朝井リョウと高橋みなみ「カマし」を語る

朝井リョウと高橋みなみ「カマし」を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんと高橋みなみさんが2020年5月24日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で昔の知り合いにされた「カマし」について話していました。

(高橋みなみ)メールテーマのコーナー。今回もテーマは「ふと思い出してしまう一言」です。ラジオネーム「諭吉」さん。「私は昨年、漫画家デビューしました。漫画の投稿を始めたのは高校生からで、かれこれ8年もデビューするのにかかりました。もう諦めようかと思った瞬間もありました。そのたびに自分を奮い立たせる言葉がありました。それは中学生の頃。当時クラスの中心にいた学年全体でも頭がよく、発言力のある仕切りたがり屋の女子に言われた言葉です。友達からも『将来、漫画家になるの』とよく言われていました。

そんな感じで友達と会話していた時、近くにいたその子が言いました。『そんなうまくはいかないよ』。その一言がグサッと中3の思春期の心に突き刺さりました。私はその子のことが小学生の頃から苦手だったんですが、その一言を言われて『苦手』から『嫌い』に昇格しました。そして8年の時を経て、ペーペーですが漫画家になれた私。漫画家デビューする前はあの一言を思い出しては『あの子より有名になってやる!』と思っていました。最近、共通の友達からその子の近況をたまたま聞きました』。

(朝井リョウ)ああーっ、どっちだろう!?

(高橋みなみ)「……元カレのセフレになっているらしく、私は『みんな、大変そうだね』と適当に相槌を打ちながら、頭の中では『勝った!』と思ってしまいました。そんな結婚2年目の私です。漫画家になった今では仕切りたがり屋のあの子に言われた言葉に逆に感謝しています。そして今の現状に満足せず、油断せず頑張ろうと思うのでした」という。

(朝井リョウ)すごい。パンパンに詰まってた。なんか……。

(高橋みなみ)すごいよね。なんか物語がすごい詰っていたよね。思いとともに。

(朝井リョウ)それでちゃんと最後、自省する。自分のこともちゃんと省みて……全部、詰まってた。なんか、その……(笑)。

(高橋みなみ)なんか1冊読んだような感じした。

(朝井リョウ)そう。でも誰か恨むだけではいけないみたいな。いろんな、その恨みによって頑張れただけではなく、いろんな……そうかー。

(高橋みなみ)すごいね。でもなんかさ、学生の時にさ、ちょっとマウント取っていた女子とか男子もさ、歳を重ねるとさ、逆転現象が起きたりするじゃん?

(朝井リョウ)でもなんかさ、もちろんあります。それですごく気持ちいいというか、ハッピーエンドだという感じもあるんですが……やっぱり前もこの話をしたけども、復讐でやったことって相手には全然伝わってないんだよね。残念ながらさ。なんかこれ……うーん。聞かれたていたくないし……でも、話しますね。

(高橋みなみ)なに、なに?

(朝井リョウ)いや、私……いやー、大学時代にさ、作家デビューをしたわけじゃないですか。そうなると、所属してた学部の空気もあるんだけど。なんかどっちかって言うと、「すごいね!」みたいな空気は仲間内にはあったよ。「すごいね」みたいな空気。でも、そうじゃない友達の友達とかから、すごいカマされることが多かったのね。

(高橋みなみ)えっ、カマされるの?

(朝井リョウ)カマされる。「なんかでも大したことないよね」みたいなのを言外にカマされる感じ? わかる?

(高橋みなみ)えっ、やだー! わかるけど、すごい嫌だね。

友達の友達からカマされる

(朝井リョウ)「まあまあまあ、そりゃあカマしてくるよな」みたいな感じでいろんな人のカマしを受けていたんですよ。で、その中でもさ、やっぱりさ……でもこの話、やっぱりやめようかな?

(高橋みなみ)えっ、なに?

(朝井リョウ)で……やめよう!

(高橋みなみ)やめようか(笑)。

(朝井リョウ)やめよう、やめよう(笑)。

(中略)

(朝井リョウ)ねえ。すごく歯切れのいいオープニングを……(笑)。

(高橋みなみ)ねえ! なんか話しかけようとして、途中でやめたでしょう?

(朝井リョウ)いやでも本当、ちょっとすごい直近のことだったし……いろいろ頑張って特定されないように話そうかなと思ったんだけど、なんかちょっとやめておこうと思いました。

(高橋みなみ)カマされるってなんかね、すごく分からなくなくて。私、中学2年生でAKB48に入っていて。まあ3、4年とかはガッツリ下積みというか、そんなに売れることなく。いわゆるだから「アキバ系」みたいなことを言われてたりしてたから。最初はなんか「アイドルグループに入ったらしい」っていうところの噂から行って。それでたとえば学校に行く頻度が下がってきたりとかすると「あいつ、調子こいてるな」っていう、いわゆる「友達の友達」が出てくるわけよ。

(朝井リョウ)そうなんだよね。友達の友達とかだよね。

(高橋みなみ)そう。出てくる。やっぱりもっと近しい人は一瞬ね、「なんで言ってくれなかったの?」みたいなところで喧嘩みたいのはあったけども。結局は「頑張ってね」っていう。それでちょっとしたことも喜んでくれたりするんだけど。やっぱり1個挟むと、むちゃくちゃなんか来るじゃん?

(朝井リョウ)来る。なんかしかもね、なんか一見応援してるみたいなテイで来るんだけど、よくよく聞くとなんか品定めしてきてるし。全然、言いたかったのは……「すごい。賞を取って本を出したんだね。すごいね。でも、長くは続かない世界だけど、頑張ってね」みたいな。「ああ、そこが言いたかったんだな」みたいな。1枚、用意してくるんだよね。「応援してるよ」みたいなのを用意して、それをめくる虫がビャーッて出てくるみたいな。石をめくると虫が出てくるみたいな。

(高橋みなみ)やだやだやだ! あのファーッてなるやつね。

(朝井リョウ)そう。だったんだけど、高橋さんも友達の友達からカマされた?

高橋みなみのカマされエピソード

(高橋みなみ)うん。まあ、あっちからしたらカマしている感じはしてないのかもしれないけど、自分の考えとしてはなんか「ああ、カマしてきてるな」って思ったし。あと、たぶん自分にとって、私がちょっとテレビとか出たりとか、ちょっと有名になることがプラスにならないという風に算段された瞬間に、応援しているふりしてた人が裏返してくるみたいな……そういうのも出てくるじゃないですか。まあ、そういう時にジャッジが下されるんだよね。本当に。

(朝井リョウ)なんていうの? 本当、短期的に「この人には丁寧に接しておいた方がいい」とか「この人のことはぞんざいに扱っていい」みたいなことを決めて生きているのって本当にダメだなと思わなかった? このコロナの期間で。というのはさ、やっぱりもうその人に迷惑をかけずに生きることってできないんだなって最近、超思っているんですね。ゴミとか、めっちゃ出るじゃん。家にいると。で、通販もまあ物流の人が大変だから少なくしようと思ってスーパーに行ったりするけど、結局でもそのスーパーの仕入れが大変になってさ。物流の人は動くわけだしさ。なんかさ、自分がどんな行動しても、絶対にどこかに迷惑はかかるんだっていうことをめっちゃ思うわけ。

(高橋みなみ)まあ、そうだね。人が1人、生きるっていうことはいろんな人が動いているっていうことだもんね。

(朝井リョウ)そうそう。ということが今まで、意外と見えてこなかったけど、こうなるとすごい見えるじゃない? 「家にいましょう」っていうことがちょっと答えっぽかったけど、全然答えじゃなかったっていうことがわかってきてさ。で、私は会社員の時にね、これは自分のことをすごいいい風に話すわけじゃないんだけど。ある大きなビルに自分の勤めている会社も入ってたのよ。だからそのビルを管理している管理会社の人も常駐してたのね。ビルに。で、そのビルに常駐している人と積極的にあいさつをする人と、あいさつをしない人に分かれていたの。

(高橋みなみ)ああ、これ、分かれますね。うん。

(朝井リョウ)で、私は普通にあいさつをしていたの。していたら、会社員3年目の時に部署異動があって。それまでは会社で外に向けて仕事をする部署だったんだけど、その3年目で異動になった時に総務部っていう会社の内部のことをいろいろ調整するような仕事になった時に、一番そのビルの管理をしている人と密接にやり取りをするポジションになったのね。そうなった時に、本当にちゃんとあいさつをずっとしててよかったなと思ったの。その時に。まあ、それで思うのもダメな話なんだけど。というのを今、そのマンションのゴミ捨て場の人と会うたびに、今までもあいさつをしていたのよ。「おはようございます」とかいろいろとあいさつをしていて、まだよかったなと思って。今、たぶんすごい迷惑をかけているから。

(高橋みなみ)本当、そうだな。私もだって結構、スーパーとかさ、行くけどさ。なんか「密」じゃん。結構人、多いじゃん。タイミングで行ったって。

(朝井リョウ)そうだね。結局ね。どこかは密になるんだよ。結局。

(高橋みなみ)どこかは密になるから、なるべく混雑しない時間帯にコンパクトに買い物をして……って思ってレジに並ぶんだけど。一時期は声をさ出すということもやめておいた方がいいのかなって思ったんだけど……あまりにもすごいスケジュールでずっとレジ打ちの人が動いてるから。「これはありがとうと言いたいな」って思って。「ありがとうございます」ってちゃんと声を出して言うように戻したわけ。「声を出すと伝染ることがあるのかな?」って思ったら声を出せなくなった瞬間があったんだけど。それで言ったら、めっちゃバイトの男の子がね、嬉しそうに。「あ、全然でーす」って言ってくれた時、「ああ、これだ!」って思って。

(朝井リョウ)本当。本当ですよ。もう損得で考えずに、出会った人と真摯に向き合うということが本当に大切だということを私も最近、ちょっといろんなことがあって、いろいろと考えてというか……(笑)。

(高橋みなみ)アハハハハハハハハッ!

(朝井リョウ)「あっ、カマしてきた人だ」っていう風に思ってた人との再会があったんですよ。「あっ、カマしてきた人だ」っていう人と再会するタイミングがあって。

(高橋みなみ)カマしの人と再会する時、あるよね!

(朝井リョウ)それで相手がさ、相手が……謝ってきたの。

(高橋みなみ)ええーっ!

(朝井リョウ)謝ってきたっていうか、なんていうの? ちょっと謝ってきたっていうかね……もう、ああ、もう!

(高橋みなみ)そのパターン、初なんだけど。なにそれ?

(CM明け)

(高橋みなみ)で?

(朝井リョウ)だから、嫌なんだよね。その自分が被害者みたいな話をしたいわけじゃないの。別に……そう。「自分、かわいそう」みたいな話をしたいわけじゃなくて。「ずっとあの時に失礼なことを言ってしまったという記憶がぬぐえない」というようなメッセージを受け取って。それでカマしている人ってやっぱり「自分は今、カマしている」っていう風に……その、そんなつもりはないけども。「いや、なかなか長く続けることができない業界だから、大変だろうね。若くしてデビューすると逆に大変だよね」というようなメッセージを悪く受け止めすぎていたのかな?」っていうか、そういう風に思っていたんだけど。でも、「カマしている人って『カマしている』って思っていたんだ!」って思ったという話ね。

カマす方にも「カマしている」自覚があるパターン

(高橋みなみ)いや、私は思っていたのと全然展開が違って。普通……私もずっとカマしている人は受け取った人が「こいつ、カマしているな」って思っているだけで、カマしている人はその「カマしている」っていう自覚がないと思っていたの。

(朝井リョウ)はいはいはい。

(高橋みなみ)だから私も中学の時、先輩とかに鬼のようにカマされていた時があったんだけど。その人と、1回、再会したことがあって。1回、言ったことあるかもしれないけど。

(朝井リョウ)靴屋?

(高橋みなみ)そうそうそう! 「あー、たかみなちゃーん。応援してるよー!」みたいな。私はその態度を見て「ああ、こいつは私にカマしていたことを全然覚えてないんだな。私だけなんだ」って思っていたんだけど。カマしている人って「カマしている」って気づいているっていうこと?

(朝井リョウ)気づいていたパターンに出会ったんだよね。

(高橋みなみ)びっくりするな、それ。

(朝井リョウ)しかもそれを申し訳なく思っていたっていうことをすぐに伝えてきていたから……。

(高橋みなみ)ずっといろいろと思っていたんだ、じゃあ。

(朝井リョウ)そう。ずっと思っていたんだと思うんだよね。

(高橋みなみ)それを受け取った時にさ、朝井さんはどういう反応をするの?

(朝井リョウ)うーんと……あの、「若かったよね!」っていう反応かな?(笑)。

(高橋みなみ)フフフ、突然おじいじゃんになっちゃった(笑)。

(朝井リョウ)いや、でも本当にそう。自分もたぶん、そういうことを人にしちゃってた時も、あるじゃん? きっと。たぶんあるから「いや、お互いに若かったよね!」って(笑)。

(高橋みなみ)おじいちゃん(笑)。

(朝井リョウ)そういう気持ちになりましたね。それは。

(高橋みなみ)いや、それはすごい話ね。

(朝井リョウ)というのが……でも忘れていて。だから、靴屋の方がいいかも。

(高橋みなみ)そう? そうか。まあ謝られてもあれだけど……でもだいぶカマされていたけどねー。

(朝井リョウ)そう。だからやっぱりさ、絶対に自分はカマさないようにしようって思うよね。

(高橋みなみ)まあ、そうだね。カマされた方は覚えているよ。

(朝井リョウ)そうなのよ。本当にカマさないように……で、それは本当に「この業界の誰か」とかいうことも関係なくよ。本当、出会う人みんなにカマさないようにしないと。

(高橋みなみ)本当に。でもカマしてもそういう風に謝れるかな?って思って。なんかすげえなって思った。

(朝井リョウ)そう。なんかいろんな気持ちになった。だからすごい……「この人もすごく年齢を重ねて大人になって、嫌な思いとかしたんだろうな」みたいな。カマされる側に回るとかさ。とかもね、ちょっといろいろそういうことをね、ちょっと……なんでそのことを考えたのか……(笑)。ああ、あれだ。「忘れられない一言」だ。そうだ。思い出した。でも、ひとつだけその忘れない一言を聞きながら、全ての感情があるし、全てがなんかもう清算されているなって思ったんですよ。その、さっき聞いたエピソード。なんか恨みがあったけど、元カレのセフレで清算されて。でも、私はひとつだけそのラジオネームが「諭吉」であるという点から、お金への欲望というものだけが今のところ、もしかしたらこの人の中でくすぶっているのかな?っていうことだけ感じました。

(高橋みなみ)フフフ、ラジオネームってそんなところまで読み解かれるの?(笑)。

(朝井リョウ)だから私、勝手に男性の方かなと思って聞いてたら……たぶん女性ですよね?

(高橋みなみ)女性ですね。「元カレのセフレ」って言ってるっていうことは、そうだね。

(朝井リョウ)恐らくね。そうじゃない可能性もあるけど……っていうところで一通目、紹介いただいてありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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