町山智浩 映画『ハドソン川の奇跡』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でクリント・イーストウッド監督の最新作『ハドソン川の奇跡』を紹介していました。


(町山智浩)今日はおじいさんの話ですね。

(赤江珠緒)おじいさんの話って……いやいやいや(笑)。

(町山智浩)現役最高齢の映画監督ですから。

(赤江珠緒)あ、そうね。クリント・イーストウッドさん。

(町山智浩)大先生。87才とか、なんかとんでもない……

(赤江珠緒)御年87才でいらっしゃいますか。

(町山智浩)すごいですよ。もう本当に。僕が子供の頃はまだセクシー俳優やってましたけどね。

(赤江珠緒)そうですね!

(町山智浩)あ、1930年生まれの86才ですね。はい。

(赤江珠緒)もうダンディーと言えば……っていう感じでしたけどね。

(町山智浩)そうですよ。昔は。この人は、ものすごい性豪で有名でしたよね。

(赤江珠緒)えっ? そうでした?(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。伝記を読むと書いてあるんですけど。カーメルっていうカリフォルニアの土地に彼は住んでいて、市長をやっていたんですけども。エッチするためのお家とかを持っていたんですね。いろんなファンとかと。

(赤江・山里)ええっ?

(町山智浩)ヤリ家っていうのを持っていましたね。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)そういう人でしたけど。だって、違う奥さんとの間に子供をたくさん作っていて、もうなんだかわからない人ですけど。ついこの間……60才をすぎて最後の子供を作っている人ですね。

(山里亮太)へー! 現役。

(赤江珠緒)子孫繁栄を着々と。そうですか。

(町山智浩)さすがに今回会った時ははもう誰もいないみたいでしたけど。僕、いままで3回会っているんですけど。それで、でも元気でしたけどね。はい。映画を撮り続けていますが。そういう、映画界一の性豪だったクリント・イーストウッドの新作はですね、『ハドソン川の奇跡』という映画ですね。これは2009年の1月15日にニューヨークで……ニューヨークってマンハッタンっていう縦に長い島なんですけど。その西側を流れているハドソン川に旅客機が着水・不時着したという事件があったんですけど。覚えてます?

(赤江珠緒)はい。ニュースでも映像をたくさん見ましたよ。

2009年に起きた事件

(町山智浩)はいはい。エンジンが2つともね、空港を離陸した直後に鳥を吸い込んでしまって機能を停止して。それで着水することで、乗客・乗員155人全員まったく無傷で無事だったということで、「ハドソン川の奇跡」と言われた事件ですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これね、僕ね、ちょうど下にいましたよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)この時ね、僕ね、ニューヨークに取材に行っていたんですよ。『キング・コーン(世界を作る魔法の一粒)』っていうドキュメンタリー映画があって、その監督の家がアッパーイーストサイドっていうセントラルパークの東側にあったんですね。で、そこにビデオカメラを持っていって訪ねてインタビューして、インタビューが終わって3時半ぐらいなんですけど。そのくらいにマンハッタンを出ないとJFK空港に着かないんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、JFKで5時台、6時ぐらいの飛行機に乗らないと僕の住んでいるサンフランシスコに帰れないんで、急いで帰ろうと思ってそのアパートを出て、外に出て、セントラルパークのところを歩いている時に……もうヘリコプターがブワーッ!って飛んでいったんですよ。西側から東側に向かって。それもすごい低空で、しかも何台も次々と通っていったんですよ。バリバリバリバリッ!っていう感じで。したらそれだけじゃなくて、地上の街を走っているパトカーとか救急車とか消防車もそこら中を走りまくって、サイレンだらけになったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、なんだかわからないんですよ。で、「どうしたんだ? 戦争か?」と思って。

(赤江珠緒)完全にもうなにか起きたっていう感じですね。うん。

(町山智浩)そうなんですよ。それで2009年だからまだ2001年に9.11テロがあったから、まあ8年たっていましたけどなんか嫌な予感がしますよね。で、道を歩いている人に「なにがあったの?」って聞いても、みんなわからないわけですよ。起きた、もう本当に数分後ですから。それ。

(赤江珠緒)ふーん。うん、うん。

(町山智浩)で、とにかく飛行機に間に合わないと困るんで空港に行って。そしたら、空港に置いてあるテレビでね、中継をしていて。ハドソン川の上に飛行機が浮かんでいて、その飛行機の羽根の上にね、乗客がズラーッと立って並んでいるっていうすごい不思議な映像でしたね。はい。で、その後に飛行機に乗ったら、「みなさん、ニュースは見たと思いますけども、この飛行機は絶対に大丈夫です!」って言ったんですよ。パーサーの人が、アナウンスで。


(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)だから、「同じ日に同じニューヨークで2機の飛行機が連続して墜落することは確率的にあり得ないですから」って言ったんですよ。

(赤江珠緒)まあまあ、そうだろうけど(笑)。

(山里亮太)確率的に言うとね(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。「だから、絶対に安全です」って言われましたけどね。でもその時にね、まず状況がわからなかったんですけど。まあ、テレビで中継していたんですけど、全員無事か?っていうのはまだ確認されてなくて。機内に入ってからパーサーがその話をした時に、「先ほどの乗客・乗員は全員無事でした!」って言ったらみんなもう、ワーッ!っていう感じで、乗客がもう「ブラボー!」って拍手喝采でしたけどね。はい。そういうことがあったのでね。いろいろ話が長いですが(笑)。

(山里亮太)そこにいたってすごいですね。

(町山智浩)それでその時ね、後からいろいろ知ったんですけど。もし彼が川に着水しないで無理に近くの空港とかに引き返そうとか着陸しようとしていたら、グライダー状態になっていたんですね。エンジンが完全に動かないから。紙飛行機状態になっていたわけですよ。下手したら、そのマンハッタンのビルのど真ん中に突っ込んでいたかもしれないんですね。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それは後から、いろいろな検証でシミュレーションとかをしてわかったんですけどね。で、この『ハドソン川の奇跡』という映画はこのサレンンバーガー機長というその奇跡を成し遂げた機長の物語なんですよ。「サリー機長」っていう風に愛称で呼ばれているんですけど、それをトム・ハンクスが演じます。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)トム・ハンクスはこの間も『キャプテン・フィリップス』っていうソマリアで海賊にハイジャックされた貨物船の船長の役でね。似たような役を連続してやっていますけど。

(赤江珠緒)うん!

(山里亮太)キャプテン顔なのかな?

(町山智浩)キャプテン顔なんですよ。『プライベート・ライアン』でもキャプテンの役でしたからね。あれ、陸軍の大尉ですけど。キャプテンばっかりやっている人で、そういう人ですが。『好きよキャプテン』みたいな人ですけど。それはいいですね、はい(笑)。



(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)そういう歌があったんですよ。昔。はい(笑)。まあ、それはいいんですが……それでね、僕ね、この映画が作られるって聞いた時に、これをどうやって映画にするの?って思ったんですよ。これね、飛行機が離陸してから着水するまでってたった5分間ぐらいなんですね。で、それをどうやって2時間ぐらいの映画にするの?って思って。しかも、エンジンが止まってから着水するまでは3分間しかないんですよ。

(赤江珠緒)本当にあっという間だったんだ。うん。

(町山智浩)そうなんですよ。ものすごいスローモーションでやるのかな? とかいろいろ思ったんですけど……(笑)。したらね、この映画ね、すごいことにこれね、法廷劇になっていましたね。裁判劇でしたね。

(赤江珠緒)あっ、裁判?

(町山智浩)裁判なんですよ。これ、実際は着陸した後、延々と機長がやった判断は正しかったのかどうか?っていうことで、彼が裁かれたんですね。実際は。

(山里亮太)助かったのに。

(町山智浩)助かったのに。全員を助けたのに。国家交通安全委員会というのがありまして。それは自動車とか飛行機とか船の管理をするんですけど。そこが、彼が着水という判断をしたのは乗客をもしかしたら非常な危機に陥れるような危険な賭けをしたのではないか?っていうことで、彼を徹底的に調査したんですよ。糾弾する形だったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、この映画はそれを中心に描いています。だから英雄とか呼ばれた男が糾弾されていく裁判ドラマのようになっていますね。

(赤江珠緒)事故のその後だ。うん。

(町山智浩)その後なんですよ。それで、この5分間のその着水するまでの間に、実際になにがあったのか?っていうことを徹底的に検証していくという映画になっているんですね。裁判を通して。で、これは実際に実物大のっていうか、本物の飛行機を撮影のために買って撮影しているそうですね。イーストウッド自身に聞いたら。ハリウッドの近くにね、湖があって。ユニバーサルスタジオのところに。そこに買ってきた中古の古いエアバスを浮かべて、そこで撮影したって言ってましたね。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)だから結構リアルなんですよ。だから飛行機弱い人は、結構気持ち悪くなると思いますけどね。

(山里亮太)怖くなっちゃうんだ。リアルすぎて。

(町山智浩)はい。これ、絶対に飛行機内では上映できない映画ですよね(笑)。

(赤江珠緒)たしかに。やめてください、それは(笑)。

(町山智浩)やめてくれ!っていうやつですけど。でね、この映画ね、日本語タイトルは『ハドソン川の奇跡』となっているんですけど、これ原題は『Sully』っていうタイトルでサリー機長の名前から取っているんですね。で、このハドソン川の奇跡という言葉はですね、サリー機長は繰り返し繰り返しテレビのインタビューとかいろんなところで、「絶対に『奇跡』と呼ばないでくれないか?」って言ってたんですけどね。

(赤江珠緒)あ、そうなんですか。

奇跡でも、ヒーローでもない

(町山智浩)そうなんですよ。あと、「ヒーロー、ヒーロー」ってやたらと言われていたんですけども。「それ(ヒーロー)もちょっとやめてくれない?」って。何度もテレビのインタビューで「あなたはヒーローって呼ばれてますね?」「それはやめて!」って何度も言っていたんですよ。この機長は。で、それには理由があってですね。この機長がテレビに出ていた時に言っていたんですけども。「『奇跡』とか『ヒーロー』っていう言葉を辞書で引いてみたら、これはマズいと思った」って言ってるんですよ。

(赤江珠緒)なんでだろう?

(町山智浩)「『奇跡』っていうのはあり得ないことが起こることだ」と。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)そうなんですよ。「人智を超えたことが起こる。要するに神の御業みたいなことだ。そうじゃないよ。これは、私は42年間、こういったことが起こったらどうなるか?っていうシミュレーションとか訓練をずーっと受けてきたんだ。そのマニュアル通りにやっただけだ」って言っているんですよ。機長は。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。うんうん。

(町山智浩)そうなんですよ。「だからあらゆる状況を判断して、これは着水が最も安全だと選んで着水してるんであって、それを『奇跡』と呼ばれると偶然みたいだろ?」って怒っているわけですよ。

(赤江珠緒)そうですね!

(山里亮太)危険にさらしたってことになるんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。それだけじゃなくて、もし奇跡っていうことになっちゃうと、国家交通安全委員会が糾弾している理由が正しいことになっちゃうんですよ。

(山里亮太)そうですよね。ギャンブルで。

(町山智浩)そう。「偶然に任せた、運に任せただろう? 一か八かのギャンブルをしただろう?」っていうことになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああー!

(町山智浩)だから「奇跡」っていう言葉でOKにしちゃうと、彼は罪を負うことになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そういうことですね。

(町山智浩)そうなんですよ(笑)。日本語タイトルはこれでいいのか? とも思いますけども、しょうがないですよね。それしか、そう言わないとわからないですからね。『ハドソン川の奇跡』とね。あとね、「『ヒーロー』って言うのも勘弁してくれないか?」って言ってるんですよ。彼。

(赤江珠緒)ダメですか?

(町山智浩)「『ヒーロー』っていうのは自分の身を危険にさらしたり、死ぬかもしれないようなことをやってみる勇気のある人っていう意味だろう? 私はそんな博打をしていません」って言ってるんですよ。彼は。

(山里亮太)絶対に普通に助けられるという。

(町山智浩)そう。「機長ですから、一か八かはやらないよ」って言ってるんですよ。

(赤江珠緒)そうか。機長としてするべき道を自分で選びとってちゃんとやったということか。

(町山智浩)そうなんですよ。だからその2つはやめて!って言っても、マスコミも世間もそう呼ぶんですね(笑)。でも彼の職業人としての立場はその2つの言葉は非常にマズいという風に何度も言っている人なんですけども。これは面白いなと思いますね。っていうのは彼は42年間ずっと訓練をしてきたと言って、この映画の中では42年間の彼のいろんな経験がですね、描かれて行くんですけども。飛行機事故にあう確率っていうのは、機長をやっていたとしても一生に1回か2回でしかないわけですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、そのために毎日訓練を頭の中でやって、実際に定期的な訓練を繰り返しているんですよね。「起きるかもしれないし、起きないことの可能性の方が高いことに対しての訓練をするのが正しい訓練なんだ」っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、それができるようになる……っていうか実際にこれはエンジンが停止してから着水準備にかかるまで30秒だったんですね。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)たった30秒だったんですよ。で、それが録音されているんで、わかるんですね。フライトレコーダーで。要するに、「エンジン停止」って言われてから着水準備にかかるまで、30秒間しか間がなかったんですって。コックピットでの録音が。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)30秒でこの決断ができるかどうか? ですよね。

(赤江珠緒)いやー、すごいですね。

(町山智浩)だから、40年間にあらゆるパターンを学んできて。30秒でものすごい勢いで計算したわけですよ。で、多くはたぶん体が覚えている状態に持っていったんでしょうね。脳で考えないぐらいの。

(赤江珠緒)ああー、でもたよれるサリー機長。「奇跡じゃない」って言われるとちょっと安心するところありますね。プロフェッショナルとして。

(町山智浩)そうなんですよね。それで、クリント・イーストウッド監督がこれを撮ろうとした理由っていうのをインタビューで話してくれて。なぜ、これを撮ろうとしたか?っていうと、彼自身が着水の経験があるんですって。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)彼、朝鮮戦争の時に徴兵されて海軍にいたんですね。で、戦争には行ってないんですよ。彼、水泳のインストラクターになったんで、朝鮮戦争の戦場には行ってないんですけど。その時に、移動中、海軍の軍用機に乗っている時に、やっぱりエンジンが停止したらしいんですよ。で、海に着水したんですって。パイロットが。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、それが非常に上手くいったらしいんですよ。それが実はものすごく大変なことなんだってことをイーストウッドは現場にいたから、聞いて知っていたと。なぜならば……これはイーストウッド自身が言ったんですけど。これね、着水って簡単そうに思うかもしれないけど、もし飛行機がその時に完全に水平じゃなければ、ちょっとでも先に右か左の翼とか機体の一部が着水していたら、その着水したところを支点に飛行機は回転しちゃうんですって。引っかかって。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そうすると水面に激突して回転しながらバラバラになるらしいんですよ。機体は。完璧に水平だったってことなんですよ。これ。

(赤江珠緒)それを30秒で決断して、完璧に水平に?

(町山智浩)はい。すごいんですけど。

(山里亮太)いや、赤江さん、「奇跡」って言おうとしたでしょ?

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)(笑)。まあそれはやっぱり「英雄じゃない」っていう風に言われても、神技じゃん!ってやっぱり思うんですけど。

(赤江珠緒)奇跡的! みたいな。言いたくなりますね。

(町山智浩)そうなんです。ただ、これを奇跡って呼んじゃうと、プロって何?っていうことにもなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。うんうん。

(山里亮太)それがね、できなきゃいけないんだもんね。そういう時が来た時に。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれはね、そういう問題を描いていて。これ、イーストウッドがなぜそれに興味を持っているか?っていうのが非常に僕、よくわかるのは、イーストウッドって映画監督としては、この機長みたいな人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)この人、ハリウッド最高の早業師なんですよ。あの、エッチも早い人ですが……

(赤江珠緒)そうなの?(笑)。知ってるの、町山さん?

(町山智浩)(笑)。エッチは早いですから。とにかく、いろいろ調べるととんでもないものが出てきますから。イーストウッドのシモ関係は。ただ、この人、映画を撮影する時にとにかく早いんですよ。早撮りの名手なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

早撮りの名手、クリント・イーストウッド監督

(町山智浩)で、映画って前も話したんですけども。セッティングっていうのがあって。まず、こういう風にしてカメラに映りますよっていうのをカメラマンと照明さんがずっとセッティングするんですね。で、「はい、監督。こんな画面になりますよ」「はい、OK」って撮り始めるんですけど、そのセッティングがものすごく短いんですよ。この人。

(赤江珠緒)ほー! 決断力があるのかな?

(町山智浩)決断力があるんですよ。無駄なことはしないんですよ。なにしろこの人、映画俳優になってから60年ぐらいたっているんですね。で、監督になってからも、1972年から監督していますからものすごいわけですよ。で、本数もすごいからどんな感じでやれば撮れるか、わかっているわけですよ。

(赤江珠緒)ベテラン中のベテランであると。

(町山智浩)ベテラン中のベテランだから、全く迷わないんですよ。で、あと、この人のすごいのはいろんな演技を試させないんですよ。1テイクなんですよ。映画撮影の現場って、行かれたことありますよね?

(山里亮太)はい。少ないんですけど、あります。私。

(町山智浩)はい(笑)。まず、セッティングすごい時間かかるんですよ。待ちが。かかるでしょ?

(山里亮太)はい。かかります。

(町山智浩)あと、撮ると何回か撮り直し、やるじゃないですか。

(山里亮太)はい。いろんな角度からね。

(町山智浩)いろんな角度から撮ったりしますよね? この人、しないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ほとんど1テイクか2テイクなんですよ。

(山里亮太)もう出来上がっているんだ。頭の中に。

(町山智浩)そうなんですよ。で、これに関しては『J・エドガー』っていう映画を撮った時にその主演のレオナルド・ディカプリオがちょっとびっくりして。ディカプリオはマーチン・スコセッシ監督とかとやっている人なんですけど、「他の監督はもっと撮るぞ。いろんな角度から撮ったり、いろんな演技を試させてくれないか? そのたくさん撮った中から選んでほしい」みたいなことを言ったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「いまの演技は自分でもよかったとはあまり思えない」みたいな話なんですけど。

(赤江珠緒)俳優の方が逆に不安になって。

(町山智浩)俳優の方がいろいろ撮ってほしいと。そしたらイーストウッドは「そんなもん、必要ない。もういいんだ。いまので」って。で、「もっと撮ってくれないか、監督!」って言ったら、「もう、いいんだ!」っていうね。それでケンカになっちゃってね(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)すごいんですけどね。でも、映画監督の中でたくさん撮る人もいて。スタンリー・キューブリックとかデビッド・フィンチャーっていう人は50テイクは当たり前っていう。100テイクとか行っちゃう人なんですよ。

(赤江珠緒)そんなに差があるんですね!

(町山智浩)あるんですよ。ただ、僕はデビッド・フィンチャー監督に会ったら、「とにかくいろいろ撮ってみるんだ。最初に来た時と、だんだん撮っていくうちで全然人格が変わっていって、リラックスしてそのドラマに入っていくから、たくさん撮った方がいいんだ」っていう考えの人なんですね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、いろんな演技をさせると。でも、イーストウッドは「演技なんか必要ない」っていう人なんですよ。「素でいいんだ」って。ほとんど素で撮る人なんです。あんまり過剰な演技は好きじゃないんですよ。それと、とにかく知り尽くしているから、「どんな風に撮ったって映画なんか適当にやったって同じなんだよ」みたいな人で。この人ね、『アメリカン・スナイパ―』っていう映画で赤ちゃんが生まれるシーンで、普通だったら赤ちゃんを探してくるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)「そんなことしても、人形でも同じだ」って、赤ちゃんを人形で撮っているんですよ。『アメリカン・スナイパー』って。赤ちゃん、人形なんですよ。どう見ても。でも、「だからって別に同じだよ!」っていうその雑なところがリアルなんですね。この人。


(赤江珠緒)そんな割り切り? ええーっ?

(町山智浩)そう。「命にはかかわりねえだろ?」みたいな人なんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうですか。

(町山智浩)でも、そこがね、職人技で。ものすごい経験を積んでいるイーストウッドならではで。だから彼は機長にすごくそのへんでシンパシーを抱いて描いているんだと思います。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、「何よりも大事なのは経験なんだ」っていうことですね。で、世界一経験が多い映画監督ですから。イーストウッドは。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、決断が早いっていう。30秒で着水する人なんですよ。

(赤江珠緒)はー! だって飛行機を買って……

(町山智浩)飛行機を買って撮ってますけども。この映画のトム・ハンクスはずーっとしかめっ面していて。眉間にシワを寄せていて。いつものトム・ハンクスじゃなくて完全にイーストウッドのコスプレみたいなことをしていますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)イーストウッドと言えば、いつも物騒な目つきなんですけど。ほとんどイーストウッドのような演技をしていて面白いですね。

(赤江珠緒)それはなんでですか?

(町山智浩)それは、だからこれは本来はイーストウッド自身がやる役だから。でも80才だからできないから、トム・ハンクスが代わりにやらされているんでね。

(赤江珠緒)あ、そうですか!

(町山智浩)トム・ハンクスはイーストウッドの演技をしています。この映画の中では、サリー機長の役で。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)というね、まあこの映画を見るとね、やっぱりやり続けることしかねえなと思いますけどね(笑)。だんだん上手くなっていくよっていう(笑)。

(赤江珠緒)そういうことですね(笑)。

(町山智浩)そのうちに体が反応するぜ! みたいな。芸の世界と同じですね。

(赤江珠緒)ああー。

(山里亮太)ひたすらやり続ければ、どんな難局にも対応できるはずだと。

(町山智浩)そうなんですよ。なかなかね、そういう意味で感動的な映画でした。『ハドソン川の奇跡』です。

(赤江珠緒)はい(笑)。公開は日本では9月24日からですね。

(町山智浩)はい。イーストウッドも86才でね、やっと脂っ気が抜けて。もう、女の尻を目で追ったりはしてませんでしたね。はい。

(赤江珠緒)(笑)。そうですか。

(山里亮太)でも、衝撃の事実もありましたからね。ヤリ家があるっていう(笑)。

(町山智浩)はい。何事も経験なんで。

(赤江珠緒)今日はクリント・イーストウッドの最新作『ハドソン川の奇跡』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

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