山里亮太と町山智浩『はちどり』を語る

山里亮太と町山智浩『はちどり』を語る たまむすび

山里亮太さんと町山智浩さんが2020年7月28日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で韓国映画『はちどり』について話していました。

(町山智浩)ネットで見たんですけど。山ちゃん、なんか『はちどり』を見たっていうのを?

(山里亮太)そうなんです、町山さん。俺、見に行ったんですよ。

(町山智浩)はい。どうでした?

(山里亮太)いや、俺ね、本当にその細かい……ちょうどそれこそ奥さんと見に行っていて。で、すごい奥さんが感動していて。「めちゃくちゃ楽しい!」って言ってるのを「いや、あれはでも1回、病気みたいになった時……あれがもっと死んじゃうとか、そんなんじゃないんだね」みたいなことを言ったら、「いや、そういうんじゃないのよ」みたいになっていて。「あれ? 全然事件、起きてなくない? まあ、大きいのはあったけど。なんか、ねえ……」みたいなことを言ったら「いや、それじゃないのよ」みたいになって。

(町山智浩)フフフ(笑)。

(山里亮太)町山さん、俺、繊細なものが全くわかってないです!

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)いや、でも、ねえ。奥さんはだって昔、まさに『はちどり』みたいな映画によく出てた人ですから。

(山里亮太)そうなんですよね。『花とアリス』とか。

(町山智浩)いっぱい出てましたよね。だからもう本当、よく分かると思うんですけど。いや、まあ『はちどり』っていう映画は普通のハリウッド映画とか娯楽映画っていうのは結構分かりやすくストーリーがあって。事件があってね。それで何をすればいいか?っていうそのミッションの目的がはっきりしててね。で、テーマとかその言いたいことを登場人物がセリフで語ってくれたりする場合が……。

(山里亮太)そうそう。誰がどうなりたいかとか、どうなるかが。「ああ、ここに向かっていってるんだな。よかった、行けた!」っていう。

(赤江珠緒)たしかに。すごくドラマチックなことがあったり、勧善懲悪だったりね。はっきりしてますもんね。

ストーリーやメッセージをわかりやすく語らない映画

(町山智浩)そうなんですよね。でも、その『はちどり』ってそういう映画と違って、なんというか絵に近いもので。映画自体が黙っているんですよね。語りかけて来ているんだけども、それはすごく……この今、流れてる音楽がね、その『はちどり』の音楽なんですけど。今、かけてもらった方がいいかな?

(赤江珠緒)音自体もボワーンとにじんだような感じですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからメロディーがはっきりしてないでしょう? メロディーってストーリーに近いものですからね。それがはっきりしていないけども、微妙な揺らぎで微妙に感情が表現されている、ミニマムな音楽ですよね。で、『はちどり』っていう映画自体もそういう映画なんですよ。だからね、これはね、映画って人と似てるなと思っていて。いろんな、言いたいこととか不満とか要望を言ってくれたり、面白いことで喜ばせてくれる人っていうのはいるじゃないですか。いろいろとね。働きかけてくれて。でも、そういう人もいれば、黙ってる人もいるでしょう?

(赤江珠緒)いるいる。

(町山智浩)あんまりしゃべんない人。で、それが奥さんだったり彼女だったりすると、機嫌が悪いのか悪くないのかわからない、微妙な感じってあるじゃないですか。で、「機嫌が悪いの? 何かあったの? 俺、なんか悪いこと、した?」とか聞くと「別に」って言うでしょう? で、それは「言葉にしないとあなた、分からないの?」っていうメッセージなんですよね。その「別に」っていうのは。

(赤江珠緒)うんうん。そうですね。そういう場合の「別に」。

(町山智浩)「なんでわかってくれないの?」っていう。赤江さんもそうでしょう? で、「説明をしてくれ」って言うとがっかりされちゃうんですね。それで、ひどい時はその彼女が不満に思ってることすら気がつかないで、いきなりその不満が積もりに積もって離婚されたりするわけですけど。そういう映画なんですよ、『はちどり』って。

(山里亮太)ああ、そうか。いろんなシーンの……セリフとかはないけど、そのシーンからいろいろとメッセージが投げかけられてるのが僕は気づけなかったんですね?

(町山智浩)ものすごい微妙なんですよ。

(赤江珠緒)たしかに。感情って全部、言葉に表現できるかというと、表現しきれないもん。

(山里亮太)ズルいよ、赤江さん。急にそっちに行くの?

(赤江珠緒)見てないくせに言う赤江(笑)。

(町山智浩)映画だとそれを分かりやすくカメラワークとか音楽ですごくそれを強調する場合もあるんですけど、それをしない映画もあって。『はちどり』なんかそうなんですが。『はちどり』っていう映画はストーリーは1994年の韓国のソウルに暮らす14歳の女子中学生の……ストーリーじゃないんですよ。日常なんですよ。で、山ちゃんが言ったように何もドラマチックなことは起こらないんですよ。それで淡々と、この音楽みたいに毎日が続いていくんですけれども。でも、その心の奥では彼女はタイトルのハチドリのようにですね、必死にずっと羽ばたき続けてるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか……。

(町山智浩)そうしないと、落っこちちゃうからなんですね。で、それはね、よく見ないと分からないんです。たとえば、晩ご飯食べる時。家族全員がテーブルについて、お父さんが最初に箸かスプーンでつまんだものを口に入れてからじゃないと、全員食べ始めないんですよ。

(山里亮太)はい、食事のシーン。ありました。

(町山智浩)韓国ってそうなんですよ。家長が何かを口に入れるまで、絶対に誰も食べ始めちゃいけないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、すごい封建的なんですね。

(町山智浩)はい。でも別にそれがそのカット割りとかではっきりと示されてないんですよ。当たり前のように……それはそのヒロインの14歳の女の子にとっては当たり前のことだから、当たり前のようにしか撮られていないんですけど。そういう、当たり前なんだけどもすごく嫌な感じのことがずっと続けていくんですよ。たとえばそのお兄さんはずっと受験勉強をしているんですね。受験生で。

で、お父さんとかがやたらと期待をかけていてね。「頑張れよ!」とか言っているんですけど、やたらとお兄ちゃんには期待かけてるんだけど、妹である主人公にはほとんど話しかけないんですよね。お父さんね。で、もうお兄さんのことばっかりなんですよ。家中が、お兄さんの受験で。で、そのお兄さんがまたそのプレッシャーでヒロインの妹を殴るんですよね。でも、それも言えないんですよ、なかなか親には。というか、親はほとんどそのヒロインのことを気にかけてないんですよ。で、お母さんに呼びかけても、お母さんは応えてくれないの。

(山里亮太)そうそう。

(町山智浩)「お母さん、お母さん!」って言っても。

(赤江珠緒)怖いな……。

(山里亮太)だから本当、俺だったらこれで家を飛び出して、モンスターとかばかりの世界とかに行ったりしてくれないと……。

(町山智浩)フフフ、そう。分かりやすい映画はそうなんですけど、そこまで……それで彼女自身も「なんでこんなになんてつらいのか?」っていうのも、はっきりとは分からないんですよ。それが当たり前だと思わされてるから。で、学校に行くと「勉強しろ、勉強しろ、勉強しろ!」って先生が言うんですね。でも、勉強したところで一体それが何なのか、わかんないですよ。で、お母さんが実は昔は勉強ができたらしいことがちょろっと示されるんですよね。

それで酔っ払ったお母さんのお兄さん……だから、おじさんがやってきて。もうグデングデンに酔っ払ってクダを巻いて帰っていくんですけど。実はそのお兄さんをいい大学に入れるために、お母さんは大学に行くの我慢したらしいんですよ。諦めたらしいんですね。で、それなのにそのお兄さん、せっかく親が金をつぎ込んで大学に行かせたのに、ロクなものにならなくて。アル中で……っていうことがちょろっと見せられるんですよ。というのは、男の方が大事なんですね。で、そういうことはずっと積もっていって、その中学生の彼女の耳の後ろにしこりができるんですよ。

(山里亮太)そう。

(町山智浩)で、それがだんだん大きくなっていくんですけど。それを最初、親に言ってもあんまり相手にされないんですよね。で、それがどんどんどんどん大きくなっていくっていうのは、そういう男尊女卑の環境の中で育って。本人もそれが普通だと思っているんだけど、その理不尽さが心の中で少しずつ少しずつたまっていって、しこりになってるんですよ。

だから、それは本人も気が付かないから。よく、まあ奥さんとかが非常に不満そうな時に「何が頭に来てるの? 何か言ってよ?」って言うと、それが言えない場合があるのは、ずっと小さいことが積もり積もっていたことだから、ひとつのこととしては言えないんですよ。

(赤江珠緒)ああー、なるほど。

監督自身の中学生時代の体験を描く

(町山智浩)そういうものすごい小さいものの積み重ねなんですよ。っていう話がこの『はちどり』で、それを非常に強調しないで、本当にその当時の……これは実は監督自身のことなんですね。監督のキム・ボラさんは1983年生まれで1994年に女子中学生だったんですよ。ソウルで。で、映画の中で描かれることは全部本当にあったことだそうです。

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)ああ、そうですか。でも、94年って言ったら全然最近なのにね。

(山里亮太)でも赤江さん、これを聞いてから見に行けるから、めちゃくちゃいいかもしれないね(笑)。

(赤江珠緒)ああ、そうか(笑)。

(山里亮太)俺、もう1回、見ようと思っているもん。

(町山智浩)そう。何度でも見れる映画なんですよ。逆に分かりやすい映画よりも分かりにくい映画の方が何度見ても面白いんですけどね。で、今日紹介する映画のその『82年生まれ、キム・ジヨン』という映画はですね、この『はちどり』の監督のその後を描いたものに近いんですよ。だって、『はちどり』のキム・ボラ監督は83年生まれですから。このキム・ジヨンさんは82年生まれなんですよね。で、これはその『はちどり』のヒロインが現代で何をしてるか?っていうことが描かれるような映画なんですね。はい。

町山智浩『82年生まれ、キム・ジヨン』を語る
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<書き起こしおわり>

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