町山智浩『MEN 同じ顔の男たち』を語る

町山智浩『MEN 同じ顔の男たち』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年11月1日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『MEN 同じ顔の男たち』を紹介していました。

(町山智浩)で、もう1本の方がですね、これは『MEN』というタイトルなんですけども。『同じ顔の男たち』という副題が日本ではついてるんですが。これは12月9日から公開ですね。これ、舞台はイギリスなんですけども。イギリスの田舎のすごく、本当にのどかなカントリーサイドにですね、ロンドンから1人の女性が泊まりに来るんですよ。で、イギリスの地方に行くとカントリーハウスといって、昔の貴族とかお金持ちが保養に来る家があるんですね。石造りの立派な家。そこを借りて、彼女はそこで週末を過ごそうとするんですけども。

ただ、段々ちょっとおかしなことんなってくるんですね。彼女はまず1人でそこにロンドンからわざわざ泊まりに来たのは、すごく嫌なことがあって。それから逃れようとして自然の中に入ってくんですけど。自然の中に入っていくと昔の教会とか、昔の遺跡とかがあるんですね。イギリスの。で、そこにね、グリーンマンっていうね、体が葉っぱでできている男の彫刻があるんですよ。で、これは実際にイギリスとかヨーロッパ各地に行くと、結構あるんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)でね、それは今も謎とされてるんですよ。なんだかわからないんですよ。キリスト教以前の神らしいんですけどね。体が葉っぱでできていて、葉っぱのおばけみたいな男が彫刻とか絵で書かれてたりするんですよ。ヨーロッパ各地に行くとね。で、それがいくつもあって、彼女はそれを見てものすごく怯えるんですね。で、あんまり人口がないんですけど教会に行って、そこで牧師さんに会ったり、神父さんに会ったり。あとは居酒屋に行ったりするんですけど。途中から見てる人が「なんだろう?」と思うのは、みんな見た目は違うんですよ。中年の男がいたり、少年がいたり、おじいさんがいたり。でも、よく見るとみんな、同じ顔してるんですよ。

(赤江珠緒)そこにいる人たちが?

(町山智浩)そこにいる男たちが、みんな。最初ね、ちょっと年齢とか違うし、服装が違うからわかんないんすけど。よーく見ると全員、同じ顔なんですよ。で、「一体これは何だろう?」っていう映画がその『MEN 同じ顔の男たち』という、もうタイトルはそのままやんけっていうね(笑)。そこまで言わなきゃいいのにって思いますが。そういうタイトルのホラー映画なんですけども。これ、途中からその主人公の彼女がロンドンから逃げてきた理由がわかってくるんですよ。それが、彼女は離婚したんですね。ただ、その夫の方が非常に何と言うかですね、難しいんですが。恨みがましいというかね。何て言うんだろうな? 「君がいなくなったら僕は自殺しちゃうよ」みたいなことをやたらと言うんですよ。で、ちょっと暴力も振るったりするんですけど。「これは君が殴らせたんだ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うわっ、たちが悪いな……。

(町山智浩)すごいたちが悪いんですよ。で、彼女は別れるんですが、別れたら「君がいなくなったら自殺しちゃうよ」って言っいた通りのことになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)えっ? 自殺しちゃったの?

Passive-aggressive

(町山智浩)そういう展開でね。で、これがすごく嫌なのは、彼女はもう一生、その傷から逃げられないですよね。それをやられると。で、これは典型的なね、英語で言うとね、「Passive-aggressive」っていう暴力性で。日本語だと「受動性攻撃性」というね、非常に矛盾した一種の暴力性なんですけど。たとえば一番端的な例は、はっきりと「この野郎!」みたいにして怒らないで、「はぁ……」ってものすごく大げさなため息をついてみせる人。

(赤江珠緒)「あーあ……」みたいなね。

(町山智浩)で、「どうしたの?」って言うと「いや、何でもない」って言うんですよね。「何か不満があったら言って」「いや、別に……」とかいう感じ。もう、すげえ嫌!

(赤江珠緒)うわっ、扱いづらいね! ちょっと腹いせ的にそういうことを言っちゃう人か。自分の感情を押し付けてきて。

(町山智浩)そうそう。で、もう常に被害者ぶるんですよ。そういう夫だったんですよ。もう本当に嫌な嫌な夫で。そこから逃れてきて。一番そういうところから遠いところに来てみたら、そういうものが襲ってくるんですよ。

(赤江珠緒)こっちの……これもホラーですもんね?

(町山智浩)これ、怖いというか、最後にそういうさっき言った受動性攻撃性みたいなものが形となって襲ってくるんです。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)なんとも言いようのない、その男のいやらしさみたいな、被害ぶりっこみたいなものを具体的に生物学的な形にしたものが襲ってきます。

(赤江珠緒)ええっ? どういうことになるんだろう?

(町山智浩)これは映画史に残る化け物ですよ。ものすごい複雑な特撮……特殊メイクとCGを使って表現してるんだと思うんですけど。もう気持ちの悪いこと、悪いこと。悪夢としか言いようがないものがズルズルと襲ってくるというのがクライマックスになってまして。「うわーっ!」っていうね、とんでもない映画になっていますね。これね、監督はアレックス・ガーランドという人で、この人は『エクス・マキナ』という映画で非常に注目された監督なんですけど。

そっちの方はね、今回の映画の裏返しみたいな話で。コンピュータ会社に勤めてるオタクの男が社長に呼ばれて社長の別荘に行くと、そのオタク青年の理想の美少女がそこにいるっていう話なんですよ。で、よく見るとそれはロボットなんですね。これは、このオタク青年がずっとコンピュータでいろんなもの見てるわけですよ。画像とかね、動画とかね。で、そのデータを全部、取られてたんですね。で、彼好みから作り出した人造人間がそこにいたっていう話で。

(赤江珠緒)だからもう、理想のどんぴしゃなんだ。

(町山智浩)でも、それは現実に存在しない女性なんですよ。で、そういったものを妄想してるから、罰が当たっていくんですけども。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)っていう話のまるで裏返しですね。今回の『MEN』っていうのはね。

(赤江珠緒)はー! いや、どっちも見たくなる感じですね。

(町山智浩)どっちもね、なんていうか、お化けとか、そういったものじゃなくて。怪物とかよりも本当に怖いのは人間なんだという話ですね。

(中略)

(赤江珠緒)『バーバリアン』はDisney+で配信中です。そして『MEN 同じ顔の男たち』は12月9日日本公開となる映画です。

(山里亮太)じゃあ、お化けは出てこないんだ。

(赤江珠緒)ワーッと驚かして、ギャーッ、怖い! みたいなのじゃなくて、じわじわだね。

(町山智浩)どっちもじわじわです。ワーッ!っていうのは英語で「Jump Scare」って言うんですけども。ホラー映画でそれをやりだすと本当にダメだから、あんまりやっちゃいけないっていう。『笑点』におけるダジャレみたいな、座布団をもらえないことになっていますから。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね!

(町山智浩)これはそういいうのじゃなくて、どっちもじわじわ系です。

(赤江珠緒)はい。わかりました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

『MEN 同じ顔の男たち』予告編

<書き起こしおわり>

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