町山智浩　イ・チャンドン『オアシス』を語る

でか美ちゃんさんと町山智浩さんが2023年9月5日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で現在、『イ・チャンドンレトロスペクティヴ4K』で公開中の作品『オアシス』について話していました。

（町山智浩）はい。森達也監督に『福田村事件』のインタビューしたんですよ。そしたら、やっぱりあまりにもヘビーだったんで。もうこういう路線はちょっと一旦、休みたいということで。森達也さん。それで「じゃあ、次は何を撮りたいんですか？」って聞いたら、「イ・チャンドン監督の『オアシス』みたいなラブストーリーを撮りたい」って言ったんですよ。

（でか美ちゃん）ああ、次はラブストーリーなんですね。

（町山智浩）そしたら、ちょうどその『オアシス』っていう映画が、これは2002年の映画で。約20年前の映画なんですけれども。8月25日から、そのイ・チャンドン監督の懐古上映としてですね、4Kリマスターしたんで。今、ちょうど東京で上映してるんですよ。『オアシス』が。

（でか美ちゃん）本当だ。ヒューマントラストシネマ有楽町で東京は上映してまして。全国で順次っていうことみたいですね。

『イ・チャンドンレトロスペクティヴ4K』

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（町山智浩）で、まあ森達也監督がやりたいラブストーリーだから。この『オアシス』っていうのは普通のラブストーリーじゃないんですよ。これがまたね、強烈な映画で。主人公は交通事故で人を死なせてしまって、刑務所に入って出てきた男なんですね。で、彼は実は何にも仕事ができなくて。刑務所を出たり入ったりしてるんで、家族からも嫌われて、厄介者にされて、居場所がない主人公なんですね。でも彼はね、交通事故で死なせた人に本当に申し訳ないと思って、謝りに行くんですよ。

（でか美ちゃん）なんか、ちょっとどうなん？　とも思いますけども。

（町山智浩）そう。「それ、いいの？」とは思うんですけど。彼はちょっと素朴な、純朴な人なんで。

（でか美ちゃん）まっすぐ、そう思っちゃってるんですよね？

（町山智浩）そう思ってね、遺族の部屋を訪ねていくと、そこにある女性がいるんですが。その女性が体を、全身を歪めて、苦しんでるように見えるんですよ。それはね、重度の脳性麻痺の女性なんですね。

（でか美ちゃん）じゃあ、障害を持たれてる方を残して、交通事故で……。

（町山智浩）そう。お父さんが亡くなっているんですよ。で、なんとその女性とその青年が恋に落ちていくっていうラブストーリーなんです。

（でか美ちゃん）うわっ！　ちょっと、つらいお話だな……。

（町山智浩）これがね、まっすぐ強烈で。脳性麻痺というものは、お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいる時とか、生まれた直後とかに……たとえば、よく言われてるのは逆子とかで、酸欠になっちゃうんですね。で、脳に行く酸素が少なくなると、脳の一部に障害が出たりするんですけれども。で、体が自由に動かせないという感じなんですね。ただ、でもその心の部分。精神の部分は、全く普通なんですよ。

（でか美ちゃん）そうか。体が不自由なだけで。

（町山智浩）そうそう。体が不自由なだけ。言葉がしゃべれないとか、表情が作れないとか。だから、自分のコントロールできない入れ物の中に閉じ込められている状態になっているんですよ。普通の人がですよね。それを、その女性の心の内側から描こうとするんですよ。これは。

（眉村ちあき）なるほど！

（町山智浩）ちょっと見てみると、どういう映像表現か。あっと驚く奇跡のような瞬間がありますんでね。ぜひよかったらと思います。

（でか美ちゃん）ちょっと見てみたいですね。ちょうどね、順次公開されてるから。行きましょう。しかも森達也さんが影響されてるのなら……。

（町山智浩）影響というか、「ああいうのを撮りたいな」っていう。この『オアシス』で一番すごいのはね、韓国だから、ドラマを撮影をしているシーンが出てくるんですよ。

（でか美ちゃん）ああ、映画の中にさらにあるっていうことですか？

（町山智浩）映画の中でちょうどね、主人公たちがロケーションをしてるところに出くわすんですね。で、それが超イケメンと……韓国ですからね。イケメンと美女と、2人で高級車に乗って。もうすごいおしゃれにね、ピカピカのラブストーリーをやってるわけですよ。

（でか美ちゃん）超憧れの恋愛をしてるわけですよね。

（町山智浩）そうそう。韓国ドラマでね、一番人気の。それをちゃんと中に出して、「これが世界中で人気の韓国ドラマの世界ですよ。でも、そうじゃないものもあるんですよ」っていうね。「ドラマや映画が見せない、K-POPが見せないものがあるんです。それをお見せします」っていうような映画なんですよ。

（眉村ちあき）その演出、すごい……。