町山智浩『対峙』を語る

町山智浩『対峙』を語る たまむすび

町山智浩さんが2023年2月7日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『対峙』を紹介していました。

(町山智浩)あと今月の2月10日ってね、すごいいっぱい映画が公開されるんですね。日本で。なんで、一気に集中してやるのかな?ってね。ちょっと興行として、全然よくないと思うんだけど。どうしてか、そうなっちゃってるんですね。で、今まで紹介した映画が一気に、2月10日に公開されるんですけれども。『バビロン』とかね。サイレント映画時代のハリウッドの豪華絢爛、酒池肉林の大変なことを描いた映画なんですけども。それとかが公開されるんですが。

町山智浩『バビロン』を語る
町山智浩さんが2022年12月20日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『バビロン』を紹介していました。

(町山智浩)その中でちょっと紹介し損ねた映画が1本、ありまして。それが『対峙』という映画をちょっと紹介したかったんですけど。これね、向かい合うという意味ですね。その『対峙』というタイトルの映画なんですが。これ、アメリカの高校で銃の乱射事件があって。その犯人の母親と父親、両親と殺された子の1人の両親がですね、2対2で4人で話し合うというだけの映画なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

銃乱射事件の加害者と被害者の両親が話し合うだけの映画

(町山智浩)はい。その2時間あれば、2時間リアルタイム。本当にあったままのですね、だから演劇みたいな感じですね。そんな映画なんですが。これが面白いのは普通、銃撃事件とか乱射事件とかがあると、「銃の規制はどうなってるんだ?」とか、そういう政治的な話になるじゃないですか。

(赤江珠緒)まあ、そうですね。

(町山智浩)あと、子供のメンタルの問題がどうだったのかとかね。でもこの4人はそういうことは一切、話さないんですよ。

(赤江珠緒)加害者の親と被害者の親でしょう?

(町山智浩)そうなんですよ。「殺された子は/殺した子は一体どういう子だったんですか?」って話になってくるんですよ。で、結局この両親は何を求めてるか?ってことが段々わかってくるんですけども。これね、日本語タイトル『対峙』っていう風になっていて、すごく難しいんですが。これ、原題は『Mass』っていうんですよ。これは、ひとつの意味は「Mass Shooting(銃乱射事件)」っていう。それの「Mass」なんですね。「Mass」っていうのは「人がたくさん集まる」っていう意味があるので。

(赤江珠緒)そうか、そうか。

(町山智浩)で、もうひとつは「Mass」には「ミサ」という意味があるんですよ。「Christmas」の「mas」ですね。クリスマスって「Christ Mass」なんですよ。キリストのミサっていう意味なんですね。で、教会で行われるミサなんですね。で、この『対峙』の4人が話し合う場所は、教会なんですよ。で、ミサっていうのは一体何か?っていうと、キリスト教においては人を許す場所なんですよね。そういったことで、これ以上言うとネタバレになるので、あれなんですが。非常にスリリングな、たった4人が話し合うだけの映画なんですけど。こんなに面白くて、非常にミステリアスで……つまり、この4人が誰が誰だかわかんないんですよ。最初は。

(赤江珠緒)ああっ!

(町山智浩)この4人がどういう立場で、あとこの事件自体が一体どういう事件だったのか、全く情報が与えられないまま、この4人の話し合いが始まって。観客はそれを探っていくというドラマになっています。

(赤江珠緒)ああ、そういうことですね。じゃあ、もう場所もずっとその教会の中だけってことですか?

(町山智浩)中だけなんです。で、乱射事件ってアメリカだけで起こることのように感じるんですけども。この映画の中で描かれているのは、要するに「親とは何か? 子とは何か?」っていう話になってくるんですよね。親子の問題になっている。それは日本人でも、世界中の誰でも同じことなんで。そういうドラマになってるんで、ぜひご覧いただけたらと思います。はい。

映画『対峙』予告編

<書き起こしおわり>

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