(町山智浩)で、そういう展開で続編でオルコットは多くの世界中の読者をわざと裏切るということをやったんですよ。でね、ところがその時にその続編を担当する出版社の編集者が「これはダメだ」って言ったんですね。「これ、主人公でヒロインであるジョーが誰かハンサムな王子様かなにかと結婚をしないと売れないよ」って。
(赤江珠緒)うわあ……そんなことを言ってきたんだ。
(町山智浩)その頃は性は結婚をするのが人生の最大の夢だったからです。そういう状況でオルコットは信念を曲げまして、それで結末でジョーを結婚させているんですよ。ニューヨークで知り合ったベアさんという大学教授のちょっとお年寄りのドイツ人から誰かと結婚させるっていう話になってましたよね。でもそれは、妥協をしたんですよ。オルコットは編集者に。
そういう問題があるんで、このグレタ・ガーウィグは原作に込められているオルコットの本当の叫びを探しだそうとしたんですよ。本当は彼女はどう思っていたかということで、徹底的に探したら出てきたらしいんですよ。まずこのお母さん。ずっとつらいつらい清貧の中で耐え忍んでいるお母さんが一言、「私は人生を通じていつも怒っていたわ」っていう発言を拾い出しました。
(赤江珠緒)おおっ、リアルな言葉かもしれないですね。本当にね。
オルコットの本当の叫びを探し出す
(町山智浩)そう。ローラ・ダーンが演じるお母さんが言うんですけども。それでもうひとつ、こういう言葉をオルコットの別の作品がありまして。『八人のいとこ』という話があって。それは孤児の女の子の周りに7人のいとこがいて、みんな求婚をしに来る。みんなそれぞれインテリだったり美少年だったり腕白だったりして、みんなそれぞれにいい男が6人か7人、孤児の主人公に求婚をしに来るという。これ、はっきり言って『キャンディ・キャンディ』の元ネタですよ。
(赤江珠緒)フフフ、そうですね。『キャンディ・キャンディ』ってそうですね(笑)。
(町山智浩)その『八人のいとこ』という小説の続編で『花ざかりのローズ』っていうのがあるんですけども。で、そのローズは自分にその言い寄ってくるその7人のいとこの1人にこう尋ねるんですよ。「結婚して、結婚してってみんな言うけども。結婚して、それ以外に死ぬまでになにもしなくても満足なの?」ってヒロインが言うんですよ。
そうすると、そのうちの1人の男、彼氏がね、「いや、もちろんそんなの嫌だよ。だって結婚というのは人生の一部でしかないからね」って言うんですよ。それでヒロインは「そうでしょう? 結婚は本当に大切なものだけど、それが人生の全てじゃないわよね?」って言うんですよ。「それは女にとっても同じよ。女は心だけじゃないの。意志もあるし、野望もあるし。美しさとか嗜みだけが大事じゃなくて、才能を生かしたいっていう気持ちもあるの」。
(赤江珠緒)うんうん。それは一緒ですよね。
(町山智浩)ねえ。「愛し愛されるだけで満足なんて、そんなバカな話はない」って。
(赤江珠緒)えっ、当時それをもう書いてるんですか? それ、今だったらわかるけど。
(町山智浩)「女性といえば、結婚をすれば、恋愛すれば幸せなんて決めつけられるのはもううんざりだわ! 家事と子育て以外に自分のやりたいことをしちゃいけないの?」ってオルコットは書いてるんですよ。だからそれを拾い出して、こっちに使ってるんですね。それでジョーが結婚をしない理由っていうのは、それなんですよ。「私はそんなことじゃないんだ」という。で、それはオルコットの本音なんですね。
(赤江珠緒)そうですね。やっぱり自分の足で立ちたいっていうのはね。
(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、すごい作品になっているんですよ。今回の『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』って。それでエイミーがね、結婚するんですけども。その時に、まあ金持ちと結婚するわけですが。それは「金持ちと結婚するっていうことは大事なんだ」っていう話をするんですよ。
(赤江珠緒)エイミーが?
(町山智浩)「なぜならば、私は女だから。今の時代に女は自分1人でお金を稼ぐ手段というのはないのよ。結婚しても、(当時は)その財産は夫のものであって妻のものではないし。相続をするのも私じゃなくて息子なのよ。『結婚はお金の問題じゃなくて愛が大事なんだ』なんて、そんな甘っちょろいこと言わないで!」ってエイミーが言うんですよ。
(赤江珠緒)うわあ……これまたその時代のリアルな。
(町山智浩)そう。これ、すごいのはメリル・ストリープが今回、大おばさまの役で出てるんですけども、メリル・ストリープが「そのセリフを入れろ」って言ったんです。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)「当時、女性は相続権がなくて、財産を持つことも許されなくて。それで作家になるか、先生になるか、家庭教師になるか、女性の仕事ってものすごく限られていたんだと。そのことをちゃんとはっきりセリフで言って」ってメリル・ストリープが言ったのでそう言わせているそうです。
(赤江珠緒)そうか……。
(町山智浩)でも、その一方で長女のメグは非常に貧しい男と結婚して。非常に貧しいけれども幸せな生活を掴もうとするんですね。で、それに対してジョーは「そんな結婚なんかに女の幸せはないわ!」って言うと、メグは「あなたにはあなたの幸せ。私には私の幸せがあるの。それぞれに幸せがあるのよ」って言うんですよ。だからその「働けばいいんだ」「結婚すればいいんだ」とかじゃなくて、それぞれの生き方を尊重する映画になっているんですよ。
(赤江珠緒)うわー、それぞれの意見が……女性の本音に迫ってますね。へー!
それぞれの生き方を尊重する映画
(町山智浩)これ、だからすごい脚本なんですよ。で、なおかつさっき言ったみたいにその「結婚しない」っていうオルコット自身の選ぼうとした結末と「結婚する」っていう実際に書かれた結末があるわけですよね。で、そっちはファンが多いわけですよ。で、その両方をどうするか?っていうことで、この映画は両方をやっちゃうんですよ。どうやってやるの? それは見てのお楽しみです!
(赤江珠緒)ああーっ!
(町山智浩)はい。「すげえ!」って思いましたよ。「すっげー!」っていう。全く相反する、対立する2つのことをやってみてたんですよ。これ、すごいなと。これね、そのグレタ・ガーウィグは「結婚だけが、男性だけが女性の幸せじゃない」って言ってるんですけれども。でもこれ、原作ではジョーが自分の才能を見つけてくれたベア教授と結ばれるという話になっているんですね。で、グレタ・ガーウィグ自身もノア・バームバックっていう監督に自分の才能を見つけ出されて。それで映画作家になったので、その部分はガーウィグは原作のジョーと同じものがあるんですよ。だから全部重なり合っていて。対立してるようで全部絡み合ってるんで、全部やっちゃうっていうね。どうやるのか?ってもう想像がつかないと思いますけども。
(赤江珠緒)そうか。なんか『若草物語』っていうとやっぱり昔ながらの名作っていうか、古風なっていう感じがしましたけども。今の世界に通じる……そうか。
(町山智浩)完全に今の物語としても見れる話に蘇らせているんですよ。
(赤江珠緒)19世紀のアメリカですもんね。
(町山智浩)そうなんですよ。で、まあそれもファッションとかにもはっきりと出していて。ジョーは絶対にそのスカートの中にペチコートとかが入っているのは履かないんですよ。それで男物の服とか着ていたりして。で、逆におしゃまなエイミーちゃんはその当時の最新のファッションをしてたりするんですよ。そういうところとすごくよくできていて。もう何もかも面白い映画になってますね。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。なるほど。
(町山智浩)これはもうぜひ、お子さんと……ああ、まだちっちゃいかな?
(赤江珠緒)そうですね。まだちっちゃいかな?(笑)。
(町山智浩)まあご家族みんなでぜひ見てほしいなと思います。
『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』予告
(赤江珠緒)『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』は日本では3月27日から全国ロードショーとなります。もう楽しみですね。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした。
<書き起こしおわり>