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町山智浩『アイリッシュマン』を語る

町山智浩『アイリッシュマン』を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマーティン・スコセッシ監督の最新作『アイリッシュマン』を紹介していました。

(町山智浩)今日はそろそろもうアカデミー賞にノミネートされそうな作品の季節になっているんですけども。今回も候補にあがるだろうと思われている映画を紹介します。これはマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』という作品です。音楽をどうぞ!

(町山智浩)はい。これはマディ・ウォーターズという人の『Mannish Boy』という曲なんですけども。今回のこのマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』というのは、スコセッシという監督はずっとマフィア実録映画を作ってきた人なんですね。というのはこの人、アメリカのマフィアの発祥の地であるニューヨークのリトル・イタリーで育った人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! うんうん。

(町山智浩)で、もう体験的に子供の頃からマフィアの人たちが隣のおじさんとか。学校の同級生がマフィアになったとか、そういうところで育っていた人なんで、非常にリアルなマフィア映画を作ってきた人です。で、この人の実録マフィア映画で有名なのは『グッドフェローズ』という映画があるんですよ。ご覧になっていますか?

(赤江珠緒)いや、見ていないですね。

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(町山智浩)この『グッドフェローズ』という映画はね、25年間ぐらいの実際にマフィアに入って、マフィアの下働きをしていた男のマフィア人生の回想なんですよ。で、2時間ぐらいの映画なんですけども、25年間の悪いことをいっぱいしたのをわずか2時間に詰め込んであるので、ものすごく面白い映画です。『グッドフェローズ』は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これは絶対に見てください。で、その次に『カジノ』っていう映画をマーティン・スコセッシは撮ります。両方ともね、ロバート・デ・ニーロが主演なんですけども。ロバート・デ・ニーロもそういうところで育った人なんですよ。

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(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。

(町山智浩)この人はイタリア人のお父さんと、お母さんはアイルランドかな? その混血なんですけども。ロバート・デ・ニーロは。で、『カジノ』という映画はこれ、ラスベガスのカジノっていうのはもともとマフィアが作ったものなんだっていうことをご存知ですか?

(赤江珠緒)ふーん! そう言われると、そうか。

(町山智浩)あれ、砂漠のど真ん中にマフィアがお金を儲けられないかと思って作ったのが始まりで。そこからいろんな会社が入っていって観光地になったんですけども。もともとはヤクザが作ったものなんですよ。しかも最初のホテルは殺し屋の人が作ったんですよ。ラスベガスってそういうところなんです。その歴史を見ていくのがその『カジノ』っていう映画だったんですね。で、今回はその実録マフィア映画三部作の三作目っていうことになるんですけども。『アイリッシュマン』というこのタイトルは「アイルランド人」っていう意味なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。そうですね。

(町山智浩)これ、ちょっと変なのはマフィアはイタリアのシチリア島出身の人しかなれないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。イタリアっていうイメージはありますけども。

(町山智浩)マフィアにはなれないんです。シチリアの人しかなれないんですよ。だからアイルランド系の人とかユダヤ系の人はそのマフィアの周辺にして、下働きとか会計とかそういう仕事をするんですよ。で、この今回の作品はロバート・デ・ニーロが主演なんですけども。彼はアイルランド人だから「アイリッシュマン」というあだ名で呼ばれているんですね。で、彼のやっていた仕事は「ソルジャー」っていう仕事をしていたんですよ。マフィアにおけるソルジャーっていうのは兵隊のことなんですね。で、マフィアっていうのは自分では人を殺さないんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなの?

(町山智浩)全部そういうソルジャーとかにやらせるんですよ。で、彼……そのアイリッシュマンの本名はフランク・シーランという人なんですけども。この人が1950年代からずーっと、30年以上にわたってマフィアのソルジャーとして殺しや脅しや放火や破壊工作とか誘拐とか、そういうことをずっとしてきたというのを告白した本がありまして。それが原作なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! このフランク・シーランは実在の人物?

(町山智浩)実在の人物です。で、この映画は老人ホームから始まって、その80歳ぐらいになったそのフランク・シーランが過去を回想していくという形式になっています。で、この映画がアメリカでものすごく大騒ぎになって大論争が起こっているんですよ。なぜなら、このフランク・シーランという人は大した人ではないんですよ。人生の中で30人ぐらい殺していますけども。でも、彼が死ぬ間際に「ジミー・ホッファを殺したのは俺だ」って告白したので大問題になったんですよ。

(山里亮太)ジミー・ホッファ?

(町山智浩)ジミー・ホッファは「大統領の次に権力を持っている」と言われた男なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

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大統領の次に権力を持っている男、ジミー・ホッファ

(町山智浩)でもこの人は1975年に行方不明になって。どこに行ったのか全くわからない。死体も出てきていない。で、誰が殺したのかもわからないので、アメリカ史の中でも謎と言われているのがそのジミー・ホッファがどうなったのか?っていうことなんですが、このフランク・シーランという人が「俺が殺した」っていう風に告白をしたんですね。1999年に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、すぐに亡くなったんですけども。それで本自体は2003年に出版されたんですが。それで「歴史の謎が解けた!」っていう風にも言われていて。でも、「これは嘘なんだ。彼が死ぬ間際に嘘をついたんだ」という風にも言われていて、いまも論争が続いていて。アメリカでは大問題になっているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)というのはこのジミー・ホッファという男はものすごい人だったんですよ。で、しかもこのフランク・シーラン、「ジミー・ホッファを殺した」って言っているんですけども、実はジミー・ホッファのボディガードだったんですよ。

(赤江珠緒)えっ? そんな親しい人だったの?

(町山智浩)もっとも近い人。いちばん近い人だった。で、まずこのジミー・ホッファという人の話をしますと、この人はアメリカの全米トラック運転手組合の委員長だった人です。で、なんでそんな人が大統領の次ぐらいに権力を持っているんだろう?って思うでしょう。アメリカの労働組合って縦割りじゃなくて横割りなんですよ。だからすべてのトラック運転手が全部この組合に入っているんです。もし、彼らがストライキをしたらどうなるか? アメリカが止まっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああ、流通をすべて握っている?

(町山智浩)そう。物流を全部握っているんです。だからそれこそエネルギー……石油などから鉄鋼とかそういったものも運ぶために必要だし、商品も農業も。それでスーパーマーケットに食品を送るのも、なにもかもをアメリカはトラックに頼っているんですね。

(赤江珠緒)まあ、そうですよね。あれだけの国土だし。

(町山智浩)そう。その運転手全員を仕切っていたのがこのジミー・ホッファだったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから、大統領の選挙なんかにも影響を与えるような人物だったんですね。

(赤江珠緒)ああ、そうか。票田にもなったりするのか。

(町山智浩)その通りなんですよ。この人がトラック運転手に「◯◯に投票しろ」って言ったら全員が動くんですよ。200万人ぐらい。で、この映画の中ではそれを演じているのはアル・パチーノです。

(赤江珠緒)ああ、アル・パチーノがね。うん!

(町山智浩)アル・パチーノは『ゴッドファーザー』から出てきた人ですね。だからずっとマフィアをやっているんですよ(笑)。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。こっちもね。

(町山智浩)ロバート・デ・ニーロも『ゴッドファーザー Part2』でアル・パチーノのお父さんの役をやって出てきたんですよ。歳は同じぐらいなんです。だから2人ともマフィア俳優人生の総括としてこの映画に出ています。

(赤江珠緒)フフフ、すごい。はい。

(町山智浩)で、このジミー・ホッファという人はね、もともとただの倉庫係だったんですけども。荷物の積み下ろしをしていたんですけども。自分たちの要求を通すのにすごく組合闘争をするという度胸があった人なんで。トラックを運転したこともないのに、トラック運転手組合の委員長に抜擢されたっていう人なんですよ。で、この人がすごかったのは、どんな組合のストライキも……日本も昔はそうだったんですが、かならずヤクザが潰しに来るんですよ。

(赤江珠緒)ほう……。

(町山智浩)ストライキをしていると経営者がヤクザを雇って「そのストライキをやめろ!」って来るんですよ。日本でもそうでしたよ。ところが、このジミー・ホッファはヤクザが来ようがマフィアが来ようが、もう殴られようが刺されようが全然平気だったんですよ。

(赤江珠緒)へー! ひるまない?

(町山智浩)ヤクザより強い男だったんですよ。そう。ひるまない。だから、組合の委員長になっただけではなくて、マフィアからも一目置かれるようになったんですよ。つまり、くじけないわけだから、マフィアとしても彼と取引をするしかないわけですよ。そこから、彼はマフィアと癒着していったんですよ。ジミー・ホッファは。

(赤江珠緒)おおーっ!

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マフィアとの癒着

(町山智浩)だからストライキをやると潰しに来たマフィアにお金を出したり、その逆……要するにマフィアからお金をもらってストライキをやったり。癒着をしていったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、マフィアも「こいつはヤクザじゃないけども、ヤクザ以上になかなか度胸があるやつだ」っていうことで付き合うようになっていって、ズルズルの関係になったんですね。で、いちばんひどかったのはトラック運転手たちの老後の年金としてみんなから集めたそのお金をヤクザに運用させていたんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)それでラスベガスにホテルを建てたりしたんですよ。トラック運転手の年金で。でも、そんなに悪いやつでも手が出せないんですよ。アメリカの産業のいちばん重要なところを握っちゃっているから。で、ケネディ大統領はこのジミー・ホッファを潰さなければいけないっていうことで、弟のロバート・ケネディ司法長官と一緒に彼を徹底的に調査して。年金不正を発見して、裁判にかけて有罪にして1971年に刑務所にぶち込んでいるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、そのジミー・ホッファとマフィアの間にいたのがこのアイリッシュマン、ロバート・デ・ニーロ扮するフランク・シーランなんですね。彼ももともとトラック運転手だったんですけども、途中からマフィアと付き合って。そのマフィアの殺し屋、ソルジャーをやるようになったんですね。で、その時にね、「ジミー・ホッファっていうやつがいるんだけども、彼の下でボディガードをやれ」ってマフィアの親分から言われて、ボディガードをするようになったんですよ。そしたら、ジミー・ホッファはとんでもない男だけどものすごい男気の塊みたいな人なんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それで、男が男に惚れちゃうんですよ。

(赤江珠緒)カリスマ性もあったんでしょうな。

(町山智浩)そうなんですよ。で、カリスマ性があるからすごいんですよ。アル・パチーノだし。で、家族づきあいをして兄弟仁義みたいになっていくんですけども。ところがこのジミー・ホッファがケネディによって逮捕されたから。で、マフィアの方としては「じゃあ、他の体制にしていこう」っていうことになったんですね。というのは、ジミー・ホッファはあまりにも度胸がありすぎて、ヤクザも彼をコントロールすることができなかったんですよ。

(赤江珠緒)はー! うんうん。

(町山智浩)だってマフィアの人と待ち合わせをした時にマフィアが遅れてくると、ジミー・ホッファはこう言うんですよ。「俺を待たせたのはお前がはじめてだぜ」って。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)マフィアに対して言うんですよ? 「落とし前をつけてもらおうじゃねえか」って言うんですよ。

(山里亮太)どっちがマフィアなんだ?っていう(笑)。

(町山智浩)で、マフィアもビビっちゃうんですよ。あまりにも度胸があるから。でも全く操れなくなっちゃうんですよ。で、刑務所に入ったからまあよかったと思って、違う委員長を代わりにしてね。「こいつだったらコントロールできる」と思っていたら、なんとこのジミー・ホッファはニクソン大統領に賄賂を積んで釈放をされちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)ニクソンっていう人は大統領なのにマフィアとゴルフをやっていたような人なんですよ。それで釈放をされて出てきて「俺はまた組合の委員長になる!」ってジミー・ホッファが言い出すんですね。ただ、マフィアの方は「お前はコントロールできないからもう辞めてほしいよ」って言うわけですけども。「関係ない。俺はやる!」って。「マフィアのやつら、お前らに言っておくけども、これ以上俺の邪魔をするならばお前らが年金でひどいことをやったのも全部ばらして、全員刑務所行きにするからな!」って。それで今度はマフィアを脅し始めたんですよ。

(赤江珠緒)はー! あらあら。

(町山智浩)で、マフィアのボスがアイリッシュマン、フランク・シーランに言うわけですよ。「とても困ったことになった。たのむよ」って。マフィアにおいて「なんとかしてくれ」とか「たのむよ」っていうのは「Take Care」って言うんですよ。「Please take care」って言うんですよ。「面倒を見てやってくれ」みたいな意味ですけども……「殺せ」っていうことですよ。

(赤江珠緒)うわあ……。

(町山智浩)でも、アイリッシュマン、フランク・シーランはもう兄貴のようにジミー・ホッファを慕っているわけですよね。という話なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、ずっとそのジミー・ホッファを殺した人っていうのは1975年から、もう彼は行方不明になっていて。死んだかどうかもわからなくなっていて。「誰がやったんだろう?」って言われていたんだけども、この彼、フランク・シーランが1999年に告白をしたんですよね。という話なんですよ。

(赤江珠緒)なんと……。

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ジミー・ホッファ失踪の謎

(町山智浩)これね、アメリカがとんでもないな!っていうね、すごい話なんですけども。ただ、なんでこんなにたくさん……このアイリッシュマン、フランク・シーランっていう人は30人ぐらい殺しているんですよ。でもね、「殺し屋」っていうとものすごい怖い人を想像しません?

(赤江珠緒)思います。悪行三昧ですよ、これ。

(町山智浩)ねえ。すごく怖くて。「コラァ!」みたいな感じで。それでサングラスをかけて黒いスーツを着ていたりする感じを想像するじゃないですか。でも、ぜんぜん違うんですよ。このフランク・シーランって。普通の人なんです。

(赤江珠緒)たしかにね。

(町山智浩)すごい普通の人で。普通にお家があって、奥さんがいて子供がいて……っていう人なんですよ。で、殺しに行く時も「お父さん、出張だから」とかって言って人を殺しに行くんですよ。

(赤江珠緒)うわあ……余計に怖い。

(町山智浩)で、「ただいまー」って帰ってくるんです。すっごい、サラリーマンみたいなんですよ。で、なんでそんな人がたくさん殺せるんだろう?っていうのにもちゃんと説明があって。彼は第二次大戦の時に兵隊に行って、ドイツの捕虜とかを自分の部隊が抱えた時に隊長から「その捕虜、なんとかしとけ」って言われたんですって。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、殺しちゃったんですよ。「それを繰り返していくうちに、麻痺してきた」っていう風に言っているんですね。

(赤江珠緒)うわあ……。

(町山智浩)で、マフィアに入った時にも「これは軍隊と同じなんだ。ただ、私は命令に従えばそれでいいんだ。そうすれば出世ができる」という。

(赤江珠緒)で、言われたことはできちゃうんだ。

(町山智浩)そういうことでやっていたんですよ。だから30人も殺しても精神的におかしくなったりしないのは、「俺はこの人となんの関わりもない。ただ仕事だから……」っていうことでやっているからなんです。で、逮捕されない理由もそれで、被害者との間に彼は全く関係性がないから、捜査線上にあがってこないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)大抵は殺し屋ってこういうタイプらしいんですね。実際には。

(赤江珠緒)そうか。ただ、今回はジミー・ホッファでしょう? 思い入れもあるんでしょう?

(町山智浩)そう。だって自分の娘とかもおじさんのように面倒を見てくれていた男なんですよ。ジミー・ホッファは。それを殺すという、はじめて彼がそのモラルと葛藤することになるんですよね。という映画なんですけど……これ、話を聞いているとおかしいなと思いませんか? ロバート・デ・ニーロって現在、75歳なんですよ。でもこれ、1950年代からだから30代からの役を誰がやっているのか?っていうことになるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。そうですね。

(町山智浩)ロバート・デ・ニーロ自身が75歳で30代の頃の自分を演じているんですよ。

(赤江珠緒)できます? 30代って、できます?

(町山智浩)あのね、一応特殊メイクをしてCGで顔を加工しているんですけども。ただね、やっぱり75歳のおじいさんの動きなんですよ。完全に(笑)。

(赤江珠緒)そうか。動きはちょっと、そうか。

(町山智浩)これ、歳を取ってくると歩幅とか狭くなるんでね。それはコンピューターとかでは変えられなかったらしいんですけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただね、この75歳のロバート・デ・ニーロ。で、監督とかアル・パチーノもみんな80近いんですよ。その人たちの視点からこの映画が作られているというのは非常に重要で。これはだから、アイリッシュマンにとってはもうすぐ老人ホームで死んでしまうから、その一種の「終活」として告白をしたらしいんですね。つまり、罪悪感をずっと抱えたまま生きていって、もうすぐ天国に行くことができないからですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、彼もカトリックなんで、神父に懺悔をするようにしてこの話を回想しているんですよ。で、ここですごく面白いのはヤクザって正義はないですよね。法律を破っているわけだし。でも、彼らは仁義は守る。つまり、仲間は裏切らないとか。正義じゃなくて仁義に生きている人だったのに、その仁義すらもなくなっていく。じゃあ、あとは何が残るのか? もう何も残らないわけですよ。で、本当にただ虚しい、砂漠のような人生だったということを回想していくっていう話になっていますね。

(赤江珠緒)うーわ……そういう話?

(町山智浩)そう。そういう厳しい話なんですけども。ただね、『グッドフェローズ』はものすごいテンポがよくてロックンロールみたいな感じでその25年間の殺しと爆破と暴力を2時間で見せるっていうすごいスピード感のある映画だったんですけども、今回は3時間以上あります!

(赤江珠緒)うわっ、大作ですね!

(町山智浩)これね、やっぱりおじいさんのリズムになっています。映画が。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)ゆっくりしてます。やっぱり老人の感覚になっているんですけども。出ている人も監督もそうなんで。ただね、やっぱりこれはヤクザの話として見るだけじゃなくて、やっぱり人生の話なんですよね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)彼はだって、言われた通りにやってきたら、何もない人生が残ってしまったっていうことなんですよ。それってサラリーマンだったり官僚の人だったり組織に入っている人はみんな、やってしまいがちなことですよね? 組織の中で優等生であるために……だから何も考えないで従ってきた。

(赤江珠緒)うんうん。受け身の人生で。

(町山智浩)で、命令だから全然自分の中にモラルとの葛藤はなかったんだけども、歳を取って死ぬ時に思い返してみると「自分の人生は本当に俺の人生だったんだろうか?」っていう。上から言われた通りに公文書を偽造したりしてきたけども、じゃあそれは自分の子供に誇れるのか? それをもってあの世に行けるのか? 神様に会えるのか?っていう話なんですよ。「自分として、個人として何も判断をしなかっただろう?」っていう。

(赤江珠緒)突きつけられますね……。

(町山智浩)という話ですよ。もう、みんなに見てほしいです。はい。

(赤江珠緒)これ、アル・パチーノとロバート・デ・ニーロがここでまた両雄並び立つみたいなマフィア映画としても、また味がありそうですね。

(町山智浩)そう。盟友同士の。で、彼らのマフィア俳優人生の総括みたいな映画です。

(赤江珠緒)『アイリッシュマン』は11月27日にNetflixで配信されます。また配信に先立って11月15日から、一部劇場でも上映が始まっているということです。実話という。そうですか。

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『アイリッシュマン』予告

(町山智浩)まあ、みんな身につまされる内容だと思います。

(赤江珠緒)そうなんだ。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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