朝井リョウ「宇宙」を感じる瞬間を語る

朝井リョウ「宇宙」を感じる瞬間を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんが2020年11月29日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で、上下左右や方角が全部失われたような感覚に陥る「宇宙」を感じる瞬間について話していました。

(朝井リョウ)前回、私たちは壁伝いに、壁にしがみつきながら収録をした時にお話をしたので、高橋さんは全然覚えてないかなと思うんですけど。

(朝井リョウ)「飛んだ話」というのはつまり、「自分の中で宇宙を感じた話」とも言い換えることができるというお話をしたんですね。

(高橋みなみ)ありましたっけ?

(朝井リョウ)それで、(「飛んだ話」の)次のテーマをどうするか?っていう話なんとなくスタッフ間……あ、ごめんなさい。ノーザンライツ間でもしていたじゃないですか。

(高橋みなみ)いやいや、言い直さなくていいよ。

(朝井リョウ)星の間でしてたんですけれども。その時に「遅刻した話とかがいいんじゃないか?」とか、200回記念のメールで来た「マライア・キャリーと私」の話が思い出されたりとかした時に、これらの中で通ずる点があるとすれば、それは私のまわりの上下左右や方角が一瞬、失われるような感覚がある。つまり、宇宙を感じる感覚。宇宙を感じるということですね。「飛ぼう!」って決意する時の描写も皆さん、とてもそれは見失った瞬間というか。そういうのを書いていただいてますし、私も遅刻の経験が一度ありますけれども。はあ……思い出したくない。あのね、対談に遅刻したんだけど。

(高橋みなみ)えっ、対談に?

(朝井リョウ)ある企業の社長さんとの対談に遅刻したの! しかも、起きた瞬間に遅刻していたんですよ……。

(高橋みなみ)えっ、なんで?

(朝井リョウ)でも、この10年の中で1回だけ!

とある企業の社長との対談に遅刻する

(高橋みなみ)それはやっぱり、その夜も作業してて……みたいなこと?

(朝井リョウ)いや、単純にアラーム的なものが鳴らなかったんだと思うよ。

(高橋みなみ)朝早かったってこと?

(朝井リョウ)結構早かった。で、本当に今思えば、それでもさ、もちろんちゃんと対談はやったの。なんかさ、遅刻で大事なことってさ、遅刻をしなかったみたいにちゃんと仕事を終えて。それでアウトプットされたものも、まさかどっちかが遅刻してたなんて思わせないことが遅刻者が果たせる唯一の責任じゃないですか。それで私、対談は頑張ったんです。非常に申し訳ない気持ちを抱えながら、本当に謝って。で、その後にどうしてもね、だから対談ってちゃんと写真撮られるの。誌面があってさ、見開きで。で、右側にその対談をした企業の社長さん。左側に私。真ん中にその記事、文章がある。まあ、あるあるじゃない?

(高橋みなみ)あるあるですね。

(朝井リョウ)それでお互いに向き合ってるような写真っていうのをレイアウトで送られてきたんだけど……私はどうしても、なんか遅刻をしたのに対等な感じで社長さんと向き合っている写真が掲載されることが申し訳なさすぎて、耐えられなくて。本当に意味わかんないんだけど、「どっちも社長さんにしてくれませんか?」って言ったら……。

(高橋みなみ)フハハハハハハハハッ! 意味わかんないよ!

(朝井リョウ)そしたら、そうしてくれたの(笑)。

(高橋みなみ)嘘でしょう?(笑)。えっ、じゃあ朝井さんは写真、ないの?

(朝井リョウ)そう。だから社長が同じ方向を向いている写真が両側に載ったの!

(高橋みなみ)よくそれでOKが出たね?

(朝井リョウ)でも今、思ったらやっぱりその、私は作家だし。それは作家方面の媒体だったのよ。だからその編集さんも「作家に言われたことだから」ってことで無理やり通してくれたの。だから意味不明レイアウトよ。結局。

(高橋みなみ)意味わかんないよ。対談なのに。

(朝井リョウ)そう。完成したんですけども。たまに本当、そういうことをやっちゃうの。だから、今度の収録で話しますけども私、最近またあるファッション誌で意味不明なページを生んでしまったんですね(笑)。

(高橋みなみ)うわっ、それ知りたい! なにそれ?

(朝井リョウ)私はその遅刻をした時にもう本当に宇宙を感じて。その、普段はしない牛乳を一杯、ゆっくり飲むっていうことして。「なんで普段はしないのに今、牛乳を飲んでるんだろう?」って。その時に、その上下左右、方角が全部失われたような感覚に陥ったんです。で、あのマライア・キャリーの話もそうだっていうのはね、前回壁に貼りつきながら話しましたけれども。だから私はその「宇宙を感じるような一瞬」っていうものに焦点を当てれば、すごく味のある文章が届くんじゃないかなと思ったんですよ。

(高橋みなみ)これはもう、ひとまず自分が「これ、小宇宙が生まれたな」って思うことを書いて送ればいいってこと?

(朝井リョウ)そうです。つまり、「こういうテーマで募集をします」ということではなく、これはなかなかもしかしたら斬新。この『ヨブンのこと』がたまにやる、「やってみたら斬新だった」っていう。

(高橋みなみ)そのシリーズのひとつ?

(朝井リョウ)そう。だからテーマを掲げるのではなく、「この文章は絶対に入れてください」という一文を指定するっていうケースで募集をしてみたく思っております。その一文というのが、これはどこで使ってもいいんですけれども。「私はこの時、宇宙を感じました」。この一文が出てくるエピソードを皆さんから募集することをやってみたい!

(高橋みなみ)「宇宙」!?

(朝井リョウ)みんななら、できるよね? そう思ってる(笑)。

(高橋みなみ)チームYならできる?

(朝井リョウ)私は最近、3月末に出す『正欲』っていう小説。それが書き下ろしで600枚ぐらいあったの。で、もう大変だったの。それが。結構長い間、ずっとそれをやっていて。それでもうやっと、本当11月の何日かに1回、その編者さんに送れるぐらいまでのの状態に仕上がりまして。で、もうその送信ボタンを押すことが今のところ、人生で感じる……なんかそういう長編の原稿の送信ボタンを押す瞬間っていうのが一番気持ちいいのね!

(高橋みなみ)これはでも、私たちは感じられない解放感よね。

(朝井リョウ)一番気持ちいいの。その瞬間が。それでもう、すごく気が大きくなる。

(高橋みなみ)「終わった!」って?

長編小説原稿を送信した後の解放感

(朝井リョウ)そう。「なんでも今、できるかも!」っていう気持ちになっちゃう。もうすごくヤンチャをしたくなったの。で、しかもそれ、午前中のうちに送れたから。すごい1日があるわけ。その後に。

(高橋みなみ)たしかに! 何をするんだろう?

(朝井リョウ)そう。「なんでもできるやん、今の自分!」と思って。でも私は結局ね、何をしたかというと、私はその丼丸をとても使うんですけれども。丼丸、だいたいの丼が500円なのですが……「行ったろ!」って思って700円の海鮮丼を買ったっていう。

(高橋みなみ)ちっさ! もっとあるじゃん! 昼からカウンターのお寿司でランチとかさ!

(朝井リョウ)って、思うでしょう? でも私、本当にその700円の丼をオーダーして。「行ったっぞ!」って思っても。アサリの汁みたいなのもたのんで。乗っけて。「丼丸で1000円ぐらい使っとるやんけ!」って思った時に……でも、「なんか本当に自分の人生のスケールって、これぐらいだったな」って。

いろんなこれまでのそういう場面、殻を破りきれなかった、ヤンチャをしきれなかった場面っていうのが本当に芋づる式に蘇ったんですよ。その時に、本当に丼丸のすごく小さなスペース。親しみのあるスペースの中でたった1人、ものすごい宇宙に放り出されたような気持ちになって。自分の人生を浮遊したんです。その瞬間。いろんな時空に飛んで。「でも、どうせこれって、将来もそうなんだろうな」みたいな。

(高橋みなみ)悲しい話!

(朝井リョウ)そう思ったんです。「ああ、これが宇宙だよな」って思って。そういうケースでもいいです。

(高橋みなみ)えっ? ちなみに今さ、ふわっと1個、思いついたのがあるんだけど。これは宇宙なのかな?

(朝井リョウ)高橋さんが今から宇宙かどうかをたしかめていただきます。

(高橋みなみ)じゃあ1回、とりあえずタイトルコールに行きますかね。

<書き起こしおわり>

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