(でか美ちゃん)なんか写真だと、全然そんな感じに見えない。

(町山智浩)そう見えないのは、空気がきれいすぎて。要するに、遠くのものがぼけないんですよ。空気って、空気遠近法っていうのがあって。遠くのものはだんだん空気の層が厚くなっていくんで、普通はぼけていくんですよ。でも、空気が本当にきれいなんで、全然ぼけないから、距離が全然わからないの。

(石山蓮華)遠近法が、空気がきれいすぎて狂うことがあるんですね?

(でか美ちゃん)初めて知った。

(町山智浩)すごいところでしたよ。本当に。

(石山蓮華)実際、その目で見てみると遠くまでくっきり見えるっていうのは、どういう感覚なんですか? 町山さん。

(町山智浩)ものすごく遠くの大きい山が、そこらへんにポンと置いてあるように見えるからすごく変なのと、下までの距離がそれこそ、キロにすると何十キロも離れてるんですけど。遮るものがないから、声が通ります。

(でか美ちゃん)へー! じゃあ、もう「ヤッホー!」どころじゃないですよね?

(町山智浩)そうなんですよ。だから下の方でナバホの人が歌を歌うと、上まで届くんですよ。

(でか美ちゃん)なんか素敵!

(町山智浩)すごい世界ですよ。なんにもないから(笑)。

(石山蓮華)じゃあ、ナバホって歌がいろいろありそうですね?

(町山智浩)歌はいろいろ歌ってくれました。ナバホの先住民の人たちがね、太鼓を叩いて。で、教えてもらいましたよ。

(石山蓮華)どんな感じの歌なんですか?

(町山智浩)もう、すごく不思議な声の出し方をするんでね、真似できなかったんですけど。いつも歌ってるんだって。ポンポンポンポン……って太鼓を叩きながらね、「○✕△※……♪」って歌うんですけども。

(でか美ちゃん)なんか沖縄民謡とかと近いような……。

(石山蓮華)あとはホーミーとか、そういうのに近い……。

(町山智浩)そうそう。ホーミーみたいな不思議な喉の使い方をするんですよね。でね、一緒にご飯を食べたりね、ナバホのお茶……野草なんですけど。それを煎じて飲んだりとかね。

(でか美ちゃん)なんかめちゃめちゃ歓迎されてますよね。さっきから聞く限りね。

(町山智浩)ああ、それはね、いっぱいちゃんとお金を払いましたから。

(でか美ちゃん)じゃあ歓迎されるべくしてね(笑)。取材ですからね。

しっかり払えば歓迎される

(町山智浩)ナバホの人たちは観光で暮らしてるのでね。しっかり、ちゃんと払わないとダメですよ。ただね、まず取材をする時に一番最初にね、エフィさんというおばあちゃんに会って挨拶をしたんですよ。「まず、その人に話さないとモニュメントバレー一帯での取材っていうのは面倒くさいことになっちゃうよ」って言われて。ここに写真があるんですけど。この赤い服を着たね、きれいな服を着たおばあちゃんに会って、まあ茶飲み話をするわけですけれども。

で、「OKだ。あの人たちはいい人だよ」っていうと……ナバホの人にとって聖なる土地なんで。だから、そうするとそこに入っていってカメラを回しても、あんまり怒られないんですけど。あのね、ナバホというのはね、このおばあちゃんが仕切ってるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、本当に「長」だ。

(町山智浩)そうなんですよ。日本とか韓国とか中国は「家父長制度」といって。父親が一番家で偉くて。で、父親の姓を継いでいくじゃないですか。「○○家」っていうと、父親の家柄が繋がっていくでしょう? 天皇も含めて。

(でか美ちゃん)今はまだね、それが中心になってますもんね。

(町山智浩)家父長制度じゃないですか。だから名字は、その父親の姓を継いでいくわけですけど。あのナバホはね、家母長制度で、女系なんですよ。

(石山蓮華)そうなんだ! 家母長制度の国があるんですね。

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