松尾潔 ギャビン・クリストファーを追悼する

松尾潔 ギャビン・クリストファーを追悼する 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で2016年3月に亡くなったアーティストを追悼。ギャビン・クリストファーについて話していました。

(松尾潔)さて、いつもでありますと、ここで番組後半。スタンダードナンバーをご紹介したりですとか、ナンバーワンヒットをご紹介したりと、そういった構成でお届けしているんですけども。今日はいつもと趣向を変えまして。ムードを変えずに趣向を変えるという形で、今年の春、3月に亡くなった3人のソウルマンを追悼する。そんな特集を企画いたしました。

まず、ご紹介いたしたいのはギャビン・クリストファー(Gavin Christopher)という男性です。このね、ギャビン・クリストファーはね、キャリア長いんですよ。もうもともとは、男チャカ・カーン(Chaka Khan)みたいな存在として華々しく世に出る。そんな話もあった人なんですね。で、実際に同郷のチャカ・カーン、そして彼女がいたルーファス(Rufus)というグループですね。そこにいろんなヒット曲を提供していますし。まあ、その前身グループのボーカルを務めていた時期もあると。

で、結局は正式にルーファスのメンバーにならないまま、ソロ活動の道を選んだんですね。ですが、ルーファスとは大変に友好な関係を続けていまして。『Dance With Me』なんていうヒット曲を提供したりもしています。いま、バックに流れているのは『Once You Get Started』。これもまた、ルーファスの初期のね、70年代の代表曲のひとつですが。この作者なんですね。

で、大変に器用な人でございまして。ギャビン・クリストファーは歌うだけじゃなくて、プロデュース能力も長けていましてね。いろんな、たとえばリッチーファミリー(The Ritchie Family)とかね。そういったグループのプロデュースもやっていましたし。曲提供もまた大変に多い人なんですけども。とはいえ、やっぱりボーカリストとして、なんて言うんだろうな? エッジの効いた硬質な響きがありまして。70年代から80年代っぽい感じがすごく声の成分に表れているっていう人なんですよね。ちょっとロック的な強ささえあったという人です。

で、この人の声を愛した人はたくさんいまして。たとえば、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)はね、ギャビン・クリストファーをよく自分のアルバムに呼んで歌わせていました。で、ギャビンも曲作りから参加することもありました。いま、バックに流れております『Stars In Your Eyes』っていうのはこれ、ハービー・ハンコックの『Monster』というアルバムに入っている作品ですね。

もう本当に、ハービーがこの時代っていうのはR&Bとかソウル・ミュージックに接近していた。もっと言えば、ディスコっぽいこともよくやっていた時期ですけどもね。まあハービー、自分で達者に歌う人ではないんで。その時に、このギャビンの声を借りたりしていたという、そんな存在でございました。まあ、ギャビン・クリストファーのアルバムは数枚出ておりまして。そうですね。なかなか「これが代表アルバム」という、アルバムひとつというのは難しいんですけども。今日は1988年の作品をご用意いたしました。それでは、1988年にリリースされたアルバム『Gavin』の中から、僕が大好きな曲です。こちらを聞いてください。ギャビン・クリストファーで『You Are Who You Love』。

Gavin Christopher『You Are Who You Love』

まず、今年3月4日に亡くなりましたギャビン・クリストファーの『You Are Who You Love』。これ、1988年にR&Bチャートのトップ10に入っていますね。第10位。彼にとって唯一のトップ10ヒットだったということになりますが。まあ、88年の音ですよね。その前の年、87年にザ・システム(The System)というデビット・フランク(David Frank)、ミック・マーフィー(Mic Murphy)という白人のサウンドクリエイターと黒人のシンガーという組み合わせでしたけども。彼らが『Don’t Disturb This Groove』という曲をヒットさせたんですが。その曲に大変似ております。

ザ・システムの2人がプロデュースを手がけた、そんな1曲なんですね。この頃はね、こちらのサウンドの方に行くのか、それとも、テディ・ライリー(Teddy Riley)が作るニュージャックスウィングの方に行くのか。まあ、本当に同じ時期ですよ。これ、88年っていうとボビー・ブラウン(Bobby Brown)の『Don’t Be Cruel』が出た年なんですけども。ギャビンはこっちに行っちゃったんですね。まあ、年齢もありました。

で、その後にやっぱりちょっと失速しましたね。ですが、もういまとなってみると、味わいのある。歌詞もいいですね。『You Are Who You Love』。ギャビン・クリストファー。うーん……チャカ・カーンになれなかった男の人ですね。

<書き起こしおわり>

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