渡辺範明『ロマンシング サ・ガ』シリーズの魅力を語る

渡辺範明『ロマンシング サ・ガ』シリーズの魅力を語る アフター6ジャンクション

渡辺範明さんが2024年7月10日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でスーパーファミコンで発売されたRPG『ロマンシング サ・ガ』とロマサガ三部作についてトーク。その魅力を宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

(宇多丸)さあ、ということで後編に行ってみましょう。スーパーファミコン時代のロマンシング サ・ガ。

(渡辺範明)はい。ロマサガ時代。ロマンシング サ・ガはさっきのサガのジャンクでフラットで駄菓子的な味わいとは全然違う方向で。今度は正統派ファンタジーになるんですよ。これはいわばこのサガっていう三部作がポストモダン的なゲームだったとすると、そこからの反動で古典に回帰するっていう感じなんですよね。で、その回帰した先の古典っていうのがドラクエとかFFに回帰するんじゃなくって、もう1個前のTRPGに回帰してるっていうところがこのロマンシング サ・ガシリーズの性質を決定づけていると思います。

(宇多丸)まさにナラティブ体験型。

プレイヤーが自由に世界を旅をできる

(渡辺範明)そうなんです。このナラティブ体験……要は世界観の器だけを用意して。プレイヤーに自由に旅してくださいねっていうことをコンピュータRPGでいかに表現するかということに挑戦しているのがロマンシング サ・ガのいいところなんですけど。そのためにですね、ロマンシング サ・ガの一番の根っこになるシステムとして「フリーシナリオシステム」というのが導入されます。このフリーシナリオシステムっていうのは要するに、ゲームが始まったらもう、あとはどこに行ってもいい。で、どのクエストを先にやってもいいし、やらなくてもいいし。あなたが何をしようがゲーム内の時間はだんだん進んでいって、いつかはラスボスが世界に出現しますよっていう感じの作りなんですよね。これは言葉で言うと簡単ですけど、実際にゲームシステムとして成立させようとすると結構難しくて。

たとえばドラクエとかFFみたいなゲームって……これ、ゲームボーイのサガも基本構造は一緒なんですけど。要はゲームが始まったところから、最初は弱いモンスターが配置されていて。手に入る武器とか、街で売ってるアイテムとかも弱くて。それが先に進むとちょっと強い武器と敵。さらに進むとちょっと強い敵っていう。それがだんだんと、段階的に進んでいくっていうのがゲームRPGのレベルデザインなわけなんですけど。で、そういうのを全部排してもちゃんとゲームが成立するように……このロマサガって、敵の強さがマップに配置されてるんじゃなくって、戦闘回数で変わっていくようになっているんですよ。

(宇内梨沙)ああ、すごい!

(渡辺範明)だから、戦えば戦うほど敵がだんだん強くなっていって、味方も強くなっていく。だからどういう順番でどこに行ってもいいよっていう風になっている。ただし、ボス敵だけは固定の強さになってるんで。だから序盤から無茶して、ちょっと強い敵のところに行ってそれを倒すことによって、強いアイテムを手に入れようっていう冒険もできるし。でも、そうすると容赦なく死ぬし。でも、あるところでもっと簡単に稼ごうと思って。それこそ登場する人物の持っているアイテムをそいつを殺して奪ったりとかですね。そういう、普通のRPGだと選べないような選択肢も選べたりとかするんです。

(宇多丸)へー!

(渡辺範明)それって今の『グランド・セフト・オート』的なゲームの感じにすごい近いんですよ。始める時も主人公が8人から選べるんで。だから王子が主人公だったりとか、遊牧民の娘とか、海賊とか、いろんな立場の主人公から始めることができて。しかも結構、始まったらもうすぐオープニングみたいなのが終わって。あとは自由にしてくださいっていう感じになるので。だからこれはね、もしかすると今のゲームに慣れてる人がやると、むしろ自然に受け入れられるかもしれない。

(宇多丸)うん。今、聞いていたら「それならやれそう」っていう感じがした。

(渡辺範明)だから長々とムービーを見たりとか、デモシーンを見たりとか、全然しなくていいんで。なんかむしろね、今やったらサクサク遊べていいんですよね。

(宇多丸)だし、要するに「この主人公、好きじゃないわ」とか、そういう問題も起きないでしょう?

(渡辺範明)あんまりないですね。テキストでストーリーを読んでいくみたいなところがあんまりなくって。その体験の中で自分のストーリーを紡いでいくみたいな感じですね。あと、世界観的にもハイファンタジーに回帰しているのでほぼ、歴史物みたいな感じの世界観にちょっとだけ魔法的な要素が入っているって感じのバランスで。だからバランス的には『ゲーム・オブ・スローンズ』とかみたいな結構、硬派なファンタジー世界だったりするんですよね。

(宇多丸)全然、ある意味正反対に行ったんですね。

(渡辺範明)なんか、同じタイトルをつけていいのかな、ぐらいの感じがしますね。で、誰かになりきって世界を自由に旅するってことに特化した1に対して、2では今度は「皇帝の立場になって帝国を治める千年紀」というすごいコンセプトになります。で、これは主人公、プレイヤーキャラクターが皇帝なんですけど。

(宇多丸)皇帝がキャラクターっていうのもすごいね。

(渡辺範明)そう。皇帝が主人公っていうのがまず、すごいじゃないですか。で、これが歴史を紡いでいくんで、寿命の概念が入りまして。ヒットポイント(HP)に対して「LP(ライフポイント)」っていうのが入っていて。これが寿命なんですけど。これはもう最初から10ぐらいしかないんですけど、回復ができないんですよ。で、戦闘中に死んで、戦闘不能になるじゃないですか。その戦闘不能状態でさらに敵から攻撃を食らうと、LPが1ずつ減っていくんですね。これはあらゆる手段を用いても回復の方法がなくて。なのでキャラクター、パーティーメンバーはどんどんLPが減っていって、いつかはロストするんですよ。

(宇多丸)絶対に死ぬんだ。

(渡辺範明)絶対に死ぬ。で、他のキャラクターが死んだら仲間を入れ替えればいいんだけど、主人公であるところの皇帝が死ぬと、「皇帝を次の代に受け継いでください」ってなって。パーティーの誰かを選んで、次の皇帝にするんですよ。

(宇多丸)禅譲だ(笑)。

(宇内梨沙)なにそれ? すごい!

(渡辺範明)この皇位継承システムとLPのシステムがめちゃくちゃすごい発明で。

(宇多丸)「俺の意思を継いでくれ!」って。

ロマサガ2のLPと皇位継承システム

(渡辺範明)そうそう。で、基本的には旅をするんですけど。水戸黄門みたいな感じで皇帝自ら旅をして、世界のいろんなところに行って。帝国領じゃないところの問題をいろいろクエストで解決してあげると、そこの領地の人たちが「うちも帝国の仲間入りします!」ってなって。で、その帝国の領土が増えると、新しい種族が仲間にできるようになって。で、たとえば海の問題を解決すると、人魚が仲間になって。で、この人魚の種族を仲間にして旅してる時に皇帝が死ぬと、次の皇帝を人魚にすることもできるみたいな。

(宇多丸)ああーっ!

(渡辺範明)だから、最初の2人の皇帝だけは固定なんですけど、その後、どういう人を皇帝にしていくかっていうのはプレイヤーごとに自由だから。

(宇多丸)でもこれ、世襲じゃなくてオープンな皇位継承って、これはいいですね! これ、見習うべきよ。へー!

(渡辺範明)で、領土を増やして、種族を減らして。で、新しい種族が入ると、戦闘の時の新しい陣形が手に入ったりとかですね。そういう風にこの帝国の文化が豊かになっていくっていう。

(宇多丸)えっ、なに? おもしろそうなんだけど?

(渡辺範明)で、これで世代を紡いでいって最終的に人類に仇なす七英雄っていうのがいるんですけど。それを倒して世界を人間の手に取り戻すという、そんな感じのむちゃくちゃ壮大なゲームなんですけども。

(宇多丸)あとゲームとしても面白そう。

(渡辺範明)面白いです。だからなかなかね、似たゲームがない。強いて言うならPS1にある『俺の屍を越えてゆけ』っていうゲームがちょっと思考を受け継いでる感じがしますが。でも、そのぐらいですね。

(宇多丸)これってさ、最新作の『サガ エメラルド ビヨンド』? それもそういうラインってこと?

(渡辺範明)全然違います(笑)。ちょっと先にロマサガ3の話をしておくと、3は逆にロマサガ1、ロマサガ2の集大成みたいなゲームなんで、あんまり新しい発明とかはないんですよ。だけどその両方組み合わせて8人の主人公から選んで自由に世界を旅しましょうっていうのと、さっきのLPシステムとか、陣形システムとかみたいな2で発明されたシステムがいろいろ入っている。あと、さっき2の時に説明しなかったんすけど「ひらめき」っていうシステムがあって。これ、すごい大事なんで言っておきますが。

(渡辺範明)ロマサガって、ひらめきっていうのがあって。これはもう今もずっと受け継がれていて。『エメラルド ビヨンド』でもあるんですけど。戦闘中に新しい技や呪文をひらめくんですよ。で、これがすごいドラマチックな展開を生んでいて。要は、すごい強いボスと戦っていて。「これはもう絶対に勝てないわ」ってとなった時にピコーンって豆電球のマークが頭の上に出て。それで今、使っている技のパワーアップした技みたいなものを……たとえば「一文字斬り」を使っていたとしたら、今度は「十文字斬り」を思いつくみたいな感じで。新しい技を思いついて、それでとどめを刺したりすると、めちゃくちゃドラマチックだし。

で、これが防御の側にもあって。敵の攻撃を「見切る」っていうのがあるんですよ。で、ボス敵とかが使ってくるすごい強力な技を見切ったってなったらまたピコーンってなって。その技は二度と、そのキャラには効かなくなるんですね。で、皇位継承システムとかと合わせると、その次の世代に行ったらその見切ったこととか、新しい技とかを他の人に覚えさせることができるので。だから「うちの国の兵士たちにはもうこれ、効きませんから」みたいな。だから何世代か前の皇帝がそこで覚えた技とか見切りによって、新しい敵が来たとしても「うちの国だったらもう、楽勝で倒せちゃいますから」みたいになって。これが物語性になるんですよね。

「ひらめき」が生む物語性

(宇多丸)それは快感だね! めっちゃ快感ありそうだね。

(渡辺範明)もう本当にロマンです。それがロマンシング サ・ガです。

(宇多丸)これがスーファミ時代のロマサガ三部作。

(渡辺範明)自分だけの物語体験を作るナラティブ型RPGの礎となったという。

(宇多丸)まとめとしてはこれ、サガシリーズは国産RPGクロニクルシリーズの中ではどういう位置づけになるでしょうか?

(渡辺範明)国産RPGクロニクルの中で「ファイナルファンタジーっていうのはドラゴンクエストという王道に対するカウンターなんですよ」ってずっと説明してきたと思うんですよ。ところがスクウェアという会社の中でいうと、そのFFへの更なるカウンターとしてサガが生まれたわけです。つまり王道へのカウンターのカウンターがサガなんで。じゃあカウンターのカウンターってなんやねん?ってなった時に、二つの方向性があって。まず1個が無印サガシリーズのむちゃむちゃジャンクでアバンギャルドな方向。あとは逆に、カウンターへのカウンターだからめちゃめちゃ正統派に戻りましたっていうのがロマサガシリーズ。

(宇多丸)新古典主義みたいな。

(渡辺範明)そう。で、もっと古いところまで戻っている。なので、サガシリーズいうのはこのアバンギャルドの方向と古典の方向っていうのの両極を持っていて。それがサガシリーズで。以降のいろんなサガがこのどっちにどのぐらい寄ってるかっていうのが振り子運動をしながら進んでるんで。たとえば最新作の『エメラルド ビヨンド』っていうのはアバンギャルド寄りなんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。へー!

(渡辺範明)だから初めて遊ぶのには正直、あまりおすすめしません。『エメラルド ビヨンド』は。で、今度10月にロマサガ2のフルリメイクが出るんですよ。で、このロマサガ2はこの新古典主義の方向なんで、初めて遊ぶのに非常におすすめ。なので、ここから入るのはかなりありだと思います。あともう1個、おまけで。これはロマサガじゃないんですけれども。同じスクエニから出ている『OCTOPATH TRAVELER』というシリーズがあって。これは正直、「ロマンシング サ・ガ三部作の精神的後継作」という風に僕は思ってますんで。最新技術で最新の考え方で作られたロマサガみたいなゲームが遊びたい人は『OCTOPATH TRAVELER』シリーズ遊ぶのも超おすすめですということをお伝えしておきます。

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(宇多丸)ありがとうございます。後ほど11時台も渡辺さんに残っていただいて、メールでもご紹介しながら引き続きお話を伺います。まずは国産RPGクロニクル、サガ&ロマンシング サ・ガ編でした。ありがとうございました。

(渡辺範明)ありがとうございました。

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<書き起こしおわり>

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