町山智浩『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』を語る

町山智浩『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年2月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』を紹介していました。

(町山智浩)それでね、今日紹介する映画はアカデミー賞でいっぱい候補に挙がってたんですけども全然賞を取れなかった……衣装デザイン賞しか取れなかったんですけど、素晴らしい映画なのでぜひ推薦したいんですが。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』という映画なんですよ。これ、いわゆる『若草物語』の何回目かの映画化なんですけれども。『若草物語』って知っていますかね?

(赤江珠緒)はい。我々はハウス名作劇場で見たねっていう。ジョーっていう次女の女の子がいて。歌っていた歌ってた歌とか覚えてますよ。なんかあったよ。「きっと きっと きっと いつかきっと 私にも レディになれる日が来るわ♪」っていうのを歌っていたなって今、思い出していました。

(町山智浩)ああ、すごいですね。あれ、主人公は次女のジョーちゃんなんですけども。ジョーっていう子はおてんばなんですよね。

(赤江珠緒)うん。それで文章を書いていた。

(町山智浩)そう。作家になるのが夢で。それでまあ泥んこになって遊んだりしていて、活動的でね。男の子みたいな女の子で。まあはっきり、「男に生まれたかった」みたいなことを言ったりするんですよね。それで4人姉妹の話で、僕はあの舞台になった……これ、本当の話が元になっていて。原作者がルイーザ・メイ・オルコットっていう女性で。南北戦争の時にお父さんが北軍に入って従軍牧師かなんかをしていたんで、家を空けていたんですね。で、お母さんと娘4人で暮らさなきゃなんなくて。それで、僕は行ったんですけどもまあ、すごい貧しい家だったんですよ。お父さんがね、ものすごい宗教的な人で。超越主義という、教会を越えた信仰っていうのを始めた……なんというか、ちょっと進んでいた人なんですよ。ニューエイジみたいな人で。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そういう宗教上の理由でお金儲けとか嫌いだったんで貧乏だったんですよ。思想家としてはすごく有名な人なんですけども。

(赤江珠緒)じゃあ「清貧を……」みたいな感じだったんですね?

(町山智浩)そうそうそう。それでもうものすごく貧乏な家で女だけで5人で暮らして。本当はすごいキツかったんだけど、それをまあ楽しいものとして書いたのが『若草物語』ですね。で、4人が4人、全然違うのが面白いんですよ。

(赤江珠緒)性格もね。

全然違う『若草物語』の四姉妹

(町山智浩)一番上のお姉さんはメグっていうんですけども。すごくおしとやかで女性的で。それで「いつか社交界に行きたいわ」みたいに思ってる人なんですね。そう描かれてましたよね。で、二番目のジョーはもう「そんなの、関係ないわ!」って駆けずり回ってるような人なんですけど。それで三番目のベス、エリザベスはすごく体が弱くて。ただ、ピアノがすごく得意で、音楽が得意で。それで一番末っ子がエイミーっていう子で、この子はものすごいわがままで。なんていうか、こまっしゃくれた子なんですよ。

(赤江珠緒)そうね。おしゃまさんみたいな子でしたね。

(町山智浩)そう。おしゃまさんで。ただ、すごく美的センスがあって、おしゃれがすごく好きなんですよね。そういう設定になっていました。絵がうまいとかね。それでそのおしゃまな末っ子と二番目のジョーがいつも喧嘩してるっていう話でしたけども。

(赤江珠緒)ああ、そうでしたね。

(町山智浩)もうものすごい喧嘩をしてるんですよ。取っ組み合いのね。で、そういう四姉妹のドタバタの話が『若草物語』だったんですけど、これね、映画化されたのはそれじゃないんですよ。今回のその『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』って『若草物語』の後に『続若草物語』っていうのが書かれて。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それはもう子供じゃなくて、取っ組み合いの喧嘩とかはもうしないで。もう結婚する年齢になった四姉妹の話が『続若草物語』なんですよ。で、アニメだと後半、ちょっとそうなるんですよね。それで今回はもう完全にその大人の視点から時間軸をひっくり返して、その子供の頃のこととか、高校生の頃のこととかを思い出すという構造になってます。で、この映画はね、今まで『若草物語』っていろいろ映画化されてきたんですけども、最も過激なアレンジをされています。

最も過激なアレンジをされた作品

まあもっと過激な現代版にしちゃったのもありますけども。今回は舞台はそのままで、なおかつすごいことをやってるんですね。それはどういうものなのか、後で話しますけども。で、これ、監督が攻めているすごく監督なんですよ。グレタ・ガーウィグという女性監督で。そこに写真があると思うんですが、非常に若い監督なんですが。この人はね、『レディ・バード』という映画を監督して非常に有名になった人なんですけども。

町山智浩 映画『レディ・バード』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『レディ・バード』を紹介していました。 Fly Away Home. #LadyBird ? This November. Lady Birdさん(@ladybirdmovie)がシェアした...

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)『レディ・バード』というのは彼女の高校時代の話なんですね。受験の1年間を描いてるんですけど。グレタ・ガーウィグの自分自身のね。で、その彼女の役柄をシアーシャ・ローナンさんが演じてるですね。で、彼女はカトリックの学校に行ってたんですけども、とにかくとんでもない女子高生で。酒やタバコやセックスをしたくてしょうがなくて。まあ、これ映画をご覧になるとめちゃくちゃに面白いんですけども。もうバカなことばっかりをやるんですよ。バカ女子高生なんですよ。

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(赤江珠緒)ああー。はいはい。

(町山智浩)それで一番すごいのはとにかく処女を捨てるシーンで。相手があのティモシー・シャラメくんなんですけども。あの美少年の、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメくん相手に処女を捨てるところで。それでいきなり騎乗位でやっていますからね。

(山里亮太):フフフ、初陣で?

(町山智浩)そう(笑)。初陣から。

(山里亮太):もう「出陣じゃー!」っていう感じ、しますね。

(町山智浩)そう。まあはっきり言ってコメディなんですけど。で、このグレタ・ガーウィグっていう人はその前に、2012年にですね、『フランシス・ハ』というノア・バームバック監督……あの『マリッジ・ストーリー』の監督の映画で脚本・主演デビューをしたんですよ。グレタ・ガーウィグは。

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(赤江珠緒)へー! ええ、ええ。

(町山智浩)その話も前にしたんですが、どのくらいとんでもないかっていうとその映画、一番最初の方のシーンでグレタ・ガーウィグ自身がそのフランシスを演じているんですが。ニューヨークの地下鉄のホームからお尻をぺろっと出して線路に向かっておしっこをするんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それでね、線路には電気が流れてるからヤバいと思いましたけども(笑)。

(山里亮太):感電しちゃう(笑)。

(町山智浩)もうハリウッドが全部、びっくりしたんですよ。いきなり出てきたと思ったら、この新人はいきなりお尻を出して地下鉄で立ちションベンっていうか座りションベンしているっていう。

(赤江珠緒)はー。それは衝撃デビューですね。

(町山智浩)まあ、それぐらいもう何でもやっちゃう人なんですね。で、そのなんでもやっちゃうグレタ・ガーウィグが『若草物語』という非常に古風なね、19世紀の話を映画化するっていう。それでヴィクトリア朝の時代だからその頃ってスカートにフープ、枠が入ってるんですよ。それで下にペチコートを履いているような時代ですよ。その時代をこの人が映画化するとどうなるの?ってみんな言ってたんですよ。それがね、ものすごくいい映画になってるんですよ!

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)まず最初はね、作家を目指してニューヨークに来たジョー。これをシアーシャ・ローナンが演じているんですけども。最初にちょっとエッチな小説を書いて、それが認められて原稿料をもらって嬉しくてダッシュでニューヨークの街角をものすごく猛然とダッシュして駆けていくっていうシーンから始まるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そうするともうスカートをまくっちゃってるんですよ。で、その頃はそんなの、ありえないですよね。それで下にズボンみたいなのを履いているんですけども。それで上着も男物を着てるし、帽子も男の山高帽をかぶっていて、ほとんど男装でこのジョーが現れるんですよ。そこからして今までの『若草物語』とは全然違うんですけど。

(町山智浩)で、彼女が作家を目指して苦労しているところから、そのタイトルが『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』という風になっているように、その彼女自身の子供の頃の思い出を『若草物語』として仕上げていくという話になっているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

『若草物語』を書くために子供時代を回想する

(町山智浩)小説を書き上げていくんですね。だからその過程でいろいろ思い出していって過去にさかのぼるという形式になっています。だからこのシアーシャ・ローナンはその前の『レディ・バード』でグレタ・ガーウィグの高校生時代を演じたんですが、今回はオルコット自身の若い頃であるジョーを演じるという、その作者の分身を演じる役を両方ともやってますね。

(赤江珠緒)そういうことだ、うん。

(町山智浩)これ、面白いのはグレタ・ガーウィグ自身もニューヨークでクリエイターを目指したんで、オルコットとも重なるんですよ。ジョーとも重なる。オルコット自身はボストンに行ったんですけどね。ジョーはニューヨークに行って作家を目指したんで、そのグレタ・ガーウィグ自身もサクラメントというカリフォルニアの田舎町からニューヨークに行って、ダンサーになろうとして。それで結局、映画監督になりましたけど。全部が重ねられているんですよ。4人分ぐらいが重ねられているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。時代は違えど。

(町山智浩)時代は違うんですけど。だからすごく昔の関係ない話というよりは、その作者であるオルコットとグレタ・ガーウィグがジョーの上に2人、重ねられるというすごい複雑な構造になってます。そこらへんがすごい面白いんですけど。それでこの一番上のお姉さんは『美女と野獣』のエマ・ワトソンが演じているんですね。

(赤江珠緒)おお、エマ・ワトソンさんがメグ。はい。

(町山智浩)これね、だからオールスターなんですよ。で、体の弱いベスちゃんはオーストラリアのエリザ・スカンレンという女優さんが演じて。それでこれね、末っ子がすごいんですよ。末っ子のその生意気なエイミー。これがね、フローレンス・ピューっていう子が演じているんですけども。この子、『ファイティング・ファミリー』でプロレスをやったりですね、『ミッドサマー』でスウェーデンの奇祭で女王になったりする人なんですよ。ものすごいこの女優さん、フローレンス・ピューもすごい攻めている女優なんですよ。やっている役は全てすごいんですけども。で、このフローレンス・ピューとシアーシャ・ローナンが取っ組み合いの喧嘩をずっとこの映画の中でもしているんですけどね。両方とも気が強いからね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これがね、結婚に向かっていく中でちょっと今までの『若草物語』と違う展開になっていくんですよ。そのへんはちょっとネタバレにならないように話しますけど。まず『若草物語』って隣に住んでるお金持ちの美少年がいたんですよ。

(赤江珠緒)いましたね。

お金持ちの美少年ローリー

(町山智浩)ローリーという王子様が。大金持って一人っ子で。それで嫁を探してるわけですけれども。四姉妹が4人ともその可能性があるっていう話でしたよね? でも、彼はやんちゃなんで一番やんちゃなジョーと仲が良くて。いつも男の子みたいに遊んでるんですね。泥んこになって。で、これ『若草物語』は子供時代の話だったんで、それをオルコットが書いてベストセラーになるんですね。そうするといっぱいファンレターが来て。「ジョーとこのハンサムな王子様ローリーを結婚させてください」っていうファンレターがブワーッと来たんですって。

(赤江珠緒)へー、うん。

(町山智浩)山ほどきたらしいんですよ。それも世界中から。それでオルコットは「そんなことはしないわ!」って思ったそうなんですね。「それはあまりにも古い」っていう。

(赤江珠緒)そんな読者の希望通りにはならないと。

(町山智浩)そう。「金持ちの王子様に見初められるっていうおとぎ話じゃないのよ」っていう人だったんですね。オルコットという人は。オルコット自身は実際、結婚をしていないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、うん。

(町山智浩)で、その『続若草物語』の方はですね、ジョーのローリーが結婚を申し込むんですけども、それをジョーは断っちゃうんですよ。そんな王子様から結婚を申し込まれたのに。逃げちゃうんですよ。で、そのふられちゃったティモシー・シャラメ演じるローリーはエイミーと結婚をするんですよね。このへんは有名なんでネタバレにはならないと思うんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

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