(吉田豪)すごいんですよ。ちょっと1個、言えそうな話って行くと、お父さんもデタラメな人で。酒癖が悪くて……みたいな。よく似た人らしいんですけど。そのお父さんの友人に、とても面白い人がいて。河本さんはその人の影響を受けている。悪い意味で本当にめちゃくちゃな人で……っていうことで。で、いろんなことを書いてる本でも「書けない」っていっていて。ただ、そこで書けるポップな話として出ているのが、ある日、そのおじさんが家にご飯を食べに来た時に、ド派手なパーカーを着てきた。黒地のオレンジの蛍光色の塗料が飛び散ったデザインで、明らかに田舎のおじさんが着るような服ではなくて。
で、「かっこいいだろ?」って自慢げにその服を見せてきていて。ただ、ものすごく化学の匂いがしていたと。「なに? 自分で作ったの?」ってお母さんに聞いたら「まあ、そんなところ」とか言ってて。そしたら、家のチャイムが鳴って、警察が来て、おじさんを連れていった。実はおじさんが家に来る前に、コンビニ強盗未遂をして。カラーボールをぶつけられていた。それでパーカーが奇跡的におしゃれに変身していて。そこから数年、そのおじさんとは会えなかったっていう……書けるレベルがこれっていう(笑)。
(宇多丸)フハハハハハハハハッ! 書けるレベルがこれ?
M-1優勝で号泣の原点
(吉田豪)ただ、でも河本さんだなって思うのが、河本さんってM-1で優勝して、そんなに努力もしてないのにきれいな涙がすっと流れて。「なんでお前が泣いてるんだよ?」って井口さんが怒るみたいな展開があったんですけど。あれの前振りみたいな話があるんですよ。とにかく、学校でもダメな人で。基本オール1みたいな感じで。ただ、中学時代に部活だけは頑張っていたっていう。で、中学は吹奏楽部の強豪校だったんで、そこに入って。で、とりあえずドラムがあるから打楽器をやったら、とにかく何もできない。で、結局コンクールとかだと毎回ミスってみんなの足を引っ張るから、最終的には隣の女の子が合図をしてくれたら叩くっていう状態になって。それは芸になった今も変わらないっていう。
まさに、そうなんですよ。今、井口さんがやってるようなことは中学の吹奏楽部の時からあって。それででも、強豪校だから結構いい大会に出て。だけど、結局本人は練習をさぼって友達と遊びに行ったりとかして。練習中にもその太鼓の陰に隠れて寝たりとか。ずる休みは当たり前で、何度かクビになったけども。「この部活を辞めたらまずい」と思って、なんとか頭を下げて戻らせてもらって。最終的には大会で足を引っ張りながらも、1年生とか2年生に仕事を取られながらも、シンバル一発しか叩かず。なのに最終的には感極まって涙が流れてみんなに笑われたって。
(宇多丸)まあ、毎回そういう構図だと。
(吉田豪)そうなんですよ(笑)。ダメな人だけど、きれいな涙が出る人なんですよ。元々。
(宇多丸)あと、わかんない。話を聞いてると、何事にも執着が薄いのかな? なんなんだろう?
(吉田豪)不思議な人なんですよ。すごく。
(宇多丸)なんだろうね。自分に対しても、何かに対しても、執着が薄いのか、何なのか。話を聞いても、味は濃いんだけど本人は飄々としてるから。なんか『男の星座』系の話とちょっと違うのは、本人の温度が低いっていうか。
(吉田豪)あと、いわゆるクズ芸人ブームでも、売り出せるようなクズ芸人の人とはちょっと違うんですよ。明らかに。ギャンブルをやって借金が……とかではないし。
(宇多丸)まあ、だから面白くしようと思ってやってるわけじゃないしね。
(吉田豪)そうなんですよ。本人は真面目だと思って、こういうことやっていて。だからこの本の最後の方でも、芸人としてM-1で1回、9位になって。この本はその翌年ぐらい出た本なので。「ダメだったらこのまま就職しようとは思わない。ダラダラ芸人をやっていたい。今もこの文章を書きながら妻に『仕事だ』と嘘をついて公園のベンチで発泡酒を飲みながら、気持ちのいい風に吹かれて小学3年生ぐらいの子供たちのサッカーの練習試合を観戦している」とか。まあ、ダメなんですよ。
(宇多丸)詩的な表現、するなっていうね(笑)。文学的に書くんじゃないっていうね(笑)。しかも、あれだもんね。井口さんと給料折半だから、自動的にね。
(吉田豪)そう。全く焦らないんですよ。給料を折半するためのトラップの話とかも、めちゃくちゃなんですけど(笑)。「本当に僕はもう最初から計算が働いて」って言っていて。最初に爆笑問題のバーターでCMに出て。その時に、河本さんが折半を持ちかけるんですよね。それが当時としては破格の額だったから。「今後のギャラ、全部折半にしよう」って持ちかけて。「結果、最高の人生ですよ」って言ってるんですよ(笑)。
(宇多丸)うーん、なんだろう? でも、本人は悪気がないから、邪悪な感じも別にしないし。なんだろうね、これね。
(吉田豪)なんかクセになる感じで。ただ、本当にそうやって僕が絶賛することに井口さんが相当苛立っていて。「お前、責任取ってくれんのか?って思います」って、まさにそれだと思うんですよ(笑)。「そっちで面白がって!」って。
(宇多丸)たしかにね。そうだよ。これ、最終的に恨まれるの、吉田さんっていう可能性があるな。これな(笑)。
(吉田豪)でも河本さんも河本さんで、あまりにももそっちで僕が評価してたから。最終的にあの人が言ったのは、「相方になったろか!」ですからね(笑)。「そうすれば、わかるぞ? お前、他人の距離だから面白がっていられるけど……」って。
(宇多丸)フハハハハハハハハッ! それはそうですよ(笑)。だから、それは太田光代社長と婚約する話が進んでも、本当に結婚したら話は別だっていうことですよね。そういうやつだよ。
(吉田豪)そうですよね。後に言ってますからね。「吉田豪さん、責任取ってくれないんですよ。ただ引き出せばいいだけなんで」って。
(宇多丸)本当ですよ(笑)。当たり前だけど、この人はおもしろがってるだけだから(笑)。『聞き出す力』はギリ、『罠をかける力』だということもよくわかって。勉強になりました(笑)。
(吉田豪)でもあれを見たら、好きになると思いますよ。本当に。「ただのできない人」として地上波では映ってるけど。それだけじゃない、謎の埋蔵量がある人だってことは伝わるはずで。
(宇多丸)なんだろう? 蛭子能収さんとかに近いのかな? この飄々と……なんか、ありますね。ちょっとすごい感じがね。
(吉田豪)邪気のない無邪気さというか。
(宇多丸)そうそう。でも、すげえ暗黒っていう(笑)。いや、これは吉田さん、すごい人を見つけましたね。また、その火の粉がどのぐらいになってくるのか、私は責任は取れかねますので。
(吉田豪)動画、いつまで見れるかはわからないので。皆さん、ぜひ。
(宇多丸)YouTubeのその集英社オンラインのインタビューはあるうちに見ておきましょう。電子書籍はもう見れないんだもんね。
(吉田豪)そういうことです。電書、ダウンロードしていてよかった!っていうね。
吉田豪×ウエストランド河本
<書き起こしおわり>