高橋芳朗さんが2022年10月31日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でLE SSERAFIM『ANTIFRAGILE』について宇多丸さんと話していました。
(宇多丸)さあ、続きましてLE SSERAFIMです。
(高橋芳朗)はい。ちょっとおすすめ新譜に移る前にミニK-POPコーナーとして。
(宇多丸)ああ、かっこいい! これ(『FEARLESS』)、ヨシくんに教わってめっちゃかっこよくて、すごい聞いてるよ!
(高橋芳朗)ああ、本当ですか? EP、丸ごとチェックしてもらえましたか?
(宇多丸)本当に、本当に。この間、いろいろ紹介された中でもやっぱり、ちょっともう群を抜いて好きですね。じゃあ、改めまして……。
(高橋芳朗)はい。さっき熊崎くんから紹介してくれましたけど。5月にですね、BTSが所属するハイブからデビューした5人組、LE SSERAFIMが10月17日にリリースした新曲『ANTIFRAGILE』を紹介させてもらいたいと思うんですけど。宇多丸さん、大好評で一部の彼女たち、LE SSERAFIMのファン、通称ピオナ(FEARNOT)っていうんですけども。BTSで言うARMYですね。ピオナの皆さんがもう宇多丸さんの興奮ぶりを大変喜んでいて。
(宇多丸)あらま。恐縮でございます。
(高橋芳朗)で、熊崎くんもK-POPが好きだからっていうので、今回ちょっと特別に取り上げてみようと思ったんですけども。で、改めてLE SSERAFIMの今に至る歩みを簡単に説明すると、今年の5月2日にミニアルバム『FEARLESS』でデビューして、いきなり韓国のガールズグループのデビューアルバムのセールス記録を更新したんですね。非常に幸先の良いスタートを切ったんですけど、デビューから2、3週間ぐらい経過したタイミングでメンバーのガラムっていう子が過去の校内暴力の告発を受けて活動休止することになっちゃったんですね。韓国芸能界で最近結構こういうのって多いらしいんですけど。結果的に彼女は7月20日をもってグループを脱退しちゃったんですね。だからもうLE SSERAFIMはデビュー間もなくして急遽、5人体制での活動を強いられることなったんです。
(宇多丸)うわっ、これはなかなかな……。
(高橋芳朗)で、こういう流れを受けて今回の新作リリースを迎えたわけなんですけど。だからメンバーが1人減って5人体制になっての再始動ということで、どう展開していくのか、注目を集めていたんですよ。で、いざ蓋を開けてみたら今回の新曲、音楽的には前作のファンク路線からちょっと一転してですね、レゲトンを導入してきたんですよ。ちょっと後ろで曲をかけてもらってもいいですか?
レゲトンって、プエルトリコで生まれたレゲエとサルサというようなラテンミュージックにさらにヒップホップをミックスしたような音楽ですね。ざっくり言うと。しかも、LE SSERAFIMがやっているのはただのレゲトンじゃなくて。ここ数年、人気が急上昇してきたスペインのシンガー、ロザリアが最新作で打ち出してきたような、ちょっとハイパーでアバンギャルドな感じもあるレゲトンのスタイルの影響をすごい受けているんですね。
ロザリアのレゲトン的なサウンド
(宇多丸)ちょっとなんか不穏な……。
(高橋芳朗)これはロザリアの『SAOKO』っていう曲なんですけども。で、サウンドだけじゃなくてこのロザリアのちょっと挑発的な、フリーキーなフロウも自分たちのスタイルに落とし込んだりしてるんですよ。
(宇多丸)ちょっとギャングスタラップ的なムードさえ……。
(高橋芳朗)そうそうそう! めちゃくちゃ不穏ですよね。で、こういうちょっとアグレッシブなレゲトンサウンドに乗せてLE SSERAFIMがどんなことを歌ってるか?っていうと、内容的には結構熱い、負けへんでソングなんですよ。
(宇多丸)ああ、なるほど。やっぱりこの逆風の中?
(高橋芳朗)そう。タイトルの『ANTIFRAGILE』って「Anti」と「Fragile(脆弱な、壊れやすい)」を組み合わせた言葉なんですけど。これって「大きな衝撃や試練に直面した際、それを自分たちのエネルギー・力に変換すること」っていう意味なんですよ。「逆境をバネにする」みたいな。つまり、LE SSERAFIMはデビュー直後にメンバーが脱退するっていう、もう決定的な大きなダメージを負ったけど、その試練すら私たちは力に変えていくんだっていう。そういうメンバーの力強い意志がタイトルに反映されているんですね。で、歌詞もいちいち熱いことになってて。
「あんたたちが私たちを押さえつけようとしても無理。この困難を乗り越えて、もっと高いところに行ってやる」みたいな、ヒップホップのボースティングみたいな、結構ガチなフレーズで埋め尽くされてるんですけど。特に日本人メンバーの2人のパートがグッとくるんですよ。まず、大阪出身のKAZUHAさん。彼女って元バレリーナで、ロシアのボリショイアカデミーとイギリスのロイヤルバレエスクールで研修した後、オランダの国立バレエアカデミーに留学して。その留学先のオランダからオンラインでオーディションを受けて合格したっていう。
(宇多丸)すげえ!っていうか、そっちのキャリアでも行けたろうにっていうぐらいの。
(高橋芳朗)そうなんです。だからバレエの超エリートコースを投げうってK-POPの世界に飛び込んだっていう。その彼女の歌詞にこんな一節があるんですよ。「忘れないで私が置いてきたトウシューズ。これ以上、何か言う必要がある?」っていう。
(宇多丸)おお、ヤバい!
(熊崎風斗)かっこいい!
(高橋芳朗)だから「こちとら、命がけでやってるんじゃい!」っていう。
(宇多丸)パンチライン! ヤバい!
(高橋芳朗)しかも一人称のリリックっていう。かっこいいよね。あと、SAKURAこと宮脇咲良さん。彼女は10歳から、劇団四季のミュージカルのステージに立って。その後、HKT48からK-POPのIZ*ONEを経てLE SSERAFIMに加入したっていう背景があるんですけど。彼女の歌詞にもこんなフレーズがあるんですよ。「バカにしないで。私が歩いてきたキャリア。死ぬまで全力で走り続けてやる」っていう。だから「14年のキャリア、なめんなよ」っていう。
(宇多丸)たしかに。なかなかね、たとえば韓国内でも風当たりが……なんていう話も聞くしさ。そういうところを乗り越えてきたわけだもんね。
(高橋芳朗)だからこのへんのサウンド、リリックを踏まえて聞いていただけたらと思います。LE SSERAFIMで『ANTIFRAGILE』です。
LE SSERAFIM『ANTIFRAGILE』
(高橋芳朗)はい。LE SSERAFIMで『ANTIFRAGILE』でした。
(宇多丸)かっこいいです!
(高橋芳朗)かっこいいですよね。また、歌とラップのフロウもすごい勝ち気というか、挑発的な感じで。攻めている感じですね。
(宇多丸)さっきのトウシューズのくだりとか、そのサビの手前。あそこのところに毎回、入ってくるわけだよね。いや、かっこいいですね。
(高橋芳朗)これ、ミュージックでも歌詞に沿った「負けへんで」な内容になってるんで。そちらも合わせてチェックしてみてください。
(宇多丸)ちょうどね、スタジオのテレビでこの『ANTIFRAGILE』のCMが流れたんで。「ああっ!」ってなりました。いや、かっこいいですよ。
(高橋芳朗)ちょっと応援したくなりますよね。
(宇多丸)いやいや、推せるわ。本当に熱いっすね。素晴らしいと思います。
<書き起こしおわり>