宇垣美里と宇多丸『花束みたいな恋をした』を語る

宇垣美里と宇多丸『花束みたいな恋をした』を語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんが2021年2月9日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で『花束みたいな恋をした』について宇多丸さんと話していました。

(宇多丸)ということで、『クイーンズ・ギャンビット』のお話も伺って。これ、ちょっと見てみたいと思いますが。

(宇垣美里)ぜひ!

宇垣美里『クイーンズ・ギャンビット』を語る
宇垣美里さんが2021年2月9日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNetflixのドラマ『クイーンズ・ギャンビット』について話していました。

(宇多丸)「前髪」と言えば先ほど、実は……もうずっとこの話ばっかしてますけども。『花束みたいな恋をした』もご覧になって。話題沸騰。

(宇垣美里)見ました!

(宇多丸)で、その中でその前髪の話も絡んでたんで。それを思い出したんですけど。宇垣さんがいかがご覧になったか?っていう。

(宇垣美里)もう……「俺たち!」って思いながら見てました(笑)。

(宇多丸)やっぱり、そうね。小説とか漫画とかすごい読む子たちでね。

(宇垣美里)たぶん年齢も同じぐらいで。刺さるものとかも似通っていて。それこそ、きのこ帝国とか私、すごい大好きで。この番組でもご紹介したことがあると思うんですけど。なので「えっ、私たち?」みたいな。なので、刺さり方とか。その若干のドヤ感が恥ずかしい感とかも全部グサグサグサグサ刺さって。「ひー!」って思ったのと……。

(宇多丸)僕とかがまだ距離を持って。「ああ、俺の若き頃のあの感じ」って置き換えてみるこの余裕ではなくて、もう当事者的にね。

(宇垣美里)「我ら」っていう。

(宇多丸)まあ、登場人物。その2人の若者がものすごく趣味が共通してて。カルチャーが共通してて……というところから恋に落ちるという話なんですが。

(宇垣美里)なんでしょうね? 「なに? 本、誰が好き?」「穂村弘」「ううっ!」みたいな(笑)。

(宇多丸)「ああ、僕も穂村弘、だいたい読んでますよ」。

(宇垣美里)「ううっ!」ってなりながら見ていました。で、その前髪っていうのが何か?って言いますと、有村架純さん演じる絹ちゃんが大学生から社会人までを演じていらっしゃったんですけども。なにがすごいって、前髪の変遷がすごい!

(宇多丸)これは……このディテールは私、前髪というものがないので、なかなか気づかないですよ。

有村架純の前髪の変遷

(宇垣美里)麦のしゃべり方の速度が変わるっていうのを宇多丸さん、映画評で仰っていたと思うんですけども。大学生の頃は前髪がちょっとくせっ毛っぽくなっている。たぶんおそらく、元々のくせを、髪の毛を乾かしたままでちょっともちゃもちゃっとなっているんですね。これ、大学生にありがちというか。つまり、ブローしてないんですよ。ブローしていない、もしくはブローができない。

(宇多丸)うまくできていない。

(宇垣美里)そうそう。それが、社会人になったらすごいきれいなブローができていて。まっすぐの前髪になっていて。まっすぐでもね、ツーンってただまっすぐなだけじゃない、ちょっと弧を描いたちゃんとした前髪になっていて。「大人になった!」って思って(笑)。

(宇多丸)うんうん。しっかりと、だから外の社会と接する……ちゃんとするようにしたのかもしれないですよね。ひょっとしたらね。

(宇垣美里)その、なんていうんだろう? ちゃんと成長している感っていうのをその前髪から感じて。「たしかに大学生の頃、こういう前髪の子、いたな」みたいな。

(宇多丸)その前髪がもちゃっとした感じからキチッとする、この変化。

(宇垣美里)で、もちゃっとしていることによって、なんでもない人なんですよ。あんなに美しいのに。そうなっている感じが、もう……。

(宇多丸)ねえ。序盤とか特に、あの2人が。あの美男美女がすっかりやっぱり埋もれる感じに見えるところが見事で。本当に役者ってすごいね!

(宇垣美里)この映画を見て、一番最初に友人のことを思い出して。友人に「見た方がいいよ」って言ったら「もう見た」って言っていて。なぜ、その彼女のことを思い出したかっていうと、今の旦那さんと付き合うきっかけがあるバーベキューに2人が同じ靴を履いてきたっていう。

(宇多丸)イエス、ジャックパーセル! 劇中ではね、コンバースのジャックパーセルというスニーカーを履いているんですよね。そういう、「同じものを着ている」っていう。趣味だけじゃなくて、そういうところまで……みたいな。

(宇垣美里)「カバンも一緒?」みたいな。

(宇多丸)まさにその己の似姿を見たわけですね。

(宇垣美里)で、その子がご結婚されたんですけども、今ちょっと「うん……?」みたいになっていることも女友達だから知っているから。それも含めて「見たんだ。どうだった?」って聞いたら「人生において既視感だからけだった」って言っていて。「だよね!」って。

(宇多丸)靴なんかね、完全に重なるエピソードもあるし。

(宇垣美里)まさにっていう感じでしたし。なんでしょうね? まあ、「でも結局は労働。労働が悪いんよ」ってなって。

(宇多丸)「労働」……まあね。ただ、労働に向き合う姿勢が……これまた始まっちゃっているんだけども。昨日、さんざん放課後ポッドキャストを録って。別冊アフター6ジャンクション、金曜日に配信になりますが。これ、宇垣さんも入ってもらえばよかったね。そのね、労働……麦くんという菅田将暉さん演じる若者が、途中で要するにしっかりして。「彼女とちゃんと生活をしていきたい」という思いからではあるんだけど、そのイラストレーターという、そこの断念が彼は思い詰めすぎてるし。で、なんかどんどんどんどん、その労働に向かう姿勢があんまりよくないモードで。「俺はこれを諦めてまで来たのだから……」みたいな。

(宇垣美里)かつ、その会社自体もよくなかったと思います。

(宇多丸)まあね。「5時で終わる」って言ってたのが……とかね。

(宇垣美里)ちょっとホモソ感みたいなのがあったりとか。なんでしょうね。あと、すごく感じたのが麦くんの要領の悪さ。

(宇多丸)要領が悪い。やっぱりその絹さんと比べるとね。

(宇垣美里)「ああ、そうか。働くのか。じゃあ、私も働こう」って言って、資格をまず取ったらすぐ就職できるとか、そういう……もちろん何を目指してるかとかによるとは思うんですけど。なんか、その働き方にしても要領が悪い。

(宇多丸)絹ちゃんのしかも、それで資格を取って一旦は就職するけれども、やっぱり給料ちょっと落ちても自分がやりたいこととかっていう方が人生的に当然プラスだからっていう。要するに、すごくわかっているよね。「どう生きれば解であるか」みたいなのが。ただ、その余裕はひょっとしたら彼女の……先ほど、宇垣さんとお話していて「ああ、そうかもな」って思ったのは、やっぱり家庭環境が彼女はちょっとお金持ちっぽいし。

(宇垣美里)「帰れるんだろうな」みたいな感じの。

(宇多丸)ちょっと余裕がある……人生設計する時に余裕が組めるタイプ。これ、僕もあんまり他人事とは言えないかもしれないですけど。だから、ということも加味できるかな。たしかに。

(宇垣美里)とか思って。「うおおん……」とか思いながら。

(宇多丸)あとはいわゆる、「ホモソ(ホモソーシャル)」っておっしゃったけどね。昔っぽい日本企業の猛烈社員と言われたようなイズムに菅田将暉くんの方は飲み込まれていくけども。やっぱりその日本の企業体質。これはだから非常に良くないことなんだけど。女性がそういう会社の中でストレートに、しかも後から中途で入って、それで良くなるようなルートがあんまり見えないとかもあったのかなとか思ったんですね。

(宇垣美里)それも……だから「責任」って言ったらたしかに、そういう見方もあるだろうなとも思うし。

(宇多丸)でもすごくマッチョの考え方に行っちゃうじゃないですか。麦くんはね。

(宇垣美里)その感じが、「昔はすごく尊重をしてくれていたのにな……」みたいな気持ちになって。

(宇多丸)でも、彼からすれば「俺は2人のために働いているんだ!」っていう。だからこれ、よくある光景ではあると思うんだけども。

(宇垣美里)そう。「たのんでいないし。誰かのせいにせんとって……」みたいな感じが……どうしてもちょっと絹ちゃんの方に寄って見ちゃう部分があって。

(宇多丸)それはもちろん。これ、昨日、別冊アフター6ジャンクションを録っていて、RHYMESTERのマネージャー小山内さんが……彼女がとにかくいち早く見て。小山内さんは泣きやすいところがあるんであれなんですけども。でも、小山内さんは日本映画をものすごくよく知っているし。特にあと坂元裕二さんの脚本作品をめちゃめちゃよく知っているので、レクチャーを受けていろいろ教わったんですけど。教わってのこれだったんですけども。

小山内さんも1回目はやっぱり当然、女性サイド。その絹ちゃん側で見ていたから、最後のクライマックス。あのファミレスでのやり取りがありますけど。あんまりちょっとネタバレしないようにしますけどね。あそこはやっぱり女性側に立つと菅田くんが何を言おうと耳に入らなかったっていうんだけども。2度目、見たらまあ、彼の提案することも……。

(宇垣美里)わかるかな?

(宇多丸)これはまた、立場もあると思いますよ。年齢、立場、性別ももちろん。

(宇垣美里)そうか……。

(宇多丸)いや、「どちらが正解」ということではない。

(宇垣美里)たしかに、そうなんですよね。

「どちらが正解」ということではない

(宇多丸)なにが正解、どちらが正しい、悪いということではない。どちらもありえたかもしれないんだけども。

(宇垣美里)たしかに。選択……ただの選択ですからね。それは。正解にしていくしかないですから。

(宇多丸)そうそうそう。で、選択をした結果、それが正解になりうることももちろん、可能性としては否定しないけれども。これ、でもやっぱりたぶんさ、おそらくその人その人がね、いろんな恋愛とか。恋愛に限らないかな。いろんな人生の選択肢の中で自分はこうした。あの時、自分はこうだった。あるいはこういうことを言われたっていうのと照らし合わせて、そこでたぶんだいぶ、その映画から受ける印象も変わってくると思うんですよ。あの2人における印象。だから宇垣さんはすごく……(笑)。

(宇垣美里)「こういう人、いたな」って。もちろん、こういう風なきっかけで……たとえば「あの美術館、行きたいんだよね」「えっ、そこ? 私も……(トクン)」みたいなのもありましたし。それで「はい、このタイミングその言葉! 責任感ない! クソッ!」みたいな。「なにを言ってるの? でも、こういう人いっぱい見たことある。麦みたいな人、いっぱい見たことある」みたいなところもあって。なんて言うんでしょうね? グサグサ刺さる作品でしたし。

(宇多丸)さすが、坂元裕二さん。名脚本家ですから。ちょっとした言葉の棘が致命傷になりうるということを……だから言葉、大事ね。同じ……たとえばその同じことを言うのでも、「あのパン屋のおじいさんとおばあさん、いたじゃん? ああいう風になることだってできるじゃん」みたいな言い方だってできたのに、彼が言ったことは「お前、そういう言い方をしたら……」っていう。

(宇垣美里)そう。それは最悪。

(宇多丸)だからなにかを我慢する……だから彼はそういう方向に思考が行きがちになっちゃったんだよね。「なにかを我慢することが人生だ」って思い込んじゃっているんだよね。

(宇垣美里)「あなたのために一緒に映画を見る」っていう……でも、それは求めていないのよ。

(宇多丸)あそこで彼が「なんかしてほしいことがあったら」っていう……「えっ、サービス休日としての映画だったわけ? アキ・カウリスマキ、サービスだったの?」っていう。

(宇垣美里)私が絹なら「ファイッ!」って感じでしたね。

(宇多丸)あそこからやっぱり「カーン!」ってゴングが鳴っちゃう?(笑)。

(宇垣美里)「ファイッ!」って始まっていましたね。でも、それも含めてなんか、あれですね。私たちの青春とともに。きのこ帝国もいなくなっちゃったし、WHITE ASHもいなくなっちゃったし、School Food Punishmentもいなくなった。だけど、その息吹はそこらここらにあって。たまにそれを見つけてあったかい気持ちになるよねっていうことだったのかな?って。

(宇多丸)うん。喧嘩したり、気まずくなったりもしたけど、その全てももちろん、彼らのその先の人生にはムダではないわけで。それは我々全ての人生にやっぱりいろいろ紆余曲折はあるけど。ゆえにここにいるわけだけど。ゆえにここなのだから。それはね。

(宇垣美里)という風にも思いました。

(宇多丸)「ファイッ!」の数々もさ(笑)。

(宇垣美里)もちろんまだ思い出して「くっ!」ってなることもありますけども。

(宇多丸)もちろん。これは度合いの問題よ。やっぱりそれはね。

(宇垣美里)でも、それも含め、刺さる人には刺さる。サブカル大好きみたいな人には刺さるんじゃないかなって。

(宇多丸)だってさ、序盤で学内ではもう話が本当の意味で通じるやつは1人もいない。知り合いにもいないっていう感じ。で、どこかに呼ばれても数合わせだし、ないがしろにされてっていう思いをした帰り道に、なんという……まさに花束というか。「見つけた、出会えた!」っていう。

(宇垣美里)でも、「花束」なのよ。根はないのよ。

(宇多丸)そこなんでしょうね。「花束みたいな」ってのはそこなんでしょうね。

(宇垣美里)ということを感じましたね。

(宇多丸)でも花束にしかない良さもあるからね。根を張った花の良さもあるけども。

(宇垣美里)その時代、その時の輝きというのはまた別ですから。と、思いながらも「あの時の俺たち、頑張ったね」という気持ちに(笑)。

(宇多丸)そこでしょうね。最終的に着地するのはそこでしょうね。

(宇垣美里)ああ、抱きしめてあげたい。その気持ちを(笑)。

(宇多丸)いやいや、これは別冊の方にも宇垣さん、いてほしかったなー。

(宇垣美里)やりたかったですね。

(宇多丸)小山内さんがとにかくもう「まだまだ出るぞ!」って言っているんでね。

(宇垣美里)やだー、話したい!

(宇多丸)あとね、日比ちゃんが見たらしいよ。

(宇垣美里)日比ちゃんも……じゃあ、第二回をやりましょう!(笑)。

(宇多丸)日比ちゃん、ポッドキャストはあれなんで。ぜひパイセン、連絡してみてくださいよ(笑)。

(宇垣美里)しゃべりたい。本当にあれはそれぞれの人生のどこかしらに引っかかり、そこをブワーッと広げてしまう。さすが……っていう感じですね。

(宇多丸)いろんな扉を開きましたね。やっぱりね。

(宇垣美里)やっぱり大好きな人でも自分の大切なものを大切にしてくれない人のことは許せなくなっちゃって。その許せない自分が許せなくなって「ふぁーっ!」ってなる感じ。

(宇多丸)そうかもね。そっちもある。許せない自分も許せないし……。

(宇垣美里)「ちっちゃなことだと思うけど……」っていう。

(宇多丸)坂元裕二さんはそういうのが上手いよね。

(宇垣美里)上手い!

(宇多丸)別冊の中でも『カルテット』の中で……。

(宇垣美里)『カルテット』、いいんですよ!

(宇多丸)松たか子さんとクドカンさんの夫婦の話。

(宇垣美里)あの夫婦! 鍋敷きの話ですか?

(宇多丸)そうです、そうです。それそれ! そこ! 鍋敷き、鍋敷き!

(宇垣美里)鍋敷き、ヤバくないですか?

カルテット・宮藤官九郎鍋敷き事件

(宇多丸)でもね、それはやっぱり「こっちが大事なものをわかれや!」っていうのもまたエゴなのだろうし……とかね。

(宇垣美里)その人にはその人の大切なものがあるから……ってわかっていても。

(宇多丸)でも、鍋敷きはっ! だからあれ、上手いね! ふとした瞬間だから。パッと置かなきゃいけないっていう時に。

(宇垣美里)「あっ、行けない!(パッ!)」っていう。まさにね、本を……パンッてするような。

(宇多丸)宇垣さん、その付き合いたての時とかにね、「これ、私にとって大事な1冊。まあ、でもつまんないもんですけど……」なんて言いながら。本当はつまんなくないのに。本当はこれの反応こそが一番大事なのに渡されて。その反応がいつまで経っても返ってこないし。それで最終的に鍋敷きに……。

(宇垣美里)鍋敷きはマジでないですよ。本は人の頭で作られたものなんだから。本を大切にしない人は、人も大切にできない。

(宇多丸)まず本を鍋敷きにしている時点で……。

(宇垣美里)NO! でも、普通にずっと積んであって……とかも。

(宇多丸)あそこはだから、クドカンさんがね、鍋を持っているわけだけども。「あっ、鍋敷きに」って思うけども。そこで「お前、鍋敷きにこれをするのかよ!」っていう。「でも、これもまたエゴだしな」っていう。これもまた、この感じがいろいろと忸怩たる思いがありながら、鍋を置かせる。でも置いてしまってから「ああ、なにか大事なものが……」っていう。で、一方では松さんは松さんで結構ね、決定的な言葉を聞いちゃったりとか、いろいろするじゃないですか。

(宇垣美里)みんな悪くないけど、しょうがないの。うん。

(宇多丸)だから坂元裕二さん、おそるべしといったところですね。すごいものを書きますよ。いや、ありがとうございました。宇垣さん。

(宇垣美里)おそろしい思いをしました(笑)。

(宇多丸)やっぱりちょっとホラーみも? やっぱりほら、倦怠夫婦物、倦怠カップル物っていうのはホラーみも出てくるもんだからさ。

(宇垣美里)そうですよね。またそれが盛り上がるところから描いてるっていうのもなんというか……(笑)。

(宇多丸)そうですよ。いわゆる鬼畜の所業といったところですよね。なんてことをしてくれるんだ!っていう。

(宇垣美里)おそろしい気持ちになりました(笑)。

(宇多丸)ありがとうございました。パイセン、いただきました(笑)。

<書き起こしおわり>

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