矢野利裕と宇多丸 嵐の音楽的魅力を語る

矢野利裕と宇多丸 嵐の音楽的魅力を語る アフター6ジャンクション

(矢野利裕)要するにそれは「誰でもやっていいんだよ」っていうアマチュアリズムっていうか。「誰でもできるし、誰でもやっていいんだよ」っていう元気をもらって。『Hip Pop Boogie』も櫻井さんが「自分だってアイドルだけど、堂々とやりますよ。アイドルなりのやり方で」っていう、そのメッセージがすごい自分にはかなり響いたところがあって。まあ、そんなことをね、すごく思いながら聞いてました。

(宇多丸)光栄ですよ。光栄ですし。前のその2008年の特集の時にオギーも言っていたけども。やっぱりその櫻井くんのラップっていうのはそれって実は僕、ヒップホップの本質で全然間違ってないと思うんだけど。要は、彼の立ち位置で、彼の立場で、彼の言葉でしか発せられないことを言うっていう。それがリアルじゃないかっていうか。だから彼にとってのリアルをちゃんと常に追求しているし。立ち位置というものをちゃんとわきまえた上で。あと、曲を映えさせるとかね。

ちゃんと自己主張の前に曲を映えさせる。ちゃんとそれも踏まえた上で……っていうのがあるから。そうやって並べて言っていただくのもありがたいし。やっぱりこれは櫻井くんにしかできないこと。しかもそれぞずっとやり続けているから。すごすぎると思います。

(矢野利裕)ということで、それではお聞きください。櫻井翔で『Hip Pop Boogie』。

櫻井翔『Hip Pop Boogie』

(宇多丸)ということで、これは櫻井翔くんのソロナンバーで『Hip Pop Boogie』。これは2008年のオリジナルアルバム『Dream “A” live』の初回限定版のみに収録ということで。さっきから、そういうのが多いね。まあ、そういうのも意図としてはわかるけど。あれですよね。こういう曲もいずれ、ちゃんと聞きやすく整えていただけると。活動休止の間にね。今日はそれが多いんだよな。ひとつ、よろしくお願いします。

(宇多丸)でも、やっぱりその今のお話もすごく重要で。やっぱりそのラップ……そのラップメンバーっていうところがいるっていうのは本当に先駆的だったし。今となって普通じゃない?

(日比麻音子)もう当たり前になっていて。ラップ担当の人がグループにいるのって気がついたらたしかに櫻井翔さん以降だなっていう。で、今ってK-POPもそうじゃないですか。だからかなり影響力があったんだなって思います。

(宇多丸)でも同時に、やっぱり櫻井くんはいろんな人が、いわゆる本格感みたいなものをまんまトレースしようっていう……まあ、それはそれで間違っていないっていうか、いいんだけど。櫻井くんはやっぱりちゃんと嵐の中でのたたずまい。あと、櫻井くんっていう非常に品がいい、育ちがいい方じゃないですか。でもちゃんとそこに嘘をつかないっていうか。それがちゃんと現れる感じで存在感を出していて。僕はこれが彼にとってのリアルだっていうことがすごく感動的だと思ってる。

(矢野利裕)「温室育ちの雑草」っていう一節が本当に胸に来るんですよ。本当にいいことを言うなって思っちゃいますね。

(宇多丸)いや、素晴らしいと思います。ということで矢野さん、引き続きいろいろ曲を聞いていきたいんですが。

(日比麻音子)2010年代のおすすめもぜひ教えてください。

(矢野利裕)そうですね。本当に語り代はいろいろあるんですけども。ジャニーさんの話をちょっとしましたけれども。「アメリカからやってきた」っていう。「アメリカの視点から日本を見ている」という。で、宇多丸さんも先ほどおっしゃいましたが。そこにはやっぱり異国趣味とかオリエンタリズム的な日本のあり方っていうのが古くは『スシ食いねェ!』とか。あるいは忍者っていうグループだとか。

あとは光GENJIっていうのもそもそも……とか。普通に流してしまっているけども、「このセンスってすごいな!」っていうのがあって。ジャポニズムというか、外国から見た日本趣味。ジャポニズムっていう風に最初の『ジャニ研!』っていう本の中でもそういうことを言っていたんですけども。そうしたら、2015年にその名も『Japonism』っていうアルバムが出まして。で、まさにそのアルバム自体もそういう、やや誇張された日本趣味みたいなものをサウンドに配置していて。

それで面白い曲を作るという試みをやっていて。これ、ステージとかも本当に素晴らしいんで、DVDとかもチェックしてほしいんですけども。曲もいい曲がいっぱいあって。その2015年の『Japonism』から1曲、聞きたいと思います。『三日月』です

嵐『三日月』

(宇多丸)はい。ということで嵐で『三日月』。2015年のアルバム『Japonism』。その名もズバリということで。でも、なんかすごい不思議なバランスの曲ですね。

(矢野利裕)世界観はジャポニズム路線なんですけど。でもサウンドの構築が結構すごくて。どっちかっていうとエレクトロニカとか音響派みたいなProTools以降のもうビートを小刻みにして……『Japonism』の前が『THE DIGITALIAN』っていうアルバムで。ものすごいビート的に細切れにして再配置するようなアルバムを作って。なんか僕はその延長線上の感じで、もう拍子も3拍子が入ったりとか。

で、ビートもものすごく細かく配置して。ダンスミュージックっていう感じじゃないけども、ものすごい1曲の構築がめちゃめちゃ見事っていう。で、これでジャポニズムをやって。なんてレベルが高いんだろう。こんなのが普通に日本の一番最大公約数のポップスとしてあるっていうのはすごいなって思いましたね。

(宇多丸)はい。ということで、どんどん時間も来てしまっているのですが。たった1時間で振り返るには急いで行かなければいけないんだけども。最後のパートになのかな?

(日比麻音子)はい。では矢野さん、次のパートをお願いします!

(矢野利裕)続けること、休むこと。等身大のアイドルの形を見出す嵐。

(宇多丸)はい。「休むこと」ということですから。2019年1月27日にこの2020年いっぱいで活動休止というのを宣言するという。これもなかなかないけどね。その活動休止までのスパンを結構長めにとって……っていうのもあんまり類を見ない感じがしましたけどね。それで休止宣言後、嵐には変化があったんでしょうか?

(矢野利裕)そうですね。まず一番大きいのはサブスク解禁。2019年11月3日。

(宇多丸)SNSもだから、インターネット解禁というか。ジャニーズのインターネット解禁。それまで、とにかく頑なに……ちょっと頑なすぎたんじゃない?っていう感じがすごくしたけども。そこが一気に解禁になった。

(日比麻音子)TikTokとかもやって。いろいろな発信をしてくれていますもんね。

(矢野利裕)それでサブスク……Spotifyとかなんでもいいんですけども。それで嵐というものを聞くようになった時に何が起こるか? それは隣りではK-POP、BTSとかがいて。その隣にはそれこそブルーノ・マーズがいて、とか。そういう並列の中で嵐を選んで聞くっていうことになるわけで。必然的にサウンドをある意味グローバルにしていくということがあったと思います。

で、休止宣言みたいなものがありましたけれどもこの1年、松本潤さんも嵐は最後、アメリカでコンサートをやりたかったっていうのがあって。で、そのためにどうするか?っていうことをいろいろ考えて。それがコロナで実現できなくて、本当に辛い1年だったと思うんですけども。そういう中でサブスクがあったりとか。後は『Reborn』シリーズがあったり。

初期の曲をEDMだったりとか、今っぽい感じでやるっていう。で、サウンドがそういう意味ではグローバル対応になった。サウンドだけじゃなくって、在り方。アイドル、あるいは芸能の在り方みたいなものもある種、グローバルな形というものに対応しているような印象を受けました。

本当に細かい話をすると、今年は働き方改革の年ですけど。それも2013年かな? 国連から日本に是正勧告があってからの働き方改革。要するに、芸能事務所も含めて、日本で働くということはどういうことか? メンタルが弱った時にちゃんと自分の意志で休むとか。自分が違う道を歩みたい時にはしっかり歩むとか。そういうところに対して主体性みたいなことをちゃんと認めていくっていう、そういう流れに……嵐はそういうところもしっかり見据えている。

(日比麻音子)ああ、時代の流れも。

(宇多丸)まあね。無理して続けて、ねえ。それで変な感じでっていうのよりもいいもんね、それはね。

(矢野利裕)そうですね。なので、活動休止というのはすごく悲しいんですけれども。まあ、みんなが話し合って出した結論という意味では前向きに捉えたいなという気持ちもあって。サウンドも、アイドルとしているっていうことも……嵐って本当に身近な親しみやすい等身大のアイドルって言いますけども。そういう意味でも本当に等身大っていうか。僕らが今後、どうしたらいいかっていうところを指し示す……アイドルって社会を映すところというか。社会からもしかしたら転向するところもあるかもしれないけども。嵐はそういう意味でも、そこはすごく何かを指し示しているなという風に思います。

(宇多丸)あと、さっき言った活動休止までのそのスパンを長くとることで、めっちゃ丁寧にいろいろこうやってくれてる感はすごくあるかなと思っていて。

(日比麻音子)かつ、攻め続けてますよね。

(宇多丸)そうね。さっきの高橋芳朗さんの選曲でもね、全然、ここが新たな始まり感がビンビンみたいなね。そこもさすがな感じですよね。

(矢野利裕)という中で、サブスク解禁の曲。2019年11月3日に出された『Turning Up』っていう曲。このサビが「Turning Up with the J-POP」っていう感じで。まあ「J-POPで盛り上がろう」って世界に向けて発信をしているような感じがあって。まあ、そのへんもJ-POPを引っ張ってきた人にしか言えないっていう感じがあるし。

(日比麻音子)なんか覚悟というか。見えますよね。

(矢野利裕)だからそれは「今っぽい」っていう言い方もできるし、やっぱりジャニーズの歴史で見た時もずっとアメリカから日本にいろんなショービズを紹介してきて。それをまたさらにアメリカに問い直すっていうのがずっとジャニーズの歴史ですから。そういうジャニーズの歴史という意味でもものすごく結節点になってる曲が『Turning Up』だという気がしますね。

(宇多丸)まあ『Turning Up』は時間の関係もあるのでちょっとBGにひかせていただくという形になってしまいますが。はい。

嵐『Turning Up』

(宇多丸)まあ、でも一旦休んでもらってっていうか、じゃあ次に向けて、これからのアイドルとか、こういう若者のエンターテイメントグループの在り方みたいなものを指し示して一旦お休みみたいな、そういう感じでしょうかね?

(矢野利裕)はい。そういう意味ではもう本当に前向きに捉えたいと僕は思っています。

(宇多丸)ジャニーズ事務所そのものもさ、やっぱりジャニーさんが亡くなられて。もう巨大な転換期を迎えている。で、そのエンターテイメント全体……これ世界でね、それも巨大な転換期を迎えている。中身もそうだし、たとえば伝えるべきメッセージのこともそうだし、もちろんアーティストの在り方もそうだし。それこそ、ビルボードチャートの中にアジア人がバンバン入る時代っていう、そういう中でなんか、それをすごくおっしゃる通り、日本を代表するグループになりに反映してるっていうか。特に矢野さんの今の説明を聞いて、すごくそこがクリアに見えてきた感じがありますね。僕もね。

(矢野利裕)本当に日本で音楽をするとか、日本で芸能をするってのはどういうことかということを……まあ余計なことかもしれないけども。考えるところもありました。

(宇多丸)ということであっという間に駆け抜けてきて時間が来てしまいまして。本当に矢野さん、ありがとうございました。

(矢野利裕)こちらこそ、楽しかったです。

(宇多丸)今日はねすごく本当に普段のリスナーの方に加えて嵐のファンの方というのもいっぱい聞いていただいて。メッセージもいっぱいいただいて、本当にありがとうございます。全部紹介しきれなかったのが本当に申し訳ないですが。すごく熱も感じましたし。うちの番組なりのね、いい、感謝感激雨嵐を返すことができたかなと。「嵐なくしてアトロクなし」という。これ、マジで本当に思っていますからね。

<書き起こしおわり>

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