町山智浩さんが2025年1月7日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で浅野忠信さんがゴールデングローブ賞ドラマ部門の助演男優賞を受賞したことについてトーク。俳優・浅野忠信さんの魅力について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得て、町山さんの発言を抜粋して記事化しております。
(町山智浩)『SHOGUN』のゴールデングローブ賞受賞……真田広之さん、すごいですよね。本当にね。すごく苦労して……それこそ忍者役とか、ハリウッドにはそんな役しかなくてね。で、でたらめな忍者描写とかが乱れ飛んでる中で全部、自分で仕切って。そしてとうとう栄冠を手にしましたね。真田先生は素晴らしいんですが……浅野忠信さんも助演男優賞を取りましたね。これ、なぜ浅野さんが取ったか?っていうことが話題になっていないんですけど。
これ、浅野さんの役ってね、『ゲゲゲの鬼太郎』におけるねずみ男の役ですよ。ものすごくずるいんですよ。意外と日本では見てる人、あんまりいないんですよね。ディズニープラスで配信してるんで是非『SHOGUN』、見ていただきたいんですが。天下を統一しようとしているのが真田広之さんで。徳川家康をモデルにしたキャラクターなんですけれどもね。戦国時代で。で、その下につこうか、つくまいかを迷いながら、彼の下についてるふりをして裏切って。でも、どっちが強いかわからないからってフラフラしてる男が浅野忠信さんなんですよ。彼、掴みどころがないんですよ。
掴みどころのない男、浅野忠信
(町山智浩)ただ、その戦国時代において主人に仕えて絶対に裏切らないっていうことが非常に大事な時代において、浅野忠信さんは全く侍精神のない男なんです。非常に現代的、近代的なキャラクターなんですよ。これがまた面白いんですよ。ねずみ男ってみんな、嫌いじゃないじゃないですか。ねずみ男、ずるいんですよ。鬼太郎の敵方に回って、鬼太郎を裏切って。時にはその『ゲゲゲの鬼太郎』を死に至らしめるような裏切りまでしてるんですよね。ねずみ男。だけど、憎めないんですよ。
浅野忠信さんはただね、『SHOGUN』でこの役をやってますけども、いつもそうです。浅野忠信さんの映画とかドラマとかを見るとわかるんですけど、大抵こういうキャラです。顔がいいからみんな、よく思ってるんですけど、大抵は飄々として、ずるくて、掴みどころがないんですよ。で、みんながヒーローだったり、悪人だったりする中で、どっちにも……なんていうか、ヒーローでもないし、悪役でもないという非常に奇妙なキャラクターなんですよ、いつも。
浅野さんっていう俳優の素晴らしさというのはあまり、日本でそれほど知られてないんですが……『沈黙 -サイレンス-』という映画があるんですよ。遠藤周作さんの『沈黙』という江戸時代のキリシタン弾圧を描いた映画があって。マーティン・スコセッシ監督が撮ったアメリカ映画なんですが。その中で浅野さんはキリシタンを徹底的に弾圧する役人の役をやってるんですよ。これがまた、すごいんですよ。それで彼は「俺、キリシタンとかどうでもいいんだよね」って言うんですよ。「だから君はここでね、『もうキリシタン、やめました』って言ってくれればそれでいいわけで。こんなの、形だけのことだからさ」とか言って、すごい打ち解けた感じで話すんですよ。主人公であるキリスト教の伝道師にね。
でね、「ちょっとここから見てみろ」って言うんですけど、そうすると彼の友達のアダム・ドライバーが拷問されて殺されるんですよ。それで「ああ、かわいそうだね。死んじゃったね。君がキリシタンやめないから、君の友達は死んじゃったよ」って言うんですよ。ものすごい嫌なやつなんですけど。本当に浅野さんのこの異常な飄々としたキャラクターというのはこれ、稀有な存在ですよ。日本の中では。かっこいいからかっこいいと思っちゃうのはこれ、ちょっと間違いですね(笑)。
この人はいつも軽妙でね、軽くて。本当にこの掴みどころのなさっていうのはすごくて。『殺し屋1』っていう映画ではものすごい、その自分で自分の体を傷つけても全然平気で、他の人もガンガン殺すっていう殺し屋の役をやってるんですけれども。浅野さんは。それでもね、飄々としてるんですよ。何にも気にしてないの。この人、面白いから「浅野忠信、怖え!」っていうことで皆さん、いろいろ勉強するといいと思いますよ。
で、『殺し屋1』は女性は見ない方がいいです。恐ろしい映画です。『沈黙 -サイレンス-』はね、是非見ていただくと「浅野忠信、恐るべし」っていう映画なんで。是非、『沈黙 -サイレンス-』は見ていただきたいと思いますね。しかもゴールデングローブ賞を取った時もね、浅野さんは挨拶が本当にキャラクターのまんまなんですよ。いきなりね、トロフィーをもらってね、「ああ、僕のことをみんな、知らないでしょう?」って言うんですよ。「僕ね、浅野忠信っていう日本の俳優なんですけどね。このショーが終わるとすぐ日本に帰って、仕事しなきゃなんないんでね。ありがとう!」っつって終わっちゃうんですけど。この軽さ……(笑)。
浅野忠信ゴールデングローブ賞受賞スピーチ
(町山智浩)僕ね、浅野さん本人じゃないですけど、偶然お父さんと一緒にお酒を飲んだことがあるんですよ。いろんな経緯がありまして。で、飲んだんですけども、浅野さんのお父さんって、浅野さんとそっくりなんですよ。「どうもどうも、町山さん!」っていきなりね、お酒を注いでくれて。恐るべしですよ(笑)。皆さん、ちゃんと浅野忠信のすごさに気づいてほしいと思います。