渡辺志保 Juice WRLDを追悼する

渡辺志保 Juice WRLDを追悼する MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんがbayfm『MUSIC GARAGE: ROOM101』の中でラッパーのジュース・ワールドの死と、その背景にあるアメリカのプリスクリプション・ドラッグやラッパーたちのメンタルヘルス問題について話していました。

(渡辺志保)ここでは先日、急逝してしまいましたジュース・ワールドについてお話したいなという風に思っております。このジュース・ワールドの訃報を受けまして、1通番組宛にお便りを頂戴しておりますので、ここで紹介させてください。宮城県の男性、27歳の方からのお便りです。

「先日伝えられたジュース・ワールドの訃報にとても驚きました。まだ明確な死因は分かっていない中、バーコセットの大量摂取が予想されているとのことで、エモラッパーの相次ぐ逝去に複雑な心境を抱いています。また二度の来日ライブに行けなかった私にとって、ジュース・ワールドに生で会えないことが本当に残念です。ご冥福をお祈りしたいと思います」ということでメールをいただいております。ありがとうございます。

というわけで、この番組を聞いていらっしゃる方ですでにご存知の方もいらっしゃるかもしれないですが先日、2019年の12月8日……アメリカ時間の8日、日曜日にですね、ジュース・ワールドが21歳の若さでこの世を去ってしまうたというニュースが報じられました。で、彼は亡くなる前の週、12月2日に21歳になったばかりということで。本当に早すぎる、若すぎる死という感じがします。今年もジュース・ワールドはかなり精力的に活動をしていまして。たとえば今年3月に『Death Race for Love』というセカンドアルバムをリリースしてるんですね。

で、この番組でもこのアルバムについて取り上げたこともありましたし。うーん、私もね、本当にリアルタイムでTwitterを見ていたら「Juice WRLD」という名前がTwitterのアメリカのトレンドワード1位になっていて。それで何かちょっと嫌な予感がするなと思って調べてみたら、彼が命を落としたというニュースがそれこそバイラルに広がっていたところで。本当に信じられない思いでおりましたし。今、読み上げましたメールにもありましたが、二度の来日をジュース・ワールドはしていたんですよね。

最初の来日は昨年、2018年10月。私もお手伝いさせてもらっているHIP HOP DNAというメディアがあるんですけれども。そこがえジュース・ワールドを招いて。渋谷のハーレムで無料ライブを行なったですよ。たしか日曜だか月曜の深夜だったかっていう感じだったんですけど、無料ライブっていうこともありましてかなりお客さんが殺到して。早々と入場制限がかかってましたし。でもそこで私もジュース・ワールドのライブを初めて拝見して、彼のバイブスの高さとか、歳の割にすごいしっかりとライブをしていて。そこに感銘を受けましたし。

何しろ、若い日本のオーディエンスたちがワーッと集って、本当にシングアロングしながら彼の楽曲を楽しんでいて。ちょっと軽いモッシュなんかも起こっていて。本当に正しい世代のヒップホップのコミュニティっていうのがジュース・ワールドを筆頭に今、生まれている。しかも国境を越えて生まれてるんだなという風に感じた次第です。そして、ちょっとこれも驚くべきことにっていう感じなんですけれども。11月下旬。本当についこの間、11月の下旬にも、彼がもともとオーストラリアでの公演があったということで。その折に東京に寄ってくれたんですよね。

で、麻布十番にありますは1OAK TOKYOというクラブで急遽、ライブをしますということで。私はそちらにはうかがえなかったんですけれども、1OAKのライブの時も告知期間がわずか2日ぐらいしかえなかったにも関わらず、そして平日の深夜であったにも関わらず、本当に多くのお客さんが押し寄せていたみたいで。改めて、その時にもやっぱりジュース・ワールドって今、こんなに若者に人気があるんだなっていう風に再度実感をしたという、本当にそのタイミングだったんですよね。訃報を聞いたのは。

アメリカ時間12月8日(日)の朝。午前3時15分ごろ、死亡が確認されたという風に言われております。で、LA。ロサンゼルスからプライベートジェットで移動して彼の地元であるシカゴのミッドウェー空港に到着した。その飛行機が到着した後に空港内で発作を起こし、そこから病院に搬送されていった。ただ病院に搬送されてすぐ、救命措置もむなしく命が助からなかったということで。そういったえ形で訃報が届いております。

で、まだそのはっきりしたオフィシャルな死因というものは発表されていないんですけれども、機内から見つかったものが明らかになってまして。何が見つかったとかいうと、コデインですね。「Codeine Cough Syrup」っていう風に私が読んでるニュースソースには書いてあるんですけど、咳止めとかに使われるシロップ状の薬ですね。コデインというお薬。あとはピストルも何丁か見つかっていたりとか。あとはそのピストルの縦断なんかも見つかっていて、それに関しても銃の不法所持の罪で逮捕された方がいるという風にも聞いております。

で、もともとこのジュース・ワールドたちが乗っていたプライベートジェットそのものが警察の捜査対象になっていたみたいで。ジュース・ワールドたちは空港についた後に警察の捜査を受けるということが前もって分かっていたそうなんですよね。で、現時点で報じられているのがその時にジュース・ワールドはその飛行機の機内が捜査されることを知って、パーコセット(Percocet・鎮痛剤)などの錠剤を複数……何十錠も飲み込んだという風に伝えられていて。薬を一気に飲み込んでしまって、それが引き金になったんじゃないかという風に今、報じられております。

なので、その結果だけを申し上げると本当にオーバードーズ、薬物の過剰摂取で亡くなったっていうことなんですけれども、私はちょっとこれを単純に「薬物はダメだ」みたいな風には全然思えないというか。というのもですね、今回のジュースワルドの死に関して、ジュース・ワールドの母親が声明文を出してます。その中でも「息子はプリスクリプション・ドラッグ依存と戦っていた」っていう風にお母さんが声明を出してまして。今、アメリカで非常にこのプリスクリプション・ドラッグ依存とか、そのプリスクリプション・ドラッグそのものが非常に問題になっているという背景があります。

アメリカのプリスクリプション・ドラッグ問題

何かと言いますと、プリスクリプション(Prescriptio)って「処方箋」っていうことなんですよね。なので、ちょっと変な話ですけどコカインとかヘロインとか、そういったもののドラッグとは全く別のタイプのドラッグなんですよ。お医者さんがちゃんと処方箋を書いて、患者さんに「これを飲んだりあなたの今の病が軽くなりますよ」っていうことで、普通に処方されている薬そのものに中毒性があって。それで処方された患者さん、ないしはそれとはまた別の目的で処方箋ドラッグをみんなが手に入れて。それでどんどんと中毒者が増えていく。それで依存してしまう人が増えている。

そして、ひどい場合にはジュース・ワールドのように命を落としてしまうという若者などが増えているということが問題になってます。で、ジュース・ワールド自身も今回、パーコセットと呼ばれる錠剤を飲み込んだっていう風に報じられているんですけれども。これもオピオイド系鎮痛剤ですね。あと、よくラッパーのリリックにも出てきますけど、ザナックス(Xanax)っていう薬なんかもありまして。ザナックスは抗うつ剤ですよね。

そういった薬を、本来の目的。治療目的で飲んでいる方。もちろん薬とうまく付き合ってる方もたくさんいると思うんですけれども、そうではない問題を引き起こしてしまっているというのが今のアメリカのドラッグ問題というか。そういう感じがします。ちょっとこの話、この後も引き続きお話していきたいんですけれども、ここで1曲、そのジュース・ワールドの代表曲を聞いていただきましょう。ジュース・ワールドで『Lucid Dreams』。

Juice WRLD『Lucid Dreams』

今、お届けしたのはジュース・ワールドの大ヒット曲。全米シングルチャートで最高位が2位まで行きました『Lucid Dreams』でした。サンプリングソースはスティングの『Shape of my Heart』でございます。で、引き続きジュース・ワールドの死亡の背景にある問題とか、そういったところをお伝えしていきたいと思うんですけれども。そういった形でそのプリスクリプション・ドラッグというのが今、問題になっているというのがひとつあるという。

で、たとえば今回のジュース・ワールドの訃報を聞いて、リル・ピープとかXXXテンタシオンとか・・まあ、テンタシオンは銃殺されてしまったんですけども。リル・ピープも同じくドラッグが原因で命を落としてしまったし。あとはマック・ミラーもそうですよね。彼もまたオーバードーズが原因で本当に思いがけない死を迎えてしまったラッパーだと思うんですけれども。

特にジュース・ワールド、リル・ピープ、テンタシオンとかサウンドクラウド世代のラッパーのああいうエモ系ラップっていう風に言いますけれども。そうした彼らのリリックに顕著なのは非常にこうメンタルヘルスの問題がひとつ、あるんですね。日本だと結構「メンヘラ、メンヘラ」とかって言われることも多い……そういう風にちょっと茶化すというか、揶揄されることも多いかと思うんですけれども。まあ本当に精神的に苦しんでる。鬱で苦しんでいるとか、そういった問題が挙げられると思います。

で、ジュース・ワールドなんかは自分が抱えている鬱々とした思いや葛藤とか、あとは厭世観ですよね。「自分で自分の人生を終わらせてしまいたい」とかね、そういったリリックも歌詞にはありましたし。そういった歌詞が結果、若いリスナーたちの共感を呼んでいて。それで彼ら、若者の間で非常にカリスマティックな存在になっていったという経緯があると思うんですけれども。

今回のジュース・ワールドの訃報を受けて、たとえばアメリカのメディア、コンプレックスがやってる「Everyday Struggle」というYouTubeチャンネル、動画のチャンネルがあるんですけれども。「今やメンタルヘルスもひとつのトレンドとして扱われているんじゃないか。それがちょっと問題を呼んでいるんでるじゃないか」という風にも指摘してましたし。

ラッパーたちのメンタルヘルス問題

で、以前にこの番組でも紹介したDJブースというメディアがありますけれども。そこのバイスプレジデントでブライアン・ジソックさんという方がいるんですが。彼がジュース・ワールドの訃報が伝えられてすぐにTwitterで自分の意見を表明していたんですけれども。「レコードレーベルはもっと若いアーティストにメンタルヘルスケアのサービスを提供すべき」という風にツイートしてまして。その時にですね、ローリングラウドという大きいフェスがありますけれども。そのローリングラウドの設立者でもあるタリークさんという方がいて、そのタリークさんにインタビューした時のコメントのスクショを添付してたんですね。

それで、タリークさんに「いまのヒップホップの業界の中で一番議論されなければならない事は何だと思いますか?」という質問を投げかけているんですが、その質問に対するタリークさんの返答っていうのが「間違えなくもっとメンタルヘルス、そしてヘルス(健康)そのものに関して話し合う場が持たれないといけないと思う」という風に答えていまして。

その後にですね、「レーベルはアーティストと契約すると、彼もしくは彼女たちにスーパーマンやスーパーウーマンであることを強いる。たとえばきついスケジュールでツアーを組んだり、いつでも準備OKな状態であることを望む。そして彼らがプライベートでドラッグ依存で苦しんでいたとしても、『プライベートな問題は関係ないから』という風に放置をするだ。同じく、お金に関するカウンセリングも必要だと思う」という風に答えておりまして。うん。それが全てだと思うということですよね。

で、ローリングラウドなんかは本当に若いお客さんが多いことで有名で。私も今年、マイアミまで見に行きましたけれども。ジュース・ワールドもステージがいくつかある中のひとつのトリだったんですよね。で、やっぱりそこに若いお客さんが本当にてジュース・ワールドをめがけてステージを移動してましたし。今月もLAで行われる予定だったローリングラウドにもヘッドライナーとしてジュース・ワールドが出演予定だったということで、このタリークさんのコメントは非常に的を射ているんじゃないかなという風に思った次第です。

で、これは私も個人的に普段からどういう風になってるのかなと思っていて。たとえばアトランタに行ったりとかLAに行った時に現地の人に実際に質問してる内容でもあるんですけれども。今、本当にジュース・ワールドとかが最たる例だと思いますが。あとはこの番組でも紹介したリル・テッカとかもそうですけど。今、やっぱり若くして、そして一夜にしてスターラッパーになるような子がアメリカでは本当にごろごろいるわけですよね。で、そうしたラッパーたちの契約金ってもう本当に何億円レベルぐらいの規模になっている。

そういった状況で、若くしていきなりそんな大金を手に入れてしまったら、きっとメンタルも壊れてしまうよねっていうのをも前から……「そのへんって業界的にどんな風になってるのかな? 誰がマネージメントしてるのかな?」という風に思っていて。しかも今はもうヒット曲が出る頻度がね、非常に激しいというか。今月は彼が超ヒット曲を出してサウンドクラウドでめちゃめちゃバズってるけど、来月はもっと若いラッパーがそれこそSpotifyとかでバズっているみたいな。そういうことを考えると、たぶんアーティスト自身も非常にプレッシャーを感じるだろうし、落ち着かない。

そしてちょっとね、鬱々とした気持ちになってしまって、結局ドラッグに頼ってしまうみたいなね、そういった悪循環が生まれているじゃないかという風に思った次第です。ちなみにLAのラッパー、リルビーなんかもジュース・ワールドが亡くなってすぐにですね、「レーベルはもっと何とかした方がいい」というようなことをね、結構ちょっと怒りのツイートみたいなことを発信してましたし。

これはニューヨークタイムズのポッドキャストで、私が前にもここで紹介したけれどもポップキャストという番組の中でも以前に触れられていたんですが。たとえばケンドリック・ラマーが所属しているトップ・ドーグ・エンターテイメント(TDE)。それからミーゴスたちがいるアトランタのQCと呼ばれるクオリティ・コントロールという、それぞれロサンゼルスとアトランタの有名なレーベルがあるんですけれども。そういったところはやっぱり、そのボスがですね、そういったカウンセリングとかマネージメントとかをすごいしっかりしてるらしいんですよね。

で、それぞれアーティストによって、有能な弁護士を紹介したりとか、有能な税理士の人を紹介したりとか。クオリティ・コントロールの場合は、あえて地元で非常に有名なユダヤ系の弁護士の人を紹介して。それでアーティストのことを守ってるそうなんですよ。それでお父さん代わりの役割を果たしているんだという風にもニューヨークタイムズがその時に報じておりまして。やっぱりそういう体制が今後も望まれるんじゃないかなと思いますし。本当に、脆さがある業界であることはね間違いないなとは思いますので。ちょっと水物と言うかね。

本当にこう、今日ヒットしてたものが来月にはもうすごい古く聞こえちゃったりするようなえ、それぐらい変化のスピードが速い業界ですから。ちょっとこれから本当に、産業としてもこれだけの盛り上がりを見せるヒップホップシーンですから、どういう風にこの問題が今後、論じられていくのか、ちょっと私も個人的に注目していきたいなと思った次第です。

で、ここでもう1曲、ジュース・ワールドの曲を聞いてください。この楽曲は去年の6月にリリースされた『Legends』という曲なんですけども。当時、XXXテンタシオン、そしてリル・ピープの追悼楽曲としてリリースされた曲なんですが。この曲の中で、いま振り返って聞くとめちゃめちゃ胸が痛いみたいな最初のバースの歌詞があるんだけども。「”27クラブ”ってなんだよ? 俺たちは”21”すら越すことができないのに(What’s the 27 Club? We ain’t making it past 21)」っていう。直訳するとそういう歌詞があって。

で、たとえばカート・コバーンとかジミーヘンドリックスとかってみんな27歳で亡くなっていて。それを「27 Club」っていう風に呼ぶんですけども。テンタシオンはハタチ、リル・ピープは21歳で亡くなっているということで。この時のジュース・ワールドは「27歳にも達さない、そんな21とか20とかのめちゃめちゃ若い時期に命を落としてしまっているんだ」っていうことをこの曲の中ではラップしていて。で、皮肉にも彼も21歳で命を落とすことになってしまったということで、非常にやるせない気持ちになってしまうんですが。ここでお届けしたいと思います。ジュース・ワールドで『Legends』。

Juice WRLD『Legends』

<書き起こしおわり>

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