町山智浩『ヘルドッグス』を語る

町山智浩『ヘルドッグス』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年9月20日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『ヘルドッグス』について話していました。

(町山智浩)で、もう1本の方はですね、「まあこんなことはねえよ」っていう内容の映画でですね。でも潜入捜査物なんですが。『ヘルドッグス』という映画で。これ、今もう公開中ですよね。

(山里亮太)公開中ですね。

(町山智浩)東映で公開中ですね。これは原田眞人監督なんですが。日本にヤクザの組がありまして。そこに警察の秘密捜査官である岡田准一さんが潜入するという話なんですけど。岡田准一さんはそのヤクザのボスにすごく気に入られちゃって。彼のボディガードになっていくという話なんですね。で、さっき言った『ナルコの神』の潜入捜査官のカンさんもね、度胸がすごく座ってるんで。ものすごくボス、ヨハン牧師から気に入られちゃうんですよ。どんどん気に入られて、のし上がっていくんですけど。この『ヘルドッグス』の岡田准一さんも、岡田准一さんだから。めちゃくちゃ強いから。

めっちゃ強いから、どんどん気に入られて、どんどん上にのし上がっていっちゃうんですよ。だから、2人とも困っちゃうんですけどね。で、この映画『ヘルドッグス』はね、もう原田眞人監督のイマジネーションが爆発してて、結構いろんなところですごいことになってます。

(赤江珠緒)ええっ?

原田眞人監督のイマジネーションが爆発

(町山智浩)「えっ?」って思うようなキャスティングをしてて。まず、この岡田准一さんを「兄貴」と慕うものすごい凶悪な殺し屋がいるんですよ。これを演じるのは、坂口健太郎くん。

(山里亮太)真逆な……優しい爽やかな感じなのに。

(町山智浩)優しげで、色白で、痩せていてね。その彼がものすごい、人を殺すことをなんとも思わない男をやってますよ。この映画の中では。

(赤江珠緒)今、大河でもね、ちょっと父親を諫めるみたいになっていますけどね。

(町山智浩)こっちは完全にもうどうかしている役なんですよ。でね、「これ、大丈夫かな?」って思うんですけども。裸になります。筋肉モリモリなんですよ、坂口健太郎。

(山里亮太)へー! これに向けて仕上げたのかな?

(町山智浩)腹筋が割れていて、ちょっとびっくりしましたよ。ものすごい鍛えている。でね、これはヤクザ映画なんですけど。とにかくね、全てのショット、撮影がもう本当に美しいんです。きれいで、全てのインテリアとかが超おしゃれ。出てくるヤクザが全員、超スタイリッシュ。

(赤江珠緒)ああ、そんなにスタイリッシュな?

(町山智浩)僕ね、昔ね、取材をやっていた時にヤクザ団体とか右翼団体とかよく行っていたんですけど……こんなにおしゃれな人、いないよ?(笑)。とにかくヤクザの事務所に行くと、一体どこで買ったんだ、こんなもん?っていうような謎の置物とか、謎の掛け軸とがいっぱいあったり。

(赤江珠緒)そうですよね。ちょっと虎の毛皮が……とか。そういうイメージですもんね。

(町山智浩)「うわっ、センス悪い!」みたいな。もう髪型とか服とか、みんなめちゃめちゃセンスが悪くて。どうかしているセンスなんですよ。普通ね。でも僕、20年以上ヤクザの人たちに会っていないから。この20年以上の間に日本のヤクザ、こんなにセンスがよくなったのか?って思いましたよ(笑)。めちゃくちゃセンスがよくて。で、カラオケに行くと……普通、カラオケに行ったら歌うのは演歌じゃないですか。『兄弟仁義』とかを歌うのかと思ったらね、オペラを歌うんですよ?

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)なんでだろう?って思っていたら、このヤクザの役をやってる人は吉原光夫さんっていう劇団四季の人なんで。

(赤江珠緒)ああ、劇団四季の方!

(町山智浩)劇団四季の人がオペラを歌うんですけど。で、オペラだけだったらまだいいんだけど。もう1人の親分さんがですね、元労働組合だったのかなんかわかんないんですけど。『インターナショナル』を歌うんですよ。『インターナショナル』っていうのは、組合歌ですね。「たーてー♪」っていうやつですね。

(赤江珠緒)それは、そのストーリーの中に普通に入ってきて行ける感じ?

(町山智浩)なんか突然、『インターナショナル』を歌うんですよ。「たーてー、飢えたるものーよー♪」って歌っていると、その横で岡田准一さんが女殺し屋と格闘しててですね。女殺し屋にパワーボムを食らわせるんですけども。なんかものすごい、この世のものとは思えないシーンでしたね。まあ、すごいすごい映画でね。ただポイントはね、坂口健太郎さんもね、ヤクザの親分をやっているMIYAVIさんもね、岡田准一さんのことが大好きで大好きで。

好き好きでラブラブになっちゃうっていう映画でね。で、MIYAVIさんが岡田准一さんのことを思うとね、花占いしだすんですよ。「好き……嫌い……好き……嫌い……」とかね。あと、岡田仁さんが他の女とセックスしてるってことを知った坂口健太郎さんがね、「兄貴は! この女と俺と、どっちが大事なんだよっ!」って言うんですけど。「お前、ちょっとどうかしてるよ」っていうね、映画なんですが(笑)。

(赤江珠緒)ちょっといろんな要素、盛りだくさんですね。

いろんな要素、盛りだくさん

(町山智浩)いろんな要素盛りだくさんですごいことになっている、ものすごい映画なんですけど。で、とにかく潜入捜査が流行っていてね。10月28日には『警官の血』という日本のベストセラーになった、直木賞を取った佐々木譲さんの小説が韓国で映画化されて。これはね、汚職警官に刑事が内部調査で潜入捜査をするんですが。潜入捜査だらけだよ、日本!

(赤江珠緒)本当ですね(笑)。どういうことなのか? これは何だろうと思うんですが。やっぱりね、なんていうか、潜入捜査をするためにはその人に好かれるないとならないんで。好かれよう、好かれようとするわけです。すると、好かれちゃうわけですよ。そうすると、こっちも好きになっちゃうわけですよ。それで、どうしよう?っていう問題なんでね、これね。

(町山智浩)そうですね。立場上、非常に複雑になってね。

(赤江珠緒)そうそう。だから一応、大きな正義、大義のためにみんな、潜入捜査しているんだけども。で、仁義によって絡め取られて、その仁義と大義の間で挟み撃ちになるということで面白いから、みんな次々と潜入捜査物を作るんじゃないかと思うんですが。ということでね、『ナルコの神』は今、Netflix配信中で。『ヘルドッグス』も現在公開中です。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました