宇多丸推薦図書『メキシコ麻薬戦争』を語る

宇多丸推薦図書『メキシコ麻薬戦争』を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の秋の推薦図書特集 放課後ポッドキャストで『メキシコ麻薬戦争』を推薦。近年、映画のテーマとして登場するメキシコ麻薬カルテルを読み解くサブテキストとして紹介していました。

メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱

(宇多丸)僕、ちょっと短めに行きますね。ちょろっと本放送の中でも言いましたけど、これね、実は番組に送本いただいた中の1冊で。面白い本をいっぱい読ませていただいてるんだけど。これを送ってくるのはやっぱり、わかってらっしゃるな!と。

(古川耕)なんの本ですか?

(宇多丸)現代企画室というところが日本で出しております。ズバリ!『メキシコ麻薬戦争』。

(一同)おおー!

(宇多丸)副題『アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』。ヨアン・グリロさんというね、この方、元々はイギリスの方なのかな?が、書かれている本で。これはまあ、いわゆるノンフィクションです。もちろん。メキシコを舞台とした、麻薬戦争っていうのは要するにその、麻薬を生産し、流通させ、それで儲けているいろんな組織があって。まあ、カルテルなんて言われてますけど。その組織同士による大量の殺し合いであるとか。というような話ですね。というのは、この番組では、なんで紹介したいなと思ったかというと、最近アメリカ映画見てて、とにかくメキシコ麻薬カルテルの話ばっかりですよ!アクション映画は。本当に。

(古川耕)うんうんうん。

(宇多丸)たとえば、そうですね。まあ、いちばん典型というか、メキシコ麻薬カルテルものといえば、『悪の法則』ですね。この、ちょっと後ほど紹介する時に、やっぱり悪の法則で描かれた、あのまんま。あれなんですよ。まさに。

(古川耕)悪のメカニズムが。

(宇多丸)まさにそうなんですけど。でもあるし、たとえば来週ムービーウォッチメンで当たった『サボタージュ』。これ、デビッド・エアー監督ですけど、これ、たしかたぶん麻薬カルテルとモメる話。モメた結果、アメリカのDEAっていうね、麻薬取締局が大変な目にあうという話ですし。同じデビッド・エアーの前作『エンド・オブ・ウォッチ』。これ、ロスアンゼルスの警官ですけど、たまたまその制服警官が麻薬カルテルのブツがある部屋を当てちゃったがために起こる大惨事という話で。

(古川耕)でしたでした。

(宇多丸)で、ございます。なのでまあ、単純にその映画を見る時のガイドというかですね。いまこういうことになってるんだみたいなのになるので、いいかなと思ったんですね。で、さっきの悪の法則のね、あのまんまだよっていうのは要するに、もう複雑怪奇なシステムがあるわけですよ。特にお金の行き先なんか、もうわけわからないことになっているみたいなんだけど。とにかく、個々の人たちは個々の仕事しかしないっていうね。

(古川耕)目の前のね。

(宇多丸)目の前の仕事しかしない。で、こう回っていくっていうシステムがあるっていうのが、まずひとつですね。あの映画全体が描いていることですよ。で、まあ個々の人は個々のことしかやんないから、誰も責任を取らないし・・・みたいなのがワーッと動いているっていうのもそうだし。やっぱりあの、残虐行為。中でいうとたとえばバキュームカーの中にドラム缶。で、その中に、薬も入ってるんだけど、なんか死体が入っていて。で、ジョン・レグイザモがね、イタリアンマフィアだと思いますけど、要するにアメリカ側で捌く側。ちなみにメキシコカルテルはアメリカ側で捌く側の縄張り争いとかは全く興味ないらしいんだよね。

(古川耕)あ、そうなんだ。

(宇多丸)メキシコ国境側ではやるんだけど。そっちではもう別にもう関係ないらしいんだけど。この本に出てくることによると。とにかくさ、ジョン・レグイザモはこうね、『それ、死体だよ』『死体ってなに?』『なんかあって消されたんじゃない?』『なんで?』『なんでっていうか・・・ギャグじゃん?』みたいな。『面白いからじゃん?』みたいな(笑)。ことを言うじゃん。そういうように、なんか残虐合戦みたいな。基本は相手をビビらせるために・・・

(古川耕)見せしめ。

(宇多丸)見せしめのためにやるんだけど。ここに出てくるね、この人、訳している人が山本昭代さんっていう人が『日本人には刺激的かと思って大幅に残虐行為とかはカットした』とかって、余計なことをしないでくれ!っていう・・・

(古川耕)(笑)

(宇多丸)思うんだけど。まあ、出てくる中でも、たとえばなんだ?サッカーボールに殺した人の顔を縫い付けて・・・

(妹尾匡夫)ええーっ?

(宇多丸)あの、首が置いてあるのはもう普通。とか、あと何百人だかを強酸で溶かした死のシチュー事件みたいなのとか。

(古川耕)どんなのがカットされたんだ?って悩みますけどね。

(宇多丸)そうそうそう。なんなんだ?っていう感じなんだけど。まあ、そういうのが出てきたりするんですけどね。で、とにかくなんでメキシコ麻薬カルテルが発展したか?っていう歴史の話からずっと始まっていて。これを読んでいくと、たとえばですね、1983年かな?『スカーフェイス』。この本の中でも映画の話とか何個か出てくるんだけど。スカーフェイス。あれはキューバ人マフィアの成り上がりがトニー・モンタナなんだけど。トニー・モンタナがいちばんモメる超怖い麻薬カルテルとしてあの映画で描かれていたのがコロンビアですね。コロンビアの麻薬カルテルじゃないですか。しかも、舞台はフロリダ州マイアミ。フロリダ州マイアミを舞台にした、いちばん怖いのはコロンビアカルテルの時代から、どうしてメキシコ麻薬カルテルになったのか?

(古川耕)はい。

(宇多丸)もうコロンビアのカルテルは完全に弱っているんだって。なんでそうなったのか?っていう話とか。だから現代ギャング映画の移り変わりの歴史、そして、ここが重要なんだけどね。ものすごい殺しとかね、10代で殺し屋になって85ドルで殺人を請け負う少年たち。もう完全に特殊部隊っていうか軍隊化したそのカルテルたち。で、ものすごい数が死んで、残虐に殺されたりしているわけだけど。それは何のために起こっているのか?と言えば、この本の最初の方にすごいショッキングな書き出しで。『その全てはアメリカの大学生たちがハイになるためだ』って。

(古川耕)うわー・・・

(宇多丸)まあ、大学生っていうのはひとつの比喩なんだけど、要するにアメリカ映画を見ていれば、ちょっとお金を持っている、で、ちょっとワルぶった人が鼻に白い粉をつけて・・・とか。出てきますよね。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』しかり、なんでもいいですけど。やっぱりね、アメリカは麻薬大国なんですよね。日本と本当に根本が違うのは、やっぱり麻薬の普及率問題なんだと思うんだけど。まあ、酒だって麻薬なんだけど。酒以外の麻薬っていうかね。というような話。なので、そっちに行くんだよっていう話ね。で、歴史の積み重ねの話もあったりとかして。で、面白いのはね、これね、麻薬密輸業者に関わる麻薬密輸の組織のね、メンバーのことを『ナルコ』っていうんですよ。ナルコ。とにかくナルコっていうのね。

(古川耕)うん。

(宇多丸)でね、ナルコ特有の文化があるんですよね。その人殺しとかをしたりさ、そうやっているね。たとえばね、俺ぜんぜん知らなかったんだけど。彼らがね、特に好む音楽のジャンルがあるんだと。これ、だからね、ギャングスタラップかな?って思うじゃない。

(古川耕)うんうん。チカーノとかね。

(宇多丸)まあ、それに近いんだけど。『ナルコ・コリード(narco corrido)』っていうジャンルがあるのよ。ナルコ・コリードとは、麻薬のギャングとか密輸の話とか、そういう世界のことを歌ったバラードのジャンル。

(一同)へー!

(宇多丸)そのメキシコの伝統的な音楽と融合したナルコ・コリードというジャンルが一大ジャンルとしてあるんだってさ。

(古川耕)知らねー!

(宇多丸)で、めちゃくちゃ売れてて。で、なおかつですね、その歌っている人全員がギャングっていうわけじゃないんだけど、格好はそのAK47を持って写真に写ったりとか。まあギャング風に写ったりしてるんだけど。たとえばそのお金をもらって、ある特定の、現存するですよ、麻薬カルテルのボスを称える歌とかをね。『こんな勇敢なやつで』って。で、やっぱりその反逆者。アメリカの帝国主義に対抗するメキシコの反逆者っていう、昔からの対アメリカに対する反逆者のイメージとかもあったりして。それもプラスになっちゃうわけですよ。

(古川耕)ふんふんふん。

(宇多丸)だからまあ、英雄的に描けたりするわけですね。まあ、ロビン・フッドですよ。圧政に対する・・・こっちからすれば反逆者だけど、民衆からすればヒーローみたいな、そういう描かれ方をする。で、まあ特定のボスを称えるような歌を歌う。そうすると・・・やっぱり対抗するボスとかとはモメたりもする。その結果かどうかはわからない。理由はわからないけど、このナルコ・コリードのスター歌手とかは結構な数、拉致されて殺されたりとか・・・

(古川耕)恐ろしい・・・

(妹尾匡夫)そんなことわかっていて、よく歌うよね。

(宇多丸)まあでもやっぱり、儲ける。やっぱり貧しい暮らしから抜け出すっていう、これがもうすべてです。麻薬とかギャングになんで入るか?って言ったら、それは貧しい暮らしから抜け出すためということですね。あの、この本はね、素晴らしいのは最後の方に、ちょっと後で言いますけど、解決に向けた提言というか、いまの動きがっていうことも書いてあるんだけど。ナルコ・コリード。あとですね、ああっ!と思ったのがですね、殺し屋たちなんだけど、やっぱりメキシコだからカトリック系なのね。元はね。土壌としては。なんだけど、やっぱり殺し屋たちなりの宗教観みたいなのを進化させてたりするんだって。

(古川耕)へー。

(宇多丸)でね、特に印象的なのは、『サンタムエルテ(Sante Muerte)』っていう、要はこういう感じです。骸骨、わかります?骸骨状のマリア像みたいな。サンタムエルテっていうのを信仰する宗教。まあ、だからカトリックベースの新興宗教です。もちろん、カトリック教会は『悪魔信仰だ』って言ってますよ。なんだけど、カトリック的なのをベースにしたサンタムエルテ信仰っていうのが・・・

(古川耕)すっげーシニカルな感じ、しますね。

(宇多丸)独自のやっぱり彼らの文化。そして墓とかものすごい立派なのを建てたりして。そうそうそう。だから天国に行けると思ってるんだけどね。どんなことをやっても。とかね、そういうのが。あ、そんなことになってんだ!みたいなのがね、まあアメリカ映画に出てくる断片的なのが補えるっていうのもあれば、その向こう側にある本当の世界みたいなのがものすごい描かれていて。とかね、あとね、ナルコ的な文化の映画とかも向こうではいっぱいあるんだって。

(古川耕)あ、そうなんですか。

(宇多丸)密輸業者の主役のやつとかって。これ、ちょっと見てみたいんだけど。

(一同)へー!

(宇多丸)で、ですね。そこだけでも、十分・・・なんて言うのかな?モンド映画的な・・・申し訳ないけどね。異世界。日本にとっては、それはそうなんだけど。でもやっぱりこれって結局なんでメキシコ麻薬戦争がこうやって広がってきたか?っていうと、ひとつにはこれにも書いてありますけど、グローバル化社会問題っていうのがあったりして。とかっていう、決して無縁ではない話が出てきたりとかですね。つまりそのね、やっぱり社会が、単にお前ら勝手にやってねって貧しい若者たちが未来もなく暮らす人たちが多くなる。で、格差が広がってっていう社会になると、どういうことを招くか?っていうことが、まずひとつ。

(古川耕)どこに歪みが行くのか?っていう。

(宇多丸)だからその、弱者に厳しい社会っていうのが結局どうなるか?っていうことの末路の話でもあるし。あとですね、これはね、ああっ!と思ったのが、結局その解決策のひとつとしていまあるのは、やっぱり麻薬ってなんでじゃあ、問題が起こるか?っていうと、麻薬を吸って変なふうになっちゃって暴れてこんな殺しが起こっているわけじゃないんですよ。なんで起こっているか?っていうと、これはすべてこれがアンダーグラウンドな業種だから起こっている話なんです。縄張りの取り合いだから起こる話であると。つまり、たとえば近年の世界的にあるようなマリファナの合法化の動きって、これ日本だといまいち動きがわかりづらいじゃないですか。

(古川耕)はい。

(宇多丸)もちろんアメリカでは、たとえば日本で言う、なんだろうな?違法な飲酒?とかに近いぐらい、かなり日常的なものになっちゃっているから。で、なおかつ害もないし、わかんないけど。まあ、マリファナぐらいっていうのもわからいじゃないよって感じかもしれないけど。要は、ひとつにはこの麻薬戦争に対するひとつの回答なんですよね。合法化っていうのは。っていう・・・あ、そうか!そういうことなんだ!っていうのを、改めてこれでね。で、どこまでをじゃあ合法化するのか?マリファナだってもちろんメキシコ、すごく大量にギャングの収入になっている。これを断つだけでも相当あれなんだけど。たとえばじゃあ、コカインはどうなんだ?まあ、ヘロインってことはまずないと思いますけど。みたいなのとかですね。で、ちなみにウルグアイ。これ、南米ですね。同じく。

(古川耕)はいはいはい。

(宇多丸)ウルグアイは国でマリファナを2013年12月、合法化した。国ごとです。栽培、販売、所持・・・

(妹尾匡夫)アンダーグラウンドに商売させないように・・・

(宇多丸)そういうことです。なんでもそうじゃないですか。つまりね、お酒のことを考えてみて下さいよ。『酒だってドラッグだ』って言ったけど、禁酒法時代。なにが起こったか?暴力とギャングをのばしただけですよ。もちろん酒だって有害だし、なんならマリファナ以上に暴力とかを起こしやすい、非常に危険なドラッグですから。とはいえ、酒を飲むやつ全員が廃人になるか?社会生活を送れないか?そんなわけはないですよね。ということで、こんなのは塩梅の問題だということも含めてですね、結構日本の社会だけのことしか見てないとわかんないような視点が出るかなと思いまして。まあ、いまアメリカ映画とかを見るんだったら・・・

(古川耕)向こうのポップカルチャーをね、見る時のひとつのキーに・・・

(宇多丸)ひとつのサブテキストもそうですし、世界で起こっていることを。麻薬合法化。アメリカだってガンガン、そうですよね。今度、ワシントンがそうなる?ってことは、ホワイトハウスの真ん前でマリファナ吸ってて問題ないっていうことですから。

(伊藤聡)すごいですね、それね。

(宇多丸)とかね。なんて話を(高橋)ヨシキさんとこの間してたんですが。ということでございます。この番組、リスナーにはちょっといい・・・

(妹尾匡夫)おいくらですか?

(宇多丸)これはですね、現代企画室。おっ!これは安めに感じる。定価2200円+税でございます。

(古川耕)安い!

(宇多丸)安い!

(伊藤聡)へー。映画、多いですよね。最近。メキシコ麻薬もの。

(妹尾匡夫)『ブレイキング・バッド』も。

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(宇多丸)あ、ブレイキング・バッドの話も出てきます。で、この作者の人はブレイキング・バッドでメキシコの非常に治安の悪い地域で起こる場面があるんだけど、ずっとこんなことはフィクションのことだと思っていた。実際に本当にこういう事件が起こるまではって。たとえばね、インフォーマー。チクリ屋、情報屋。まあ、バレたんでしょうね。首が亀の置物の・・・そういうことをするんですよ!亀の格好の置物の上に首が置かれて・・・っていうのが出てくるんでしょ?それ、本当に起こったんだって。要するに、倒れている人がいて、死体があるから助けようとしたら、そこで遠隔操作で爆弾でドーン!と。

(古川耕)わーお・・・はー!

(妹尾匡夫)骸骨のマリア様みたいなのも出てきたよ。

(宇多丸)あ、それはまさにさっきのサンタムエルテのやつですね。はい。ということで、たぶんいまのアメリカのポップカルチャー。特に我々が好むようなエクストリームなものを読み解くには、ちょっといいサブテキストになる。なので、現代企画室さん、送っていただいてすいません。僕、ちょっと買ったやつじゃないんだけど。これ、よかったです。バッチリです。はい。ちょっと私、不謹慎な紹介の仕方をしてしまいましたが。はっきり言って笑い事ではない・・・

(古川耕)でも、面白そう。

(宇多丸)という感じでございます。はい。

<書き起こしおわり>

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