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松尾潔 Black Lives Matterを語る

松尾潔 Black Lives Matterを語る 松尾潔のメロウな夜
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松尾潔さんが2020年7月13日放送のNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でBlack Lives Matterについて話していました。

(松尾潔)さて、先々月の5月25日にアメリカはミネソタ州ミネアポリスの近郊でアフリカ系アメリカ人の男性ジョージ・フロイドさんという方が警察官の適切とは呼び難い拘束によって死亡させられた事件のことは皆さんもご存知かと思います。その痛ましい死亡事件。この事件に端を発しまして、「Black Lives Matter」という運動がアメリカで、そして世界中で今、高まりを見せております。このBlack Lives Matter、「BLM」という風に略したりしますが。BLMが教えてくれたことというのは、やっぱり根強い人種差別。そしてアメリカにおける警察官の暴力、横暴。そして分断されたアメリカ。あるいは分断された世界というべきか?

こういった現実をまざまざと見せつけてくれたんですね。そしていろんな気づきを呼び起こしてくれました。もちろん、様々なR&Bアーティストがこの運動に反応しております。スピード感のある反応を見せた人たちもたくさんいます。今夜はそういったBLMムーブメントの中から生まれてきた新しい曲をいくつか聞いていただきます。まずご紹介しますのは『メロウな夜』では常連アーティストですね。H.E.R.の新曲を聞いてください。『I Can’t Breathe』。

H.E.R.『I Can’t Breathe』

(松尾潔)お届けしたのはH.E.R.で『I Can’t Breathe』でした。この曲にはBLM運動の本当にプロトタイプとなるような、そういう表現活動を展開してきたギル・スコット・ヘロンの代表曲のひとつ、『Revolution Will Not Be Televised』があるんですね。織り込まれてますね。「革命というものはテレビ中継されることはないんだ」っていう大変痛烈な皮肉の効いた曲で。今でも古典とされている70年代の代表的なアフリカ系アメリカ人アーティストによるプロテストソングですね。

他にはね、もちろん70年代のR&Bアーティストたち、たくさんこういう曲を出してますよ。有名なところですと、今回のBLM運動でもデモなんかでよく唱和されることがあるビル・ウィザースの『Lean on Me』。あとはマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』。『Inner City Blues』。こういう事態に際してミュージシャンが音楽の形で異を唱えるというのは極めて真っ当なことですし、ミュージシャンにしかできない音楽的な表現。これがどれだけの弱き人々の気持ちを励ましてくれるか、力付けてくれるのかっていうのがいろんな曲が証明してきたことですし。今、そういった系譜の上にH.E.R.がいたりするっていうのは本当に頼もしいですね。

Black Lives Matterというのは簡単にご説明することはできないんですが、それでもまあ、できるだけ短く言うのであれば、元々は2012年にフロリダでトレイボン・マーティンという黒人の高校生。彼が不審者と見なされて射殺されるという事件がありまして。それはね、やっぱりそのトレイボン・マーティンさんが肌が黒いという、その1点においてこういう痛ましい目にあったじゃないかということでね、当時同胞の黒人女性がSNSにBlack Lives Matterという文章を投稿したんですね。

これは直訳しますと「黒い命、大切」という。「黒人の命、大切」ということになるんですが。これが「黒人の命も大切だ」と訳されていることが多くて、そのことに関して賛否両論ありますね。僕はね、これに関してはBlack Lives Matterっていうのはさっきから「運動」とか「ムーブメント」って言ってますけども。そのムーブメントの固有名詞でもあるので。日本語にするときはそのロスト・イン・トランスレーション……翻訳する時にこぼれ落ちるものを防ぐために、片仮名でそのまま表記するのが一番いいんじゃないかな?って思いますね。「ブラック・ライブス・マター」と書くのがいいんじゃないかなと思います。

あと、やっぱりこの言葉自体に問いかけが含まれていますので。これを日本訳すると何か理解したようなつもりになってしまうという危うさを含んでいるかなと僕は考えるですね。ですからそう安直に片付けるのではなく、解決を目指すためにね、あえて片仮名で表記するがいいのかな、なんていう風に今は思っております。

『I Can’t Breathe』っていう言葉は直訳すると「息ができない」っていうことになるんですね。これ、もうご存知の方も多いと思いますけれども。ジョージ・フロイドさんが警察官から拘束を受けて亡くなる時に繰り返していた言葉ですね。であると同時に、エリック・ガーナーさんという、今を遡ること6年前ですね。2014年にやはり警察官の暴力を受けて、その時に窒息して亡くなってしまうわけなんですが。彼がその時に口にしていた言葉でもあるんですよね。

そしてまた「I Can’t Breathe」という表現にはね、「物理的に呼吸が困難である」ということ以上に「精神的に息が詰まるこのままならぬ世の中」っていうようなものを示す言葉ではないかとも捉えることができますよね。「Black Lives Matter」という言葉は2012年から。そして「I Can’t Breathe」っていう言葉も2014年から。こういった人種差別の問題の時によく上がる言葉で。その背景を知ると、H.E.R.のこの曲に託したメッセージ。この言葉に込めた思いというのをより立体的に理解できるんじゃないかな?っていう風に僕は思います。

続いては23歳のH.E.R.よりもさらにグッと若い12歳のキードロン・ブライアントというゴスペルシンガーの歌声を聞いてください。キードロンくんはフロリダ州のジャクソンビルという、かつてグレン・ジョーンズなんかを生み出した街の出身なんですが。グレン・ジョーンズと同じで天才ゴスペル少年と呼ばれているそうなんですが。その母親が作った曲をSNSにアップしたところ、これが大変な話題を呼びました。

ジャネット・ジャクソン、オバマ元大統領。こういった著名な人たちが賛同の意を示して。そしてメジャーリリースへと繋がってきました。何と言ってもそのジョージ・フロイド事件。ジョージ・フロイドさんが亡くなった痛ましい事件の翌日にはもう発表されたという、この早さというのは衝撃を後押ししましたよね。では、聞いてください。キードロン・ブライアントで『I Just Wanna Live』。

Keedron Bryant『I Just Wanna Live』

Amber Mark『My People』

(松尾潔)Black Lives Matter運動が生み出したフレッシュな2曲をお聞きいただきました。まずはキードロン・ブライアント。先ほどもお話しましたようにフロリダ、ジャクソンビル出身のまだ12歳の少年の歌声です。SNSに投稿して大変話題になった『I Just Wanna Live』。その曲のスタジオバージョンです。これ、メジャーからリリースされておりまして、プロデュースには人気者、デム・ジョインツが当たっております。デム・ジョインツと言えばね、キードロンの『I Just Wanna Live』がSNSに投稿された時に、いちはやく支持を表明したジャネット・ジャクソンのプロデューサーとしても知られていますね。

キードロン・ブライアントの『I Just Wanna Live』はもう本当に歌詞がヒリヒリするんですね。キードロンの母親がね、これから大人になっていく自分の息子のことを考えながらも、悲しみの中で強さをどうやって見出したらよいかという思いで書いてますからね。そういった背景を知れば、なおさらなんですけれども。ヒリヒリするような歌詞ですね。「僕は若い黒人だ。毎日、我慢を強いられていて、獲物として見られている」というようなことまで歌ってますね。

そして、アンバー・マークの『My People』という曲は1972年のエディ・ケンドリックスの曲がオリジナルですね。まあ、ただ2008年にエリカ・バドゥがエディケンの曲を引用して発表してましたからね、おそらくは世代的にそのカバーのカバーと言いましょうか、孫カバーのようなものだったんじゃないかなという風に察しております。エリカ・バドゥでしたね。

この番組を毎週楽しみに聞いてくださっている皆さんにご説明の必要もないかと思いますが、僕はこの30年というもの、アメリカのR&Bに深く関わって。そして途中からは日本に住んで、日本からR&Bを発信するということもやってまいりましたので、ジョージ・フロイドさんの事件からまだ2ヶ月も経ってないんですが、いくつかのメディアから「Black Lives Matterについて松尾さん、率直な意見を聞かせてください」なんていう取材のご依頼をいくつか受けているんですが。今のところ、全て丁重にお断りしてまいりました。

まずはこの番組でお話したいなと思いまして。ですが、なかなか言葉にして伝えることができないまま、今に至りましたけれども。現時点で僕が思っていることっていうのを拙いながらもお話しするならば……日本に住んでいてR&Bが好きなリスナーの皆さんにはお分かりいただけると思うんですが。現在というのは過去……「歴史」と言い換えてもいいですけれども。その過去の積み重ねの上に成り立っているということは音楽を聞いてもよく思いますよね?

で、そういったものをは尊重しなきゃいけない。尊重されるべき過去のことを「伝統」と言ったりするのかもしれませんが。でも、それは今の時代にも有効であるのかという疑問は常に失っちゃいけないんだなという風に思います。必要とあらば、それを修正していくだけの勇気が今を生きる私たちの足を幸せな未来へと導いてくれるんじゃないかなという、そんな気がいたします。

で、その差別。これはもう、差別を受けている人だけの問題じゃないことはもう当然ですよね。そういった意見に対して、「なくならないものもあるんだよ」なんていう冷めた眼差しいの人もいますけれども。僕はそうは思わないんですね。やっぱり誰かの不平等というのを想像する。もしくは共感する。そういったことが求められているんじゃないかと思います。

で、「その不平等を改善するためにたとえ自分の特権的な地位というものを捨てることになったとしても、あなたは不平等をなくしたいと思いますか?」ということを突きつけられてるんだと思いますよ。「既得権益」という言葉がありますけれども。たとえば僕は日本に生きる日本国籍の男性ですけれどもね。それはもう、この国においてそれ自体がマジョリティであり、特権的でもあると思うんですが。

そのことを意識しようがしまいが、それを支える人たちによってこの既得権益っていうのは構造が成り立っているわけですから。それをどうやって変えられるか?っていう。この差別、およびその差別を生み出す構造に目を向けなければ、メロウなR&Bを裏打ちする本質までは理解できないじゃないかなという気がします。それでは先ほど名前が出てまいりましたエディ・ケンドリックスの1978年の必殺メロウ・チューンをお聞きください。エディ・ケンドリックスで『Intimate friends』。

Eddie Kendricks『Intimate friends』

<書き起こしおわり>

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