宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中で1年後の引退が発表された安室奈美恵さんについてトーク。かつて番組で行った安室奈美恵特集の概要を話しつつ、第二期黄金期の中からおすすめの曲を紹介していました。
宇多丸)あと、ふつおた流れで行きますと、36才男性の方から。(メールを読む)「安室奈美恵さんが来年9月16日から芸能界から引退を発表。私、沖縄ライブは参加できませんでしたが、宇多丸さんが以前にも好きな曲のひとつ、一目惚れした曲のひとつとして挙げられていた『Paradise Train』を歌ったではありませんか。初ヒットの馬鹿ユーロな『Try Me』然り、デビュー曲の『Mr. USA』を歌ったのは100万歩譲って理解できるにせよ、『Paradise Train』ですよ。『Choo Choo TRAIN』じゃないんですよ!」って、そりゃそうだろ。安室ちゃんが『Choo Choo TRAIN』の文脈はないわ。
「……これは宇多丸さんが『タマフル』でピックアップ。NHK FMでの『安室奈美恵三昧』でも挙げたことへの、安室奈美恵さんから何かしらの配慮だと私は勝手ながらに思っております。ということで宇多丸さん、ここはやっぱりサタデーナイトラボ、いや、なんなら番組を丸々でも。もちろんDJ MIXもお願いします。特集を願います。月刊・私の安室奈美恵特集でも構いません!」という熱いメールをいただいております。
ということでね、この番組では実は始まってすぐ。2007年7月7日。始まってまだ3ヶ月ぐらいで、私の安室奈美恵論特集特集っていうのをやったんですね。まあ、最初の1年は僕がいろんなところで、それこそ『BUBKA』の連載とか諸々でずっとやっていた僕の引き出しを少しずつ出していくということでやっていたのが最初の1年なんですけど、それでやっていたと。当時、2007年6月27日発売の8枚目のアルバム『PLAY』が素晴らしかったため緊急特集。7年ぶりオリコン1位アルバム。宇多丸いわく、「クイーンの座に完全カムバックだ! 安室奈美恵は他のどの人とも比較しようがないほどすごいんじゃないか」という特集内容。
ちょっと、特集内容をざっくり説明すると……(安室奈美恵さんの)キャリアを大きく第一期、スーパーモンキーズ期。第二期、ユーロ期。第三期、TK期。第四期、ポストTK期。で、その放送した当時の2007年7月はポストTK期の試行錯誤が実を結んだ時期。第四期の後に進んで、結論としては第二の黄金期を迎えつつあるというような結論だったと思います。第一期のスーパーモンキーズ期で僕ははじめて、まさに『Paradice Train』を歌う安室ちゃんをテレビで見て、本当に衝撃を受けて。
安室奈美恵『Paradice Train』
平たく言うなら、アイドル冬の時代において、唯一ある意味気を吐いたというか。その時代を画するアイドルを作った安室奈美恵さん。後の、いわゆるアクターズスクール出ですよね。要は、日本型アイドルとは違うグローバルスタンダード型の、割とスキル重視型というかね。ダンスにおいても歌においても、アイドルというものの中にスキルというものを持ち込んで。要するに、「スキルが高くなるとアイドル性が低くなる」みたいな思い込みがあったんだけど、そんなことは全くなくて。安室ちゃんはめちゃくちゃかわいくて、アイドル性も高いまま、でもスキルも高く、非常にグローバルスタンダード寄りの資質を持っている。それにすごい驚いて。
ただ、後にブレイクしたのはやっぱりユーロ期だったりとか、当時本当に時代の寵児だった小室哲哉さんの楽曲だったりして、ある意味僕が最初に衝撃を受けたラインをちょっと希釈したというか。日本寄りに希釈したスタイルでブレイクしたので、「ああ、やっぱりいまの日本のJ-POP界だとこんぐらいが限界なのかな?」みたいな。と、思いつつもずっと安室ちゃんのファンで。『太陽のSEASON』とか『Try Me』を居酒屋のレイザージュークで5回連続でかけてね、K.I.Nちゃんと踊りまくるというね。
安室奈美恵『太陽のSEASON』
あと、『ポンキッキーズ』ね。「パーパラッパッパッパッ♪」って『GET UP AND DANCE』を踊る安室ちゃんの首だけが横にクッと入るのを見て、「やっぱり安室ちゃんは違うぜ! そしてなんで横にいるのがボーちゃん(BOSE)なんだよ! オイッ!」なんてね。まあ、こんな時期でございました。で、いわゆるTKサウンドのブームというか小室さんのブーム期が去って、いわゆる現行USスタイルというのを本当に自分のシングル用のリード楽曲としてずっとやり続ける。なかなかセールスとかそういうのがついてこない時期もあったんだけど、ずっと我慢してやり続けた結果、リスナーが追いついた。普通に若い子がやれビヨンセだ何だって、アメリカの現行USチャートを普通に、R&B・ヒップホップ分け隔てなく……先週もやりましたけど、もういまやね、R&B・ヒップホップは主流ですから、聞くようになって。リスナーの耳が追いついて来た。
そして、安室ちゃんがずっと、いわゆる「アムラー」と言われるようなTK時代のブランドの時代が遠くなって、時代と添い遂げて付いてしまった色もだいぶ薄くなって一回りしたことで、要はずっと安室ちゃんが蒔いてきた種がひとつひとつ結実してきた。テレビとかだとTK期とかアムラーファッションが街に溢れて……なんてことを主に讃えてやっていますけど、僕は全然その後の、ポストTK期以降の安室ちゃんの積み重ねこそが偉大であって。それこそが安室奈美恵を唯一無二の存在にしたというか。ついにそこに到達したという風に思っているわけです。というような特集を2007年。ちょうど10年前にやって。
で、ある意味黄金期がずっと続いたまま安室ちゃんはここまで来たと思いますけども。ということで、引退になって。この番組では追ってね、またDJとかですかね? なんらかの形でがっつりと、この番組なりに安室さんの偉大な足跡をたどるということで。まあでも、引退まで1年ありますからね。なんらかの形でやっていきたいと思いますが、さしあたって今日はその2007年の特集の時にはまだリリースされていない曲で、僕は第二期安室奈美恵黄金期の中でも非常に象徴的というか。もうこれがちょうどリリースされた時に、「うわっ、もういまの安室奈美恵、無敵だわ!」って思った、これは2008年3月11日リリース。34枚目のシングル『60s 70s 80s』という、60年代、70年代、80年代をテーマに、それを現代にアップデートしたような、非常にコンセプトシングルですね。
タイアップで、その企画シングルをやって。もうこんなことができるのは、日本では安室ちゃんだけだろうというような、本当に素晴らしい作品だったと思います。で、この間の『安室奈美恵三昧』の時にはさっきの『Paradise Train』と、その60年代にあたる『NEW LOOK』という曲。シュープリームスの『Baby Love』をリメイクしたというか、現代版日本語曲にリメイクした曲をかけさせていただいたんですが。
安室奈美恵『NEW LOOK』
もう1個、この『60s 70s 80s』から。やっぱり文脈的に安室ちゃんをMUROくんがプロデュースして。そしてこの曲を元ネタに、こんな感じでやれちゃうという。「2008年、こんなシーンを待ってたぜ!」ってまさにね、思った1曲でございます。元ネタになっているのはもちろんアレサ・フランクリンの名曲中の名曲。そしてブレイクビーツの名元ネタとしても知られております。『ROCK STEADY』を現代日本語曲に置き換えた曲でございます。
プロデュースは我らがMUROくんです。お聞きください。安室奈美恵さんで『ROCK STEADY』!
安室奈美恵『ROCK STEADY』
はい。まさにね、当時2008年3月、安室奈美恵さんの勢いあってこそのシングルというかね。その時、2007年の特集の時にも言いましたけど、安室さんよりも歌が上手い人、踊りが上手い人っていうのはいたとしても、安室奈美恵のような存在感。こんな……たとえば、いま聞いていただいたような作品をこの規模でドカンと出すようなことは日本では決して誰もできないんじゃないか? ということで、お聞きいただきましたのは安室奈美恵さんで『ROCK STEADY』でございます。
もし安室ちゃんがいなかったら……まあ、いてもブレイクしていなかったら、日本の音楽シーンはその後だいぶ、現在とは変わっちゃっていたと思いますよ。という風に思います。ちなみに、先ほど「うちの番組でもいろいろやりますよ」なんて言いましたけど、10月14日のDJコーナー『Disco 954』でまずはDJ YANATAKEさんによる安室奈美恵MIXをお送りしたいと思っておりますので。ぜひぜひそちらをお楽しみにしてください。
10/14(土) 22:00 TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」にて #安室奈美恵 Tribute Mix やらせていただきます!#utamaru pic.twitter.com/9JCyXLh8Bt
— yanatake (@yanatake) 2017年9月23日
<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/12907
https://www.tbsradio.jp/184841