町山智浩 スパイク・リー『ザ・ファイブ・ブラッズ』を解説する

町山智浩 スパイク・リー『ザ・ファイブ・ブラッズ』を解説する たまむすび

(町山智浩)でね、ただそれだけじゃって、ものすごくおしゃれな映画にもなっているんですよ。

(赤江珠緒)これ、おしゃれになります?

(町山智浩)これね、音楽が超おしゃれなんですよ。ちょっとマーヴィン・ゲイの『Inner City Blues』っていう曲を聞いてもらえますか?

(町山智浩)これね、『Inner City Blues』というマーヴィン・ゲイの1971年のヒット曲なんですけれども。これは『What’s Going On』というアルバムがありまして。それが大ヒットして、その中に入ってる曲で。この映画の中でもそのラジオから聞こえてくるっていうことになっているんですね。そのベトナム戦争当時のね。で、聞くとこの音楽ってすごいおしゃれでしょう? ものすごいおしゃれで、日本のいろんなポップスに影響を与えてます。このアルバムは。

アレンジの仕方とかサウンドとか。稲垣潤一さんとか、すごく影響を受けてますけど。で、すごいおしゃれなんですけど、歌ってる内容はすごい内容なんですよ。この歌の歌詞っていうのは「一生懸命稼いでも、その現金を見る前に税金を取られるんだ(Money, we make it Before we see it, you take it)」「生活費は高くなるばっかりだ(Inflation no chance To increase finance)」「俺はもうこれ、税金を払えないよ(Natural fact is I can’t pay my taxes)」っていう歌詞なんですよ。

(赤江珠緒)そんな嘆きの歌なの?

(山里亮太)おしゃれすぎるのに……。

経済を歌う『Inner City Blues』

(町山智浩)そう。すごく珍しい。だからこれ、経済を歌う歌ってすごく少ないですよ。一番大事なことなのに。さっきも言ったんですけど。なぜ、みんな経済を歌わないんだろうと思うんですよ。日本なんかもう大変な状況になってるのにね。で、彼はそれを歌ったんですよ。その当時の黒人の置かれてる状況とか。ちょうど当時、戦争をやったりとか、月へのロケットを飛ばしていたんですね。アメリカは。「そんなことやってる場合じゃないじゃないか。貧しくてくれないのに。それでも貧しい人からも税金を取るじゃないか」って。まあ日本の消費税もそうですけどね。なぜ日本で誰も消費税を歌詞にしないのか?

(赤江珠緒)おしゃれな曲にしようと思えばできると。

(町山智浩)おしゃれな曲にすればいいんですよね。これ、全世界でナンバーワンヒットですよ。で、今もめちゃくちゃ売れ続けている、もう超ロングセラーですよね。でも歌詞の内容は税金の話ですよ。ねえ。こういう歌がこの映画の中で流れていくるんですよ。だからね、この『What’s Going On』というアルバムはすごいんですけども。これはね、そのマーヴィン・ゲイっていう人の弟がベトナム戦争に当時、行っていたんですよ。

それで非常に切迫したものとして彼はそれがあったんで。しかもそれをポップに歌う。おしゃれに歌うっていうね。だから日本の人なんか全然歌詞を知らずに聞いていると思うですけども。だからこのアルバムは麻薬の問題であるとか、環境破壊の問題であるとか、そういった非常にリアルなことばっかりなんですよ。アルバムの全曲が。

(赤江珠緒)社会問題ばっかりで。

(町山智浩)でも、曲、サウンドは超おしゃれ。

(赤江珠緒)本当ですね。なんかカフェとかで流れていてちょうどいいみたいな感じですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。でね、この映画の中で主題歌のようにして流れる歌がね、『What’s Going On』という歌なんですけども。ちょっとお願いします。

(町山智浩)はい。ものすごくおしゃれでラブソングみたいでしょう?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)もう本当、なんというか女性を口説いたりとかする時に流れているような……。

(赤江珠緒)ドライブとかにちょうどいいって感じですね。

(町山智浩)そうそう。デートでね、ドライブしてね。これで夜の首都高かなんかを走りながらね。そういうおしゃれな曲に聞こえるじゃないですか。でも歌詞はこういう歌詞なんですよ。「お母さん、たくさんの人が泣いてるよ。兄弟、あんまりにも多くの人が死んでいる(Mother, mother There’s too many of you crying Brother, brother, brother There’s far too many of you dying)」「お父さん、もうこれ以上の暴力のエスカレートはたくさんだ。戦争が答えじゃないだろう? 暴力ではなく、話し合おうじゃないか(Father, father We don’t need to escalate You see, war is not the answer For only love can conquer hate)」っていう歌詞なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

『What’s Going On』歌詞

(町山智浩)ねえ。でも多くの日本の人たちはこれ、めちゃくちゃ日本でもみんな聞いてるし、しょっちゅうラジオでもかかりますから。みんなこれを聞きながら、ラブホテルとか行ってたと思うんですけどね。

(赤江珠緒)フフフ、ちゃんと意味を考えなきゃダメだな、本当に。

(町山智浩)でも歌詞はベトナム戦争について歌ってるんですよ。ということで、ラブホに行く前にちょっと考えてもらおうっていうことで(笑)。ただね、こういう今のハードな話でこの『ザ・ファイブ・ブラッズ』っていう映画はもう強烈な映画なんだと。たしかに暴力シーンとかもすごくて。地雷で吹っ飛ぶ時とかも、もう体がばらばらになっちゃっててすごいんですけども。ただ、すごくいい終わり方をするんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それはまさにこの歌で歌われているように「愛が答えだろう」という終わり方なんですよ。すごくいい気持ちになって終わりますので、ぜひご覧いただけたらなと思います。Netflixで配信中です。

(赤江珠緒)今、見ることができる。ちょっとそういうベトナム戦争のあたりの歴史もね、垣間見ることができるという映画のようですね。『ザ・ファイブ・ブラッズ』はNetflixで配信中です。いや、町山さん、勉強になりました。また曲って本当にね、歌詞を聞いてみないと分からないもんですね。

(町山智浩)そう。とにかく日本でもたぶんね、30万人はこの歌でラブホ行ってるでしょうから(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。そうですかね、はい(笑)。ということで町山さん、今週もありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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