町山智浩 モハメド・アリの偉大な戦いを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でモハメド・アリさんを追悼。彼が行ってきたボクシング以外の偉大な戦いを紹介し、なぜ最も偉大な男(ザ・グレーテスト)なのか? を解説していました。



(オープニング 『ALI BOM-BA-YE』が流れる)



(赤江珠緒)いつもと違う曲が流れておりますね。この時間は映画評論家、町山智浩さんのアメリカ流れ者。今週もアメリカ カリフォルニア州バークレーからお電話です。町山さん。

(町山智浩)はい、町山です。わかります? この曲。

(赤江珠緒)わかります!

(山里亮太)これ、「ボンバイエ」って……これ、そうだったんですか?

(町山智浩)はい。猪木じゃないですよ。これはもともとの原曲『ALI BOM-BA-YE』です。はい。ちょっと聞いてください。このね、「アリ・ボンバイエ」っていうのはアフリカの言葉で「アリ、やっちまえ!」っていう観客のコールなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これが元で。猪木さんはそれをいただいているだけです。

(山里亮太)そうだったんですね!

(町山智浩)そうなんですよ。これね、1974年にアフリカのザイールという国でモハメド・アリとジョージ・フォアマンが戦った時の地元の観客のコールが「アリ・ボンバイエ」で。それをクライマックスに持ってきた映画がありまして。1977年の映画で『アリ/ザ・グレーテスト』っていう映画で。その映画のために作られた音楽がこの音楽なんですよ。

(赤江珠緒)ふん。

(町山智浩)映画音楽だったんですよ、もともと。これは。で、この間モハメド・アリさんが亡くなったんで、その話をしたいんですが。ボクシングでどれだけ強かったのか?っていう話はもっと専門家の人が話してますんで。僕はだいたいね、水道橋博士もそうですけど。リアルタイムなんですよ。モハメド・アリは。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)だからもう、中学の時に猪木戦もあったし、みたいな。で、有名な試合はほとんどテレビで見ている世代なんですね。1962年生まれなんで。で、その立場から。その頃の子供だった自分の立場と、あとこの『アリ/ザ・グレーテスト』というこの映画についてですね、映画評論家なんで話したいと思うんですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)この『アリ/ザ・グレーテスト』っていう映画はね、アリが18才でオリンピックの金メダリストになってから、74年のザイール戦までを描く伝記映画なんですが。この映画がすごいのは、モハメド・アリを演じてるのはモハメド・アリなんですよ。

(山里亮太)本人が?

映画『アリ/ザ・グレーテスト』

(町山智浩)本人が自分を演じているんですよ。アリが。で、演技、上手いんです。

(赤江珠緒)ああ、そうか。まあ、自分だしね。

(町山智浩)そう。なんかね、モハメド・アリの特徴をよくつかんでいてね。まるでアリそのものです。

(山里亮太)いや、アリそのものなんですよ(笑)。

(町山智浩)そのものなんですけど(笑)。すごく変な映画なんですよ。この映画。で、この映画がまず変なのはね、ボクシングシーンがほとんどないんですね。

(山里亮太)えっ? せっかく本人が出ているのに?

(町山智浩)はい。っていうのはね、アリが「ザ・グレーテスト(The Greatest)」って言われてるのは……あ、モハメド・アリっていうのはザ・グレーテストって言われていたんですね。「グレートの中でも最高・超グレート」みたいな意味ですけど。で、『アリ/ザ・グレーテスト』っていう映画なんですが、「どうしてグレーテストだったか?」っていうのを描いている映画なんですが、「それはボクシングではないんだ」っていうことなんですよ。

(赤江・山里)へー。

(町山智浩)いま、日本ではたぶん「ボクサーとして、ボクサーとして」って言われていると思うんですけど、そうじゃないんですね。だって強いボクサーは他にもいるし。黒人のボクサーも彼だけではないし、彼が最初じゃないですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。はい。

(町山智浩)それなのに、どうしてアリが「ザ・グレーテスト」って呼ばれているか?っていうことを今日は話したいんですが。なぜか?っていうと、自分でそう言ったからですね。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)自称?

(町山智浩)自称です。はい。「俺はグレーテスト」っていっつも言っていたんですよ。この人。

(赤江珠緒)へー! ちょっと、なんか嫌な感じになりますけども。大丈夫?

(町山智浩)それが売りだったんですよ。要するに、彼がグレーテストなのは、「強いボクサーはいっぱいいるだろうけど、みんなブサイクだ。こんなにイケメンなボクサーがいるだろうか? 俺はプリティーだ」って言ってるんですね。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)そんな感じの人なんだ。

(町山智浩)そうですよ。顔が売りだったんですよ、この人。自分で言ってましたけど。はい。あとね、要するに何ラウンド目で敵をノックアウトするって最初に宣言して、それを守るんですよ。「4ラウンド目でノックアウトだ!」とか。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それってその後、いろんなもので結構ドラマとかになりましたけども。最初にやったのが彼らしいんですね。で、そのKO予告をして、強いし顔もイケてるからグレーテストの2乗でダブル・グレーテストって言ったりしてたんですよ。自分のことを。

(赤江珠緒)(笑)。うん。ふーん……

(町山智浩)しかも、「G.O.A.T.」とも言ってました。

(赤江珠緒)「G.O.A.T.」?

(町山智浩)「G.O.A.T.」っていうのは「Greatest Of All Time」。「空前絶後のグレートだから」とも言ってましたね。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)えっ? なんかちょっとお調子者感が……

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)そうなんですよ。この人ね、実は詩を書いている人で。試合の前後に詩を書いて発表したり、あとはアドリブでいっぱいいろんなことを言っていたんですけど。それがグレーテストな詩なんですよ。どれも。

(山里亮太)へー。グレーテストな詩?

モハメド・アリのグレートな詩

(町山智浩)たとえばですね、「草は生える。鳥は飛ぶ。波は砂浜に打ち寄せる。俺は勝つ。そういうものだ」って。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)当然っていうものを。

(町山智浩)すごいでしょ?

(赤江珠緒)しかも、流れがいい。

(町山智浩)「俺は稲妻にだって手錠をかけられる。雷だって牢屋にブチ込める。レンガだって入院させられる。薬だって病気にしてやる」。

(赤江珠緒)ちょっと面白いけど(笑)。

(町山智浩)面白いけど。これをもっとすごい勢いで言うわけですよ。ライムをかけて。韻を踏ませてね。

(赤江珠緒)えっ、ラップ?

(町山智浩)アリが実際にいま、グレーテストだって言われているひとつの理由は、彼はラップの先駆者なんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)これ、聞いていて何かに似ていると思いません? 「俺はすげーぜ。お前はダメだ! YO, メーン!」ですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)『フリースタイルダンジョン』ですよ、これ。

(赤江珠緒)そうですね!

(山里亮太)えっ、その走りはアリだったの?

(町山智浩)アリが最初ですよ。だから。だから、すごいって言われているんですよ。だから『アリ・ラップ』っていう実際にそういうものもあります。アリがいかにラップとしてすごいのか?っていうことを描いたドキュメンタリーもあるぐらいです。

『Ali Rap』



(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからこの人、すごいですよ。たとえば、「俺に勝とうなんて夢にも思うな。万が一、そんな夢を見たらすぐに起きて謝れ」って。

(山里亮太)ああー、でも、かっこいいな。

(町山智浩)わかります? これ。あとね、「俺は速い。めちゃくちゃ速いから、電気を消したらまだ暗くなる前だった」とか。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)ウィットに富んでいるよね!

(町山智浩)これ、笑っていいんだろうか?っていうね(笑)。笑っていいんですよ。

(赤江珠緒)笑っていいんですか? 笑っちゃった(笑)。

(町山智浩)笑っていいんですよ。この人ね、言葉のテロの先駆者なんですよ。すごいんですよ。ただね、どうしてそういうことを言っていたか?っていうと、まずひとつの理由は彼自身がその後にちゃんと説明しているんですけど。「強くなるには、強い者としてまず振る舞え」って言ってるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、「ものすごく強くえばっていたら、勝つしかないじゃないか。自分を追い込んだんだ」っていう風に、自分で説明しているんですけどね。その後に。だから「『4ラウンドまでにKOする』って言ったら、本当にしなきゃならないから必死でやるんだ」と。だからめちゃくちゃトレーニングするし、めちゃくちゃ訓練して。陰でものすごいこの人は努力をしていたんですよ。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だから、逃げ場をなくすための言葉のテロだったんですね。

(赤江珠緒)ああー、そういうことなんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。で、まずラップの元祖っていうことと、この『アリ/ザ・グレーテスト』っていう映画がすごいのは、このアリが赤裸々に自分の弱点も描いているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その弱点はなんと、僕と同じなんですよ。

(赤江珠緒)なんだろう? えっ、町山さんと?

町山智浩と同じモハメド・アリの弱点

(町山智浩)こういうシーンがあるんですよ。アリが公園でトレーニングをしていると、自転車に乗ったかわいい女の子がアリを追い越すんですよ。するとその子がね、自転車を漕いでいるお尻が、なんて言うかいわゆるプリンセス・プリンセス状態なんですね。

(山里亮太)プリップリッね(笑)。

(町山智浩)はい。で、アリはそれでビーン! ビーン!って来ちゃうっていうシーンがあってですね。本人が演じてるんですけどね(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)ちょっと反応しちゃう?

(町山智浩)本人がやっているんですよ。もう、『Oh!透明人間』みたいな世界。『いけない!ルナ先生』みたいなんですよ。

(赤江珠緒)うん(笑)。

(町山智浩)古いですが(笑)。

(山里亮太)懐かしいですねー!

(町山智浩)そう。だからアリの弱点お尻にあり!っていうね、シーンがあってですね。もう、なんでこんな世界チャンピオンがこんなことやっているんだろう?って思う謎のシーンですけどね。

(山里亮太)あと、ひょんなことからね、町山さんの弱点もお尻だったということが……

(町山智浩)いや、それはみんな知ってることですから(笑)。あとね、アリはブラック・ムスリムというイスラム教に出会って改宗するんですね。それまではカシアス・クレイっていうアメリカ人としての名前だったのを、モハメド・アリというイスラム教の名前に変えるわけですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そのイスラム教に出会ったきっかけのシーンっていうのもすごくてですね。この映画ね。道端で、いわゆるスプリング(春)を売っている女性がいるじゃないですか。そのね、「お兄さん、寄ってかない?」っていう人、いますよね?

(赤江珠緒)はいはいはい。

(町山智浩)それをアリが拾ってですね、「いいことしようよ」って遊びに行こうとするんですよ。その白人の女性のなんとかガールを連れて。すると、たまたまそこにブラック・ムスリムのイスラム教の人が勧誘をしていて。「神を信じますか?」とか言って、アリの腕を掴んで無理やり連れて行っちゃって、そこで初めてマルコムXに会って、イスラム教に改宗するっていうシーンがあるんですよ(笑)。

(赤江珠緒)えっ、そんな状況で?

(町山智浩)そんなきっかけなのか!?って思ってびっくりするんですけど。アリ本人が演じているから、本当なんでしょうね。びっくりしますけど。これはね、『空手バカ一代』っていう千葉真一さんが出ている大山倍達さんの伝記映画で、大山倍達さん自身が監修をしている映画なんですけども。それで大山倍達さんと奥さんの馴れ初めがレイプっていうとんでもない映画があるんですけどね。それに匹敵するとんでもない自伝映画なんですけど(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)自伝だからね、それは本当なんでしょうね。

(町山智浩)そういうとんでもない内容になっていますけども。ただね、さっきグレーテストって言った話の続きなんですけど。グレーテストって彼が言っていた理由っていうのはもうひとつあるわけですね。強くなるっていうことと。で、この映画の最初に1960年のローマオリンピックで彼が18才で金メダルを取っちゃうんですよ。ボクシングで

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、故郷のケンタッキーに帰ってくるんですけども。ケンタッキーっていうのは南部で、1960年っていうのはまだ人種隔離が続いているんですよ。で、黒人には選挙権もなくて。レストランにアリが入ると、「ここは白人様専用の店だ。ニガーは出て行け!」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)「ニガー」っていうのは「黒人奴隷野郎」っていう意味ですけど。で、追い出されるんですよ。で、アリは「俺は世界のチャンピオンで金メダルがあるのに……金メダリストでもここでは白人専用の水飲み場で水も飲めないし、選挙権すらないんだ! こんなメダルなんて、何の役にも立たない!」って、怒って川にメダルを投げ捨てちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)で、このアリがもらったメダルっていうのはいまも行方不明のままなんですけど。だから、そこから彼はプロのチャンピオンを目指して戦い始めるんですね。要するに本当に、みんなが自分のことをちゃんとリスペクトするまで戦うって決めたわけですよ。だから、グレーテストって言ったんですよ。彼は自分のことを。グレーテストってその時に言うのは非常に危険だったんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。そんな風に貶められて……

(町山智浩)「誰よりも偉大だ」っていう意味ですよね。そう。「黒人は白人より劣っている」とされていたわけですよ。「俺はグレーテスト」って言ったら、「俺は白人よりも上だよ」って言っているわけですから、問題発言なんですよ。その当時としては。で、その頃のいちばん大変な問題っていうのは、黒人は白人よりも劣った人間とシステムの中で完全にされていたんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)だって選挙権ないんだもん。で、黒い肌は美しくないってもう完全に決めつけられていたんですね。その当時のアメリカでは。で、可能性もないんですよ。人生の可能性も。だって、政治家になれないんだもん。大統領にもないんだもん。絶対に。で、要するに自己否定をされちゃうわけですよ。最初に。これは、恐ろしいですよ。だから差別っていうのがいちばん恐ろしいのは、自己を否定させちゃうんですね。差別された人たちは。

(赤江珠緒)うん。

差別と自己否定

(町山智浩)でも、自己否定って恐ろしいのは、自己否定って鬱病のはじまりですよね。

(赤江珠緒)ああー、そうか。そうですね。たしかに。

(町山智浩)その、差別されている人っていうのはみんな、鬱病状態にあるんですよ。で、鬱病状態になると「何をやってもダメなんだ」って思って、前向きに進めなくなっちゃうんですよ。だから、黒人って貧乏なんですよ。

(赤江珠緒)うーん……そうか。精神的にも支配されちゃうのか。

(町山智浩)そう。だからシステムの問題なんですよ。これは。そういう自己否定をさせるシステムなんですよ。だからアリは「俺はグレートだ」って言ったんですよ。そう言うしかないんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そんなお調子者じゃなかったんだね。そういう強い信念のもとでの発言だったんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。あの、威張っていて嫌な人ですねとか、そういう話じゃないんですよ(笑)。

(山里亮太)背負っているものがデカかったんだね。いろいろ。

(町山智浩)違うんですよ。1人で戦いを始めたんですよ。その差別に対して。

(赤江珠緒)でも、向かっていくものがあまりにも……

(町山智浩)そう。だから昔、ローマの時代にね、奴隷たちが闘技場で戦わされていたじゃないですか。あれと同じですよ。戦い続けて勝ち続ければ、奴隷であっても尊厳を取り戻せるからですよね。で、彼はでもね、それがね、他の黒人たちには理解されなかったんですよ。白人だけじゃなくて。

(赤江珠緒)えっ、黒人の中でも?

(町山智浩)だって、みんなそれを当たり前だと思っていたから。そういう、自分が劣ったものだと思わされてきたから。洗脳されているから。だから彼が名前をモハメド・アリって名前に変えた時に……「カシアス・クレイじゃないんだ」って1964年にチャンピオンになった時に変えたんですけど。そしたら、他の黒人たちはみんな、それに反発したんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

黒人たちもアリに反発した

(町山智浩)で、アリはこう言ったんですね。「カシアス・クレイっていう名前だけども、クレイっていう苗字は――黒人は奴隷の所有者の苗字を大抵つけられていたんですよ――だから、この名前は奴隷の名前であって、俺の本来の名前じゃないから、自分で選んだ名前 モハメド・アリになったんだ」って言ったんですけど。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それに対して、対戦相手の黒人ボクサーたちはですね、要するにイスラム教っていうのも嫌だったっていう問題があるんですけど。まだ、その頃はメジャーじゃなくてね。で、要するに彼をカシアス・クレイっていう前の奴隷の名前で呼び続けたんです。他の黒人ボクサーたちは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、白人に代わって、このモハメド・アリにお仕置きを与えるみたいな形の試合運びになっていったんですね。反逆している、要するに逆らっているツッパリの黒人に対して、他のいい黒人が白人様のためにお仕置きをするっていう展開になっていったんです。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)だからアリは彼らを「アンクル・トム野郎」って呼んだんですね。「白人に従順な、目覚めていない、奴隷根性の抜けていない黒人野郎だ」って言ったんですよ。

(赤江珠緒)そこから戦っていかなきゃならないんだ。

(町山智浩)そこから戦っていったんです。だから戦いながら、試合をしながら、相手を殴りながらですよ、「俺の名前を言ってみろ! モハメド・アリだ! 名前を言ってみろ!」って言いながら殴り続けたんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!

(町山智浩)「それ、マウスピースはどうなってるんだ?」って思いますけども。「戦いながらしゃべり続ける『デッドプール』の元祖だな」とも思いましたけども(笑)。

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(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)言ってる内容は全然違いますよ(笑)。

(町山智浩)背負っているものが違いますからね(笑)。

(山里亮太)ド下ネタですから、もう(笑)。

(町山智浩)実際に、でもその人種隔離が撤廃されたのはその後なんですよ。まあ、同時にキング牧師が戦っていたわけですけどね。

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(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、アリはすごい戦いをしていたんですよ。で、その後ですね、ブラック・パワーというムーブメントが出てきたわけですけど。その元祖はアリにあるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でね、このいまかかっている歌は、ホイットニー・ヒューストンの歌なんですよ。これ、有名な『Greatest Love Of All』っていう歌なんですけども。これ、もともとこの『アリ/ザ・グレーテスト』のテーマ曲だったんですよ。

『Greatest Love Of All』



(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この歌って、『Greatest Love Of All』っていうタイトルだから、ラブソングだと思うじゃないですか。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)誰に対するラブソングだと思います?

(山里亮太)まさか、アリですか?

(町山智浩)違うんですよ。この歌は、「私はどんなことがあってもくじけない。成功しようと失敗しようと、私は自分の信じる道を行く。誰が私の全てを奪おうと、私の尊厳だけは絶対に奪えない」っていう歌詞なんですね。

(赤江珠緒)うわー、すごい。強いね。

(町山智浩)で、一体なにを言っているのか?っていうと、「誰もがヒーローを求めているけれども、私自身の心を満たしてくれる人はどこにもいない。私自身しかいないんだ」っていう歌詞なんですよ。「だから私はくじけない。なぜなら、私はGreatest Love Of All(世界で一番の愛)を知ったから」と言うんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは一体誰のことか?っていうと、「世界で一番の愛は簡単に手が届くの。それは、自分自身を愛すること」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)はー! そういうことか。なるほど。

(町山智浩)「Greatest Love Of All」っていうのは自分自身なんですよ。だからこれは、アリ自身の思想を歌にしたものなんですよ。

(赤江珠緒)そういうことですね。自分の人生の舵取りを全く他人には絶対に渡さないっていう人だったんですね。

(町山智浩)っていうか、要するに黒人は自分を愛するっていうことが許されなかったんですよ。

(山里亮太)そうか。否定されていたからね。

(町山智浩)だからまず、自分を愛さないと始まらないんだっていう話なんですよ。だから彼のいちばん有名な言葉で、「不可能という言葉は与えられた世界に生きるだけのやつの言葉だ。自分で道を切り開くやつの言葉じゃないんだ。不可能っていうのは事実じゃないんだ。それは意見にすぎない。なぜなら、がんばれば何でも、いつか可能になるからだ」って言ってるんですよ。

(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)で、実際に投票権もなかったのに、いまはオバマ大統領の時代じゃないですか。ねえ。それもやっぱり、アリのおかげなんですよ。ある意味。で、アリは「人間っていうのは誰でも、なりたいものになれる自由があるはずだ」って言ったんですけど。いまはそれは簡単な言葉ですけど。それが完全に不可能だった時に、彼はそれを言ったんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。当時の状況を考えるとね。なんて孤独な戦いだったんだろうと思いますね。

(町山智浩)そう。だからよく、「自分を信じろ」って簡単に言いますけど。それができない時代に、彼は「自分を信じろ」って言ったんですね。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)だから、グレーテストなんですよ。

(山里亮太)たしかに、グレーテストだ。

(町山智浩)だから本当に、絶対に実現できると彼は思っていなかったらしいんですけど。その夢はね。ただ、こう言ってるんですよ。「夢を持つなら、あまりにもデカすぎて、実現不可能すぎて自分がビビるぐらいの夢じゃなきゃ、夢として小さすぎるぜ」って言ってるんですよ。

(山里亮太)すごいね。言葉の1個1個が。

(町山智浩)だからボクシングだけの人じゃないんですよ。で、もちろん黒人だけのために彼は戦ったわけじゃなくて、いま、こういう話を聞くと、要するに全ての人間のための戦いですよね。

(赤江珠緒)うんうん。そうですね。

(町山智浩)はい。だから今後、この『Greatest Love Of All』を聞いたら、「なんだ、ラブソングか」って思うんじゃなくて、こういう歌詞なんだと。

(赤江珠緒)そうね。自分の尊厳のための歌だったんだね。

(町山智浩)そう。それを思い出して、アリのことを思い出していただきたいと。

(山里亮太)すごいなー。アリ、ものすごいいい言葉をいっぱい残していて。僕、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ぐらいしか知らなかったから。

(町山智浩)いやいやいや(笑)。グレーテストですよ。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)ちょっとお尻に弱いですが。はい(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。そこはいいのよ! そこはいま、思い出さなくていいのよ。

(山里亮太)町山さんはそういうお尻情報とか、すぐ入れるから。もう……

(町山智浩)そこだけで共感しています。はい(笑)。

(山里亮太)それ以外にも共感してるでしょ! 夢のことについてとか、いろいろ。

(赤江珠緒)ねえ。偉大な人ですね。今日は先日亡くなったモハメド・アリさんについて町山さんにうかがいました。来週のスペシャルウィークは『トランプの暴言は演技だった?』ということで、町山さんがいまのアメリカ、トランプ変身の秘密を暴いてくれます。お楽しみに。では町山さん、また来週、お願いします。

(山里亮太)お願いします。

(町山智浩)はいはい。どもでした。

<書き起こしおわり>

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