町山智浩さんが2022年10月25日放送のTBSラジオラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信中の『ONI ~ 神々山のおなり』を紹介していました。
(町山智浩)それで今日、ご紹介する映画は2本、ご紹介します。これ、2本とも作ってる人がですね、うちの近所にお住まいの方なんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)1本は『ONI ~ 神々山のおなり』というタイトルの作品で、これはNetflixで既に配信が始まってます。これ、監督はですね日本人の堤大介さんという方なんですね。彼はうちから歩いて5分ぐらいのとこに住んでるんですよ。
(赤江珠緒)本当にご近所さん。
(町山智浩)すごい近所で。なぜかね、スーパーとかで会わないんで不思議なんですけど。会ってもおかしくないんですが。彼はですね、高校を出てすぐにアメリカの方に留学して。その後にピクサーで働いて。ピクサーの『モンスターズ・ユニバーシティ』とかは彼が参加してるんですね。で、そこから独立して自分のプロダクションを作って。トンコハウスというところで。それで、7年前にアカデミー賞の短編アニメ賞でノミネートされてます。彼は。『ダム・キーパー』という作品でね。で、それから7年かかって、とうとう長編を今回、発表したんですよ。
7年かけて制作した長編映画
今日からNetflixで配信が始まった『ONI 神々山のおなり』の第1話を鑑賞。いや、これは凄かった! 自分は今、何を見せられているんだ!?という新しい映像体験に興奮。鬱屈からの解放感と爽快感溢れるラストに感動した。続きが楽しみ! pic.twitter.com/1Gesq7f9GQ
— massando (@koiddon) October 21, 2022
(町山智浩)で、7年もかかるんですよ。映画は大変なんですね。で、これ『ONI』っていうタイトルは鬼ですね。日本の角が生えているやつですけども。これ、主人公の女の子はおなりちゃんという10歳の女の子で。お父さんは雷様なんですね。雷神様。だから鬼ですよね。なりどんっていう名前の雷様で。この2人の鬼の親子は神々山という山に住んでるんですが。そこにはいろんな日本の神々がいるんですね。たとえばカッパとか、なまはげとか、化けるタヌキとか、あとはからかさとか。日本の神様って、なんでも神様じゃないですか。石も神様だし。からかさなんて、傘を大事に使っていたりすると、傘がお化けになるんですよね。
だからそういう日本独特のなんでも神様っていう感じで、いろんな神様が住んでるんですけど。でもね、そのおなりちゃんっていう女の子は学校でみんなにバカにされてるんですよ。なぜかというと、このお父さんの雷様は雷様の仕事をしないで毎日、ぐうたらぐうたらしてるんですね。ダラダラ遊んでばっかりいて。「なんだ、お前の親父は? ぐうたらじゃねえか」みたいな感じでバカにされてるんですけど。で、この学校があって。神様たち……神様というか、お化けというか。
(赤江珠緒)妖怪とかもいてね。
(町山智浩)妖怪というか。まあ、同じなんですよね。日本ではね、そのへんに差がないんですけど。で、学校に行って子供たちに何をしてるか?っていうと、自分たちのその妖術みたいなものを訓練してるんですよ。たとえば天狗が先生なんすけど、天狗の娘は烏天狗で空を飛ぶ術とか。で、おなりちゃんは雷なんて、雷を出さなきゃならないわけですけれども。その学校はなぜ、そういうことを訓練しているか?っていうと、ひとつ目的があって。その神々山を襲ってくる恐ろしい敵がいて、それから守らなければならないからという話なんですね。で、これね、すごくちっちゃいお子さんでも見れるようなアニメになってまして。これ、写真をご覧になるとわかるんですけど。
(赤江珠緒)はい。かわいいですね。
(町山智浩)かわいいでしょう? すごくかわいくて。これ、質感がすごく、フェルトで作ってるような温かい質感のキャラクターなんですよ。これ、監督の堤さんがインタビューで言ってるんですけども。「本当は人形アニメにしたかった。実際にこういうかわいい人形を作って、それを動かしたかったんだ」と言ってるんですけど。そういうストップモーションアニメはすごい時間がかかるんですよ。1コマずつ撮るから。
(赤江珠緒)少しずつ動かして、全部少しずつ撮らなければいけないんですもんね。
(町山智浩)そうなんですよ。で、こういうのを作る方法は二つあって。ひとつはいろんなポーズの人形を作って、それを1コマずつ置き換えてくってやり方があるんですよ。これ、大変なんですよ。だから10コマの映像を撮ろうとしたら、10体の少しずつポーズの違う人形を作るですよ。それをカメラの前で置き換えて。1個置いてシャッターを切って。またもう1個、置き換えてまたシャッター切って……っていう風に撮っていくんですよ。これ、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』というアニメはそうやって撮ってます。ヘンリー・セリック監督のね。これ、大変な時間がかかるんですよ。パペトゥーンとか言われている方式ですけど。
で、本当はそれをどうしてもやりたかったんだけれども、お金と予算がないってことで、コンピュータグラフィックスでやってるんですが。ただ、すごくその温かい、人形のようなね、手に取りたくなるような感覚はね、すごく残ってて。で、『ONI』っていうタイトルですけど、かわいいくてね、怖くないんですけどね。
(赤江珠緒)ただこれ、日本人の我々にはすごくなじみのある世界観だけど、海外の人が理解できるんですかね? このカッパとか。
(町山智浩)カッパとか……「妖怪」っていう概念がね、すごく難しいみたいなんですよ。こっちの人に話す時。だからいつも説明する時には「ムーミンだよ」って言ってるんですよ。ムーミンってまあ、妖怪ですよね。妖精だけど。同じようなもんじゃないですか。神様でもないし、幽霊でもない。それで、いいか悪いかっていうのは決まりがないんですよね。妖怪はね。人間にとってね。そういう存在なんだ。ムーミンだって説明することが多いんですけど。で、この『ONI』の話に中に出てくる神々山の神々たちは何を恐れてるか?っていうと「ONI」を恐れてるんですよ。
(赤江珠緒)えっ、ONI?
(町山智浩)「ONIが襲ってくる」って言うんですよ。でも、これを見てると「この子たちがONIじゃん?」って思うんですけど。この物語、「ONIとは一体何なのか?」って話になってくるんですね。彼らが言ってるONIとは一体何なのか? でね、これはよく言われてるんですけど。「桃太郎」っていうお話、あるじゃないですか。桃太郎って、鬼ヶ島に行って宝物を取ってくるんですけども。あれ、何で行くんだと思います?
(赤江珠緒)なんか都で宝物を奪ったり、ちょっと狼藉を働いた鬼たちを退治に……みたいな。
(町山智浩)そういう風に思われてるけど、それは後から付けられた、要するに明治、大正、昭和期に作られた理由付けで。それ以前の民話には全く鬼を退治しに行く理由って書かれてないんですよ。単に村に財宝をもたらすために鬼っていう人たちが住んでるところに行って、宝物を奪ってくるっていう話で。これ、明らかに侵略ですよね?
(赤江珠緒)そうね。どっちかって言うと、そうなると桃太郎の方がね。
(町山智浩)そう。非常に危険な話で。じゃあ、その鬼って、その民話の元になったようなことは何なのか?っていうと、おそらくは少し違う文化を持った人たちの集落を襲ったんだと言われているんですよ。外国から来た人たちだったり、日本の中でも違う文化を持っている人たちがいっぱいいたわけですけど。昔は。『もののけ姫』とかに描かれてますけどね。そういうところに行って、略奪をしてきたんだと。そういう、自分たちと違う文化や習俗や言語を持った人たちを「鬼」と呼んで排除したり、差別するってのは昔からあったことなんですよ。世界中で。
(赤江珠緒)そういうことか。うん。
(町山智浩)で、今よく言われてることはですね、ウクライナでロシアの人たちを「オーク」って呼ぶんですよ。オークって、鬼のことなんですよ。ウクライナではロシア人のことを鬼と呼んでいるんですよ。必ずそういった形で異文化だったり、政治的に敵対する場合に相手を鬼と呼ぶというのはもう全世界で、あらゆるところで起こってることなんですね。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)だって、よく言うじゃないですか。「あんた、鬼や!」とか言うじゃないですか。「あんたは鬼か!」とか言うじゃないですか。ねえ。そういう風にして人は相手を鬼と決めつけるんだっていう話で。これは堤監督がやっぱりずっと日本で、同じような民族の中で、同じような人たちの中で暮らしてきて。ただ、大学に行く時にアメリカに来て。そこで初めて少数民族になったんですよね。初めてマイノリティーになって。初めて外人になったんですよ。自分自身が。それで、そういったものは要するに立場によって変わるんだということを体験したことから作られたのがこの『ONI』という話なんですね。
これはね、日本から出て暮らしたという体験がないとなかなか出てこない視点なので。これは本当に堤監督自身のね、もう彼じゃないと作れない作品だと思います。はい。で、すごくかわいくてね、楽しい、本当に温かくなるアニメなんで。ぜひ、お子さんと一緒にね、Netflixご覧なるといいと思うんですが。
『ONI ~ 神々山のおなり』予告編
<書き起こしおわり>