町山智浩さんが2024年3月5日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『実録 マリウポリの20日間』について話していました。
(石山蓮華)ということで、町山さん。今日は?
(町山智浩)今日はですね、アカデミー賞が授賞式が来週……っていうか、日本時間だと再来週の月曜日になっちゃうんすけど。アメリカだと来週の週末にあるんですね。日本時間だと3月11日、月曜日。で、僕は例のごとく、もう10年ぐらいやってるんですけど。WOWOWで中継の解説をします。で、今回はですね、ドキュメンタリー賞と、これ前は外国語映画賞って言っていたんですが。国際映画賞。それはもう鉄板でたぶん、他には行かないだろうと思ってるんですけれども。その2本をちょっと紹介したいんですが。去年のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞が何を受賞したかというと、『ナワリヌイ』という映画で。
これはロシアでプーチン大統領を非常に激しく批判していた、反プーチン運動家のアレクセイ・ナワリヌイという人が、毒殺されそうになったんですね。で、この映画の中でその毒殺の犯人を突き止めていくところがポイントになっています。で、一番すごいのはその毒殺の犯人の携帯番号を突き止めまして。これね、べリングキャットというドイツのそういうハッカー集団というか、ホワイトハッカーの人たちがいまして。ファクトチェックとか、いろいろやってるんですけど。彼らがその暗殺犯自身の電話番号を見つけまして。
(石山蓮華)これ、すごいですよね。
(町山智浩)それが、国家安全保障省の……要するに役人なんですよ。しかも。プーチンの下の。昔はKGBだったところですね。そこの化学担当の人が犯人だってことがわかって。その人に直接、ナワリヌイさんが電話するんですよ。
(石山蓮華)殺されそうになった人が暗殺者に電話をかけるんですね?
(町山智浩)そうなんです。で、上司のふりをして電話をするんですよ。そのFSBっていう元KGBの上司のふりをして。「なんで作戦に失敗したんだ? なんで殺せなかったんだ?」って言うと、相手は「上司に怒られている」って思って。その犯人、実行犯が全部、その犯行の細かい詳細を自白しちゃうっていう映画なんですよ。
(石山蓮華)すごすぎますよ……。
(町山智浩)最近、ほら。オレオレ詐欺とか、あるけど。これ、オレオレ詐欺ですよ(笑)。
(でか美ちゃん)上司上司詐欺が。暗殺犯ほどの人がそんなんでひょいっと騙されるんだとも思いますよね。
(町山智浩)騙されちゃうんですよ。とんでもない内容なんですけど。ただ最後、この映画はそのナワリヌイさん、ドイツに行って。安全なところにいたのに……その前は殺されそうになったというのに、勇気を持ってロシアに帰るところで終わるんですよ。この映画は。で、去年この作品がアカデミー賞を受賞した時は、ナワリヌイさんはロシアで冤罪によって、シベリアの北極圏に近い刑務所に送られてた状態でアカデミードキュメンタリー賞を受賞したんですね。その後、彼は殺されましたね。つい、この間ですけども。
(石山蓮華)16日に亡くなったっていうことで。
(町山智浩)はい。ロシア政府は彼の死について、「突然死症候群だ」って言ってますね。
(でか美ちゃん)そうだとしても、説明が必要というか。
(石山蓮華)あと、亡くなった後のいろんな対応っていうのもちょっと……。
(町山智浩)だからその遺体をなかなか出さなかったりしていたんですけども。それが去年のアカデミー賞のドキュメンタリー賞受賞作品で。で、今年はまた、ロシア絡みなんですけれども。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を取るだろうと言われてる映画は『マリウポリの20日間』という映画なんですね。これはもう、既にNHKで放送してるんですけども。これはウクライナにロシアが侵攻してから20日間、現場で撮り続けた映像なんですよ。これはミスティスラフ・チェルノフさんっていうウクライナの人がずっと撮り続けて。これはね、リアルタイムでどんどん映像を……この、有名なAP通信の記者だったんで。衛星回線でAPに送り続けていたんです。で、リアルタイムでどんどん、この人の撮った映像が世界に放送されるという状態になりました。
リアルタイムで戦場の映像を送り続ける
(町山智浩)で、それが一番、世界中に衝撃を与えたのは絶対に攻撃をしてはいけない救急病院であるとか、産婦人科。産院ですね。そこに対して、ロシアが猛攻撃を仕掛ける現場が捉えられています。その映像には。で、これで大問題になったわけですけど。ロシア政府は「そんなことはしていない」という。要するに、それは国際法違反ですからね。ロシア政府は「していない。これは、でっち上げてある。その映像に関しては作り物で、俳優がやっている」とかね、ずっと言っていたんですよ。
で、特に一番衝撃的なのは妊婦さんがお腹を……大変なことになっちゃっている映像がその中にあるんですよ。担架に乗せられてるんですが。で、その時はロシア政府は「こんなもん、インチキだ。作り物だ」って言ってたんですけども。この『マリウポリの20日間』ではその産院攻撃の前後の映像が全部、入ってるんですよ。どうして、どうなってっていうのが全部、入ってますから。全然、作り物なんかじゃないんですよ。しかも撮影者の人。チェルノフさんは娘さんが後方の方に行って、そのまんまそこの最前線に残ったら死ぬかもしれないんですけど。本当にギリギリまで撮影を続けるんですよ。命がけで撮影したすごい映画がこの『マリウポリの20日間』で。
日本はね、この間まで配信していたんですけど、配信が止まっちゃったんで。ただね、これはその権利を持ってる会社が「全世界に見せ続ける」っていうことで。インターネット、YouTubeで無料でその配信を続けてますので。ぜひ「20 Days In Mariupol」でネットで検索するとすぐ、YouTubeで出てきて。英語字幕でですけど見れますから。それで、やっぱり言葉がわからなくても映像が強烈ですから。戦場の本当にもう大変なものが見れますので。ぜひ見ていただきたいと思います。もちろん、ウクライナでも戦争は続いていて。この映画は今回のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を取ると思います。はい。
『実録 マリウポリの20日間』予告
<書き起こしおわり>