(宇多丸)というセッティングから始まって……っていうところにも非常に今月的なね、もちろん今時の感覚というのもあるし。あと、やっぱり着地もすごく攻撃的ですよね。だから愛だ、恋だっていうその成就ももちろん尊いけども。人生において大事なこととか、これから要するに学んでいく若者っていうか。これから人生の価値を更にいろいろな人に会って知っていく若者っていう、その入り口でさ、彼らがすごく素敵なことを学んだというかね。お互いから。思いやりであったり、友情であったりというようなことを。
(宇垣美里)言葉を持つし、一歩踏み出すし、何がやりたかったのかをやっと掴むというか。
(宇多丸)まさに。自分自身を再発見するというか、ちゃんと見つける話でもあって。だから青春映画として本当に真っ当っていうか。ああ、ちゃんと宇垣さんのサポートで思い出してきました。
だんだん思い出してきた
(宇垣美里)フフフ、あとね、私はお父さんとあの男の子の友達が仲良くなるのもすごく好きなんです。2人は言葉ではそんなに理解はしあえないのだけど、料理を通じて何となく仲良くなるっていう。
(宇多丸)はいはい。そんなくだりもありましたね。宇垣さんに言われると「ああ、そんなくだりもあったな」って(笑)。あったあった、そんな場面!っていう感じがして。でも、本当に素晴らしかったし、僕の見た時の感動の度合いから言うと「今年ベストだ!」って思ったぐらいの気持ちだったんですよ。
(宇垣美里)あれは私、みんなにおすすめしたい。
(宇多丸)ねえ。僕も「おすすめしたいという気持ちがあった」ということを思い出しましたから。
(宇垣美里)フフフ、あと、引用している作品が全部、超素敵!
(宇多丸)ああ、なるほどね。やっぱりだからそれを通じてその子の感性というか。知性、感性、素敵なところっていうかね。
(宇垣美里)「わかってるぅー!」みたいな気持ちになるっていう。
(宇多丸)「それがわかるような作りだったな」っていうことを思い出しましたよ(笑)。ねえ。うすぼんやりしているんだよ。でもぜひぜひ、皆さんにもおすすめしたいし。当然、これぐらいね、「年間ベストだ」って言うからには、今年中にはもう1回見直したいと思ってますんで。それがね、たしかなのかどうかということですね。
(宇垣美里)そんなにでも長くなかったような気もします。
(宇多丸)あっさり見れます。あと、本当に文字通り何も起こらない話といえば、話じゃないですか。
(宇垣美里)だってこれからですもん。
(宇多丸)あ、でもちょっとさ、なんていうかな? 『卒業』を思わせるとある盛り上がりシーンがありましたね。
(宇垣美里)ああ、そうですね。そうですね。うん。
(宇多丸)あのくだりもよかったね!
(宇垣美里)もうね、泣いちゃう!っていう(笑)。
(宇多丸)よくさ、登場人物たちが大事な場でね、なんか大声で話していて。みんながそれを唖然として聞いている。それがクライマックスになるような作品って結構あって。これもまあ、そういえばそうなんですけど。これもさ、よくある場面といえばよくある場面なんだけど、それをちゃんとさ、「この状況は変だよね?」っていうこともちゃんと踏まえてるっていうかさ。ちゃんと、いわゆるエンターテイメントの定番的展開に対するちゃんとメタ的な冷静なツッコミ視線もあるけれども、でもそうせざるをえない時ってあるじゃん? みたいなさ。
(宇垣美里)そこでやっぱりやっと、みんなの心が爆発したというか。
(宇多丸)ねえ。ああ、そうだ。そこでその一連のさ、普通の今までのたとえばその80年代のアメリカ青春映画だったら確実に悪役として描かれているような運動部の超イケメンのナルシストのアホな男がいるじゃないですか。まあ、本当にバカなんだけど。でも、彼のことも一方的に憎むべき存在としては決して描かないというかさ。
(宇垣美里)悪いやつじゃないんですよ。バカなだけで。
(宇多丸)あの女の子が出し物をした時に、「えっ、いいな。あいつ、イケてるじゃん」みたいなことを言い出したり。
(宇垣美里)超素直(笑)。
(宇多丸)あとそのさ、クライマックスの「うわーっ!」ってなった瞬間で、あのとんだ考え違いなんだけど、「やっぱりお前、憎めないな!」っていうね、そういう感じを描いてたりとか。
(宇垣美里)決して分かり合えないけど悪いやつじゃないっていう。
アホなやつをも認めていく視線
(宇多丸)ねえ。だからその主人公たちがさ、その自分たち自身が多様性みたいのを自分たち自身にも認めていくという話だとするならば、そういうアホな、陽のあたる場所にいるちょっとアホチックな、ナルシストだったりするやつだって、やっぱりこいつの良さもあるし……っていうところもちゃんと認める視線っていうのがとても、そこは大人っていうか。大人な作りだし、今の作りだしっていうところで。いろいろいいっすよね。でも、そういう場面がしかもちゃんと笑えるじゃん? 説教じゃないっていう。
(宇垣美里)「もう!」みたいな感じになるので。
(宇多丸)あ、すごく今、俺は自分で見た感触として話せてる!
(宇垣美里)あ、思い出しました?
(宇多丸)うん。リハビリができてきました。
(宇垣美里)よかったよー!
(宇多丸)ということで、「いい作品だったという記憶がある」という段階から「いい作品だった」というところまで(笑)。
(宇垣美里)よかった、思い出した(笑)。
(宇多丸)いや、こうやって話して言語化するっていうことがね、大事だったりしますからね。
(宇垣美里)大事。メモするとか、感想を一言、二言でもいいから書かないと。たしかに「なにがよかったんだっけな?」みたいになっちゃうんですよね(笑)。
(宇多丸)そうなんですよ。僕はなによりも自分がその映画評で何を言ったかっていうのが一番やっぱり今は参考になったりしますね。だから今週、『ヒックとドラゴン』の三作目をやるんですけども。その一作目を10年前に……まさに10年前ですよね。評をやってるんですけど。その時はまだ書き起こしとかが公式で残っていない時代なので、その時に自分が書いたノートを持ってきて。
自分が調べたこととかを見ていると、やっぱりそこで「ああ、そうだよね」っていろいろと思い出したり。「ああ、そうそうそう!」って。主人公の名前(ヒック/Hiccup)は「しゃっくり」だから。なので日本語の名前で……まあ「Toothless」が「トゥース」なのはあれはオードリー春日さんを使って宣伝したからだっていうのはあるんだけども。あの「ヒック」っていう日本語の名前はそれでいいんだなとかさ。そういうことを思い出したりしますよね。
(宇垣美里)メモ、大事。
(宇多丸)メモ、大事ということで。
<書き起こしおわり>
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